【阿部真央】私にとって歌はこだわり
たいものになった

私はこの仕事では達成感を感じることは
ない

デビューから5年が経ったわけですが、真央さんにとって歌というものも変化しました?

変化しましたね。デビューする前とか、学生の頃って、私はずっと鼻歌を歌っていて、“歌はいつも側にあるもの”とまでは言わないですけど(笑)、ほんと歌が好きだったんですよ。もちろん、今でも歌は好きなんですけど、職業柄もっともっと高みを目指すようになったっていうか。例えば、ライヴでうまくお客さんに響いた時の反応って、すごく鳥肌が立つものがあるんですよ。自分でも気持ちの良い音が出た時って鳥肌が立つんで、やっぱりそういうものを目指すようになりましたね。こだわればこだわるほど、私にとって歌はこだわりたいものになった、みたいな。レコーディングでも一番こだわるところだし、全部自分でジャッジしたいところだし…自分が“これでいいんだ”と思ったものが、本当にいいっていうのはライヴでも実感できているので、そういう歌に対する自信も増しているかもしれませんね。

より“伝える”ものになったという感じですか? アルバムで言うと1stアルバム『ふりぃ』や2ndアルバム『ポっぷ』は高校時代に作った曲がメインで収録されているわけですが、その頃とは違うというか。

全然違いますね。まだファンの人の顔が見えてない状態の曲っていうのは…もちろんマスターベーションではないと思うんですけど、聴いてくれる人にとって聴きやすい曲というのを想像で書いているなって。実際に想像で書いてましたからね(笑)。今はそこが明確になっているから、例えばライヴを意識して書いている曲というのは、ライヴに来てくれたり、聴いてくれる人がどう感じるか?だったり、その人に向けてのメッセージとか、そういうのをより強くイメージして書いてますね。でも、恋愛の歌とかはそういうのじゃなくても全然いいと思ってるんですね。そういう差別化もできてきているなっていうのは感じますね。

今のお話だと、高校時代から聴く人ありきで曲を作っていた?

そうですね。高校時代も“分かりやすく”というのはすごく意識していたので。普通の話し言葉の言い回しだとダサいと思っていたから、“倒置法は違うな〜”とか考えて書いてましたね。

そういう曲作りに関して、昔にしたインタビューの中で“曲にして吐き出したからって救われたことは一度もなかった。満たされることもないし…そんなもんだなって”とおっしゃっていたのですが…

あはは。それは変わってないです、未だに(笑)。そんなもんだなって(笑)。でも、最近は前向きに考えられるようになったし、こういう性格だから続けられていると思うんですよ。曲にして吐き出してすっきりしていたら続けられないし、そこでの満足感や達成感はいらない。それよりは…今の活動で満足したり、達成感を感じることはあんまりないんだけど、それでも一本のツアーが終わった時、その一瞬の“終わった”っていう達成感、もうこれだけで十分だと思ってるんですよ。別に“達成感を感じちゃいけない!”とは思わないけど、私はこの仕事では達成感を感じることはない…それはネガティブな意味じゃなくて、ゴールがないからこそ楽しめているっていう感じですね。それは楽曲を書く上でもそうだし、何でもそう。

あと、2ndシングルの「貴方の恋人になりたいのです」の時のインタビューで、“どこまで自分を消費していくんだろう?”って考えながら歌っているとおっしゃっていましたが、より聴く人のことを考えるようになって意識が外を向くようになったことで、そこの不安はなくなったのでは?

その通りですね。そんなに不安を感じなくなりました。18歳ぐらいの時、前にお世話になっていたボイストレーニングの先生に“大人になったら感受性がなくなるんじゃないかって不安なんです”って言ったことがあったんですね。で、感受性は持って生まれたものだがらなくならないけど、感じること、感じるタイミングは減ってくるから、みんなアンテナを磨き続けるっていうことを言われたんですよ。その意味が、ようやく分かってきたというか。“消費する”っていうのも、心は消耗品ではないし、取り替えられないし、19歳から24歳の間でも感じることが変わっていったので…大人になっていく過程で初めて感じることもあるわけじゃないですか。“昔はこんなことでは泣かなかったのに”みたいなね。そういうのも新しい発見だと思ったので、消費されることはないんだなって思ってます、今は。

では、このシングルコレクションの中で印象深い曲となるとどれになりますか?

個人的には全然ないんですよ。さっきも言いましたけど、過去の曲には興味がないので。でも、ライヴとかでみんなに愛されている曲は、すごく大事だと思いますね。例えば、「貴方の恋人になりたいのです」や「ロンリー」とか。この曲によってみんなが私の歌を聴くようになって、今の自信につながっていると思うと感慨深いというか、特別な曲ですね。

なるほど。ちなみに、過去の曲に興味がないというのは、聴く人を意識して作っているところもあるから、リリースした時点で自分の手から離れた感じなのですか?

