【分島花音】挫折と希望を繰り返す。
これが青春時代の存在証明!
クラシックをベースにした独自の音楽性とスタイルで人気の分島花音が、1年9カ月振りにリリースするアルバム『luminescence Q.E.D.』は、CD初収録となるライヴ定番曲やアニメソングなども収録した、まさに彼女の感性が爆発した作品だ。
取材:榑林史章
アルバムの“luminescence Q.E.D.”というタイトルは、どんな意味で付けたのですか?
発光物でなくても、お互いに摩擦や衝撃を与えることで発光する“摩擦ルミネッセンス”という現象と、音楽を聴いた時に感じる稲妻に打たれたような衝撃を重ねて。そこに、私の曲や歌詞は自己証明の論文のようなものであることから、証明論文の末尾に付ける“Q.E.D.”を付けて、“luminescence Q.E.D.”と名付けました。
アルバムは全体を通して、アニメタイアップ曲を除いた新曲はロックありジャズありという、多彩なサウンドを聴かせていますね。
自分の音楽の基盤はまずクラシックで、その両脇にジャズとロックがあります。アニメから入ったファンの方には、いろんな音楽がパッチワークのようにつながって、私の音楽ができていることを知ってほしくて。まさしくそのことを歌っているのが、1曲目の「Unbalance by Me」で。この曲は前回のツアーのために作った曲です。
脇を固めるロック調の曲で代表的なのは「the BEAST can't BE STOpped」。ソリッドですごくカッコ良い曲で、英語の歌詞をラップしているところが印象的でした。
今、ラップが流行っているので、自分の音楽に取り入れて面白くなりそうなものには、どんどんチャレンジしていきたいと思っているんです。あと、曲タイトルの大文字のところは“ビースト”で韻を踏んでいます。ロックで言うと「ノットフォーセール・フォッシル」もそうですね。
アッパーで爽快感のあるロックサウンドですね。タイトルにある“フォッシル”とは化石のことですが。
例えば昔と今は音楽性が違ってても、当時ヒットした作品のイメージをずっと持たれていることがありますよね。19歳でデビューして、もしかしたら私も誰かの中では19歳当時のまま化石になっているかもと思って。音楽や作品は自分が死んだあとも生き続けて、死後に評価されることも多いじゃないですか。時代を経て誰かに届くのは素敵なことだし、音楽はそれが可能なんです。そう考えるとトレンドを取り入れるのも必要だけど、時代に流されない部分もあっていいんだなって。
時代を経ているという部分では、「Odette」という曲は学生時代に、「平凡な僕」は4〜5年前に書いたそうで。どちらも、ジャズ調のサウンドになっていますね。
「Odette」はライヴでしか披露していなくて、音源化してほしいとのリクエストがたくさんあった曲です。タイトルは『白鳥の湖』に出てくる主人公のことで。歌詞は愛憎を歌っていて、その主人公になれない女の子の鬱々とした気持ちを書いています。アーティストという夢に向けて常に模索して悩んでいた、十代の頃の私自身が全面に押し出された曲です。そんな曲をこうして多くの人に聴いていただけるのは、ちょっと報われた感じで。学生時代の私に会ったら“やっとCDになったよ!”と言ってあげたいです(笑)。「平凡な僕」もライヴでは何度もやっているのですが、ライヴとは違うアレンジになっています。
「平凡な僕」はミュージカルっぽいですね。
物語が見えるような感じにしたくて。イントロからだいぶ遊んで、バンドの他、フルートやホーン、ストリングスも入って、ゴージャスなサウンドになりました。歌詞は、これもタイトルの光にかかっていて。自分の光になっている存在に対する賛歌というイメージです。今回のアルバムは特定の誰かに歌っている曲が多いですね。
「Drink Drunk Music」はビッグバンドサウンドで。
12月にビッグバンドライヴを行なうのですが、そのライヴでやりたいというだけの理由で書きました(笑)。王道のビッグバンドジャズのサウンドが好きで、楽器隊が主役になる曲作りをしたくて、楽器が踊って跳ねている様子が伝わればいいなと。ライヴは“The strange treat!”というタイトルで、バンドのメンバーも私もエプロンを付けておもてなしします!
ラストにはアルバム表題曲を収録していて。アルバムの締め括りに相応しい、スケールの大きなミディアムロックですね。
“Q.E.D.”は最後に付けるものなので、最後に入れる曲をと思って作りました。前向きなものにしたくて、大海原を船が真っ直ぐ進んでいるイメージです。ルミネッセンス=光は私にとっては、音楽であり、ファンであり、目標とする場所や憧れなどで。聴いてくれる人にとっての光と重ねて聴いてもらえたら嬉しい。
今回のアルバムは夢や希望などのさまざまな光というものに対する中で、悩み傷付き、それでも光を思い求めるような姿がファンタジックな要素を含みながら描かれています。
私が音楽をやる上で常にテーマとしているのが、青春というものなのですが…青春時代は何もかも夢の中にいるような感覚で、頑張れば絶対に叶うし、報われると信じて疑わないけど、実際に大人になると諦めや挫折の連続で、憧れや目標に対する考えが現実的なものに変わりますよね。私の中で音楽は自分にとっての青春で…かと言って、もはや十代のような失うものが何もない刹那的な青春ではなくなっています。そういう部分で、かつて青春を謳歌し切れなかった大人が、過去を振り返りながら考える青春みたいな感じ。ある種の虚像のようなものを表現したいと思っています。十代という失った時間はもう取り戻せないけど、歌うことでそれが私や聴いてくれる人の希望や祈りになったらいいなと。
何だか青春をこじらせてしまった感じですね(笑)。
満足のいく青春時代を過ごせなかったですから。ある意味では、その焼き直しの気持ちで音楽やってます(笑)。
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『luminescence Q.E.D.』2016年11月30日発売Warner Bros. Home Entertainment
- 【2CD+3BD】
- 1000629294 5940円
- ※初回生産限定盤
ワケシマカノン:シンガーソングライター。3歳からチェロを始め、クラシック音楽とともに育つ。表現する、伝えるということに強い想いがあり、作詞作曲も行なうように。イラスト創作活動も積極的に行ない、ファッション画、イラストジャケットなどを自ら描き下ろす。衣装デザイン、イラスト創作、作詞、作曲と多彩な才能を発揮するアーティストとして、その才能に女性をはじめ、広範な層に支持されている。分島花音 オフィシャルHP