【リーガルリリー インタビュー】
心の器からあふれ出してしまうほど
私の感情を占めていたのが
“恋と戦争”
涙を地球がつかまえてくれるから
それでも歩いていくことができる
3曲目の「地球でつかまえて」はサウンドとして弾んだ楽しさのある、また違ったタイプの楽曲になりましたね。
たかはし
この曲のサウンドとしては、自分だけ止まっているんだけど、周りの景色は残像になるぐらいすごく速く動いていることを表現したくて。なので、ドラムのハイハットの置く場所だったりアコースティックギターのストローク感だったりをあべこべにしてアクセントの重なり合いとかを面白くしているんです。隙間を埋めているけど、隙間を大切にしていて。
海
ループ感がありつつ、ちょっとしたチグハグさがあるみたいなね。実はこの曲は結構寝かせていたんですよ。それをほのかさんが新たに掘り出して歌詞をつけてくれて。
ゆきやま
メロディーも“新曲?”っていうぐらい変えてね。
たかはし
歩きながら久しぶりに昔の音源を聴いてみようと思ったんです。で、聴いたら“めちゃめちゃいいなぁ!”と思って。もとから“地球でつかまえて”という曲名だったんですけど、そこからストーリーがどんどん思い浮かんじゃったので、それを歌詞にして曲を作りました。
海
それがすごく良かったから、一気にみんなのエンジンに火がついたんです。新たに引っ張り出してからは早かったよね。
ゆきやま
進まない時は何かしらの違和感があって止まっちゃうんですけど、ほのかの中でそれが解決すると一気に進むという(笑)。
ひとつ気になったのが、歌詞の中での一人称が“僕”から最後は“わたし”になるじゃないですか。これにはどんな意味があるんでしょうか?
たかはし
“僕”っていう一人称を使う時は具体的なひとりを対象にしているというよりは、男でもあり女でもあるみたいなイメージなんです。“わたし”はそれよりももっと大きい存在で。母親の身体から生まれてきたそれぞれの“わたし”というか。その“わたし”を“つかまえて”っていうのが最後の1行。そう考えるとこれは恋愛の歌だともとらえられるし、命の歌だともとらえられるし、もっと言うと地球が自分のことをつかまえてくれていることを歌っている曲だともとらえられると思うんです。
地球が自分をつかまえてくれている?
たかはし
《涙をそのまんまにしておく 拭うのをちょっとだけ待った》という歌詞はそういうイメージですね。足元には地球という土台があって、こぼれた涙を地球がつかまえてくれるから、それでも歩いていくことができるんだって。
一見、救いがなさそうにも思えますが、実はすごく前向きな希望、生命力を感じます。
たかはし
そうですね、前を向いて歩いている曲なので。
そして、ラストにはスピッツの「ジュテーム?」のカバーも。この曲を選んだ理由というのは?
たかはし
私にはどうしたって書けない歌詞なので、それがいいなと思ったんです。この歌詞を読んで思うのは、私は絶対そっち(男性)の立場にはなれないということ。なのに、なぜか共感してしまう。きっと男の檻の中にいないと生まれない歌詞なんだけど、男とか女とかは関係なしにすごく“人間”を感じるんです。じゃあ、女の檻でこの歌詞を歌ったら、より人間の感情の曲になるんじゃないかなと。
くるりの「ばらの花」、SEKAI NO OWARIの「天使と悪魔」、はっぴいえんどの「風をあつめて」とこれまでリーガルリリーがカバーしてきた曲の歌詞は全部、男性が書かれていますけど、どれもそういう理由で選んでこられたんですか?
