「もっと自由に」全国47都道府県を回
るツアーで片平里菜が感じたことーー
写真家・石井麻木が被災地で撮影した
写真と想いを繋ぐMV、原点回帰となる
ツアーファイナルについて語る

2023年10月、デビュー10周年の節目となるアルバム『Redemption』をリリースし、現在は全国47都道府県・51公演の最多最長となるツアー『Redemption リリースツアー2023-2024』を巡回中の片平里菜。ファイナル公演となる2024年4月20日(土)の日比谷野外音楽堂には、彼女の歩みを見守ってきた存在であり、アルバム制作にも参加した、OAUおおはた雄一の2組がセッションミュージシャンとして出演。オープニングアクトで、片平の故郷・福島県のいわき市を中心に400年以上続く郷土芸能・いわきじゃんから念仏踊りを磐城じゃんがら遊劇隊が舞う、スペシャルなステージに。今回SPICEでは、片平とデビュー以来親交を深めてきた大阪のラジオ局・FM802のDJ 内田絢子がインタビュー。ラストスパートに差し掛かったツアーを回る中での変化と成長、そして公開されたばかりのOAUと制作されたアルバム収録曲「ロックバンドがやってきた」のMVについてじっくりと話を訊いた。
片平里菜
「人に会うと元気になるし、歌うことによって生き生きとするんです」
ーーアルバム『Redemption』を引っ提げての47都道府県51公演を回る全国ツアーもいよいよ佳境に。ここまでを振り返ってみていかがでしたか?
今回のように新しい作品をリリースしてここまで細かく回るのは初めてだったので、新しい曲たちと新しい旅をして、なんだか自分も新しくなっていくような感覚がありました。なので最初からすごく新鮮な気持ちで、その新鮮さがなくなってきたと思ったら今度は自分自身が自由になっていくように感じて。それがすごくおもしろいですね。
ーー自由になっていく、というのはどんな感覚?
例えば、歌の中でいろんなことが試せるところかな? 声色だったりニュアンスだったり。今日はこの歌とこの歌で間をあけてみようとか。弾き語りだからできることなんですけど、そういう遊びも出てきたり。
ーー1月16日(火)の神戸・太陽と虎でのライブを観させていただいたのですが、このツアーはより里菜さんの歌声の喜怒哀楽が伝わってくるなと感じました。その辺りの声色や感情の込め方は、その日その日の温度によって違ってくるのですね。
そうだと思います。本当に、日によって変わります。
ーーアルバムの楽曲が届いている感覚もありますか?
そうですね。未だにバンドじゃなくて弾き語りのライブだから、お客さんがわかりやすく「わー!」と盛り上がるわけではないので、たまに「この歌を聴いてどう思ってるのかな」と心配になることもあるんですけど、本当に真剣に聴いてくださっているなと感じます。終わった後に、毎回物販にも立って話をするので、実際に話しをさせていただくと届いてるなと感じたり。
ーー「会える」というライブの醍醐味は、今回も里菜さんの中ではとても大事な時間に?
とっても大事な大事な時間です。 改めて、ひとりひとりの大きさを実感するようになりました。今まではライブをやるからにはソールドしなきゃと思っていたんです。だけど、なんなら今回のツアーでは場所によってはガラガラな時もあるんですけど、そういった場所でも、わざわざ観に行きたいと思ってくれる人がいて、みんな目を輝かせてすごく楽しそうに聴いてくださっているんです。そういう姿を見ると、しっかりひとりひとりに届けなきゃなという想いが以前より増した思います。
ーーそれはライブを観ている私たちもめちゃくちゃ感じています。本当に1対1で音楽が届いているなと感じるし、目を見て歌ってくれているような感覚に私もなりました。今回も全国各地を回ろうと思ったのは、やっぱり前回のツアー(『片平里菜 感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022‐2023』)を経験したことが大きかったですか?
