反田恭平が語る、オンデマンド・コン
サート~『Hand in hand』シリーズ発
足の想いと葛藤、盟友・務川慧悟との
2台ピアノまで

2020年6月28日(日)、ピアニスト・反田恭平と務川慧悟による2台ピアノコンサートが、イープラス・Streaming+にてオンライン開催される。本コンサートは、2020年4月、反田の呼びかけで始まったオンデマンド・コンサートシリーズ『Hand in hand』の第2弾だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うコンサートの自粛を受けて、オンライン上でのコンサートや公演映像は無料配信や無料公開の流れが広がる中、反田はクラシック業界でいち早く「有料」での配信コンサートを選択し、その道を拓いてきた。その裏に秘めた想いと葛藤、そして、自ら「息ピッタリのコンビ」と語る務川との2台ピアノについて意気込みを聞いた。(SPICE編集部)

——オンデマンド・コンサート『Hand in hand』の第1弾生配信は、コンサートの自粛が続く2020年4月1日(水)にサントリーホールのブルーローズを会場に無観客で行われました。手応えはいかがでしたか?
あの時点で、人前での演奏はおよそ1ヶ月ぶりくらいでした。朝、本番用のスーツに袖を通す時、懐かしい気持ちになったのを覚えています。
オンライン・コンサートを有料で開催した理由は主に二つありました。一つは、音楽家たちが演奏する場を確保しなければならない、と思ったこと。やはり、他の共演者とアンサンブルする感覚や、お客様の前で演奏するという感覚は、僕たち音楽家にとって薄れてはならないものです。時間があいてしまい、その感覚が鈍くなることは避けなければなりません。それが1~2ヶ月の話なら別ですが、諸々加味しても、年単位でホールでの活動が限られる可能性が十分にありますから。二つ目は、音楽家も生きていく上で、また音楽を勉強し深めていく上で、そして楽器をメンテナンスしていく上でも、ある程度のお金が必要だということ。それを自分たちの手で集めなければいけない、と考えました。この二つが動き出すきっかけになりました。
『Hand in hand』第一弾の様子
企画してから開催まで、2週間足らずの間にすべてが起こりました。その間、連日のように都知事の会見がありましたから、状況によって共演者やプログラムの内容変更を視野に入れて調整を進めました。告知から本番までは5日間しかありませんでしたが、いざ発表してみますと、ツイッターでは予想以上の反響があり、数十万人の方が一気にこのコンサートについて話題にしてくれました。多くの方に届けば届くほど、やはり多様な考えが発せられます。楽しみにしてくださる方ばかりでなく、非常に厳しいご意見も多く寄せられて、正直、戸惑いや迷いも生じました。「滅入る」という言葉がぴったりな心境にもなりました。
そんな中で、僕を励ましてくれたのは、共演に声をかけていたメンバーたちです。当初は24人の出演を考え、一人ひとりにちゃんと「こんな状況だから、最大限努力するけれど、本当に開催できるかわからないし、赤字になるかもしれない。お一人に500円くらしか払えない可能性もある。それでも本当に出てくれる?」と確認していきました。みんな「やるよ!」という非常にポジティヴな返事をしてくれたのですが……最終的には出演者・スタッフの安全性を考慮して、トータル人数を減らすことを決断。結局、最終的なメンバーを決めるまでに3回ずつ連絡をしましたね。​会場入りの時間をずらすなどしながら、最大編成を三重奏とし、今回は木管楽器に焦点を当てるという内容に固めていきました。サクソフォンの上野耕平くんをはじめとして、みなさん本当に素晴らしいパフォーマンスでした。
『Hand in hand』第一弾の様子
当日は2000名以上の方が1000円のチケットを購入してくださり、諸経費を引いても黒字にすることができました。開催から1ヶ月が経ちますが、僕の知る限りではメンバーやスタッフたちの健康問題は出ておらず、何よりほっとしています。そして大変嬉しいことに、コンサートが行われたあと、SNS上はとても嬉しいコメントで溢れていました。僕一人の力では何もできませんが、仲間やスタッフたちが一緒に動いてくれたおかげで、こうした状況下でも新しい一歩を踏み出すことができました。
——『Hand in hand』第2弾が6月28日(日)に配信されることになりました。今回はピアニストの務川慧悟さんとの二台ピアノによるコンサートとのことですね。
務川くんとは6月20日(土)から7回にわたる2台ピアノのコンサート・ツアーを予定しており、東京の2公演も即日完売となっていましたが、残念ながら開催が見送りとなってしまいました。オンラインという形ではありますが、楽しみにしてくれていた方々の気持ちに少しでもお応えできれば、という思いで企画しています。
僕と務川くんはともに、2012年の第81回日本音楽コンクールで第1位を受賞したのですが、その後は留学先も違いますし、活動もそれぞれ違っていて、あまり会うことがなかったのです。そんな中、彼が浜松国際ピアノコンクールの第1次予選で演奏しているのをオンラインで聴いて、その時、冒頭で演奏したラモーの「ガヴォットと6つのドゥーブル」に僕はとても感動したんです。ネットでも素晴らしかったけれど、ぜひ生で聴きたいと思って、ファイナルステージは浜松まで聴きに行き、その日のうちに、「ぜひ一緒に演奏しよう!」と声をかけさせてもらいました。ですから、ラモーは僕らのデュオのきっかけともなった一曲なので、今回のプログラムの幕開けに、この曲を務川くんに弾いてもらいます。
ちなみに、あのコンクールの最中は、このラモーの楽譜があちこちで売り切れたんですよ! 決してメジャーな曲ではないのに。彼の演奏をオンラインで聴いただけでも、多くの人があの曲を弾いてみたい、勉強してみたい、と思ったのだと思います。