たかはし
いえ、そういう視点で選ばせていただいたのは「ジュテーム?」だけですね。なぜだか男を感じて…私には書けないなと。きっと、どんな歌詞もその人にしか書けないものだとは思うんですけどね。
海
何でしょうね? スピッツはもう本当にリスペクトしすぎていて、何という言葉を発したらいいか分からないです(笑)。
ゆきやま
最初はやりたくないって言いましたもん(笑)。“だって、スピッツだよ!”って。今までのカバーもそうですけど、尊敬している人たちに裸でぶつかっていかなきゃいけないのは緊張するじゃないですか。でも、結果として素直にリーガルリリーの曲にさせてもらえたと思っています。
原曲の素晴らしさもリーガルリリーらしさも両方が成立した、秀逸なカバーだと思います。それにしても本当に1曲目から最後まで隅々までじっくり聴き込んでほしい曲が揃っていて。何よりも純粋に音楽として聴いていて気持ち良いんですよ。よくぞこんなに次々とクオリティーの高い作品ばかり作れますよね。心の旬というか、今、感じたものをかたちにしておきたいという衝動にも似たエネルギーを感じます。
アーティストの中には感じたものを慎重に熟成させてからアウトプットするというタイプの方もいらっしゃいますけど、たかはしさんはそうではないんでしょうか?
たかはし
私は性格的にあまり慎重なタイプではないので、こういうほうが合っていますね。考える前に行動してしまうというか、むしろ新しいものを作り続ければいいんだと思います。
海
いい曲でも取っておく間に自分たちの中で賞味期限が切れちゃっているみたいなこともきっとあるんですよ。ストックはストックのままになっちゃったり。だから、“作ればいい”と言ってもらえてすごく嬉しい。
ゆきやま
解決策は“新しいものを作る!”だね(笑)。
頼もしいですね。その潔さがリーガルリリーの音楽の根源的な痛快さに通じている気がします。例えば生と死とか、人間の決して明るくはない部分にもフォーカスした独特の世界観はもちろんなのですが、純粋に聴いていて気持ちいいというのがこのバンドの一番の魅力ではないかなと。
たかはし
そう思ってもらえたら嬉しいです。別に私は暗いことを歌いたいわけじゃなく、ただ音楽を楽しみたいんですよね。それだけを考えて作っていたら、こうなったという感じで。
海
音楽として気持ち良いから聴くのがまず先にあって、そこからふとした時に歌詞に書かれていることを考えてみるという。このEPもそういう作品なのかなって思いますね。大きいテーマだからこそ、大きく扱うんじゃなくて、ちゃんとみんなの身近な生活に落とし込めるものにしたかったから、聴いてくれた人ひとりひとりのちゃんと側にいる音楽になったらいいなと思います。
さて、11月には東名阪にて対バン企画『cell,core 2022』の開催が発表されました。名古屋公演は羊文学、大阪公演はMy Hair is Bad、そして東京公演では、くるりというそうそうたる顔ぶれですが。
ゆきやま
みなさん、個を確立されているバンドばかりじゃないですか。どんな空気感になるのかが本当に楽しみ。
たかはし
それぞれのバンドに空間の作り方というのがきっとあって、それがそのバンドの色になっていると思うんですよ。フェスとか何バンドもたくさんいるような場ではそれぞれの色って淡くなっていくと思うんですけど、2バンドなのでお互いの色がどう居場所を見つけるのかなと。緊張しますけど、すごく楽しみに思っています。
取材:本間夕子
Photo by Ittetsu Matsuoka
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配信EP『恋と戦争』2022年8月10日配信
Ki/oon Music
リーガルリリー:東京都出身のバンド。高校在学時より注目を集め、国内大型フェスや海外でのライヴ出演も果たす。19年にアメリカ合衆国で開催された『SXSW 2019』へ出演し、同年に行った中国ツアーも全公演ソールドアウトした。20年に1stアルバム『bedtime story』、21年4月には1st EP『the World』をリリースし、同年はTVアニメのタイアップや配信シングルを立て続けに発表した。22年1月に2ndフルアルバム『Cとし生けるもの』、その後も配信シングル2作、配信ライヴ音源を発表し、8月にEP『恋と戦争』をリリースした。11月には自主企画2マンイベント『cell,core 2022』を東名阪で開催する。リーガルリリー オフィシャルHP
「ノーワー」MV
「明日戦争がおきるなら」MV
「セイントアンガー」Live Video
@中野サンプラザ 2022.2.8