「素敵な煙の巻かれ方をした」[Alex
andros]川上洋平、アカデミー賞で5部
門にノミネートされている法廷スリラ
ー映画『落下の解剖学』を語る【映画
連載:ポップコーン、バター多めで P
ART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、カンヌのパルムドールを受賞し、アカデミー賞でも作品賞をはじめ5部門にノミネートされている『落下の解剖学』。転落死した男の妻に殺人容疑がかけられたところから多くの疑念が噴出する法廷スリラー映画を語ります。
『落下の解剖学』
良かった! でも久しぶりにラストで「えー、ここで終わるの!」って思う映画に出会いました。
──確かに。
最後もやもやする映画って別にたくさんあるじゃないですか。これが短めの映画だったら、途中で「もやもやしたまま終わるのかな」って思うんだけど、割としっかり5時間半あるのではっきりオチを付けるのかと思ったら、ふわ……っという感じで。
──しっかり尺のある映画ですよね。
裁判のシーンが長く感じて。オンライン試写で観たんですが、深夜だったこともあり寝落ちしてしまって、翌日完走しました(笑)。
──なるほど(笑)。
曖昧の美学を突き詰めたような映画ですよね。後から思い返すと素敵な煙の巻かれ方をしたなって。
──そうですね。あらすじとしては、雪山の山荘でサミュエルという男性が転落死して、検死の結果、事故か第三者の殴打による頭部の外傷だと報告され、のちにサミュエルの妻のサンドラに殺害容疑がかけられると。
前回のこの連載で取り上げた『PERFECT DAYS』とはまた違うモヤモヤがありますよね。これは考察すべからずの映画なのか、それとも「どうぞ考察してください」の映画なのか。裁判になって、奥さんが殺した可能性が高い雰囲気がありながらも、「あれ、やっぱり無理じゃない?」みたいな雰囲気が出てきて、「奥さんの弁護士の言ってることが正しいのかな」って思いつつ……。
──まさに。
『落下の解剖学』より
■主演女優賞を取ってもおかしくないくらいの演技
途中、唯一現場に居合わせた視覚障害のある11歳の息子が容疑をかけられたお母さんのことを守ろうとしているような証言をする。でもそこに矛盾が生じて。「ということは、お母さんの罪を隠そうとしている息子もグルなのかな?」って思ったりしたけど、またその疑念も覆されて。「この子も知らないんだ?」って思って「単に母親だから守ろうとしてたのかな」って思ったり。だから結局真実を知ってるのはお母さんだけなのかな。
──そうですよね。
お母さんの含みのある演技も不気味でしたよね。昔、『真実の行方』っていう法廷ものの映画があって、エドワード・ノートン演じる19歳の容疑者は多重人格者なんですが、「このお母さんもそうなのかな」って思った。冒頭で作家としてインタビューを受けていた時の雰囲気と終盤のどこか笑い出しそうな雰囲気が全然違ったから、エドワード・ノートン系かと思いました(笑)。
──(笑)母であり妻であるベストセラー作家、サンドラを演じたザンドラ・ヒュラーはアカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされています。
主演女優賞を取ってもおかしくないくらいの演技ですよね。ザンドラ・ヒュラーさんはドイツ人の俳優さんですが、サンドラの設定もドイツ出身で、夫の故郷であるフランスの雪山にある山荘で暮らしてて。同じヨーロッパでもフランスとドイツではいろんな違うがあるってことも描かれてましたよね。
『落下の解剖学』より
■旦那の方が恨んでる感じがあった
──そうですね。そして、妻はベストセラー作家で夫は教師をやりながら作家を目指しているという格差やら、息子が視覚障害を患った事故の原因のなすりつけ合いやら、浮気やら、どんどんいろんな問題が噴出していきます。
序盤から「何の問題もない綺麗な夫婦ではないんだろうな」とは思いましたよね。ただ、サンドラの方は夫に対してめちゃくちゃ恨みがあったり、嫌っていた感じはしないんだよな。殺す動機がそこまでないっていうか。
──確かに。許容できている感じはありましたよね。
そう。旦那の方が恨んでる感じがありましたよね。サンドラは仕事で成功しているし、大きな不満はない。セックスレスではあったけど、女性との浮気で解消はしていて。それに対して文句を言われたら「うるさいな」って思うことはあったかもしれない。それで勢いあまって殺しちゃったとか。
──サンドラは実体験を小説に盛り込んでいるっていうのも、ひとつの要素ですよね。
そうですよね。旦那はサンドラを困らせようとして自死したのかもしれない。
──自作自演もあり得なくはないですよね。
そうですよね。いやあ、引き込まれましたね。犬の演技なのかCGなのかわからないシーンもすごかったし。
──すごくロジカルに作られてる感じはしましたよね。
『落下の解剖学』より
■いろいろとネタがちらばってる
序盤で50centの「P.I.M.P.」のインストバージョンが使われてましたけど、あの曲は女性蔑視の曲で、妻が女性と浮気していることを皮肉ってるんだろうなって思いました。
──確かに。
だから、いろいろとネタがちらばってるんですよね。最初は息子が怪しいなって思ったんです。まああれは誰でも怪しいと思うと思うけど(笑)。犬にアスピリンを飲ませて、「どうなるか知っておきたかったんだ」って怖いこと言ってて、「本当に? 言い訳じゃない?」って思った。実は息子が二重人格でエドワード・ノートン系だったのかもしれないし。
──それもあり得なくもないですよね。結局どういう結論なのか気になりますね。
募集しましょう!(笑)。この映画は自分の中で結論が出てないんで、「我こそは」と思う人は俺が突っ込めないくらいの完璧な考察で唸らせてほしいです。
取材・文=小松香里
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています! 

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着