ニノミヤユイインタビュー“脇役”を
コンセプトにしたミニアルバム『本壊
』とは?

2023年8月2日(水)にニノミヤユイの約2年ぶりとなる新作『本壊』がリリースされる。コンセプトミニアルバムとして「脇役」にスポットライトをあてた本作では、明確なテーマを持ちつつも、収録楽曲は実に多様な方向性を示し、まるでオムニバス作品のような仕上がりになっている。果たして彼女は『本壊』にいかなる想いを込めたのか。2020年アルバム『哀情解離』リリース依頼、約3年ぶりのインタビュー。その間に彼女のアーティストとしてのモチベーションはいかに変化したのかを収録曲にからめつつ訊いた。

■“きちんと”した優等生な自分を強めていきたい
――前回のインタビューから約3年が経ちましたが、当時のインタビューでは「不良になりたい」という話題が度々出ていました。
そんなこと言ってたんですね……(笑)。当時は“きちんと”しすぎている自分を抜け出したかったんですよね。それを言葉にしたのが「不良になりたい」だったんじゃないかと思います。
――現在は「不良になりたい」とは思っていない?
不良に憧れる面もありますけど、あまり固執はしていないですね。今は自分の中の優等生なところを強めていきたいという気持ちの方が強いです。自分で意志を持って、日々“きちんと”した行動をしていきたいと思っています。
――大きな意識の変化ですね。何かきっかけがあったのでしょうか?
コロナが収束しつつあり、やりたいことができるようになったのが大きいと思います。自分に素直に生きられるようになり、自分の“きちんと”しすぎている面は一度壊すことができた。なので今度は“きちんと”した自分を受け入れ直して、逆に強化していきたい。
――コロナ過の期間を経たことによる気持ちの変化が大きかったと。
そうですね。2020年1月にデビューして、3月から緊急事態宣言、デビュー後ほとんどの期間がコロナ禍でしたから。それをやっと抜けて活動が再開できるようになった。環境面が大きく変化したので、あわせて気持ちも変化したように思います。
――デビュー後すぐの緊急事態宣言、大きな痛手ですね……。
はい……。でも、そういった痛手を受けたからこそ得られたものもあると思っています。今後はそのマイナスの経験を糧にして前に進んでいきたいですね。この期間で私が得たものは大きいと思っていますから!
■私はメインヒロインではない、そう感じて生きてきた
――では改めてミニアルバム『本壊』を制作することになった経緯からお聞きしたいです。
長らく新曲をリリースできておらず、ファンの皆さんを待たせてしまっている、早く新しい曲を届けたい、という気持ちはずっと持っていたんです。同時に、表現したいものが私の中に溜まっているのも感じていた。そんなタイミングでスタッフの方からミニアルバムをリリースする提案をいただいたんです。それで「是非ともやらせてほしい!」とお答えしたのが始まりでした。
――こんなアルバムにしたい、という構想はあったのでしょうか?
まず最初に考えたのは、コンセプトを強く出した作品にしたいということ。そして、そのコンセプトの中で曲調に幅を持たせたいということでした。それを一つの作品としてまとめることで、アルバム全体を通してニノミヤユイの世界観を提示する、イメージ的にはオムニバスみたいなアルバムにできたらいいと考えました。
――曲調がバラエティ豊かなのは最初から狙っていたんですね。
明確に狙っていました。新曲がリリースできない期間に歌える楽曲の幅も増えたので、それは皆さんに感じてほしいとは思っていましたから。
――コンセプトが“脇役”ということですが、思いついたきっかけは?
「これまでのニノミヤユイ楽曲は“脇役”というテーマが共通している」そうスタッフの方から言われたのがきっかけでした。この“脇役”というものをテーマにしたら、いろんな角度から曲が作れると感じ、今回テーマに据えています。
――スタッフに言われるまで“脇役”について歌っている自覚はなかった?
言われてみればそうだったな、という感じでしたね。自分で自分のことを「メインヒロインではないな」という意識はずっと抱いてきましたから。スタッフの方が、私のことを本当によく見てくれているな、と嬉しくなっちゃいました(笑)。
■「Another」で描きたかったのは女の子が憧れる女の子
――アルバム全体のコンセプトが決まり、それを元にさらに各楽曲のコンセプトを決めていったのでしょうか?
