【大知正紘】こうやって僕は、
人生を音楽に刻んでいくんだと思う
プロデューサーに小林武史を迎え、数々の有名ミュージシャンとともにレコーディングされた1stアルバム『ONE』。今年20歳になった大知正紘が、現在の気持ちを全てさらけ出して作り上げた渾身の一作だ。
取材:大庭利恵
どういう1stアルバムにしたいというイメージを持ってました?
曲を作っていく途中で、これから自分が歌っていきたいことって何だろうって考えるようになった時に、みんなと“ひとつになること”をテーマにしたいと思うようになったんです。
タイトルになってる“ONE”につながっていくテーマ?
そうですね。でも、アルバムのコンセプトというよりは、僕の音楽制作のテーマって感じですね。消極的だった子供のころ、自分の意見を言葉にするのが苦手だった時期があり、音楽に救われて歌うようになり、今年20歳になったんですね。新しい一歩を踏み出すことへの葛藤や希望を素直に描いたので、これを聴いた人が、“自分ならこういう一歩を踏み出す”“いや、僕ならこうする”…そういうふうに僕の音楽を通じて気持ちの連鎖が生まれたらいいなと思って。
どのくらいの期間をかけて制作したことになるの?
一番古い曲が9曲目の『Don’t worry』で、高校2年生の時に作ったものですね。次が『手』で、『Hello』はバンドを組んでた時に作った曲の歌詞を書き変えました。一番新しいのは『19歳最後の唄』です。
どこらへんからテーマが見えてきた?
ちょうど1stシングル『手』をリリースするタイミングですね。同じCDが2枚入ってる【Relation Disc】というシングルをリリースしたんです。1枚は大切な誰かにあげてほしいという気持ちを込めたんですけど、その頃から、“つながり”や“輪”みたいなことを考えるようになってきました。
人と人がつながっていく、ひとつになることで、どういう変化が生まれると思う?
こんなこと言うと、すごく暗いと思われるかもしれないですけど、今って不況じゃないですか(笑)。僕と同世代の人たちは、今ある現状を自分たちが変えていかなきゃいけない。『Hello』でも描いているんですけど、周りに合わせる方が楽で、自分らしく生きられない。僕自身も、そういう時期があったんですけど、それじゃ最終的に大切な人を守れないってことに気付いて、新しい自分に対して“Hello”って言おうって思ったんです。いろんなつらいことに“大丈夫だよ”って言うんじゃなくて、“自分には何ができるか考えてみて”って問いかけることで、ささいなことから大きいことまで、聴いた人それぞれの中で変化が起こるはずだと思ってるんですよね。
最新曲の「19歳最後の唄」が、このアルバムの軸になってると思うんだけど、シンプルなのに力強くて、これぞ大知くんという一曲になってますよね。
実は、レコーディングも、19歳最後の瞬間に録ったんですよ。なかなかいいテイクが録れなくて、24時になる10分前。あと一回しか歌えない、“よしっ”と思ってスタジオに入ったら、びっくりするぐらい感情がぶわーっとあふれ出して。まさに19歳最後の歌なんです。
ドラマティックな話のようで、本当に19歳最後の瞬間にならないと歌えなかったっていう不器用な話でもあるよね。
そうなんですよね(笑)。でも、うまく歌うことだけが素晴らしいわけじゃないし、僕にとって一番大事なのは、自分自身が経験したことをメッセージにすることだと思うんですよ。今回、小林武史さんにプロデュースしていただいて、前田啓介(レミオロメン)さんをはじめとする名だたるミュージシャンの方々に参加してもらったんですね。みなさん、本当にすごいんですけど、でも、一曲ごとに込めたメッセージを伝えて、共有していけるのは僕しかいないんだって改めて感じたりもしたんです。だから、多少の不器用さは、あってもいいかな(笑)
では、そのメッセージを持って6月からの初ツアーで各地を回っていくわけですね。
そうなんです。実は、今回のアルバムのジャケットは真っ白なんです。その中央に“円”が描いてあって、その円の中にこのアルバムを聴いて感じたこと、思い浮かんだことを好きなように表現してほしいと思っていて。最終的にはそれを集めてライヴ会場に展示したりして、僕とみんなのメッセージがひとつになる場所を作れたらいいなと思ってて。
大知くんらしい空間が出来上がりそう!
僕ひとりじゃ作れない空間なんですよね。みんなの力が必要。そうやって“ひとつになって”いけたらうれしいんですけどね。
では、最後に20歳になった今、「19歳最後の歌」を歌うってことは、どういう気持ちなの?
どういう気持ち…気持ちかぁ。そうだな。これからは、未来を見ていかなきゃいけないのに、過去の一瞬を切り取ったこの歌は、自分にとってどういう意味があるのかってことだとしたら、これも僕の人生の1ページなんで、大事にしていくべきものだと思いますね。もしかして、1年後、この曲で歌ってることが間違ってたと思ったら、“あの時は間違ってた”って歌を歌うと思うんです。そうやって僕は、人生を音楽に刻んでいくんだと思うんです。
それをどう受け止めるかも、リスナーが考えるべき。
僕が間違ってると思ったら、間違ってると思うべきだし、面白いと思ったら積極的に関わってきてほしいんですよね。『明日の花』でも書いたように、自分が咲かすべき花の種に必要な水は、そんなに多くないと思うから。
もし、大知くんが間違ってると思ったら?
手紙でも、ブログのコメントでも、メールでも何でもいいので、とにかくその想いを直接ぶつけてほしいです。『ONE』が想いをぶつけ合うきっかけになるのが一番うれしいですから。
オオチマサヒロ:平成3年生まれ、三重県出身。未完成な世界に散らばった、言葉の力を信じる20歳。小林武史がプロデュースを務め、2010年3月にデビュー曲「さくら」を発表した。オフィシャルHP
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