武田真治、5度目の『スウィーニー・
トッド』は「限界までブラッシュアッ
プ」ーー初のWキャストで演じる加藤
諒からの刺激も

トニー賞やローレンス・オリヴィエ賞など、アメリカやイギリスの権威ある演劇賞を数多受賞してきたブロードウェイミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』。日本では2007年に宮本亞門演出のもと市村正親、大竹しのぶのゴールデンコンビで26年ぶりに上演。互いに俳優として深くリスペクトしあう二人が念願の初共演を果たしたのが本作だった。以降、何度も再演を果たし、5度目となる公演が2024年3月、8年ぶりに復讐劇が帰ってきた。東京で3月30日(土)まで上演したのち、宮城と川越、大阪を巡回する。武田真治も2007年の上演以来、ミセス・ラヴェットの店を手伝う純粋無垢な青年トバイアスを連続して演じている。しかも今回は加藤 諒との初のWキャストに。稽古場での最終稽古を終え、あとは舞台稽古を経て初日の幕が上がるのを待つのみというタイミングで、本作について武田に聞いた。
武田真治
諦めない環境が難局を乗り越える力に
――今回は初のWキャストということで、加藤 諒さんが稽古場で演じるトバイアスはいかがでしょうか。
自分が思いつかなかったような演技が​見られて面白いです。加藤さんは僕にとってすごく純粋な存在で、そういう人から出る自然な仕草は早速、真似したくなるものでした。やっぱり演じる人が違うと、出てくるものも違うのだなと思って、ずっと楽しく見ていましたね。
――加藤さんが武田さんの真似をされた箇所もありましたか?
あるのかもしれません。もう5度目の上演なので、亞門さんが振り付けてくれたものなのか、僕が勝手にやりだしたことなのか、よく分からなくなっている動きもあって……。
――武田さんの振付もあるのですね。
このミュージカルは、急に音楽が鳴って、高らかに歌い踊る、軽やかにステップ踏むというタイプではなくて、会話の延長で音楽が鳴ったりする感じなので、個人の所作に任されている部分も結構あります。なので、「これは確か、自分がやっていた所作だな」と思うものを一生懸命、真似してくれている加藤君を微笑ましく見ていたりします。
武田真治
――演出の宮本亞門さんからはどんなお話があったのでしょうか。
前回から8年空いたということもあって、キャストは残留組の方がむしろ少ないのですが、みんなでもう一度よりいい訳詞、日本語は見つからないものかと探しながら、言葉の意味をみんなでかみしめたり、台本の解釈を共有したりしました。なので今回は行間さえも共有するというレベルまで、すごく丁寧に作業ができたと思います。セリフやストーリーは大きく変わりませんが、稽古の最終日に亞門さんが「最高地点まで到達できたね」とおっしゃるぐらい、限界までブラッシュアップはできたかなと思います。市村さんと大竹さんのシーンで、時事ネタを取り扱うアドリブパートがあり、そこはもしかしたら開幕後も観客の反応をみて調整するかもしれませんが、基本的には「これを見せよう」と自信を持って言えるものが作れました。
――同じ作品に5度も、しかも初出演から17年という時間を経ても出られるというのは、改めて本当にすごいことですね。
松本白鸚さんのミュージカル『ラ・マンチャの男』とか、さかのぼれば故森光子さんの『放浪記』など、一人のキャストの代表作になっている作品もありますが、作品は残ってもキャストが一新されていくというのは、演劇界のある種の常識です。そういった意味では、この作品に続けて携わることができて、一つの役を磨き続けられていることは、ありがたい状況だと思います。
武田真治
――以前、大竹しのぶさんへのインタビュー時に、スティーヴン・ソンドハイムさんの曲が難しいという話題になりました。その時、『スウィーニー・トッド』の歌のお稽古で子供がむずかるように武田さんが「いやいや!」とおっしゃっていたとお聞きしました。
