舞台「文豪とアルケミスト」第6弾主
演・陳内将インタビュー 織田作之助
役からの差し入れはもちろん……!

舞台「文豪とアルケミスト」第6弾となる新作公演が2023年2月より上演される。この世に再び転生した文豪たちが、文学作品を守るために戦う物語。感受性豊かで繊細な彼ら文豪たちの心情や関係性を脚本・なるせゆうせい、演出・吉谷晃太朗というタッグが丁寧に描く舞台作品として好評を博している。
舞台「文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲(ソナタ)」の主演・織田作之助を演じるのは、陳内将。2019年の1作目「余計者ノ挽歌(エレジー)」での出演以来、約4年ぶりとなる。ビジュアル撮影現場にて、次回作への意気込みを語ってもらった。
陳内将
大好きな先輩、目上の方々がいないのがちょっと寂しい。
ーーまず、久しぶりの「文劇」ですね。主演が織田作之助と聞いてどう思いましたか。
オダサクって、第1弾では支える側の役割を担ったキャラクターでした。真ん中にいる駄々っ子の太宰治くんをよしよししたり、自分の半生とかはあまり語らないけど、みんなのために道を開いてあげるというような役だったのに。そんなオダサクが中心!? と驚きました。前回とはストーリー上の役割もまるで違いますし、おそらくオダサクの感情のジェットコースターが用意されているということでしょう。だから隣には坂口安吾がいてくれるし、檀一雄に赤澤燈くんがキャスティングされたというところにも意味があるんだろうなって思います。
公演当時、オダサクは気のいいお兄ちゃんだから僕自身もすごく穏やかに過ごせていたのを思い出しました。人間はいつも穏やかでいることは難しく、嬉しい時も落ち込むときもあります。キャラクター的にも史実的にも、オダサクの言葉を借りるとすごく「堕落」していた人たち。彼らのダークな部分、落ちてしまう部分を表現としてはすごく突き詰めたいのですが、今回は座長なのでちゃんと切り替えて、役に没入しすぎずにいたいなとも思っています。
ーー前回ご出演されていたときの座長は太宰治役の平野良さんでしたよね。
そうなんです。大好きな先輩が座長でした! あの時は良くんにすごく甘えていましたね。多くを語る人ではないけど、何かを求めたら応えてくれるんです。「将ちゃん、これはたぶんこうした方がいいよ」って。お芝居の時はすごく頼れるのに、お酒が入ると本当に太宰くんみたいにわけがわからなくなったり、面白いことを積極的に言ったりする人。そうした僕と良くんの関係性もすごくリンクしていたので、今回いないのはすごく寂しいんですよね。でも今回はオダサクが真ん中なので責任もって、そして楽しみながら吉谷晃太朗さんが演出する「織田作之助の人生」を背負います。
今回はクボヒデくん(芥川龍之介役/久保田秀敏)や春夫先生(佐藤春夫役/小南光司)ら目上の方々がいないというのもちょっと寂しいんです。織田作之助は、目上の方にはライトな語り口調でも名前に「さん」や「先生」を付けて呼ぶところとか、ちゃんと敬っているというところが好きですね。そういう彼の品の良さを当時めちゃくちゃ意識していたことを今思い出しました。彼の内面から出てくるものを丁寧に表現しようって、お辞儀ひとつにもこだわっていましたね。
陳内将
ーー1作目「余計者ノ挽歌(エレジー)」は2019年の公演でしたが、当時の思い出を教えてください。
当時は僕が久しぶりに2.5次元の作品に復帰してからちょっと経ったくらい、の時期。2.5次元業界のやり方、思考や判断がまだまだだった頃ですね。休憩中はこういうことを話すんだとか、公演が終わるとわりとあっさりビジネス的な関係性でもあり、逆に家に帰ってもゲームしながらずっと喋れたりもする。僕が知っていた時代と違うなって実感したのを思い出します。先輩の良くんやクボヒデくんは、そうやって僕が戸惑っているのもきっと面白がっていたことでしょう。その時「今の若い俳優さんたちってこんな感じなんだ」とも思ったし、親父の小言みたいな感じで注意しちゃったこともあったかなって恥ずかしくも今思います。時代って急速に変わっていっているんだなと、いろんなところで感じてますね。