そうですね。収録される曲全てのコンセプト・曲調をまず最初に決めて、そこから一つ一つの楽曲を制作していくという流れでした。
――では一曲目「Another」から。この曲もご自身でない“誰か”を主人公に据えている。
はい。この楽曲は「正統派ヒロインには勝つことが出来なかった恋する乙女」、いわば負け組ヒロインを主人公に、力強い曲に仕上げています。
――負け組ヒロインの曲ですが、力強い曲にしている。
恋が成就しなくても決して自己卑下しない、それを受け入れた上で強気に生きていく女の子の姿を描きました。イメージとしては“女の子が憧れる女の子”という感じですね。
――なるほど。負け組ヒロインでも弱いわけではないと。作詞作業はどのように進めていったのでしょうか?
曲をいただいた時点で仮の歌詞があったので、その譜割りをもとに自分なりに言葉を置き換えていきました。もとの歌詞と曲のマッチングがすごく心地よかったので、それが失われないようにということはすごく気を使いました。これまで書き溜めていた歌詞のアイディアを何度も見返し、苦戦しながらの作詞でしたね。
――歌詞のアイディアを書き溜めたものをお持ちなんですね。
そうなんですよ。誰かが言った言葉や、パッと思い浮かんだフレーズ、そういうのをメモして作詞の時に使えるようにしているんです。例えば「優しいってそれ褒め言葉なの?」なんかは随分前からメモしてあったフレーズをそのまま歌詞にしています。
――ストックしていた言葉が満を持して登場した。
そうですね。せっかくストックしてあるフレーズでも、前後の言葉の連なりで伝えたい意味を帯びなくなってしまうこともある。やはり使用する瞬間は選ぶんですよ。それが上手くハマる瞬間がやっときたという感じでした。
――続いての「運命論」もご自身で作詞を担当していますね。
こちらも曲をいただいた時点で譜割りは決まっていて、言葉を置き換える形で作詞をしていきました。この曲は「Another」とは違ってスムーズに作詞が進みましたね(笑)。
――コンセプトや曲調的に書きやすいというところもあった?
それはあるかもしれません。コンセプトが「日の目を見ないヒーロー」で、曲調もロックテイスト。私が普段聴いている音楽に近いものになっていますから。
――ニノミヤさん自身、ロックを聴くことが多いんですか。
そうなんですよ。特に邦ロックが大好きで、中でも自分達の弱さや欠点を糧に前進していくメッセージが込められた曲にすごく惹かれるんです。まさに『本壊』のコンセプトまんまって感じですよね(笑)。
――確かにそうですね。具体的に好きなバンドを教えてもらってもいいですか?
THE ORAL CIGARETTESさんがとにかく大好きで、あとMY FIRST STORYさん、キュウソネコカミさんもよく聴きますね。自分の弱さを糧に未来を切り開く、そういう姿勢を見ていてすごくかっこいいと感じています。
■「主役のあの娘は友達」で一番気をつけたのはバランス感
――3曲目には「主役のあの娘は友達」が続きます。
キラキラした、今までの私だったらやらない曲調になっています。オムニバス的なアルバムであれば、あえてこういった可愛い系の曲に挑戦するのもありかと思いまして。
――確かに、これまでのニノミヤさん楽曲にはない曲調ですね。
この曲はとにかくバランス感が難しかったです。あまり可愛い方に振り切りすぎちゃうとニノミヤユイの世界観は崩れてしまうじゃないですか。それは絶対に避けたくて……。この針の穴を通す曲を作れるのは青谷さんしかいない、そう思って歌詞を含めて制作をお願いさせてもらったんです。
――打ち合わせもかなり綿密に行う必要があったのでは?
オファーの段階からコンセプトもしっかりお伝えし、歌詞のメモもお渡しして作ってもらっています。完成した曲を聴いた時は流石だと思いました。このキャッチーだけど闇も感じさせるサウンド、絶対に他の方には作れない。お願いして本当に良かったと思いました。
――ここに「picture frame」が続きます。こちらの作詞作曲のイワサキメイさんは初めてお目にかかる方でした。
そうだと思います、この方、この楽曲が初提供曲なんですよ。
――そうなんですね! お願いした経緯を教えてください。
この曲はコンペで選ばせて頂いたんですが、私は作曲者の方を知らないまま、純粋に曲だけを聴いて「これだ!」と思って選出させていただきました。後から、同世代の方が作っていると聴いて驚きました。その若さでこの可愛さとダークさのいい塩梅を出せる、なんてすごい才能なんだろう、そう思いましたね。
――作詞もイワサキメイさんが担当しています。こちらも含めての選出だったのですか?
