ミュージカル『Fly By Night〜君がい
た』開幕間近~内藤大希、青野紗穂、
万里紗、遠山裕介、内田紳一郎、福井
晶一、原田優一&演出家が会見
開幕まであと1週間ほどとなった8月下旬、zoomを使ったオンライン取材会が開催され、内藤大希、青野紗穂、万里紗、遠山裕介、内田紳一郎、福井晶一、原田優一の出演者全7名と、演出の板垣恭一がオンライン会見をおこなった。その模様を、稽古場の写真と共にお伝えする。
■さまざまな「喪失」を抱えた人々の物語
板垣恭一(演出) 群像劇です。ロマンチック群像劇と銘打っています。三角関係の恋愛模様が中心に描かれていて、あとは、おじさんたちの群像劇です(笑)。マックラム(福井晶一)の奥さんが亡くなるところから物語が始まりますが、いろいろな形で「喪失」を抱えた人たちの物語が展開していきます。
内藤大希(ハロルド役) 僕の演じるハロルドは、他の登場人物の人からいろいろと与えてもらっているのにも関わらず、それに気づかない青年。自分なりに、もがいていたりするんですけども......。
作品の魅力は楽曲がすごくキャッチーなこと。つい歌ってしまうし、頭に残る、ワクワクするような旋律が多いです。しかも、本番では生バンドで演奏していただけるので、そういう生の音楽のグルーヴ感を楽しんでいただけるのではないかと思います。
青野紗穂(ダフネ役) 私の演じるダフネは、ブロードウェイ女優を目指してニューヨークに出て来るんです。そして、いろいろと自分が憧れていたものに触れていくんですけど、何かが物足りなくて、何かが埋まらない。弱いけれど、強がってしまう、そんな女の子です。
作品の魅力は、いい具合にすれ違う人間関係がすごく魅力的だなと思って。「ここでああ言っていけばよかったいいのに」とか「こういうのは、仕方ないのに」というところが結構たくさん出てくるんです。そういう部分が、とても魅力だと思います。
万里紗(ミリアム役) ミリアムは、田舎でウエイトレスをやっていて、それを楽しみながらも、お父さんの喪失を抱えながら生きていく、ダフネのお姉ちゃんです。本人はそんなに勇気がないのかもしれないけど、ダフネに勇気をもらっていたのか、偶然の産物なのか、ニューヨークにやって来ることで、ハロルドと出会って、人生をかき乱されていくという役どころです。
私が思うにこの作品は……、ものすごい劇的なシーンがあるわけではないのに、クッと胸をもっていかれるんです。「あああ〜」という瞬間がたくさんある(笑)。素朴な温かさというのかな、そういう思いがいっぱい詰まっているところが魅力だと思います。
遠山裕介(ジョーイ役) 僕は、若手脚本家のジョーイ・ストームズという役をやらせていただいてます。ストームズ家は、芸術の家系で、兄弟たちもみな成功しているんですけど、僕だけが成功できていないんです。周りからのプレッシャーもあり、本当にこの道でいいのかなという葛藤を抱えている役です。
このミュージカルの見所は、それぞれのキャラクターの中に、お客さんが共感できるようなところがたくさんあることですね。それは、家族愛だったり、仕事へのプレッシャーだったり。いろんなところで共感できるのではないでしょうか。きっと心に残る作品になることでしょう。
福井晶一(マックラム) ハロルドの父親であるマックラムです。最愛の妻を亡くし、そこからの1年間を描いています。妻がいたときは、うまく家庭がまわっていたんですけど、すべて妻のおかげだったんでしょうね。彼女が亡くなって、マックラムは自分の寄りどころを失くしてしまいます。1年間、馬鹿息子(ハロルド)が連絡を全然とってくれなくて、そのなかで孤独になっていく。大きくいうと、息子との和解の物語です。そのヒントをくれたのが、大停電であり、最愛の妻でもあり......ということになります。
作品の見所ですけど、とにかく出演俳優それぞれのキャラクターが本当に魅力的で役にぴったりなんです。稽古場にいて本当に思います。楽曲もすごくよいし。これからバンドが入るんですけど、生で聴くのが楽しみです。
原田優一(ナレーター役) ナレーター役でございます。その名の通り、ナレーションと言いますか、物語を進めていったり、登場人物を紹介したりしていくんですけど、このナレーター役が何者なのか、まだ定義はありません。この世の者なのか、人間なのか、人間でないのか、神なのか、何かの使いなのか......。みなさんそれぞれに想像していただければと思っております。もしかしたら、この物語を進めていく上で、「運命を支配する者」と捉えられるかもしれません。
