丸尾丸一郎・浅野康之・鈴木浩文が語
る 劇団鹿殺し 2023本公演 ザ・ショ
ルターパッズ『この身ひとつで』~た
った2枚の肩パッド姿に演劇の魅力が
全部詰まっている

劇団鹿殺し 2023本公演 ザ・ショルターパッズ『この身ひとつで』(脚本:丸尾丸一郎 演出:菜月チョビ)が、2023年7月13日(木)〜18日(火)、東京・本多劇場で上演される。「ショルダーパッズ」とは、男性の衣装が2枚の肩パットのみという「シンプルな肉体と、想像力の翼のみを武器に、演者と観客、双方の世界を無限に解放することに挑戦する意欲作」とのこと(下記ちらし写真参照)。今回は、これまでも上演されてきた作品のブラッシュアップ版『鹿版 銀河鉄道の夜'23』(音楽:タテタカコ / 伊真吾 振付:伊藤今人(梅棒/ゲキバカ))と、新作『鹿版 The Wizard of OZ』(音楽:伊真吾 振付:井手茂太)の二本立てとなる。インタビューに登場してくれたのは2作の脚本を手掛けた丸尾丸一郎と劇団員・浅野康之、そして『暴戦隊ドンブラザーズ』のピンク役で注目を集め、今回初参加となる鈴木浩文。彼らが語る「ショルダーパッズだからこそできること」とは?

