SHISHAMOがアルバム『SHISHAMO 7』全
曲披露 新曲や代表曲も交えたツアー
セミファイナル

SHISHAMO ワンマンツアー2021秋「寝ても覚めてもかわいい君と死にたくなるような恋がしたい」 2021.12.4 Zepp Haneda(TOKYO)
SHISHAMOの最新のバンドサウンドを堪能した。アルバム『SHISHAMO 7』でのバンドの充実した状態がそのまま反映されたステージだった。ツアーのセミファイナル公演となるZepp Haneda。SHISHAMOの3人、宮崎朝子(Gt/Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)がステージに登場すると、客席から盛大な拍手が起こった。コロナ禍によって声出し不可という制限があるため、歓声の代わりにいつも以上の拍手によって、観客それぞれの思いを伝えているということだろう。
オープニングナンバーは「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」だった。宮崎が右手でキーボードを弾きながら歌う始まり方が新鮮だ。松岡のベース、吉川のドラムが加わり、歌の世界が立体的になっていく。この曲はストレートなラブソングだが、ライブの1曲目で演奏されることで、Zepp Hanedaに訪れた観客への“好き”という気持ちを示す曲にもなっていると感じた。スリーピースのバンドサウンドが“好きという衝動”をみずみずしく描き、観客も拍手で応えている。会場内が“好き”という感情で埋め尽くされているようだ。つまりオープニングからステージと客席との相思相愛の状態が出現していた。
2曲目の「警報」では起伏に富んだグルーヴィーな演奏に体が揺れる。歌に登場する男女の双方の気持ちや部屋の中の冷え冷えとした空気感を鮮やかに描きだし、クールな質感を備えた演奏とエモーショナルな歌声の対比が歌の世界に奥行きを与えていく。印象的なハーモニーで始まった「人間」はスリリングな歌と演奏で始まり、緩急をまじえながら、終盤へながれこんでいく展開。アルバムリリースツアーということで、『SHISHAMO 7』収録曲がすべて演奏されるセットリストになっており、これらの新曲の演奏からはバンドが新境地を切り開いていることも見えてくる。コーラスやアンサンブルなど、音楽性の高さを追求したステージでもあるのだ。
「今日はいろいろルールがある中ですが、その分、拍手や身振り手振りを5倍くらいにしてもらって、楽しんでいただけたら」とは宮崎のMC。『SHISHAMO 7』を作ったことで音楽性の幅がさらに広がり、SHISHAMOの多彩な魅力が伝わってきた。「明日の夜は何が食べたい?」ではリラックスした緩やかな歌と演奏がいい感じだ。ライブという非日常的な空間で、日常の中にあるかけがえのなさを自然に描いていけるところが素晴らしい。ほのぼのとしたムードが漂っていたのは「はなればなれでも」。素朴で人間味あふれる歌と演奏が観客を体の芯から温めていく。
三声のハーモニーのうるわしさが際立っていたのは「キスをちょうだい」だ。観客がハンドクラップで参加したのは「妄想サマー」。躍動感あふれる演奏に会場内が揺れる。さらに「ドライブ」もハンドクラップが加わっての演奏。松岡と吉川がいいグルーヴを生み出している。Zepp Hanedaの客席すべてが助手席へと化して、観客全員を乗せて、一緒にドライブしているかのようだ。この「ドライブ」はライブで演奏されることで、さらに魅力的な曲へと成長していると感じた。
前半の演奏が終わったところで「SHISHAMOのハーフタイムRADIO!!!」というタイトルで、会場で募集した観客からのメッセージに3人が答えるラジオ番組風のコーナーもあった。恋愛相談に対して親身になって回答する3人に対して、「さすが恋愛マスター!」と感心する瞬間もあり。バンドと観客とのコミュニケーションの場にもなっていて、ライブのいいアクセントになっていた。