ーー無頼派のキャストさん(太宰治役/平野良さん、坂口安吾役/小坂涼太郎さん、檀一雄役/赤澤燈さん)について、陳内さんから見てどういう印象の方々でしょうか。
良くんはさっき話したので、まずは涼太郎ですね。彼は全然僕とタイプが違うし、歳も離れていますが、芸歴は彼の方が長いです。後輩だと思っていた人が歴では自分より長いと知った時ってよそよそしくなりがちですよね。でも涼太郎ってすごく不思議な魅力を持っていて、一回共演するだけでは計り知れないくらいの面白さがあると思うんです。「文劇」の後でも何度か共演があり、どの現場でも笑顔にさせてくれます。僕たちが出会ったこの作品で、また横に立ってくれるのはすごく楽しみです。高身長なのに物理的な意味での嫌な感じも全くしない人なので、安心します。
赤澤さんは言わずもがなです。なんとなく察してくれて、声もかけてくれるし、ダメなところをダメって言ってくれる人です。良いところはなかなか言ってくれないんですが(笑)。僕は末っ子なので甘えん坊で寂しがり屋でありつつ、後輩には必要以上に何かをしてあげたくなるっていう自覚はあるんです。そういうところの気持ちを踏まえた上で注意してくれるというか。まるで兄弟のように、オープンに頼れちゃいます。ちょっと恥ずかしくなるような悩みも彼にだったら言えるから、こうして一緒に出演できるのはすごく嬉しいし、出れてよかったと言ってもらえるように頑張りたいです。
陳内将
ーー今回は太宰が不在で、新キャラクターに檀一雄がいるということで無頼派の違った一面が見られるのかと期待しています。
無頼派=何にも「頼ら無い」という字を書きますね。文章の在り方は無頼派だけど、本当はなにかに頼りたかったりもするだろうし、頼りがいのある人でいようとする優しさをも持っているような人間臭さを感じる気がするから、僕はすごく好きな人たちです。この3人の中に檀くんが「最後の無頼派」という表書きを持って入ってくる。オダサク・安吾・檀の3人が持つ特性を、僕と涼太郎と赤澤さんの肉体を介して、この3人だからこそのかけひきや関係性を表現できたらすごくおしゃれだなって今は思っています。セリフだけじゃない、心の距離感やかけひきを見てもらいたいです。
ーー「文劇」をやる中で、この作品は独特だなと思うことは?
吉谷さんのトリックです。危うく出トチリそうになることがあります。自分が長く出ないシーンがあっても、舞台上でオダサクの話をしていたら後ろを通過したりする演出があるので、稽古中からあたふたしていました。もう今から注意できているので、今回は大丈夫だと思います!
「文劇」に出る前に僕が出演させていただいていた舞台を吉谷さんが観ていてくださり、その時の僕の立ち回りを「速すぎるだろ!」っておっしゃっていました。「文劇」のオープニングはキャラクターたちが順番に出てくる華やかなダンスナンバーだったんですが、稽古で僕が吉谷さんに呼ばれて行ったら「お前には躍らせない」って言われたんです。驚いて聞き返したら、「お前はこの時間をフルに使って殺陣をしろ」と。これ以降に知った話なのですが、吉谷さんが僕を取り上げてくださったとあるコラムの中で、僕の速い殺陣のことを褒めてくれていたんです。​それで合点がいきました。この時は僕の殺陣を見せたかったんだなと。ちょっとしたくすぐったさを覚えた話です。吉谷さんからのそういう信頼は本当に嬉しいですね。
陳内将
カレーと言えば差し入れも……?