大きかったですね。前回はまだやったことがなかった段階なので、「やってみよう!」という挑戦だったんですけど、実際にやってみたことで私の性に合うなと思ったし。なにより旅が楽しかったので。それから、ツアーで仲良くなった全国各地の人たちにまた会いたいなという想いがあって、今回もやってみようと。
FM802 DJ 内田絢子
ーー前回のインタビュー(https://spice.eplus.jp/articles/320600)で、土地土地を回って再びライブで訪れた際に、その町の方々がライブハウスを守ってくれていて、そこに集まってくる人たちがいろんな夢を持ったりと、自分が撒いた種が育っていく様子を感じられるのが楽しみだとおっしゃっていて。
私が成長したとか言うのもおこがましいことなんですけど……場所によって、すごいパワーアップしている歌い手さんと再会できたり、歌はもちろん人として「街を盛り上げたい」「地元の弾き語りシーンや音楽シーンをもっと引っ張っていきたい」という意志が強くなってる子たちもいて、たくましいなと思ったり。あと、新しい世代の人たちも増えてきたなと思います。コロナ禍中はきっとネットで配信したり、ライブハウスに行けなくて動画を見ていたような子たちがライブに出向くようになったりしていて、 新しい風も感じますね。
ーーそれは自分自身でその土地土地に足を運ぶからこそ感じられる感覚でもありますよね。 今回のツアーは、その土地ゆかりのゲストの方をお迎えして開催されていますよね。
基本的には、ライブハウスの方に「地元で頑張っている方をブッキングしてください」とお願いしています。場所によっては、私がこの人と一緒にやりたい! とお願いすることもあります。
ーーそこでも新しい出会いがあり、その日その日でライブの空気も違ってきたり。
全然違いますね。バンドと一緒でめちゃくちゃ賑やかな日もあったり、シンガーソングライターだけの日で集中して聴いている日もあったりいたり。だから私も緊張していて、楽屋では喋らない日もあって(笑)。全部終わって打ち上げでようやく打ち解ける、みたいなパターンも。
ーー神戸でのライブで里菜さんが、MCで「歌を歌うと元気になる」とおっしゃっていましたよね。みんなはきっと元気をもらっているつもりだけれど、実は里菜さん自身がすごく元気をもらっていると。それは旅をしながら日々感じていますか?
感じてます。自分が元気になるためにやってるんじゃないかなっていうくらい、元気にさせてもらってます。 歌うということは人に会う、届けることだから。人に会うと元気になるし、歌うことによって自分の心も体も生き生きするんですよね。
「歌いたい歌を、今、伝えたい気持ちで歌えている」
片平里菜
ーー10周年という節目もあって、歌うということに対する気持ちの変化もありましたか? 「どんどんシンプルになってきている」ということも、 以前お話しされていた瞬間もあったなと思ったり。身軽になってきていたり。
それはあるかもしれないですね。前回のツアーもそうですが、歌いながら、旅しながら、自分が今後どうしていきたいのかだったり、「これはしたい」「これはしたくない」というのを体験しながらちょっとずつ分かってきた気がしますね。
ーーやりたいことが、段々とクリアに見えてきた?
このツアーのように、みんなが住んでいる町に行って、直接歌を届けることが私には性に合ってると分かって、今はその気持ちがさらに強くなってきていますね。まだまだおもしろいところがあるんじゃないかなとか。
ーー自分の街に大好きなアーティストが来てくれるのって、ファンとしてはすごく嬉しいです。その場所に行くことで、歌いたいメッセージが湧き上がってきて、日々のセットリストを決めていらっしゃるんだろうなというのもすごく伝わってきました。
会場についてから今日どうしようかなと考えてるので、まさに毎回ちょっとずつ違いますね。直前すぎて、たまに怒られるんですけど(笑)。大枠の流れはアルバムの世界観があるので、あんまりぐちゃっとはできないんですけど、大枠の流れの中でマイナーチェンジしたり、この場所ではこの曲を歌いたいなと思ってカバー曲を入れたり。神戸のタイトラ(太陽と虎)では、「満月の夕」(ソウル・フラワー・ユニオン)を歌ったり。いいコントラストになったらと、昔の曲も少しだけですけどやってみたりしています。やっぱり昔のあの曲が好きって思い出を持ってくださってる方も多いと思うので、完全に最新だけじゃない方がいいなと思って。
片平里菜
ーーツアーを回りながら、アルバムの曲が作った時に比べて成長していたり、感じることも変化してくるのかなと思ったのですがいかがですか?
