【阿部真央】聴いている人が面白けれ
ばそれでいい

包容力に満ちあふれた抱擁。そんな温かさとやさしさと、変わらぬ鋭角的な視線を兼ね備えた2年振りのニューアルバム『Babe.』。新たなチャレンジも結実し、より多彩な表現で描かれた13の歌。聴き込むごとに味わい深い一枚!
取材:竹内美保

歌詞の書き方をちょっと変えた。言葉の
選び方も自由になったかも

リスタートを切って、ついに待望のアルバムが完成しましたが、リリースまで意外と早かったですね。音楽に向かう姿勢が良い意味で前のめりなことの表れかと。

本当は昨年のうちに出したかったんですけど、制作に時間がかかってしまって。音楽に向かう姿勢としては、早くアルバムを出したい…ツアーが決まっていたので、ツアーまでには出したかったからホッとしています。実は昨年の秋くらいまで全然曲が書けなかったんです。

あら、そうだったんですか!?

母親モードと仕事モードとの切り換えがうまくできなかったので。でも、走り出したらスイッチが入って、ノリに乗って曲もどんどん書けて、そこからはスムーズでしたね。特に良かったと思えたのは、歌詞の書き方をちょっと変えたことで。今までは“実体験に基づいたものじゃないと”って思っていたんですけど、もっとイメージを膨らませてフィクションの世界にも足を踏み入れてみようと。もちろん核になる気持ちはずっとあるんですけど、いろんな配役を作ってバックグラウンドを設定して、そこに当てはめて歌わせるというやり方に挑戦したんです。それがすごく楽しくて! イメージを膨らませて書く時に、どういう人がこの曲を聴くのか?とかも考えたり。

フィクションであっても、その物語を作っていくスタートは自分の気持ちがあってのことだから嘘ではないですしね。

そうですね。ちょっと設定が違うだけ。

でも、ずっと正直な心情を吐露してきたから、“これも実体験なのかな?”と聴く人は思うかも。

聴いている人が面白ければそれでいいんですよ。いろいろ想像するわけじゃないですか。いろんなことがあったあとに出すアルバムだし、このタイトルで、「愛みたいなもの」という曲から始まっていて…そこで“え、これってもしかして!?”みたいに思ってくれるのが、また楽しいですよね。曲は出ちゃえばもう聴く人のものだから。

確かにそうですね。で、表現方法の幅が広がっているから、そこもより楽しめるし。“ここまで振り切るんだ”とか“こんなにもやさしい表情を見せるんだ”とか。

どのへんがトゲトゲしてました?(笑)

トゲトゲではないですけど(笑)、やっぱり「逝きそうなヒーローと糠に釘男」が。この言葉の発想がすごい!

(笑)。これ、推し曲です。糠に釘な人がいたんですよ。ほんとは違う歌詞にしたかったんですけど、サビのメロディーラインが浮かんだ時にちょうど“糠に釘みたいな奴だね”って会話をしていて、そこから作ったんです。だから、勢い…あとは語呂ですね。

勢い、ひらめき勝負だからこその瞬発力、インパクトの強さ…あと、この曲はドラムの音とフレーズがカッコ良いなと。

ねー! akkinさんのアレンジ力…特にドラムのアレンジは“ここでそういうフレーズを入れてくるんだ!?”ってなる。すごくセンスがあるなって思います。akkinさん、ドラムオタクだから。ドラマーからは“変態”って言われてましたけど(笑)。

いかにメロディーをカッコ良く聴かせるかというアレンジをされているように感じます。

あー。確かにレコーディングの時に“どうやってこういうギターのフレーズを考えるんですか?”って尋ねたら、エレキに関しては歌のメロディーにハーモニーを乗せるように作るって言ってましたね。曲に対してそういう姿勢でいる人なんだなって思いました。人柄もそういう感じで、決して前に出ないんだけどしっかり支えているというか。

メロディーと言えば、今作はコンポーザー阿部真央のメロディーがより自由になっている気がしました。

それは良いことですよね? 良かった。

メロディーの紡ぎ方、生み出し方が変わったということでしょうか? 以前はもっとストレートだったような。

ひらめきですね。あ、でも、ギターを使わなくなってきています。以前はギターを鳴らしながら作っていたんだけど、メロディーが浮かんだらそれを覚えておいて、あとからコードを付けるっていう流れになってきていますね。だから、今までの自分にはないコードがいっぱい出てきて。それが原因かもしれないですね。

さっき、「逝きそうなヒーローと糠に釘男」は本当は別の歌詞を書くつもりだったというお話がありましたけど、フィクションも描くようになって言葉の選び方も変わりました?

変わってきてますね。私は歌詞をすごく大事にしているんですけど、歌詞を音としてとる…要は歌詞を歌詞としてとらえないで、音としてとらえるやり方もありかなと思えるようになってきて。だから、“歌詞には必ず意味を持たせないと! 必ずストーリーがないと!”みたいな気負いがなくなって、言葉の響きだったりの音を重視するようにもなったので、言葉の選び方も自由になったかもしれないです。

音としての言葉って破壊力がありますからね。必殺の一行にもなり得るし。

メロディーと声色とフレーズで、前後の脈略がなくてもパーン!って入ってきちゃうものってありますもんね。そこはストーリーの明確さよりも時として大事だったりするから。

言葉の礫(つぶて)みたいな感じで。

その投げてくる言葉の中にうっすらとストーリーがあれば成立しちゃうし、そっちのほうがいい場合もありますしね。

声色で言うと、「バイバイ」は別れの歌なのに楽しそうで。サウンドも軽やかだし。

1曲くらい離婚のことを思いっ切り吐露する曲があってもいいんじゃないかと思って。で、アレンジはいつもライヴで一緒にやっているワダケン(和田健一郎)さんにお願いしたら、ロカビリーっぽいサウンドで返ってきたんです。私としては良かったです、意味なくアガれるし(笑)。だから、こういう歌詞だから明るく歌ったんじゃなくて、とても明るいサウンドだからそっちに集中したという。歌入れの時にはすっかり歌詞の内容は忘れてたし(笑)。“私抜きで幸せになってね”っていう歌だから、そういうテンションでいくことにはまったく迷いはなかったです。

最後のブロックの《お元気で》のトーンとかすごい(笑)。

あ、嬉しい。あそこは私的にも聴いてほしいポイントです。アレンジもそこを重要視してくれて…飛んでいくようなサウンドになっているので。自分のくだした判断を肯定できるようになったからこそ書けた歌詞だし。毒抜きですね、最後の。

アルバムが「愛みたいなもの」で始まって、「バイバイ」で毒抜きして区切りを付ける。

そうそう、ここでひとつ終わるんです。これで最後って言ってるから、彼とのことを歌っている最後の位置になるようにして。だから、この曲以降は彼のことは歌ってないです。

同じく別れの歌の「You Said Goodbye」は対照的なサウンドで。このアレンジと声色の相乗効果は素晴らしいですね。

アレンジマジックですね。akkinさんに“UKロックみたいなサウンドにしたいんです”って話したら、それを汲み取ってくれて、めちゃめちゃカッコ良いアレンジにしてくれました。これはオアシスみたいな曲を書きたくて作った曲なんですよ。リアム・ギャラガーの声の帯域が好きなので、声の出し方も意識しています。

OKMusic編集部

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