いえ、あくまで曲のコンペで、歌詞は仮で入れていただいたんです。ただ、その仮の歌詞があまりに完成度が高く、曲ともすごくマッチしていて。これはもう作詞もお願いした方がいいと思ったんです。それで擦り合わせをした上で、改めて書き下ろしてもらったのがこの歌詞なんです。
――擦り合わせではどのようなお話をしたのでしょうか?
もともとゴシック調の曲がやりたいというところから生まれた楽曲なので、歌詞も昔ながらの、洋館が出てくるようなミステリー小説風に仕上げたかった。なのでそういった小説のお話なんかをして制作をお願いしました。
■リード曲では作曲も担当、その制作工程は?
――そしてラストナンバーの「ヒロイン」は、コンセプトが「エピローグ」ということですが、こちらも最初から決まっていたんですか?
はい。オムニバスのようなアルバムにするのであれば、全体を総括する曲は絶対に必要。そう考えて最初からラストに「エピローグ」をテーマにした曲を収録することは考えていました。そうすることで次回に向けて物語が続いていくアルバムが作れると考えていたんです。
――作詞の仕方にも違いがあったのでは?
「ヒロイン」以外は歌われているのは私じゃない誰かなんですよ。対して「ヒロイン」は私自身の気持ちをストレートにぶつけている、そこが1番の違いだと思います。
――「ヒロイン」はご自身のことを書いた曲なんですね。
そうなんですよ。自分のことを歌詞に込め、作曲も自分で担当しました。自分のやりたいことを詰め込んだ曲になっています。
――ラストナンバー、今回のリード曲を自身で作曲することになった時のお気持ちを教えてください。
荷が重かったですね。久々にリリースするミニアルバムのリード曲、当然ですが最高のものにしたいじゃないですか。その作曲を自分が担う、うまくできるかの不安が大きかったです……。それでもリード曲は自分の作りたいものを100%詰め込みたい、そう考えて挑戦させていただくことを決めました。
――作曲はどのように進められたのですか?
私自身楽器が全然できないんですよ。なので頭の中で作ったメロディを編曲の渡辺拓也さんにお伝えして曲として仕上げてもらう形でした。それとあわせて歌詞も作っていき、曲に乗せては、アドバイスを頂いて微調整していく。全作業が同時進行って感じでしたね(苦笑)。
――制作手順もかなり挑戦的だったんですね。ポエトリーリーディング(詩の朗読)で始まるのもすごくニノミヤさんらしいと思いました。
これまでもポエトリーリーディングは何度かやってきていて、それが私の世界観と合うことは感じていたんです。それをあえてリード曲の頭にもってきて、言葉をストレートに聴く人の届けられるようにした。そうすることで曲全体にインパクトも出ると思ったんです。
――収録されている5曲について伺いましたが、改めて多様な楽曲が収録されたアルバムだと感じました。
そういっていただけると嬉しいです! 登場するキャラクターも「ヒロイン」以外は私じゃない誰か、それに合わせてボーカルにも演技の要素を取り入れて歌っているんです。なので曲調だけじゃなく、歌い方の違いも楽しんでほしい5曲に仕上がっています。
――次回作につなげたいというお話も出ていましたが、既に構想はあるのでしょうか?
色々とやりたいことがありすぎてまだまとめきれていないですよね(笑)。ただ、一つ思い描いているのは、皆さんが“いかにもニノミヤユイ”と感じる曲を作りたいということ。それを模索するためにも、今後もいろんなクリエイターさんとタッグを組んで曲を作っていければと思っています。
――なるほど。では最後にリリースを楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
これまでの楽曲との雰囲気の違いに驚いている方もいると思います。でも、ニノミヤユイの根底にあるものは変わっていません。今まで通りのスタンスのまま、できることの幅を増やそうと必死に作ったのが本作です。是非とも私のチャレンジ、受け取ってください。
取材・文=一野大悟

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