それでも加入当初から、他の同期のメンバーよりパートが多かったり、新垣里沙・光井愛佳卒業後、道重さゆみリーダー体制となった最初のシングル『One・two・three』では、6期メンバーの田中れいなとともにセンターを分かち、多くのパートを任された。そのあとに行われた秋ツアーでも、歌割が一気に増えるようになる。

 これまで、先輩たちが歌ってきたパートを彼女が歌う。卒業したメンバーのパートが受け継がれることはファンがとても楽しみにしていることだけれど、長年モーニング娘。を支えた高橋愛や新垣里沙の穴はあまりにも大きい。

 すべて彼女が引き受けたわけではないが、当時の彼女にはかなり高いハードルとなった。踊りながら歌うことはアイドルとして当たり前のことだけれど、モーニング娘。の激しいダンスを踊りながら、まだ慣れない歌をうたうのは、技術の面でも、気持ちの面でも、簡単なことではなかったはずだ。

 この頃はコンサートの後半で声がかすれたり、高い音を振り絞って出していたり、見ていてハラハラすることも多かった。

 ただ、ステージを重ねるたびに何かを学び、彼女は確実に変わっていった。田中は「鞘師は自分の歌い方を研究し、盗んでる」と感じたと言っている。

 彼女は努力を見せることはしないし、苦労することをつらいと思わないと言う。もしつらいと思っていても、周りにはほとんど見せないだろう。最高のステージを見せるために努力することは、彼女にとって当たり前のことなのかもしれない。何でも出来てしまうと思われるかもしれないが、出来るようにしているのだと思う。それは普通のことのようで、とても難しいことだ。


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 ステージで戦い続ける彼女の表情には、ずっと硬さがあった。特にステージの上では、もちろん笑顔を見せてくれるのだけど、常に緊張や必死さが見えた。それが昨年あたりから、少しずつ変わってきた。

 ファンへ向ける表情も、メンバーと交わすアイコンタクトも優しくなって、ライブを楽しんでいるのが伝わってくる。会場を見渡す彼女の顔は、喜びと誇らしさに満ちている。

 心の余裕や、周りへの信頼、パフォーマンスへの自信が表情に出ているのだろうか。今の彼女を見ていると、楽しんでいるんだなと感じられて、ほっとして、感動する。

 数年前、先輩たちに追いつこうと、幼い鞘師が精いっぱい自分を大人っぽく見せようとしていたのは、それはそれでたまらないものがあるけれど、場数を踏んだ自信や努力の結果が見える、彼女得意のドヤ顔もまた、ぐっとくる。

 2015年からは12期メンバーが加入し、これから鞘師以外のメンバーがセンターになるかもしれないし、そういうことがあるからこそモーニング娘。は面白い。例え中心に立たなくても、すでに彼女はグループを強く支え、みなを引っ張る大きな存在になっている。

 加入してからたくさんことを乗り越えてきたけれど、11月26日の道重さゆみの卒業はグループにとっても彼女自身にとっても、最大の試練かもしれない。そして“黄金期”と呼ばれた過去のモーニング娘。という大きな壁も立ちはだかる。

 しかし、不安はあれど、これからのモーニング娘。を背負う覚悟は、もうすでに決まっているように見える。グループの魂を引き継ぎながら、グループを次なる全盛期へ、そして自らがさらなる高みへ登るため、彼女はこれからも努力し続けるだろう。

 ただ、ステージでのかっこいい鞘師もしびれるけれど、ミントにカビを生やしたり、コミュ障と言われてしまう普段の彼女とのギャップがあるからこそ、だと思うので、これからもずっとポンコツのままでいてほしいと、秘かに願っています。東海林その子 メジャーどころを中心に、女子アイドルを追いかけています。女の子が変化する一瞬一瞬を見逃したくないです。

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