笑いも怖さもマシマシ! 全国ツアー
直前の、ヨーロッパ企画『あんなに優
しかったゴーレム』プレビュー公演レ
ポート

2021年末~2022年2月に、新作『九十九龍城』全国ツアーを大好評のうちに終え、コロナによる公演活動休止状態から、完全に復活した京都の劇団「ヨーロッパ企画」。その勢いを持続せんとばかりに、わずか半年のインターバルで、次の本公演に踏み切った。『あんなに優しかったゴーレム』は、2008年の劇団10周年記念公演の上演作品。ヨーロッパ企画の原点と言える「ゆるくてナチュラルな会話で笑わせる」というスタイルに、久々に立ち返った再演にするという。そのプレビュー公演が、9月10日に滋賀県の[栗東芸術文化会館さきら]で行われた。

会場に入ると、地上と地下に二分割された舞台美術が目に入る。地上の方には、下手側にゴーレムらしき巨大な土人形がすでに鎮座しており、地下の方はどうやら人が住んでいるらしく、テーブルや冷蔵庫などの生活用品が並んでいる。しかも飾り付けや家電が絶妙にレトロかわいくて「ちょっと、住んでみたい」と言い出す人が続出しそうだ。
いつもとは少し変わった前説のアナウンスが終わった後、懐かしいけどちょっと不安も掻き立てられるような滝本晃司の音楽に続けて、舞台上にワラワラとTVクルーたちが登場。さらに神崎投手(酒井善史)が現れて、この場所での思い出を語りだした。彼のドキュメンタリー番組を撮影中というのが、一瞬でわかるオープニングだ。
しかし始まって5分も経たないうちに、神崎が舞台上の土人形に向かって「このゴーレムとキャッチボールしたのが、僕の野球人生の原点」と言い出して、撮影は中断を余儀なくされる。「ゴーレム」とは、あのファンタジーに出てくるゴーレムか? 冗談なのか? 何かのたとえなのか? と、クルーたちは困惑。気を取り直して撮影を再開しても、神崎は大真面目にゴーレムとの思い出を語るし、神崎の同級生・ツカモト(土佐和成)も、友達のようにゴーレムに挨拶をするのを見て、クルーたちはここが普通の町ではないことを察しはじめる。
ヨーロッパ企画 第41回公演『あんなに優しかったゴーレム』プレビュー公演。 [撮影]清水俊洋
最近のヨーロッパ企画は、映像とコラボレーションした前作『九十九龍城』や、とにかくネタの物量で押し通した『ギョエー! 旧校舎の77不思議』(2019年)など、変わったシステムのコメディに挑み続けていた。しかし本作は、ヨーロッパ企画の初期の作風だった「SF風味の群像会話コメディ」を久しぶりに観た気分となる、ストレートなシチュエーション・コメディだ。神崎選手やツカモトに始まって、ゴーレムを研究する博士と名乗る男(角田貴志)や、ゴーレムにしばしば助けられたという旅館の女将(西村直子)などがクルーたちと絡むたびに、おかしみはどんどん増していき、それと正比例するかのように、彼らのゴーレム観も変化していく。
ゴーレムは町の人たちの集団幻想か? それとも本当にいるのか? その揺らぎに決定打を与えるのが、ゴーレムに育てられたという少女(藤谷理子)の登場だ。ゴーレムのいるグラウンドの真下で、ゴーレムが引いてきた電気や水道、拾ってきた生活用品や金銭で暮らしているという彼女は、ゴーレムの存在を裏付けるような出来事やエピソードを次々に披露。さらに照明スタッフ(金丸慎太郎)に起こったある事件がきっかけとなり、プロデューサー(中川晴樹)以外は、完全にゴーレムを信じ切ってしまうようになる。
筆者は2008年の初演も拝見しているが、物語の流れや基本構造はほぼそのまま。しかし登場人物として、町の人を2人増やしたことで、物語の厚みが確実に増していた。前回は「ゴーレムはいるかいないか」を、ほぼ身内だけで楽しく語らうことに終始した印象だった。今回は、いわゆる「世間一般」の側にいるクルーたちに、ゴーレムの存在を信じる街の人たちの純粋さをぶつけることで、正しい……というか“正気”なのはどちら側なのか? という、ちょっと薄ら寒くなる対立構造が見えてくる。
ヨーロッパ企画 第41回公演『あんなに優しかったゴーレム』プレビュー公演。 [撮影]清水俊洋
さらに、初演でも登場したけど、格段に存在感を増した“あるファンタジー”が絡むことで、物語はさらにややこしいことに。何が実在して何が幻なのか、誰の記憶が確かなのかが、観客にもまったく見えなくなった所で、神崎やツカモトの隠された過去が明かされ、さらにゴーレムが「優しかった」と過去形であることを痛感するような事件まで起こる……。
今回は「懐かしさが角度を変えるとホラーになり、それでも笑えるサイココメディにしたい」と作・演出の上田誠が語った通り、確かに多角的なとらえ方ができる舞台にアップデートされた。町の人やTVクルーたちと一緒に、ゴーレムの存在をおもしろおかしく肯定してもいいし、かたくなにゴーレムを信じないプロデューサーの視点で、自分以外の人々が、狂気に飲み込まれていくように見える様に震えてもいい。
そしてプロデューサーとゴーレム(?)は、ある決断をして、一世一代と言える撮影が始まる。そのラストを観て、あなたはゴーレムを信じるか? それでもなお集団幻想だと思うか? 笑えるのか? ツッコミたくなるのか? ルビンの壺やエッシャーのだまし絵のように、本当に見る角度によって印象が変わり、人によってツボに入った部分が違ってくる舞台に生まれ変わった。
上田からは、プレビュー終了後にこんなメッセージが届いた。
4年前の劇を、元々こうだったみたいにリメイクすることに成功しました。
土の像をめぐる、最初から最後まで群像でしゃべりっぱなしの大(おお)会話劇です。
作りたいものができました。ヨーロッパ企画が今立っている地平はここです。
飾り気なしのすごい劇ですから、ぜひとも観にきてほしいです。
『あんなに優しかったゴーレム』は、9月16日の京都公演を皮切りに、全国7か所を回るが、すでに前売完売の回も出てきている。まだまだ油断できないご時世ではあるけれども、なるたけ早めにチケットの購入を検討していただけたらと思う。
【ダイジェスト】あんなに面白かったゴーレム初演【ヨーロッパ企画の現場 あんなに優しかったゴーレム編#5

取材・文=吉永美和子

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