高橋一生×野田秀樹『フェイクスピア
』初日終演後の特別対談

2021年5月24日に初日の幕を開け、連日大きな反響を巻き起こしているNODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』。あるコトバの一群に強く心を揺さぶられたことから生まれたこの作品の本番に、作・演出・出演の野田秀樹と主演を務める高橋一生はどんな気持ちで臨み、何を感じたのか? 初日終演後にふたりが交わしたコトバをお届けします!
NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」(撮影:篠⼭紀信)
NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」(撮影:篠⼭紀信)

《観客がいてこその演劇》
野田 まずは、ほっとしたよ、無事に初日を開けることができて。いつも以上にどう受け入れられるか全く見当がつかない芝居だから、不安もあったと思うけど、一生をはじめ、みんな本当によくやってくれました。とても感謝しています。
高橋 僕はもう、いつも通りやらせていただきました。劇場で舞台稽古ができる期間が結構しっかりありましたし、野田さんが諦めずに粘り強く稽古してくださったので、稽古でやってきたものをブレることなく出せたかなと思います。
野田 いい役者だよね、本当に。一生の芝居には嘘がないし、身体表現ができるから、ありがたい。しかも、色々言われなくても自分でやってくれるだけじゃなく、感じたことを自分からこっちに言ってもくれる。
高橋 嬉しいです。
野田 いわゆるストーリーを作り上げていくような役ではないから、きっと大変だったと思う。最初に台本を読んだときは、不安そうにしていたし。
高橋 正直、最初は、どうしよう⁉ 背負いきれるんだろうか? と思いました。ただ稽古が始まったら、もうやるしかないですから。自分が演じる人物像をどう腑に落として、いかに成立させるか、そこに集中して取り組みました。
NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」(撮影:篠⼭紀信)
野田 今日は特に初日だったこともあるだろうけど、一生の役や言葉が意味することに気付いた人が徐々に増えていって、お客さんの集中力がどんどん高まっていくのが、とてもよくわかったよね。
高橋 それは僕もすごく感じました。だんだん笑い声が少なくなっていく中で、人によって気付くタイミングがちょっとずつ違うのもわかって、これはすごい体験をしているのかもしれない、演劇ならではのことだなと。
野田 そうだね。俺が稽古初日に言った「演劇の底力を見せてみたい」ということに、近いことがやれたかもしれない。これを「無観客ならやってもいい」と言った人々は、演劇というものを全く理解していないんだろうなと改めて思うよ。
高橋 演劇がどこで完成するのか、という概念がないんだと思います。観客の前でようやく完成するものですし、劇場で分かち合う一体感も込みで演劇なのに。
野田 演劇の観客は第三者ではない。当事者だからね。今回は、それを最終的に理解してもらえて、緊急事態宣言が発令されている中、初日を開けることができて、よかったなと思う。今日はみんなうまくいったけれども、明日以降も油断しないでやっていかなくちゃ。まだ定着してないところもあるし。
NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」(撮影:篠⼭紀信)

《なるべく無で観てください》
高橋 今日は野田さん、加代ちゃん(白石加代子)の最初のシーンを、舞台袖から見守っていましたよね。祈るように胸の前で手を組んで、加代ちゃんがやり切ったら、よしっ!という感じで、ちっちゃくガッツポーズまでしちゃって。なんて可愛らしい人なんだろうと思いました(笑)。
野田 最初は、ただ見守っていたんだよ。でも、いつの間にか両手を合わせて指を組んでいて……で、気付いたら隣に一生がいた(笑)。
高橋 その過程を全部見ていて、祈るってこういうことなんだなと、ちょっと感動したんです。感動といえば、お客さんにたくさん拍手をいただいて、カーテンコールで加代ちゃんとヅメさん(橋爪功)と手を繋いだとき、温かいなぁと感じて。舞台上の僕らと違って、お客さんの顔はマスクで見えないけれども、人と人との繋がりの素敵さを改めて実感した瞬間でした。
野田 そう、お客さんはみんなマスクをして、黙って2時間観てくれる。案外、家で家族としゃべりながら晩ご飯を食べる2時間よりも、感染リスクは低いんじゃない?(笑) だから、ぜひ観に来てください! で、終演後は真っ直ぐ帰って寝ましょう。
NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」(撮影:篠⼭紀信)
高橋 いいですね、それ。俳優も皆そうしていますし(笑)。
野田 あとは、なるべく無で観てもらいたいよね。たぶん、あまり観たことのない芝居だと思うから、SNSで感想をチェックしたりせず、余計な事前情報なしで観に来て欲しいです。
高橋 そのほうが純粋に楽しめると思います。劇場に来て初めて共有するというのが、本来の楽しみ方なのかなという気がしますし。
野田 できれば、シェイクスピアすら知らないまま観に来て欲しいな(笑)。そこの部分は、俺が劇中で必死に説明することだし。
高橋 野田さん、今日は本当に必死というか、すごいテンションでしたもんね(笑)。
野田 興奮しようって決めて出たから。でも興奮したら、口が回らなくなった(笑)。
高橋 はい、ロレっちゃってるなあと思いました(笑)。『フェイクスピア』、できることなら、僕も客席で観たいです。きっと、今まで体感したことのない世界が味わえると思います。ぜひたくさんの方に体感していただきたいです。
NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」(撮影:篠⼭紀信)
すでに20ステージを超え、初日の不安も嘘のように消え去った今、野田、高橋、そして橋爪功、白石加代子をはじめとする総勢24人のキャストは、気力も体力も十二分。さらにパワフルに作品世界を織り上げています。フェイクがはびこるこの時代に、演劇だからこそできる表現で、“真のコトバ”を届ける『フェイクスピア』。何ものにも代えがたい体験を、ぜひ劇場で!
取材・文/岡﨑 香

【岡﨑 香 PROFILE】
フリーライター・フリーエディター
twitter: @KO_stagegoer
女性誌を中心に紙媒体やWebでインタビュー記事を取材・執筆しています。旅と着物と武道も好き。

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