札幌出身の4人組、sleepy.abの1stシングル「君と背景」が完成した。インディーズ時代から、ポストロックの繊細で深遠な世界観と歌心が滲む日本語詞を共存させてきた彼ら。その魅力をバンド史上最も開けたかたちで表現した名曲!
取材:高橋美穂
人間成長日記的なアルバムを
出すことで自分が開いていく
昨年PONY CANYONに移籍して、状況や環境の変化を実感し始めている頃でもあるのかなと思うのですが。
田中
テレビを観てたら自分たちの曲が流れて“あれ?”みたいに思ったり、フェスに出た時に自分たちが思ってたよりもお客さんが集まったりして、ちょっとずつ広まってることは実感してきましたね。
対バンの幅も広がってませんか? 2月には北海道で9mm Parabellum Bulletと一緒にやりましたよね。
ざっくり言うと静と動ですもんね。
成山
そう。それを楽しもうとしてる人もいたし。モッシュしようとしてる人とかは、最後まで静かな感じだから、“あれ?”ってなってるように見えたし(笑)。でも、そういう人たちも“へぇ”って感じで聴いてくれて。すごく温かかったですね。
幅広い客層の前でライヴをやるようになって、例えば暴れようとしてる人の前でも自分たちを表現できるようになりましたか?
成山
うーん、ステージに立ってしまえば。昔は全然違うのにそこに勝ちたくなる時がありましたけど、自分たちの世界観を見てほしいから、何処に行っても同じくやりたいですね。野外であっても。初めての野外が大きいところで言うと『RISING SUN ROCK FESTIVAL』だったんですけど、呼ばれた時に“何でだろう?”って思ったんですよ(笑)。まったく関係ないものだと思ってたから。みんなが想像するようなロックと違うことをやってるじゃないですか。
まぁ、汗かいて、拳上げてってものではないですからね。
成山
だから、どうしようアゲないとダメなのかなって。
義務感みたいな?
成山
そうそう(笑)。でも、お客さんの見方は目をつぶってる人もいれば、体を揺らしてる人もいて、みんなバラバラだったんで好きなように受け取ってくださいって。そこは任せようと。
そうやって考えかたが変化してきたことは、ライヴや楽曲にも影響をもたらしたりしてますか?
成山
それすごいありますね。人間成長日記的なアルバムを出すことで、自分が開いていくんで、それを知ってもらううれしさみたいなものもあるし、特に自分は変わってきたなって思いますね。
田中
他の人との接触を1stアルバム、2ndアルバムくらいまでは好まなかったですけど、どんどんいろんな人に聴いてほしいって気持ちが出てきはじめてからは、積極的にいろんな人と話すようになったし、心を開いていくようになりましたね、普段の生活から。そこから自然と音楽も開けてきたんじゃないかな。
あぁ、1stアルバムと2ndアルバムでは接触を好まなかったって分かりますね。正直にいろんなものが音楽に出るバンドなんですね(笑)。
山内
どんどん続けてるうちに、知らなかったことも、こういうことになってるんだって知れたりするじゃないですか。そうすると、もっとこういうこともできるんだって、振り幅が広くなってくのが実感できるからそういうところで変わってきたと思いますね。
津波
ツアーでも、他のバンドに誘われたりすることはなかったので、そういうのもうれしいし、そこで広がってる実感はありますね。
そういう意味では、今回のシングルの「君と背景」と2曲目の「街」も開けてますよね。sleepy.abはアルバムだとまとまった世界観がありますけど、今回は一曲一曲が開けていると思って。
成山
そうですね。アルバムを作る時って、イメージが先行しちゃうんですよ。それはマイナスじゃないんですけど、それによってバンド自体の輪郭がぼやけるかもしれないということは感じてて。で、今回はシングルっていうことで、自分たちはアルバムアーティストっていう考えかただったんですけど、シングルがきっかけになるならここではsleepy.abのスタイルじゃなく、sleepy.abの曲を聴いてほしいみたいな思いが強かったかな。
朝から聴けるsleepy.ab(笑)
冬から春に、夜から朝になる感じと似て
る
初めてのシングルということで、取り組みかたも考えました?