ーーオダサクといえば「カレー」が有名ですよね。陳内さんの「カレー」に関係するお話があればうかがいたいです。
「文劇5」(「嘆キ人ノ廻旋(ロンド)」)の時に、カレーと卵にまつわる差し入れをしたいと考えていて、すごく悩んだんです。お弁当は食べているだろうし、余ったり邪魔になるのも申し訳ないなと。そしたらちょうど劇場近くのパン屋さんで、カレーパンの中に半熟卵が入っているのを見つけて! 両手に抱えるようにして買って持って行きました。出演していた安里(久米正雄役/安里勇哉)からも「カレーパン最高!」という連絡が来ました。本番前に食ってんじゃねーよ! って笑いましたけど(笑)。
カレーは人を笑顔にすることができると思います。稽古の休憩中とかでもカレーの匂いがしたら話題になるし、その会話でみんなが笑顔になれる。改めて本当にカレーってすごい。今回の稽古中の差し入れは絶対にカレーにします。カレーやスパイスにまつわるもの、何か考えておかなきゃ。
ーーわたしたちの媒体も“SPICE(スパイス)”ですので!
あああ、そうだ! あっはっは、そういうパスでしたか!(笑)
ーーちなみにどういうカレーがお好きですか?
辛口が好きですね。レトルトのカレーで辛さ20倍のものとかがあって、それを若いころからよく食べています。
ーーそんなに辛いとお腹下しますよね……?
おっしゃる通りで。お腹弱いんですが辛いのが好きなのはやめられないんです。食べても後悔しません!
ーー話は変わりますが、文学を扱う作品ですので「本」についてお聞きしたいです。文学や活字の本はお好きですか?
理系科目が得意だったんです。だから文学が心から好きですか? と聞かれると一回黙ってしまいます……。でも高校の国語の先生にすごく憧れていました。朝から新聞を4つくらい読んで、その中でいくつかの話を生徒にして、15、16歳の感受性でどう思うかっていうのを毎日やってらっしゃったんです。その労力たるや。その先生に怒られたときは、「大好きな先生を裏切ってしまった」とめちゃくちゃ落ち込むくらい、僕は影響を受けていました。それで国語科教諭を目指していた時期もありましたね。言葉を教えたい、この先生のようになりたい、と。
文学は、台本を読むこととも似て非なるところがありますが、その世界に没入できるというのが良いところですよね。ゲームとかはどこかに現実の自分の思考が存在してしまうものですが、本は活字が頭の上で立体映像になるから「自分」は入り込めない。その世界に没入できるのは文学の持っている大きな力のひとつだなと思いますね。

陳内将

ーー今まで触れてきた本やお話の中で好きなものや、おすすめするものをお願いします。
『おとなになれなかった弟たちに』(著者:米倉斉加年)という中学校の教科書に載っている物語です。戦時中の悲しいお話です。それを小学校の時に丸暗記して、身振りや抑揚で大勢の前でパフォーマンスするというような大会に出ました。人前で演じるというか、言葉を伝えようとするというものの第一歩がそこでしたね。強く記憶に残っているお話です。
あとは気楽に読みたいなら、木下半太さんの『悪夢のエレベーター』、『悪夢の観覧車』というシリーズがオススメ! 『フィーバー5』も面白いです。ミステリーなんですが、途中でコメディ要素が入るんです。そのバランスやギャップがめちゃくちゃおもしろくて! 演劇っぽく書いてあるので、そういう感覚でも読める。演劇好きな方にも興味を持ってもらえるんじゃないかな。
ーーいつか舞台化とかもあったらおもしろいですね。
そうなんですよ! 一度、半太さんが監督するドラマに出たことがあって、その時にもお話したんですよね。「どこかでこの作品の演出をしてください!」って。それがったらいいなぁ!
ーー次回作に向けてファンのみなさまにメッセージをお願いします。
舞台「文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲(ソナタ)」、皆様の前で再び織田作之助役として出演できることをすごく幸せに思っております。オダサク推しの方、長く待たせたなって怒らないでください。お待たせしてしまった以上に良いのものをお届けできるように努力しますし、殺陣一つひとつにしても神経を通わせて、最高な瞬間を詰め込んだ公演にしたいと思います。絶対楽しんで帰れるという安心感をもって劇場に来てください。自分にすごいハードルを課しております……! 陳内、頑張ります!
陳内将
ーーありがとうございました。
取材・文=松本裕美     撮影=山口真由子

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