―― 本多劇場で、まさかの「ショルダーパッズ」公演!
丸尾丸一郎 座長である菜月チョビの提案です! 僕らが上京して路上パフォーマンスをしながら共同生活していた頃、下北沢で路上パフォーマンスをするときに本多劇場をよく見上げては「いつか必ず、ここでやれるような劇団になりたい」と目標にしてきた場所。そんな場所で、劇団がずっと大切に育ててきた「ショルダーパッズ」という演目をやる……それはどうしてもやりたかったことで。いろいろ話し合って、結論として「『鹿殺しらしいこと』をやろう」と。
浅野康之 僕は入団したのが2011年なのでもうだいぶ長いんですけど、「ショルダーパッズ」はその前から劇団として大切にされてきた演目。だからこそ今回「ショルダーパッズ」に出ることで、団員としてさらに劇団の力になりたい! という思いはありました。
―― 衣装がかなりミニマムな分、いろいろ誤魔化しのきかない演目でもありますよね?
丸尾 そうなんですよ! 女性のお客さんにも、見たい裸と見たくない裸があるんじゃないか? とか考えますよね(笑)。僕らもう、久しくお肌が水を弾かないぞ……っていう。それでも、いざ稽古が始まってみると「やっぱり楽しい演目だな」と改めて思ったんですよ。キャストが脚本や演出の中で遊びつつ、どう遊んでくれてもどこか成立している、そんな面白さがある。稽古をしつつ、オーディションしながらのキャスティングをするのが鹿殺しの芝居の作り方の特徴なんですけど、今回参加してくれている俳優の皆さんがいろんな役をやってくれているのを見ても、どれも全部面白い。
丸尾丸一郎
――鈴木さんもそんな初参加組のお一人ですが、オーディションで出演することになったと伺いました。
鈴木浩文 鹿殺しさんのイメージって、僕でも知っているような「名前の知れた劇団さん」だったんですよ。そんな人たちがこんな馬鹿馬鹿しいことを全力でやるんだと思ったら、めちゃくちゃやりたくなりまして(笑)、それでオーディションを受けました。正直、ダンスや歌に自信があるわけではないんですが、この「ショルダーパッズ」の公演に出たい! という思いが強くありまして。
丸尾 鈴木君に出演をお願いした決め手は「素直さ」。演技に変な下心がないというか、なんだか真っ白な感じがしたんですよ。だからどんな俳優になっていくか、この公演でどう変化していくかはまだまだ未知数だなとも思ったし、そんなところが魅力的に感じたのが理由です。
浅野 オーディションでは満場一致でしたよね。『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』に出演していたことは、実は僕、後から知ったんですよ。
鈴木 ……この距離でお2人に褒められると緊張しますね。オーディションのときは、その場に浅野さんをはじめ劇団員の方たちが全員いらっしゃって。オーディションを受ける人よりも、何なら見ている人のほうが多いというなかなかない状況(笑)。でも、一緒に受けた人と帰りに話していたのは「多分、すごく“いい劇団”なんだろうね」と。オーディションの空気で皆さんの演劇への真摯さと、関係性が感じられたんですよね。
鈴木浩文
――この「ショルダーパッズ」だからこそ出たい! と思われたというのが面白いですね。
丸尾 大丈夫? 5年後に経歴から消したりしない?
鈴木 大丈夫です(笑)。僕は、今の事務所に入る前に1年間フリーの時期がありまして、その頃はよく小劇場に出ていたんです。だから、今でこそ舞台は活動のメインではないのですが、「舞台が好き」という思いは強くあります。自分としては今後、映像で頑張っていこうと思ってたんですけど、でもこれに惹かれちゃったんですよ(笑)。大好きなんです、こういうのが。『ドンブラザーズ』で僕のことを知ってくださった方はびっくりするかもですが。
丸尾 でも「ショルダーパッズ」って面白いもので、観ていると観客側もだんだんとこの格好を意識しなくなるんですよね。何なら可愛く思えてきたりする。
鈴木 やってみるとすごく面白いんですよ! 自分は普段、どれだけ無意識のうちに「衣装に頼った演技をしていたか」というのがよくわかるんです。例えばなんとなくポケットに手を入れて立つ……というのもできない。あと、どんな動きでも細かく意識しないと、見えちゃいけないものが見えちゃったりする(笑)。俳優自身の「力」が試されるんです。
丸尾 一度やってみると、自分の身体の「クセ」みたいなものに気づくというのはあるかもね。あとこの格好だから、「面白いことをしなきゃ」的なことをやると本当にペラペラというか、「演劇」に見えなくなっちゃうんですよ。きちんと心を込めて、どこか自分のことを俯瞰で見るという能力が必要になる。これは喜劇の構造の根本だと思うんだけど、そういうことも実感できると思うし。あと僕の思う「いい俳優」って、それがたとえ裸体であっても「舞台に立っているだけで背景が見えてくる俳優」なんですよ。不思議なもので、俳優自身がきちんと背景を想像しているのかで観客に見えてくるものが違ってくるんですよね。だからそういう「俳優が何を考えて舞台に立っているか」も試される舞台なんだろうな、と思います。
浅野 僕、実はライブハウス公演では経験があるんですけど、劇場での「ショルダーパッズ」公演は出演したことがないんです。だからこそ今、1からチャレンジしてみようという気分で挑んでますね。
浅野康之
――稽古場ではみなさん、どんな格好でされているんですか?
丸尾 人それぞれですよ。もう「ショルダーパッズ」の格好の人も入れば、服を着た上でつけていたり。そこは個人のテンションに任せています。
浅野 稽古期間が始まったときに、一人1枚ずつ肩パッドの衣装が配られるんですよ。
鈴木 衣装合わせがありましたもんね。「衣装」合わせというか「大きさ」合わせ(笑)。
丸尾 よく稽古場で衣装が乱れてたりすると「衣装はきれいに着ろよ」って先輩から直されるもんなんですけどね。「ショルダーパッズ」の場合は「ゴムがねじれてるよ!」って、みんなで直し合うという(笑)。
――衣装もミニマムですし、皆さんの肉体がダイレクトに見えてしまいますよね。そういう意味では肉体にも負荷がかかる公演かなとも思うんですが、今のところいかがですか?
鈴木 もちろん、体作りとかきつい部分もありますけど、それは最初からわかって挑んでいることなので。明日プロテインが届くはずなので、ここから仕上げていきます!
浅野 怠惰な身体を見せてしまうと「怠惰な役者なんだな」って思われそうで、それも嫌なので……きちんとした身体を見せるのも必要な作業かなと。
丸尾 (客演の)中西智也とか、常に肉体がバッキバキなタイプなんで、そういう「身体ができている」人に方法を聞いたりね。鹿殺しでは胸筋のことを「勇気」って言うんですけど、基本的に「勇気がない」タイプが多いから(笑)。「どうやったら勇気が出せるか」を試行錯誤していくかなと。
――鈴木さんから見た、丸尾さんと浅野さんの印象は。
鈴木 ヤスさん(浅野)はオーディションの現場でもいろいろ仕切ってくださってましたし、劇団の中でもすごい位置の人なんだろうなと。
浅野 いやいや! そんなことないです。(劇団員として)長いだけです。
鈴木 でも物腰が柔らかくて、すごくいろいろ聞きやすい方なんですよ。丸尾さんは『ドンブラザーズ』の現場でも一緒にお仕事をされた方がいて、「厳しい人だよ」と、いろいろ聞いてたので戦々恐々としてるんですけど(笑)、今のところは「厳しい」より「面白い」なと。丸尾さんの演技って独特の面白さがあるんですよ。
丸尾 まあ、まだこれからだから……公演近くなったらもしかしたら鈴木君の顔つきが暗くなってるかもしれない(笑)。
――稽古で意識されていることはありますか?
丸尾 よく菜月が稽古場で言うことなんですけど、「この値段に見合うものを提供できているか」と。自分も菜月も関西の人なせいか、お金をいただいてるからには、それだけのものをきちんとお客様に返したい、そういう思いが強いんです。だから出演者たちにも「それだけのものをあなたは返せていますか」みたいなことを問いかけることが多いですね。物価も上がってるし、チケットの値段もどんどん高くなっているし、Youtubeとか無料で観られるコンテンツもたくさんある。そんな中で、これだけのチケット代を頂いたからにはきちんと笑って泣いて、持って帰るものは持って帰っていただいて、というのは大切にしたい部分なんです。
鈴木 劇団としてすごくカッコいい考えだな、と思います。しっかり稽古して、値段に見合うお芝居を届けられるように頑張りたいですね。
丸尾 この思いから、基本の稽古時間が11時開始の21時終わりになってます。 なかなか今どきないですよね、こんな現場(笑)。
鈴木 お客様にお伝えしたいのは、こんな格好してますけど、本当にいい意味で気にならなくなります! そして「団体」の力が凄いんですよ、演じているのは一人ひとりですけど、集まって組んだときのエネルギーとパワーが凄い。それはぜひ、劇場で体感して欲しいです。役者が動くときに筋肉の動きも、ダイレクトに観れますから! ぜひ肉眼で観てほしいです。
浅野 「劇場だからこそ観られること」って、よく使われる言葉ではありますけど、この「ショルダーパッズ」はまさにそれだと思うんですよ。だからこそ、生で体験していただきたいなと。
丸尾 稽古をしていてしみじみ感じるんですけど、この「ショルダーパッズ」には僕が演劇において好きなことが全部詰まっています。ロマンだったり、俳優の力強さだったり、身体性……そして、「観客の皆さんと一緒に作り上げていく」ということ。これを観たお客さんには、演劇というこんなにも制約のあるカテゴリーなのに、どうしてこんなに「無限」なんだろうかと、そう感じて欲しいなと思います。セットや衣装がなくても、俳優のイマジネーションと観客のイマジネーションが合致する地点を見つければ、みんなでその空間や物語を楽しむことができる……そのことををお伝えしたいですね。
取材・文=川口有紀   写真撮影=福岡諒祠

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