成山
癖みたいなものも長年やってきてあったんで、譜割とか、疾走感とかも意識して作りましたね。
山内
そうだね。今までと違ったものを作りたいっていうのは漠然とあったんですけど、その答えっていうのが、作り上げていく時に分からなかったんで、手探りでいろいろ試して、これならみんないいと思えるなってところに落とし込んでいったというか。けど、ちゃんと開いてて、しかもsleepy.abの音でっていう、いろんなバランスを考えて作りましたね。
成山
バランスって、すごく意識して作ってるんですよ。見られかたも含め。これ以上やっちゃいけないとか、これくらいやっていいんだとか。この前、福原美穂さんとコラボして、結局デュエットしたんですけど、最初は福原さんの曲っていう思いで作っていって、それが“こっちも行けるな”みたいに実感できるすごいきっかけになったんですよ。自分たちのことだけ考えると、石橋を叩いてちょっとずつ渡るところもあったんですけど、いい意味でsleepy.abってことを考えないでできたことで、間口が広がったのかなって。
聴きやすさみたいなところは考えました?
山内
聴いた時のインパクトは考えましたね。重い暗いっていうんじゃなくて、春っていうものをイメージできて、印象に残るようなところを意識して作りましたね。
成山
コードはもともと田中が作ってきたんですけど、その時点で疾走感があって、新しい生活が始まっての期待と不安が入り混じってるような感じがあって、春っぽさとリンクできてて。すごく日常にリンクしたいっていうのはあったんですよね。
歌詞も君と背景が重なり合っていく様子が、物語のように綴られてますよね。
成山
小説っぽいイメージがあって。書籍的な(笑)。今までの抽象的な言葉で作ってくっていう部分もありつつ、共有できる作りかたをしてみたいなって思ってました。
それって、大きな変化ですよね。sleepy.abって見えないものを描こうとしてるバンドっていうイメージだったから。
成山
でも、自分が思ってるよりも伝わってないことってあるじゃないですか。だから、客観的に考えたら、こんだけ動いても、そんなに動いてないって言われるんだろうなってくらいの感覚です。
逆に言うと、自分たちの中では相当この曲は思いきった?
成山
そうですね。ただ、ポップっていうところで言うと、今までも自分たちはポップに作ってきたつもりだったんですよ(笑)。ポップの定義が違うのかもしれないですけど。
でも、夜や密室が似合う楽曲を生み出してきたsleepy.abですけど、この曲は太陽の下でも聴けそうな感じがしますよ。
成山
そうですね。“朝から聴けるsleepy.ab”っていう(笑)。冬から春にとか、夜から朝になった感じと似ているっていうか。
山内
今までも一歩ずつ増えてきた気がしてたんだけど、今回の一歩は結構大きいなって。いろいろやったことないことに挑戦したってのがあって…楽曲の作りかたとか、歌詞とか、歌とか。なので、これから作るアルバムも選択肢が増えたから、何ができるんだろうなって。極端に反対のものを作るのも面白いと思うし。
田中さんはコードを作った時に、ビジョンはあったのですか?
田中
ありましたね。まずはシングルを作るっていう大前提があって、今までの僕たちのイメージってどんなのかなって客観的に考えてみたら、“北海道”とか“冬”とか“雪”ってキーワードが出てくると思うんです。それはそれでいいんですけど、そうじゃなくて、違った季節感や時間軸のいいところも出して、なおかつ今までの抽象的な歌詞の世界から一歩超えて、ひとつのキーワードでもいいから、お客さんに共感してもらえるようなポイントがある曲を作りたいと思って。そこからスタートしたら、こういう感じの曲になって、じゃあこれで歌を乗せてくださいってなりました。
そういう話は作詞者の成山くんとしたのですか?
田中
話しましたけど、イメージしてたものは同じでしたね。
こういう変化を迎えた中で、津波さんはどういうことを考えながらこの曲に挑みましたか?
