【和楽器バンド インタビュー】
『I vs I』はいわゆる
“抜いている楽曲”というのがない
和楽器バンドはバランス感覚が
めちゃくちゃ大事だと思っている
新曲の中では、アンプラグドに近い形態で澄んだ世界観を創出している「時の方舟」も聴き逃せません。
この曲は今作の中でもっとも柔らかいものを作ろうと思ったんです。スローなものということでは「そして、まほろば」もありますが、あの曲は展開がいろいろあって、やっぱりロックバラードという枠になると思うんですよ。それに対して最小の編成でオーガニックな雰囲気で成立させるというのもひとつのアプローチなので、思い切ってドラム、ベース、和太鼓は入れないことにしました。上モノだけというのもそれはそれでいいと思うけど、作品へ没入感を高めたいと思った時に僕はアンビエントを使うのが好きなので、いろんなアンビの音を重ねていきました。
音数の少ない曲でいながら、細やかな技を効かせているんですね。「時の方舟」は沖縄感があることも印象的です。
そこに関してはわりとコテコテのものにしようと思いましたが、自然と出てきた部分が大きいです。
“沖縄です!”ではなくて、ほのかに沖縄が香るさじ加減が絶妙で、その辺りからもセンスの良さを感じます。
和楽器バンドはバランス感覚がめちゃくちゃ大事だと思っているんです。“和”というものの混ぜ方のバランスというところで一歩間違えるとすごくダサいものになってしまうしちょっと敷居の高いものになってしまう。みなさんが普通に聴くロックやポップスとしてとらえていただける範囲で、なるべく我々が思うカッコ良いかたちというところに落とし込むようにしています。そういうバランス感覚が「時の方舟」でも自然と活かされたんじゃないかという気がしますね。あと、「時の方舟」は言葉選びもポイントで。なるべく美しい、きれいな日本語を使おうと思って歌詞を書きました。
言葉の美しさに加えて、死生観がテーマになっていることも注目です。
今回は“戦い”がコンセプトのアルバムなので、この曲も歌詞もそこに寄り添ったものになっています。戦の中では大勢の人が亡くなりますよね。それを俯瞰で描くという。日本語の美しい表現というのは俯瞰の表現が多い気がしているので、そういう手法をとりました。それに、この曲の2番の辺りの死生観とかは本当に僕が普段思っていることなんです。
“亡くなる命がある一方で、新たな生命が生まれる”ということが歌われていますね。
争いというのは片方が何かを得たいがために始めるわけじゃないですか。それで、お互いにボロボロに消耗し合って多くのものを失うけど、その中でも変わらずに新しく生まれてくる命とか、世代といったものがある。そうやって命は続いていくということを歌っています。
戦い合った同士も亡くなって魂に戻った瞬間に敵も味方もなくなるんだろうなと思ったりしました。前向きな死生観を綴った歌詞と沖縄が香る曲調が相まって、「時の方舟」は深く染みる一曲になっています。
ありがとうございます。この曲があることでラストの「BRAVE」にきれいに渡して、“戦いのあとに訪れる新世界”というところにうまく着地させられたんじゃないかと思います。
まったく同感です。そんな「BRAVE」は多幸感にあふれた煌びやかかつアッパーなナンバーですね。
「BRAVE」は山葵が原曲を作って、その1コーラスをもらい、そこから僕が膨らませていきました。アルバム本編11曲を走り切って最後はどういうふうに終わろうかと考えた時に、声だけの場所が欲しいと思ったんです。それで、1番のBメロはハンドクラップと歌だけにしました。
Bメロが最後はテーマになって、どんどん高揚していく流れが最高です。それに、「BRAVE」だけではありませんが、ドラムと和太鼓が一体になって“人力ブレークビート”を構築していることにも耳を惹かれました。
その辺りはこれまでバンドをやってきた中で生まれた、無言のコミュニケーションというか。アルバムを作るたびに“ドラムがこういうパターンだったら和太鼓はこういうパターンで”という候補を3つくらい考えるんです。全体としてどういうふうにフィールを作っていくかによって、その中から一番いいものをチョイスする。だから、和太鼓の黒流さんが用意してくれたものが僕が想像しているフィールと違っていて、“別のパターンでお願いします”と言うときもありますね。
ということは、この曲も“人力ブレークビートをやってやろう”ではなくて、心地良いと感じるところに持っていったら結果的にそうなったんですね?
はい。僕は基本的にアイディアありきで曲を作ったり、アレンジを考えたりすることはしないので。メロディーが呼んでいるところに持っていくようにしています。