ナレーター以外の役もちょいちょい、例えば、(ダフネとミリアム)姉妹のパパ・ママ、ジプシー女、MCなど、いろいろな役で出るんですけど、キャラクターたちが、運命の選択肢というか、まさに分かれ道にさしかかったときに、僕の演じる人々の一言や行動で結構、その道に進んでいくということもあって。だからこそ、それぞれの役を濃く、印象に残るように頑張りたいなと思います。
作品の魅力は、最初から展開が早くて、キャストそれぞれがセットで動くんですね。人間の力といいますか、そういうスタイルなんです。そこで、各キャラクターが抜ける瞬間や、またキャラクターに戻ってくる瞬間があって、お客様の想像力をふんだんに使っていく。「想像力、お借りします!」という板さん(板垣恭一)の演出のスタイルが出ているなと思っています。
それと、私は語り部なので、格言の連続なんですよね。板垣節の言葉の数々を、僕の言葉にしているんですけど、板さんの考えを代弁している気持ちになっているので、言葉を伝えることを大切にしたいと思います。
■時系列のズレ、場所の変化は「大変だけど、楽しい」
板垣 リアリズムで言うと、時間って一定に進むようになっていて、その方がお客さんも時間に置いてかれることはないので、得だと思います。ただ、実際の僕らの脳みそは時系列で時間が進んでいないというのが事実だと思います。だから、昨今、映画などでもすごくそれが多用されています。
何気ない瞬間に昔のことをぼんやり考えていたりするじゃないですか。時間はパン!と過去に飛んで。そんな感じで、人間の脳みそって、意外とそこら辺が自由。実は確固たるものがつながって出来ているわけではないのかもしれないなと思うんです。
この舞台のテーマでもある、ある種のはかなさ−−「FLy By Night」という英語を僕は「刹那の」とか「束の間の」という風に解釈しています。僕たちは、そういう断片的なものをかき集めて、一つの人格を生きている気がする。時間が行ったり来たりしているのは、それを補足する説明になるのかなと。ただ、演出家としては、お客さんが混乱しないように気をつけて演出しているつもりです。
内藤 最初は「次、なんだっけ?」というのがあったんですけど、もう今の段階になれば、それは解消されて、筋を通しています。
青野 いやぁ、大変ですよ! すごい大変です。さっき板さんが言ったみたいに、そのままツーっと進んでいければ、本当はすごく楽なんです。でも、この作品のように、時間が行き来すると、自分の中の時間軸がぶれちゃった気がして、そこをつなげていったり、自分の中で編集したりするのは大変なんです。それでも、やってみるとすごく楽しい! いろいろな場所に行けるし、いろんな時間帯にトリップできるのは楽しい。難しいのと楽しいので、わーっ!という感じです(笑)。
万里紗 個人的にはすごく楽しいですね。物語が起こっている内容と、それぞれのシーンの季節感がちゃんとリンクしている。すべてが物語を豊かにしてくれるような気がするので、楽しくて。それぞれのキャラクターが、各シーンのさまざまな時間や場所をこの板の上に沈殿させていくことで、二幕の終わりで渦巻くエネルギーがものすごいことになっていると思います。
遠山 役者としては覚えるのがものすごく大変です。ただ、場面が飛ぶことにも意味や大切なことがあって。そういうことを意識しながら、やっております。大変ですが、楽しくやらせてもらっています。
いろいろなタイプの役者がいると思うんですけど、ずっと役に入り込んで黙々とやるタイプもありますが、この芝居はどちらかというと、その瞬間瞬間にパン!パン!パン!と切り替えて、潔く演技をしていくタイプというかね。それが積み重なるとテンポになるし、人間、普通に生きていると台本がないから、その瞬間その瞬間に言葉を喋っているじゃないですか。そういうのが面白いんだなと思って。
なるべく先のことは分からないようにやろうとして、失敗することがいっぱいあるんですけど(笑)。ちゃんと覚えろよということで、四苦八苦しております、はい。
福井 第一幕を見ていただければ分かると思うんですけど、僕と、遠山くんと、内田さんは、ずっと転換をやっているんです。全てのシーンを把握しておかないと、出ている役者さんに迷惑をかけてしまうので、物凄い集中力でやっています。助け合いながら(笑)。