作った時は「これを世に出したらタブーかもしれない」とか「こういう歌を歌ったら誰かが傷つくかもしれない」とか、そういう考えを全く関係なくまずは出してみたんですね。それを先輩たちが「いいじゃんいいじゃん、やろうよ」と背中を押してくれてアルバムが完成して、ツアーを回ってるうちに、今度は曲たちが私の背中を押してくれてるなと思う時もありました。というのも、今年は年明けから大きい地震があって……。そういう時に日々の幸せな気持ちを歌うポップな曲も非日常で大切だとは思うんですけど、今回のアルバムは命や社会に対する想いを形にしてたので、今の自分の気持ちとアルバムがどんどんフィットしているところがあるんです。それは「予兆」のリリースのタイミングもそうだったんですけど、今も気持ちが一致していることにすごい救われています。歌いたい歌を、今、伝えたい気持ちで歌えているのが良かったなと思いますね。
ーーそれはきっと、聴いているリスナーの方々もそうなんじゃないかなと思うところもすごくあって。里菜さんの、ライブを観た時に今の私たちのうまく表現できない気持ちにフィットしたり、大きな愛で守ってくれてるような気持ちになったりするので。このアルバムは、里菜さんの喜怒哀楽をはっきりとぶつけてきてくれるけど、それが逆に「ありがとう!」と思う。聴いている私たちは、ストレートに言ってくれるから救われるところがすごくあるなって。ちなみに、この旅の途中でまた曲を作りたいなという気持ちも芽生えましたか?
そうですね。今までみたいな曲の作り方もしていきたいし、この10周年イヤーを締めくくって、 その後はもっともっと自由にやっていいのかなという思いもあります。今までしたことのないことだったり、なんでも思いついたらやってみたいなと。例えばバンドをやってみるでもいいし、詩集を読んでポエトリーをやってみるのもいいだろうし、ライブペイントをする方となにか一緒にやってみるのもいいし。もっと自由にやりたいなと思いました。
ーーどれもまだ見たことのない片平里菜と音楽の世界!
今はシンガーソングライターとしての10年を、いかにかっこよく締めくくるかに向かっているんですけど、その後はいろいろやってみたいなと、ふんわりと考えていたりします。
「あの時の血の通った、心の通った、人との繋がりを思い起こせたら」

片平里菜

ーーアルバムの中でも「ロックバンドがやってきた」は、私もライブで聴くのをめちゃくちゃ楽しみにしていた1曲です。内に秘めたパワーが炸裂している感じが素晴らしい楽曲ですが、この曲はライブで届けていく中でより大切な1曲になっていってるんじゃないかなと感じました。
この曲はライブハウスだったり、みんなの人生を応援したい気持ちで歌いたいので、絶対にMCを添えてから歌うようにしています。歌っていると、サビの半分くらいでBRAHMANが後ろにいるような気持ちになりますね(笑)。この曲は4〜5年前からあった曲ではあったんですけど、なぜかこのタイミングになって光り出して。この数年でコロナ禍があったりもして、本当の人との繋がりとか結びつきが、画面だけの世界(オンライン)だと、どんどん希薄になっていってしまうように感じていたこともあると思います。音楽業界もライブハウスも大変だった中で、もう一度あの時の血の通った、心の通った、人との繋がりを思い起こせたらなという気持ちが、今こそ歌いたいなと。それでアルバムに収録してツアーを回り歌っていくにつれて、すごく浸透してきているなと感じます。
「ロックバンドがやってきた」MV(3月6日18時00分解禁)
ーーこの曲は背中を押すというより、里菜さんを引っ張っていってくれるようなたくましさがあるので、 もっともっとたくさんの人に届けてほしいなと個人的にも思っております。この曲はMVが公開となりましたね。写真家の石井麻木さんの撮影された写真が使われていますが、どういった経緯で?
