【くじら インタビュー】
このアルバムが
今の時点での集大成だと思っている
“今の自分の生活が好きかも”と、
思えるようになったことが大きな発見
楽曲への没入感の高さなど、確かに通じるものがありそうな気がしますね。そして、今回のアルバムでは「呼吸」にやられました。歌始まりからのやわらかな歌声とサウンド感、サビでのエモーショナルなヴォーカリゼーション、ギターソロが印象的でした。どんなきっかけから生まれた曲なのでしょうか?
他の曲は自然に生まれたんですけど、この曲は映像作品のコンペみたいなものがあるから書こうという話になって。そうしたらすごくいい曲になりました。でも、往々にしてこういうことってあるんですよ。一日中なかなか曲ができないと思っていたら、そこを抜けた瞬間にできたんです。聴いているだけできれいな映像が浮かんでくるような、より映像の見える曲にしたくて。なおかつ、自分の必殺技というかシンセサイザーの強いリードとかをあまり使っていないから、それをどうやって表現していこうか悩みました。こんな方向性の曲もやっていきたいという意思表示の曲になっています。
ポップセンスがキラキラした「水星」では文字どおり集大成といいますか、コーラスにはこれまでフィーチャリングしてきたシンガーであるyamaとAdo、相沢、青虫、菅原 圭、ちょまいよ、NORISTRY、水槽らが参加しています。レコーディングはどんな感じでしたか?
本当に集大成ですよね。バラードの一番強い曲が「生活を愛せるようになるまで」で、メロウな曲が「呼吸」、アッパーなタイプが「水星」なんです。今までは“あなたはひとりじゃないよ”ということを歌ったりしていたのですが、「水星」に関しては“あなたが悩んでつまづいて、どうしても限界なら、あなたのいる場所自体があなたにとって良くないだけで、悩むこと自体は間違っていないけど、全然違う場所に行ってもいいんだよ”と歌っています。“いいんだよ”というか、“行っちゃおうぜ! イエイ!”みたいな(笑)。そんな明るい気持ちを伝えたくて書きました。
くじらさんのポップ宣言のようにも伝わってきました。
僕は明るい歌詞が書けないというか、内面がそうではないので得意じゃなくて。ポップな曲は歌詞が暗くても音やサウンド、メロディーで明るくしたりしていたんです。なので、珍しいかもしれないですね。
そして、大切な曲であるアルバムタイトル曲「生活を愛せるようになるまで」は不安定な毎日を生きる生活者に向けて、確信に満ちたメッセージを与えてくれるポップソングへと仕上がりましたね。
大きな大きな発見のあった曲ですね。僕はこれまで悩むことが多かった人生なんです。
いろんな選択肢に気がつく、選択肢を見つけられる方なのかなと思いました。
悩んだ末に自分で自問自答、Q&Aをしていく感じですね。例えばですけど、小中高大を出て就職する王道の人生がある。小中や高校、大学の勉強は分かります…楽しかったし。でも、大学の4年間って就職するためではなくて、就職活動の切符を手に入れるための4年間じゃないですか。僕はその後の人生があまり楽しそうに見えなかったんです。耐えられないと思って。自分のことや生活のことが憎くて。くじらとしての活動を始めてからもバイトをして、全てを制作費に充てる生活だったので。本当に食費とかも大変でした。でも、だんだんとご飯が食べられるようになってきて、最近少しずつ明日のご飯の心配をしなくても大丈夫になってきたんですよ。そんな生活をしている時に、ふと“今の自分の生活が好きかも”と思えるようになって。それって自分にとって大きな発見だったんですよね。
そこからタイトルや楽曲「生活を愛せるようになるまで」の境地へと結びついたのですね。
はい。それを言語化して、それについて考えてみました。自分が歩んできた道、これから歩む道のことを愛してあげられたら、抱きしめてあげられるようになったら、それがあると思うだけで踏ん張れると思ってこの曲が生まれました。だからこそ、ぜひ多くの方々に聴いてほしいですね。
取材:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)