フレデリックの横浜アリーナ回顧――
音楽愛を掲げ想像を超えていくバンド
の姿

FREDERHYTHM ARENA 2020 ~終わらないMUSIC~
11か月に及んだフレデリック史上最長の全国ツアー『FREDERHYTHM TOUR 2019-2020』が、2月24日、横浜アリーナで大団円を迎えた。
音と光をダイナミックに操るステージングも含め、現在のフレデリックの魅力をとことん見せつけた2時間の熱演は、アリーナにふさわしいエンターテインメントとしても十二分に楽しめるものだったことは言うまでもない。しかし、そこはフレデリック。約1万2千人の観客を楽しませながら、そこにファンとバンドを結ぶ真摯なメッセージを込めることを、彼らが疎かにすることはなかった。
フレデリック 撮影=渡邉一生
全23公演を行った長い、長いツアーの中で、彼らが今一度見つけた答えは、極々シンプルなものだったようだ。それは何か? 愛だ。音楽に対する深い、深い愛だ。なぜ、フレデリックは今、アリーナのステージに立っているのか? それは音楽に真正面から向き合い、自分たちの楽曲と演奏をとことん、とことん磨き上げてきたからだ。
「音楽が大好きって人、どれだけいる?」
この日、三原健司(Vo/Gt)は観客に何度かそう問いかけた。そして、序盤のスタートダッシュをダメ押しで盛り上げた「オンリーワンダー」、「(音楽が大好きだっていう)その気持ちをさらに上げられるような1日にしたい」と健司が言いながら、音楽の虜になってしまったときの気持ちを歌った「夜にロックを聴いてしまったら」から、バンドが曲間を空けずに繋げていったのが、フレデリックの音楽性の深いところに迫る曲の数々だった。
フレデリック 撮影=渡邉一生
アップテンポの「スキライズム」はともかく、スカ~レゲエのエッセンスをフレデリックなりに取り入れた「シンクロック」、重ためのファンク・サウンドがズシリと来る「真っ赤なCAR」、そしてEDMにアプローチしたダンス・サウンドが挑戦的だった「LIGHT」というぐっとテンポを落とした3曲の流れは、「オンリーワンダー」をはじめ、速い4つ打ちのリズムに合わせ、タテノリできる曲から入ったファンを、もしかしたら戸惑わせたかもしれない。しかし、バンドの進化を受け止めるには、僕らファンだってリスナーとして成長することが必要だ。特に音楽的に新しいことに挑戦し続けているフレデリックのようなバンドのファンならなおさらだろう。
フレデリック 撮影=渡邉一生
音楽が大好きなら、こういうフレデリックも好きになってほしい。こういう曲を、みんなはどう楽しむ? 前半を締めくくるその3曲は、そんなバンドからの問いかけ、もっと言えば、挑戦だったようにも筆者には感じられたが、そんな問いかけをしながら、彼らは「シンクロック」の演奏中、<ずっとずっとずっとずっと待ってる>という歌詞をLEDビジョンに映し出し、バンドがどんなに進化を遂げても、決してファンを置き去りにしないことをアピールしたんだから心憎いではないか。
フレデリック 撮影=佐藤広理
ミラーボールが眩い光を放つ中、三原康司(Ba/Cho)、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)がソロを応酬しながら、演奏が白熱していった「LIGHT」から繋げた「NEON PICNIC」では、入場時、観客全員に配られた“NEON PICNIC自作キット”を使い、観客1人1人がスマホを色とりどりに輝かせ、アリーナが光の海になった。それを眺める演奏中のメンバー4人のアップが、LEDビジョンに映し出されたのは、実はこの演出が、スタッフと観客がメンバーたちを驚かせるために仕掛けた、いわゆるドッキリだったからだ。「感動した。ありがとう」と言った健司をはじめ、戸惑いながらも頬を緩める4人の表情を見た観客全員が心の中でガッツポーズしたに違いない。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
そんな光の海から一転、メンバーの姿が見えないほどの暗闇の中で演奏した「峠の幽霊」では、女性の幽霊(?)が花道をアリーナの真ん中に作ったセンター・ステージに歩いていき、立ち込めるケムリの中に消える。そして、ケムリが晴れると、センター・ステージに健司が現れ、メイン・ステージにいる3人と対峙しながら、「対価」を歌い始めるという演出で観客を驚かせた。
フレデリック 撮影=渡邉一生
さあ、後半戦のスタートだ。<ばっくれたいのさ>というリフレインが小気味いいファンク・ナンバー「逃避行」から、「TOGENKYO」「KITAKU BEATS」と繋げ、一気にラストスパートをかけるのかと思いきや、ジャム・パートも含むサイケデリックな「バジルの宴」を挟んで、逸る観客の気持ちをいったん抑え込んでから、待ってましたの「オドループ」。速い4つ打ちのリズムとリズミカルな曲調に観客が盛り上がらないわけがない。
