岸田繁(くるり)と曽我部恵一が浅草
公会堂で弾き語り、リスペクト溢れる
ハーモニーを届けた『BABY Q 東京場
所』第一夜レポート

『BABY Q 東京場所』2023.7.13(TUE)東京・浅草公会堂
2021年にスタートした弾き語り形式の回遊イベント『BABY Q』。昨年12月の福岡場所に続いて、東京場所が7月12日(水)、13日(木)の2夜にわたって、東京の下町の娯楽文化の拠点として親しまれている浅草公会堂大ホールで開催された。今回は、岸田繁くるり)、曽我部恵一が出演した第一夜のレポートをお届けする。
「弾き語りで呼ばれて、弾き語りのプロの方と対バンする時は、いつもはバンドやっていますからねと言い訳をしていたんですけど、今日はそういうわけにはいかない。プロのバンドの方による弾き語りということで、私もがんばって弾き語ろうと思います」
そんなふうに岸田繁も言っていたとおり、『BABY Q 東京場所』第一夜の組み合わせは、くるりの岸田繁とサニーデイ・サービスの曽我部恵一、ともに長年バンドでフロントマンを務める2人による弾き語りの共演となった。
岸田繁(くるり)
岸田繁(くるり)
くるりファンにはお馴染みの鹿児島県の民謡「鹿児島おはら節」から歌い始めた岸田は、新旧のくるりの代表曲の数々に加え、奥田民生、伊藤大地と組んだ3ピース・バンド、サンフジンズの「ふりまいて」も披露していく。演奏に没入するように無骨に声を張り上げ、ピッキングに力を込めるその姿は、岸田曰く「勝手に師匠と呼んでいる」曽我部の露払いを務めるという意識もあったのか、それともそれが彼の弾き語りの作法なのか、いずれにせよストイックという言葉がふさわしいものだった。
岸田繁(くるり)
どこか民謡調に聞こえた「ブレーメン BREMEN」では、コードをかき鳴らす熱演に観客が大きな拍手を贈り、バラードの「デルタ」は徐々に歌声に熱を込めていきながら、最後は奔放なスキャットで締めくくる。2023年3月に、くるりがリリースした目下の最新作「愛の太陽EP」から選んだ「Smile」はポップ・フィーリングを感じさせるという意味で、ちょっとロックンロール調を思わせた「ふりまいて」とともにこの日のセットリストのアクセントに。

岸田繁(くるり)

以前、東京に暮らしていた当時、明大前に住んでいた曽我部に薦められ、明大前の隣駅の東松原にボロアパートを借りたとか。そして曽我部にCD棚を組み立てるのを手伝ってもらったと、曲間に語られたこれらのエピソードがこの日の共演をより貴重なものにしたことは言うまでもないだろう。
「CD棚を組み立ててもらっていた頃から、今の今まで曽我部さんの美声に憧れています。ロックをやっている人たちはがなって歌う人が多くて、僕もいまだにがなって歌っているんですけど、最後ぐらいはしっとりと歌いたいと思います」
岸田繁(くるり)
そう語った岸田がこの日、最後の曲に選んだのは「言葉はさんかく こころは四角」。ギターのアルペジオが際立たせる曲が持つノスタルジックな味わいとともに静かに、しかし、しっかりと言葉を重ねる岸田の歌声を、観客がじっと聴きいる中、ゆるやかに終演に向かう時間の流れがとても心地よかった。
曽我部恵一

曽我部恵一

「岸田君の師匠の曽我部恵一です。いや、そんなことはない(笑)。年齢もそんなに違わない。でも、CD棚を組み立てたのはホントです(笑)」
自分を師匠と呼ぶ岸田の思いを鷹揚に受け止めながら、曽我部はサニーデイ・サービスが1995年にリリースした「恋に落ちたら」から、岸田が憧れつづけているという伸びやかな美しい歌声とともにサニーデイ・サービス、ソロ、曽我部恵一BANDのレパートリーを織りまぜ披露していった。
曽我部恵一
積極的に客席に語り掛け、1曲1曲、曲にまつわるエピソードも交えて観客を楽しませる曽我部の姿を見ながら、アコースティック・ギターの弾き語りという極めてシンプルな表現のスタイルに如実に表れた個性の違いがおもしろかった。
ラテン歌謡なんて言いたい魅力もある「さよなら!街の恋人たち」のエネルギッシュなパフォーマンスに客席から歓声が上がると、「テレフォン・ラブ」ではコロナ禍の間、封印していたというコール&レスポンスを復活させ、ソウルフルなポップ・ソングを観客と一緒に歌った。
曽我部恵一
そして、娘が生まれた時の気持ちを曲にしたという「大人になんかならないで」を爪弾きでしっとりと歌って、客席の興奮をクールダウンーーと思わせ、「重大な病の歌をやります。でも、コロナじゃない。不治の病。みんなが罹ってるかも!」と客席を煽ってから披露したのが「LOVE-SICK」。音源はレゲエ・ナンバーだが、弾き語りは熱いソウル・ナンバーに! <EVERYTHING’ S GONNA BE ALRIGHT…>とリフレインする曽我部のソウルフルなシャウトが3階席まであるホールに響き渡る。
曽我部恵一
本来なら、ここで大団円の予定だったようだ。しかし、残り5分あるということで、「最後にもう1曲」と曽我部はサニーデイ・サービスが2022年11月にリリースしたアルバム『DOKI DOKI』からノスタルジックなメロディを持つ「風船讃歌」を披露したのだった。
拍手喝采がやがてアンコールを求める手拍子に変わる。そのアンコールでは、曽我部と岸田がお互いのレパートリーから1曲ずつ選んで、ともに演奏するというなかなか見られない共演が実現し、観客を歓ばせた。
曽我部が選んだのは、くるりの「七月の夜」。「大好きな曲。岸田君の歌は、絵が見えるところがすごいと思う。コピーしたらめちゃめちゃ難しくて、やってみたいと言ったことを後悔した(笑)」(曽我部)
一方、岸田が選んだのは、サニーデイ・サービスの「白い恋人」。「京都の河原町のショッピングモールでたまたまかかっていたのを聴いて、めっちゃいい曲だと思った。勝手に斉藤和義さんの曲だと思って、片っ端からCDを聴いたけど、入ってなくて、記憶していたフレーズを友人に歌って聴かせたら、サニーデイ・サービスだよって。くるりでもカバーさせてもらってます」(岸田)
『BABY Q 東京場所』第一夜の最後を飾ったのは、ロック・バンドのフロントマン2人が歌声のみならず、リスペクトしあう気持ちも重ねたハーモニーと、照れ臭さが見え隠れしながらも、盟友同士という言葉を連想させるハグだった。
取材・文=山口智男 写真=BABY Q 提供

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