でも、集中力が保たれているおかげで、ずっと物語に参加している感じもあって。どんどん後半になるに連れて、それが熱になって、良い方向にいっているんじゃないかな。時間軸がずれることで、「あ、ここでそこにつながるんだ」、「ここのセリフがあるからこうなんだ」と、台本の重要なところも分かってくる。台本の読み解きに関して、助けになります。大変ですけど、頑張ります。
原田 時間軸がずれたり、場所がいろいろ移動することで、一番翻弄されているのはナレーター役の私だと思います(笑)。まぁ、そこはしっかり、任された僕の運命だと思ってやります。時間軸がずれて、エピソードが入れ替わりになったりすることで、人間同士の関係性がより濃く、はっきりと分かるような気がします。
そして、昨日、通してみて思ったんですけど、そのズレがあるからこそ、私が説明しやすいんだと思いました。シーンは、最初から作っていったんですけど、通してみると、また気づくことも多くて。つまり、何が言いたいかと申しますと、お客様も1回だけではなく、2回も3回も楽しめますよということです(笑)。
■出演者たちが思う楽曲の魅力とは?
内藤 すごくミュージカルらしいのは第二幕のM20(楽曲の番号)だけで、それ以外はミュージカルっぽいというより、格好良かったり、可愛かったりする。でも、そういうのも好きです。
青野 ちょっとカントリーっぽい音楽をベースに、ロックだったり、ジャズだったり、ちょっとシャンソンっぽい音楽だったり、いろいろなジャンルがそのベースの上に乗っているような音楽だなという印象です。しかもそれが、その人たちに沿った曲になっているので、「人間っぽいな」という印象は受けました。
万里紗 私は父親がアメリカ人で、家にいた頃はよくギターを弾いて、彼の世代の曲をいろいろ歌ってくれていました。そういう感じを今回すごく思い出します。一番好きなのは、ダフネの夢の曲。サウス・ダゴダからニューヨークにいくときに流れる曲が、アメリカの広大な風景を思い浮かべるというか。映画の挿入曲のようであり、すごく懐かしい空気感もあり。アメリカの質感が出ているなという印象です。
遠山 ミュージカルなのに、クラシックみたいな曲、ポップス、R&Bもあって。みなさん、それぞれいろいろなジャンルの曲が好きだと思うんですけど、幅広い人にうける音楽になっているんじゃないかな。ワクワクするような曲、ノリノリの曲、泣けちゃう曲もある。全体的に、すーっと耳に入ってくる曲が多いなと思います。(自身が演じる)ジョーイ・ストームズが歌う曲は、ロックといいますか.......まあそこは、とりあえず見てください!(笑)
内田 古き良きアメリカの雰囲気があったり、カントリーの感じがあったり、R&Bがあり......。そういう意味では、すごくロックな感じですよね。オリジナルのサウンドトラックを聴いたら、こんなに格好いいんだ!すごいな!と思いました。多分見てても、体が動いちゃうようなという曲がいっぱいある。ミュージカルらしい、壮大な曲もあるので、素晴らしいなと思います。ぜひみなさんにも劇場で体験していただきたいと思います。
福井 皆さんが言っているように、いろいろなジャンルの楽曲が散りばめられていて、本当にいろいろな音楽を楽しめると思います。最初に僕が歌う曲を、宋元燮プロデューサーが送ってくれた時、僕は英語が分からないので、「アップテンポな曲で可愛らしい曲」だなと思っていたんですけど、実際訳された歌詞を見ると、なんていろいろな感情が入り混じった素敵な曲なんだろう、と。最初の印象からガラリと変わったんですよ。
普段は、ミュージカルの王道の大曲を歌うことが多いのですが、ドラマを大切にしているconSeptのコンセプトどおり(笑)、歌うというよりお芝居で見せる楽曲が多いなという印象があります。その辺も楽しんでいただけたらと思います。
原田 この作曲者の方ってお若いんですかね? 30代後半ぐらい? 若いミュージカル作曲者の人って、すごく攻めるイメージがあるんですけど、この作曲者は心穏やかで優しい人なんだろうなと思うんです。耳に残る楽曲が多いですし、印象に残るのが優しいメロディが多くて。
それに、僕は楽譜を見たときに、曲の中にこれだけセリフが入ってくるのが、また面白い構造をしているなと思いました。ミュージカルドラマを作っているという感じがあります。すべてを歌わずに、セリフを挟めるのがいい塩梅。芝居と歌の融合がされているなという印象です。
■コロナ禍で「進化」したことは……ギター?デジタル化?食事法?