「人生最高を更新しよう。俺らならやれる!」と健司が呼びかけると、<たたたたんたたんたんたたんたん>という歌詞に合わせ、観客全員が手を鳴らす。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
「すごい!」と感嘆した健司が今度は、「歌ってくれ!」と呼びかけると、シンガロングの声が上がったが、その「オドループ」を上回る盛り上がりを見せたのが、「今一番かっこいいフレデリックを見せて帰ります」とたたみかけるように演奏した「イマジネーション」――昨年10月にリリースした2nd EP『VISION』収録のファンク・ナンバーだった。
フレデリック 撮影=渡邉一生
「知っていても、知らなくても、自分の想像を超えて、音楽を楽しんでください。横浜、歌ってもらってもいい? さあ歌おうぜ! 聴かせてくれ、横浜!」
ステージに火柱が上がる中、シンガロングを求める健司は、ステージを降りて、アリーナをぐるっと一周歩きながら、シンガロングを求めていった。
「音楽をもっともっと好きになってもらいたい。愛してもらいたい。音楽が大好きな人、どれだけいる?一番楽しかった思い出を超えられるくらい歌ってもらえますか?」
この日、幾度となく上がったシンガロングを上回る大きな声が響き渡ったのは、健司の熱い思いと、自ら体を張ってその思いを届ける姿に、約2万人の観客が胸を打たれたからだ。
フレデリック 撮影=渡邉一生
ビジュアルを含めたライブの見せ方にも誰にも負けないくらいこだわりながら、ここ一番というところでは、バンドそのものの力で勝負できる実力を見せつけ、本編は終了。黒い幕がメイン・ステージを隠したのは、この後の展開の伏線なのだが、アンコールを求める声に応え、「いかがでしたでしょうか?」と幕の前に出てきた4人は、そこから二手に分かれ、「ありがとう」と言いながら、アリーナをぐるっと回ってセンター・ステージに。
そこで、「自分一人で思い描くより、誰かと作るのが好きなんだと改めて感じました。そう思わせてくれてほんまにありがとうございました」と言った康司から順々にこの日の感想を語る。
「一瞬だった。そんだけ楽しかった」(赤頭)
「僕は横浜出身なんです。横浜出身のミュージシャンにとって、横アリは憧れ。選択肢が数ある中で、その横アリを目指せたのがうれしかった」(高橋)
「ここからもっと大きなところに進んでいける。このままでは終わらない。いい音楽を作って、人生を遊びきりたい」(健司)
フレデリック 撮影=渡邉一生
そして、「『フレデリズム2』から初めてやる曲です」と、フレデリック流のJ-POPナンバー「CLIMAX NUMBER」を、歌詞に合わせ、特殊効果で雪を降らせながらアコースティック・セットで披露した4人は花道をメイン・ステージに。幕が開き、向こうから差し込む眩い光の中に躊躇することなく足を踏み入れた4人の姿が印象づけたのは――。
「いつまでもこの歌の主役でいてください」
幕が完全に開き、眩い光の中にいる4人がラストナンバーに選んだのは、この日のライブのタイトルにもなっている「終わらないMUSIC」。本編最後の「イマジネーション」同様、最新作から選んだところにフレデリックというバンドの在り方が窺えるが、これまでの集大成と言えるダンサブルなサウンドといい、音楽に対する愛とももにファンにも自分たちと同じように音楽を愛してほしいという曲に込めた願いといい、最後にステートメントを掲げ、締めくくるには……いや、新たな始まりを印象づけるには、この曲しかなかった。もしかしたら、この日、ここで演奏することを前提に作ったのかもしれない。この日、フレデリックは自分たちの中で鳴りやまない音楽に人生を捧げる覚悟を表明した。
フレデリック 撮影=渡邉一生
「俺たちフレデリックは次のステージに進みます。これからもよろしくお願いします」
バンドを代表して健司が言ったとおり、バンドは早くも10月10日から始まる新たな全国ツアー『FREDERHYTHM TOUR 2020』のスケジュールを発表した。ツアー・ファイナルは、21年2月23日の日本武道館! フレデリックがいよいよロックの聖地に立つわけだが、それまでの1年間、バンドがさらなる進化を遂げるであろうことは言うまでもない。

取材・文=山口智男 撮影=佐藤広理、ハタサトシ、渡邉一生
フレデリック 撮影=佐藤広理

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