それは大竹さんに会うたびに言われます(笑)。「一生忘れない」、「大人があんなにごねて」と(笑)。本当に、人生でそんなことある? と自分でも思います(笑)。あの時、僕は本当にパツパツになっていたんですよね。『スウィーニー・トッド』はみんな、まず曲の難しさに直面するのですが、大人なら壁にぶち当たっても静かに指導を受けていればいいのに、僕は間違った方向にバタバタしちゃったという……。でも、都合のいいことに僕はその時のことはあんまり覚えてなくて……。それくらい追い詰められていたのだと思います。
――渦中は大変だったと思いますが、何かしらチャレンジできるお仕事はありがたいですね。
そうですね。そして、それを乗り越えられてきたことが自信にもなって、また新しいチャレンジをしようという気力にもなりますから。今となっては寛容な人たちの中で壁にぶち当たってよかったなと思います。ぶち当たった時に「じゃあ、やめちまえ!」と言う方々じゃなくてよかった(笑)。亞門さんには本当に、頭が上がりません。亞門さんをはじめ、僕が諦めない環境を作ってくれた方々に出会えてよかったです。何か一つでも違っていたら、僕はもうミュージカルというジャンルでの活動を完全に諦めていたと思います。
「作品のピースになる喜びを学べた」
武田真治
――妻に横恋慕する悪魔判事ターピンにより無実の罪で流刑にされ、15年後に「スウィーニー・トッド」と名を変えて街に戻り理髪店を構えるベンジャミン・バーカーを市村さん、理髪店の階下でパイ屋を営むミセス・ラヴェットを大竹さんが演じられます。市村さん、大竹さんからはどんな刺激を受けますか?
おこがましいのですが、「生きる伝説」と既に言われているような市村さんや大竹さんの「進化」を稽古場で見させてもらえることですね。いつも「もうこれ以上、ないだろうな。ここで完成しただろうな」と思っていても、次にやるとまたお二人の進化を目の当たりにするので、それは本当に貴重な時間と経験をさせていただいていると思っています。また、進化には必ず失敗もありますから、あのお二人がつまずきながら作ってらっしゃるのを見られることが、何よりも財産だなと思います。あと、稽古場では、かつらをつけているわけでもない、メイクをしているわけでもない、衣装も身につけていないし、セットも稽古用です。でも、お二人がそこに立つと、あっという間に作品の世界に連れていかれちゃう。時間を忘れる感覚もあって。この状態を、幕が開いた時にもっとパワーを増してお客様に届けられると思うと、僕は本当に夢の仕事に就けたのだなと思います。人の夢を形成するピースとしての力が、少なくとも自分にもあるんだと思えることは、自分の人生が幸福に感じますし、人生の選択が自分にとって正しいものだったと思えますね。
――この作品から何を掴みましたか?
まさに自分が作品のピースになる喜びがあることを学べたと思います。それは映像に限らず、音楽もそうですね。バンド演奏でも同じです。『スウィーニー・トッド』に初めて出演させていただいた頃、僕は33、4歳くらいの生意気な奴で、自分が何かの一部だという視点はありませんでした。当時は総合芸術というものへの認識が浅はかだったと思います。自分より遥かにすごい人達と出会い、『スウィーニー・トッド』のトバイアスを演じることで、役の大きさや出番の量に関わらず、登場人物を演じるからにはその役割をしっかり全うしたいという職人気質のような感覚が芽生えたんだと思います。また、そう思えてからは、かえって挑戦の幅や選択肢が広がった感じがありました。
――武田さんの人生のステージが変わることによって、『スウィーニー・トッド』の物語の受け止め方にも変化はありましたか?
人間の欲望はすごいなと改めて思います。欲望こそが時代を表すのでしょうね。その時代、その社会的状況と自分の中の欲とのバランスを取りながら生きていくのが人生なのでしょう。『スウィーニー・トッド』で描かれている物語は反面教師なので、実社会がこうならないために何ができるだろうというようなことも、ちょっと考えたりします。
武田真治
取材・文=Iwamoto.K 撮影=河上良

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