左から務川慧悟、反田恭平
——2曲目は連弾で、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」ですね。こちらを選ばれた理由は?
今回のプログラムは大きく分ければフランスもの(ラヴェル)とロシアもの(ラフマニノフ)です。僕らのこのコンビの良さは、互いに補い合い、学び合えるところだと思っています。フランスについては、務川くんが今留学している土地なので、彼がいろいろなことを教えてくれます。ロシアについては、僕の経験値を彼と共有することができています。
このラヴェルの作品を通じて、フランスに対する務川くんの愛情や知識を披露できるのではないか、と考えました。僕も今年は彼と一緒にサール・コルトーでコンサートをやりましたし、パリ音楽院で特別にデュオのレッスンを受けさせてもらいました。初めてフランス人の先生から熱心に教えていただき、フランスの和声の捉え方や体の使い方を勉強できたのは大きな経験でしたね。
——モーツァルトの「2台ピアノのためのソナタ」は、お二人でのパフォーマンスは再演ということになりますね。
昨年のデュオ結成ツアーで演奏したのですが、その時にもう、僕らの呼吸が本当にピッタリだったものですから、オンデマンド・コンサートを通じてさらに多くの方々に聴いていただきたいな、と。務川くんはバッハや古典派の音楽を愛しているし、僕はモーツァルトを尊敬している。そんな二人の哲学的なところも垣間見られる演奏になると思います。
——そして、ラフマニノフの「2台ピアノのための組曲 第2番」ですね。全4曲からなる大作です。
ラフマニノフの代表作の一つでもあり、僕自身の生涯のメインテーマとも考えている作品です。ダンスの要素が多分に含まれた曲です。実は、第1曲「序奏」はミュージック・ビデオも作成しました。
なぜビデオを制作したかというと、ダニエル・トリフォノフがラフマニノフのピアノ協奏曲第4番のミュージック・ビデオを配信していて、その映像を見て非常に感動したのです。あまり演奏されない作品ですが、映像を使うことで作品の世界をより身近に感じさせてくれることに成功しており、とても芸術的なものでした。こうした映像作品をきっかけに、「もっとピアノを聴きたい」「コンサートに行ってみたい」と思ってもらえるかもしれない。僕もミュージック・ビデオをちゃんと作らなければいけないな、と思ったのです。
Kyohei Sorita & Keigo Mukawa - S. Rachmaninoff / Suite No.2 Op.17 "Introduction" (ラフマニノフ / 組曲 第2番 )
僕らのビデオは、親友の親友が作成してくれました。彼は映像の専門ですが、これまでクラシック音楽とは無縁だったそうです。でも僕と知り合ってから、少しずつ音楽の魅力に気付き始めてくれて、今回の制作に関わってくれました。美しい映像になっていると思いますので、オンライン・コンサートの予習にぜひご覧いただけたら嬉しいです。6月に開設した、僕の運営する会社Nova RecordのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。今後もこのチャンネルから、MLMナショナル管弦楽団メンバーの映像など、さまざまなコンテンツを配信していく予定ですので、そちらも楽しみにしていただければ嬉しいです。
——今回のオンライン・コンサートは、チケットの価格と内容が3つのコースで設定されていますね。
はい、「30名限定の入場券+CD」、「オンライン視聴券」、「オンライン視聴+CD」の3種類です。新型コロナウイルスの影響で、お金の使い方についても皆さん様々な考えや状況にあると思います。コンサートを楽しんでいただく上でも、多様な設定があるとよいのではないかと思いました。もともとコンサート・ツアーに合わせてCDのリリースを予定し、収録も済んでいたのですが、コンサートは見送りになりリリースもずっと先になってしまいました。今回の配信に合わせて、特別にCDも先行入手できるようにしました。
今回は、視聴のみでも前回の倍の金額で2000円です。しかし絶対に損はさせません。自信があります。
今後、この『Hand in hand』は第5弾まではイメージしています。最終的には合唱ができたらいいな、と思っているんです。合唱は今、開催がもっとも厳しいジャンルだと考えています。いつの日か、リモートではなく、同じステージ上で皆が歌える日がきたら、この『Hand in hand』シリーズは役目を終えるのだと思います。
——反田さんはソロはもちろんのこと、アンサンブルや合唱など、人とともに音楽することをとても大切に考えておられますね。誰かと音楽する喜び、最大の魅力は、どこにあると思いますか?
僕が中学の頃に読んだ漫画『のだめカンタービレ』の中で、忘れられないセリフがあります。千秋真一がフランスのオーケストラのコンサート・マスターと揉めるんです。その時に、コンマスが「音楽というのは調和である。それは音のハーモニーであり、人間としてのハーモニーでもある」というようなこと言っているんです。中学生ながら、なるほどなぁ、と心に残りました。反抗期もあったし、自分はこう弾きたい、というような思いもあった。でも人間は結局一人では学べないし生きられない。演奏だけでなく、コンサート企画などをする立場になって、その思いが一層強くなっていきました。音楽というのは、人間と同じで、調和が大事。僕は少年時代からサッカーも好きし、協奏曲も大好き。みんなで一つの方向を見て、一緒に何かをするのが好きなんですね。音楽を仲間たちと作っていけることは、本当に幸せです。
取材・文=飯田有抄

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