そうですね。自分の曲なんだけど、リリースしてしまえば、もうどうでもいい(笑)。リリースした時点で自分にとっては、ちょっと前の曲じゃないですか。レコーディングしている時点でも、少し前の曲なわけだし。もちろん自分が書いた曲なので、それを褒めてもらったり、何か意見をもらったりするのは、すごくありがたいと思ってますけど。でも、それで浮かれるほど嬉しく思うことはないですね(笑)。

まぁ、今作は楽曲単位でどうのというよりも、時系列に並んでいるから、その当時を思い出すほうが大きいでしょうしね。

そうですね。思い出が蘇る…ほんとにアルバムですね。

2ndアルバム『ポっぷ』のインタビューで、“ファンの人を信じてファンの人のために素直でいようと思うようになった”と語っていて、その後の6thシングル「モットー。」は"ありのままでいいんだ、そこで勝負しようよ"というメッセージが込められた応援歌だったし、3rdアルバム『素。』は“自分らしくあれ”というモードだったし、真央さんの意識的な変化も見えてきますしね。

確かに。ほんと、その時期の私がよく表れていますよね。だんだん自由になっていったというか、素直になっていったというか。

強くなっていってますしね。

ほんとですか! それは嬉しい(笑)。

8thシングル「世界はまだ君を知らない」の時のインタビューで、暗闇にいる人に“大丈夫だよ、私も頑張れたもん”って伝えたくてできたとおっしゃってましたからね。

そういうことを言ってるってのは、何かを越えた感じがしますよね。うん、いろんな経験を経て強くなったのかもしれない。そういう変化がより分かってもらえる一枚だと思います。

そんな阿部真央が、これから歌っていきたいことは?

来年の頭で25歳になるんですけど、今の私が感じていることをできるだけ誠実に、良質に出していきたいですね。ただ丸くなっていくだけはつまらないから、今までみたいなアッパーな曲だったり、いろんな曲調の歌を書いていきたいと思っているんですけど、その書く視点や見る視線をどんどん変化していけたら嬉しいなって。これからもっと年齢を重ねたり、リリースを続けていくと、どうしてもファンの方のふるいの時期が訪れると思うんですよ。これまでのような阿部真央のショッキングな曲が好きだった人が離れていく時期が訪れると思うし、逆に新しいファンの方が来てくれる機会も生まれるとも思うし。それでファンの方が減っていく一方なのであれば、それが私の実力なんだろうから、その時は何か考えないといけないと思うけど、許される限りは、その時に感じていること、“これを書きたいな”というものを曲にしていけたら嬉しいですね。…って思えるのも、今まで支えてくれたファンのお陰なんですよね。結局、いろんな曲を作っても離れないでいてくれたし。そういうのが、一番嬉しいですね。1曲だったり、1枚のアルバムを評価してもらえるより、5年間通して“阿部真央の作る曲が好きなんだ”って言ってもらえると、ものすごく“やってて良かったな”って思えるから、そう言ってもらえるように常に誠実に歌っていきたいです。

それは5年間、ちゃんと自分を落とし込んで曲を書いてきたからですよ。凹んでる時は凹んだ曲を書いてるし(笑)。

あはは、そうですよね。この間もね、ファンの子からのTwitterの返信で“あべま、落ち込みやすい性格だけど、頑張って!”や“溜め込む性格だけど、負けないでね”みたいなことを言われて、みんな分かってるな〜って(笑)。ファンとの距離の取り方もいろいろあるけど、私の場合はこれでいいのかなって。ファンに甘えちゃおうって(笑)。みんな、やさしいからね。

そして、10月には日本武道館公演が控えているわけですが。いよいよ近付いてきましたね。

ねー。すごくシンプルにしたいと思ってるんですよ。今までの阿部真央のライヴの武道館バージョンができればいいなって。今までやってきたことの延長線上で、武道館に似合うことができればそれで十分だと思っていて、“これからも頑張ります”っていうライヴにしたいなって。武道館だからって特別なことはしたくないし、そういうことができるアーティストのほうが私はカッコ良いと思っていいるので、そうやって自分に合ったやり方が貫き通していけたら嬉しいですね。
『シングルコレクション19-24』2014年08月20日発売PONY CANYON
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • PCCA.04076 3996円
    • 【通常盤】
    • PCCA.04077 2700円
阿部真央 プロフィール

アベマオ:1990年1月24日生まれ、大分県出身。06年、高校2年生の時に『YAMAHA TEENS' MUSIC FESTIVAL』の全国大会で奨励賞を受賞。09年1月にアルバム『ふりぃ』でデビュー。感情的なアコギで押し出す、等身大でリアルな歌詞、表現力豊かなヴォーカル、バラエティーに富んだ楽曲、同世代の女性を中心に、幅広い層から注目と共感を集める。14年10月にデビュー5周年を記念して初の日本武道館公演を開催。16年5月、産休明け第一弾シングル「Don’t let me down」で完全復活を果たし、デビュー10周年となる19年1月にはベストアルバム『阿部真央ベスト』を発表し、2度目の日本武道館公演を成功させた。阿部真央 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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