まず、MVにしようと思ってはみたものの、自分が出演するのは違うなあと思ったんですね。それはやっぱり、この曲で歌っている私にとっての「ロックバンド」にフォーカスしたい思いが強くあったので。 それで写真家の石井麻木さんが、東日本の震災直後から被災地の風景やロックバンドのライブの様子、彼らが支援活動している様子を撮って記録しているので、その写真をお借りしてMVを作りたいなとお話をさせていただきました。BRAHMANだったり細美武士さん、東北ライブハウス大作戦に携わる人たちだったり、震災が起こってから真っ先に動いてくれた方のお写真をメインに使わせてもらっています。こういう話をすればするほど、実際にすぐに被災地に来れなかったみんなも東北のことを思っていてくれたし、直後でなくてもそれぞれのタイミングでいっぱい来てくださった方がたくさんいるので本当は写真も選びきれなくて……。なので、かなり心苦しかったんですけど、厳選しながら使わせていただきました。
ーーそれだけこの曲のMVを作ろうと思った時に、里菜さんの中ですごいたくさんの方々の顔が浮かんできたっていうことですよね。
浮かびました。麻木さんに提案して、何千、何万枚かの中からピックしてくださって、その選んでもらった写真を見ながらめちゃくちゃ蘇ってきました。「この人も来てくれた……」「あの時のあの子!」みたいな。
ーー音楽が人と人とを繋げてくれて、心を元気にしてくれてたその気持ちが、楽曲からもMVからもまた違う視点で届けられていてすごく素敵だなと思います。石井麻木さんは里菜さんのお写真もたくさん撮っていらっしゃいますけど、いつもすっごいナチュラルな里菜さんの表情を収められますよね。
確かに! 麻木さんの写真はなんだかまっすぐですよね。なにより人や物、景色に対してのリスペクトが伝わってくる。本当に好きで撮っているんだろうなって。だからファインダー越しに、カメラの内側で「可愛い!」とか「カッコ良い!」「最高!」と言ってる麻木さんの言葉が漏れているのが聞こえるぐらい、気持ちが写真にこもっているところが大好きです。
片平里菜
ーーそして今回のツアーは、4月20日(土)日比谷野外音楽堂でファイナルを迎えます。この場所は、里菜さんにとってすごく特別な場所なんですよね。
『閃光ライオット 2011』のステージで初めて立たせてもらって。当時は19歳で音楽活動を始めて間もない頃で、自分の歌をたくさんの人に届けられる体験が初めてだったし、日比谷野音という錚々たる方々が伝説を残してきた場所で歌えた感動があるので、とても思い入れが強いステージになりました。その時は私の中ではあんまりうまく歌えなかったみたいで、ステージを降りてから袖でずっと泣きながらインタビューを受けて「またステージに立てるように頑張ります」と応えたのを覚えています。それからありがたいことにメジャーデビューもさせてもらっていろんな機会にも恵まれていたんですけども、「野音にまたいつか立ちたい」と思い続けながらもなかなか実現できなくて。それが今回のこの10周年イヤーの締めくくりでうことになったので、本当に運とタイミングがよかったなと。それも日比谷野音がちょうど100周年を迎えて、老朽化によって改修工事をしなきゃいけなくなるので、今の野音でできるのは私にとってきっと最後。なのでご褒美のようなタイミングの野音だなと思います。
ーーいろんな思いがたくさん重なって遂に実現する、大きな目標であり夢のステージ。先輩方も駆けつけてくださるという!
アルバム制作に携わってくださったOAUとおおはた雄一さんにセッションゲストとして参加いただきます。オープニングアクトでは、磐城じゃんがら遊劇隊のみなさんが、福島県・いわき市を中心に400年以上続く郷土芸能・いわきじゃんから念仏踊りを舞ってくださったり!
ーーこの日だけのオンリーワンな空気になりそうですね!
じゃんがらさんは地元である私のアイデンティティの部分を彩ってもらいたいなと。OAUとおおはたさんは、アルバム制作時からそうでしたが、アコースティックという共通点はあっても、真逆の立ち位置にあると思っていて。だけど私にとっては、OAUみたいに「みんなで盛り上げるぞ!」と鼓舞してくれるアグレッシブな力も大切だし、おおはたさんのリラックスした中で生まれる穏やかさや寛容さのようなものも大切な要素なんです。なのでこの2組の振り幅の中で、私自身を表現できたらなという気持ちで先輩に力をお借りします。
ーーOAUとの「ロックバンドがやってきた」はまさに鼓舞されて里菜さんがどんどん熱を帯びていく感じだったり、「風の吹くまま」ではおおはたさんのギターに委ねるような里菜さんの歌声が聴けたり……この声色の違いもアルバムでじっくり聴き比べてみて、日比谷野音のライブでどんなふうに表現されるのか、ぜひみなさんと見届けたいなと思います!
ありがとうございます。ツアーで51か所回って、しっかりと力をつけてステージに立てるようにがんばります!
片平里菜、内田絢子
取材=内田絢子 文=SPICE編集部(大西健斗) 撮影=ハヤシマコ

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