内藤 僕、今作で初めてギターを触っているんです。進化をしたいと思いながら日々やっているんですけど、昨日の通し稽古も含めて、緊張に支配されると、指が全く動かなくて(笑)。稽古場の横で弾いていると、「できるじゃん!」と思うんですけど、いざ通しでやってみると指が動かず、まごつくんです。きっと本番の時には「まごみ」も解消されて進化していると思いますので、ぜひ見ていただきたいと思います!
板垣 稽古期間中ではないのですが、自粛期間に40年ぶりに筋トレを始めました。片足スクワットや腕立て伏せをやって、フラフラしなくなりました(笑)。
遠山 僕はいままで朝食を抜いて、昼と夜に食事をしていたのですが、いま、実は夜に1回しか食事をしていません。稽古をしている時は、食べないと、体力が持たなかったんですけど、意外といけます。「1日1食健康法」というのがあって、集中力があがったり、肌の回復が良くなったりするんですよ。それで僕は1日1食で、体が進化しているんです(笑)。
原田 めちゃくちゃデジタルになりました! それまでめちゃくちゃアナログだったんですけど、めちゃくちゃ……いや、めちゃくちゃじゃないな、ちょっとデジタルになりました(笑)。これまでパソコンすら持っていなくて、「今までどうやって仕事をしていたんだ」とよく言われるんですけど、この(コロナ禍の)期間中にiPadを買って、SNSやzoomができるようになりました!
内田 私もFacebookを始めました。くだらないものをタイムラインにアップして、楽しんでいました。
青野 私、夏は外に出て、キャーキャー遊びたいタイプだったんですけど、中にずっと引きこもるのも、意外と平気だなと。でも、ゲーム狂になりました(笑)。1日中ずっとゲームしていて、おかげで、ゲームの腕がめちゃくちゃあがりました。やばいほど上手いんですよ、まじで!
福井 ぼ、僕は人生ではじめてオペラを歌っています(照れ笑)。
万里紗 私は特に変わっていないです。でも、昔、文章を書くのが好きだったことを思い出して、自分はこういうことをやってみたいなんだな〜とちょっと発見しました。以上です!
■劇場公演のみならず、配信でも全20公演が観劇可能
板垣 もちろん劇場で見ていただくのは、演劇にとっては一番幸せなことです。そのことは、お客様もご存知だと思います。一方、この何ヶ月の間で、今日の取材もそうですけど、リモートでやったり、生配信したりすることがひとつの新しいコミュニケーションの形として出てきて。それは演劇でも同じ可能性を感じました。
劇場で見ることがそれは最良だけど、それだけが演劇ではないということが分かったんですね。ご興味のある方、劇場に来るよりも配信がいいなと思う方、ぜひそちらで観ていただければと。そして、また安全な状態になりましたら劇場に来て観ていただくのが一番最高。でも、擬似体験で演劇を観ていただくのも素晴らしいことだと思いますので、ぜひ楽しんでください。
宋元燮プロデューサー なぜ無謀にも全20回配信という形をとらせていただいたかという話を、最後に少しさせていただきたいと思います。コロナ以前、実際に観劇するかしないかは別として、劇場自体は基本的にいつでも行ける、開かれた場所でした。それと同じことを、配信でもできたらいいなという思いがベースにありました。全20回公演配信することで、「今日ちょっと時間が空いたから劇場に行こう」という感覚で配信をご覧いただけたらいいなと思い、このような形をとらせていただいております。
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