茅原実里が魅せたシンガーとしての底
力 『Songful days』ライブレポート

May'n、茅原実里、Kalafinaという三組の実力派アニソンアーティストが、「アコースティック」という表現でひとつの「世界」を作り出す……そんな他に類を見ないコンセプトのコンサート『Songful days 次元ヲ紡グ歌ノ記憶』が、3月3日(土)・両国国技館で開催された。本稿では弦楽四重奏と共に登場した茅原実里パートをレポートする。
昇る太陽は歌い出す。カルテットが奏でる激しいオープニング
太陽のようなその人は歌いだす――。ナレーションが夜から朝への移り変わりを告げ、森の奥でみつけた幻想の音楽会の主役は、二番手の歌手に引き継がれる。弦楽四重奏のメンバーと共に、ステージに現れたのは茅原実里だ。ふんわりとした清楚な、モノトーンのストライプドレス。スツールに腰をかけると、おもむろにストリングスが高速の旋律を奏で、爽快なスピードに乗って歌われたのは『劇場版 境界の彼方』主題歌「会いたかった夜」。無垢な少女めいたクリーンなハイトーンが、風に乗って空高く舞い上がる。アコースティック・ライブの予想を鮮やかに裏切られる、激しいアップチューンのオープニングだ。
「弦カルテットのみなさんと歌で、お届けしていきます。緊張しますね。でもなかなかこんなに幸せな機会はないと思うので、1曲1曲、愛をこめて歌っていきたいと思います」
撮影:高田梓
続いてもアップチューンで「SELF PRODUCER」。まるでエレクトリック・ギターのように短く速いパッセージを繰り出すストリングスと、明るく朗らかな歌声が会場いっぱいに響きわたる。そして「向かい風に打たれながら」はマイナーコードでさらにアップテンポ、クラシック曲『剣の舞』を彷彿させる激しい弦の調べは緊張感に溢れ、赤と青のライトがぐるぐる回る。これはもう、弦カルテットによるロックサウンドと言ってもいい、とてもパワフルな音像に観客の目と耳は釘付けだ。
「国技館には思い出があります。…何笑ってるのー!(笑)」
詰めかけた彼女のファンが一斉に漏らした笑い声に、茅原がすかさずツッコミを入れる。それは5年前のクリスマスライブ、歌いながらサンタクロースの衣装のベルトが外れ、さらにステージ中央に空いたポップアップ用の穴に落ちる(うまく着地しました!となぜか自慢げ)というハプニング続出のライブを思い出し、「今日は座って歌うから衣装も壊れないし、穴もありません」と笑わせる。いつもと違う厳かな舞台設定だが、どこにいても天真爛漫な茅原実里は変わらない。
可愛さの中に見え隠れする鋭い凄み 茅原実里の真骨頂
撮影:風間大洋
アニソンではないけれど私の好きな曲を、と前置きして歌ったのは、2009年のシングル「PRECIOUS ONE」。冬のミディアムバラードで、せつなさとあたたかさ、ものがなしさと美しさとのバランスがいい。ピチカートなど技巧を駆使して聴かせる、弦楽四重奏との相性もばっちりだ。続く「境界の彼方」は再びのスピードチューンで、オレンジ色のあたたかい光に照らされ、チェロが奏でる非常に高速のパッセージと、優雅なメロディを奏でるバイオリンとビオラとの、息の合ったアンサンブルが素晴らしい。「Paradise Lost」では、マイナー調で緩急をつけてうねるストリングスに乗せ、いつになくエモーショナルな歌声が聴けた。「信じたいよ 私たち 孤独じゃない」叫ぶようなハイトーンが、怖いほどに美しい。99%キュートな中にちらりと見せる1%の凄み、茅原実里の本性が見えるのはやはりライブだ。
撮影:風間大洋
「アニソンフェスは動のフェスが多いですが、こういう形で、静のアプローチでアニソンを聴いていただくのは、歌っていてすごくうれしいです。最後はみんなで声を重ね合える曲なので、よかったら一緒に歌っていただければうれしいです」
曲は「purest note~あたたかい音」。2011年にシングルのカップリングとして世に出、長い時間をかけて代表曲の一つに数えられるようになった楽曲。ゆったりと、しかし力強く刻むリズムに合わせ、何も言わずとも客席から手拍子が沸き起こる。笑顔いっぱいの茅原が、それに合わせて歌いだす。明日をあきらめないよ。希望を歌っていこう。柔らかく明るく輝くライトが一つ、ステージ上方から客席を照らす。“みんなも一緒に!”とうながされ、ラストは♪ラララ~の大合唱だ。広い国技館がまるでライブハウスのように、親密な空気に包まれた美しいフィナーレ。
その人の歌はまるで太陽のように、聴くものすべての心にぬくもりと明るさを届けてくれた。激しくロッキッシュな演奏も、クラシカルな室内楽スタイルの演奏も、歌にこめた思いの強さは変わらない。シンガー・茅原実里の底力を堪能できた、充実の45分間だった。
撮影:高田梓
取材・文=宮本英夫 撮影:風間大洋・高田梓

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