後半は「中毒」からの始まり。バンドの生み出す独特のグルーヴがクセになるライブ映えする曲だ。歌の主人公の不安感や虚無感をみずみずしいタッチでグルーヴィーに表現している「二酸化炭素」、歯切れのいいリズムが気持ちいい「かわいい」と、歌と演奏の一体感はさすが。宮崎のギターはもちろんだが、松岡のベース、吉川のドラムも歌心たっぷり。3人が深いレベルで歌の世界観を共有しながら演奏していることはSHISHAMOの大きな強みだろう。「かわいい」では後半に行くほどに、エモーションがほとばしっていく展開がスリリングだった。
「リリースツアーを回れるのはありがたいなと思っています。みんなの前でアルバムの曲を演奏することで、曲が完成するという感覚がありました」と宮崎。確かにライブで演奏することによって、新たな表情が見えてくる曲がたくさんあった。「通り雨」もそんな曲の一つだろう。主人公の心情へと深く没入していくようなせつない歌声からは健気さや儚さも漂っていた。通り雨の情景描写と主人公の心情描写とが重なっていくような、深みのある演奏も見事。雨を表現したと思われる影絵を模した照明も効果的だった。「ごめんね」ではニュアンス豊かな歌と演奏が染みまくり。ブルージーなギターにも聴き惚れた。
恒例になっている吉川の「本当にあった○○な話」は安定のクオリティでオチもバッチリ。ここからの終盤は「ねえ、」「きっとあの漫画のせい」「恋する」「明日も」という代表曲が続く展開。声は出せないものの、会場内が熱気に包まれていく。「明日も」ではミラーボールの光が客席を照らす中での演奏。困難な状況がある中で演奏されることによって、この曲の輝きがさらに増していると感じた。「明日も」でほとばしったエネルギーはさらに本編ラストの「明日はない」へと受け継がれていく。3人が一丸となって気迫あふれるバンドサウンドを奏でている。演奏が終わった瞬間、熱い拍手が会場内に充満した。
アンコールは宮崎がひとりで登場して、ピアノの弾き語りで「壊したんだ」を披露。繊細さと伸びやかさを備えた歌声が深い余韻を残していく。さらに12月1日にリリースされた『ブーツを鳴らして - EP』から「マフラー」。ソリッドな演奏からはヒリヒリとした空気感も伝わってくる。冬の新曲を冬に聴くのはいいものだ。さらにこの日が初披露となる「ブーツを鳴らして」も演奏された。柔らかなハーモニーから始まる冬のバラードで、胸の中の思いを素直にさらけ出すような歌声とその歌声を包み込むような演奏が染みてくる、冬の情景が浮かんでくるような曲だ。これは冬の名曲として、愛される曲に育っていくのではないだろうか。
「初めての会場でこんなにたくさんの方と時間を共有できたことがうれしいです。みなさんが楽しんでくれていることも伝わり、私自身も楽しむことができて、いい一日になりました」(松岡)
「演奏を通して元気を受け取ってもらえたらといつも思っているのですが、みなさんからそれ以上の力をもらって、感謝しています。ファイナルに向けての力をみなさんにもらいました」(吉川)
「マスクをしていてもみんなの表情も伝わってくるし、私たちも元気をもらえて、演奏できました。来年もここに来ますし、もっとみんなとライブできたらうれしいなと思っています」(宮崎)
3人からのMCに続いてのアンコール最後の曲は「夢で逢えても」だった。せつなさとダイナミックさとが共存するサウンドにはSHISHAMOというバンドの魅力が凝縮されていると感じた。<夢で逢うだけじゃ足りないよ>というフレーズが、この場所でこの瞬間に演奏されることによって、観客へのメッセージも含んだ曲として響いてきた。終演後、挨拶する3人に温かな拍手が降り注いでいた。SHISHAMOの歌もコーラスもギターもベースもドラムもMCも超素敵!!!と言いたくなるライブだった。

取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之

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