津波
これは今回の曲に関してだけではないんですけど、こういう歌メロがいい曲は、ドラムで考えるといかにシンプルにするかっていう。歌メロがよく聴こえるように。それを考えつつ、疾走感を出すにはどうすればいいかも考えながら作っていきましたね。
BPMは速くないけど疾走感があるっていうね。
津波
そうですね。疾走しすぎると僕らじゃないんで(笑)、そういうギリギリの中で、歌メロを自分でテンポ感のある感じに変えたりしてるところを、ドラムがギリギリつなぎ止めるのか、もしくはちょっとプッシュしてる感じなのかを考えつつ。すっごい疾走してるつもりでも、聴き手はそうでもなかったりするでしょうし。
なるほどね。で、「街」に関しても、日常とリンクしてますよね。
成山
そうですね。日常の中なんだけど、その結果が「君と背景」は“君は走り出す”で、「街」は“このままでいられたら”っていう逆のものだったりするんですよね。同じテーマで逆のものを考えてみたっていう。大まかなコンセプトはあるんですけど。「君と背景」は自分たちがこうしたいっていうのとか、こうあるべきとかっていうところが表れている気がします。「街」は今までの大切なものというか、自分たちの本質的なものだったりするのかな。
2曲とも自分たちに向けて歌ったところはあるのですか?
成山
前に「メロディ」とかを書いた時もそうだったんですけど、自分にないものを作った時に、その曲に引っ張られてく自分たちがいるというか。それを聴いてるお客さんがいて、そのお客さんが自分たちを引っ張っていってくれてるっていうか。これでいいんだよって確認できるし。そういうものだなって思ってて。今回もそういう曲になればいいなって思ってますね。
ひとつのテーマで違うことを描くのは、シングルという2曲入りの形態を作る上で考えたところでもあったのですか?
成山
いや、「街」は1年前からあって。その頃に5曲くらい作った中の1曲で、今回シングルに入れる上でまた掘り下げたんですけど。最後の詰めのところでこういうふうになったんですよね。
シングルの作りかたも面白いですよね。例えば、表題曲がアッパーだったら2曲目はバラード、みたいな単純なシングルではないじゃないですか。
あと、初回限定盤には札幌道新ホール、通常盤には東京キネマ倶楽部のライヴの模様を3曲ずつ収録してますが、これもシングルとしては面白いですよね。アルバムじゃできない試みというか。
成山
そうですね。僕らってライヴをイメージしづらいバンドかなって何となく思ってて。観ないと分かんないっていうか。“どうやるんだろう?”って思ってる人もいるだろうなって。鍵盤のメンバーがいると思ってる人もいるだろうし。そういう意味で、シングルにこういうものを入れれば伝わりやすいかなって。北海道新ホールのほうではストリングスも入れたライヴだったんで、そのスリリングな感じも聴いてほしいなって思いますね。
ロックバンドで、こんなにストリングスが溶け合えるサウンドを鳴らしている人たちっていないなって、改めて思いました。
成山
そうですね。sleepy.ac(アコースティック)で音源出してるんで、その延長線上っていう感じですね。
6月にはアコースティックツアーもあるんですよね。
成山
プラネタリウムとかでもやるんですよね。だから、いっぱい寝てきてくださいって言ってます(笑)。一回、椅子席でやった時があって、どんどん人がちょっとずつ傾いていったんで(笑)。
心地良いサウンドですからね(笑)。他にも面白いハコばかりでやるのですね。
成山
そうですね。全国の個性的な場所でやろうっていう。
札幌の大地が育んだ独自の世界観を持つバンドsleepy.ab(スリーピー)。メンバーは成山剛(vo&g)、山内憲介(g)、田中秀幸(b)、津波秀樹(dr)の4人。接尾語の“ab”が示す通り、“absolute”=抽象的で曖昧な世界がトラックやリリックに浮遊している。成山らが紡ぐ美しく繊細なメロディ、山内の変幻自在の空間プレイ、田中と津波の確かな素養に裏付けされた強靭なボトム、この唯一無二のサウンド・スケープが4人の“absolute”な音世界を既に確立している。
札幌でマイペースに活動しながら、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』をはじめとする数々のフェスにも出演を重ね、彼らの音楽に魅了されたアーティストも少なくない。そんな中、09年11月に<ポニーキャニオン>よりアルバム『paratroop』で遂にメジャー・デビューを果たす。聴いた人の心を掴んで離さないスリーピーワールドは、まるで眠りにつく時のように気持ちがリセットされる感覚に陥るはず。彼らの作品を聴いていると透き通った空気の季節が待ち遠しくなる——そんな音楽を奏でている彼らは他のバンドとは一線を画している。オフィシャルHP
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