最先端のテクノロジーから生まれたア
ート作品が100点超! 『未来と芸術
展』鑑賞レポート

科学技術の急速な発展によって、私たちの未来が変わるかもしれない現在。新たなライフスタイルや未来都市の可能性を、美術の領域を超えたプロジェクトや作品で紹介する展覧会『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命——人は明日どう生きるのか』(会期:〜2020年3月29日)が、森美術館にて開催中だ。
人間の神経や肺などの臓器といった体内の組織をモチーフにしたファッション作品 エイミー・カール 「インターナル・コレクション」シリーズ 2016-2017年
本展は、AI(人工知能)、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)にVR(仮想現実)など、最先端のテクノロジーと、その影響を受けて生まれたアートやデザイン、建築などを通して、未来の社会や人間のあり方を考える企画展。
展覧会のタイトルにもAIが利用され、AIによって生成された15,000を超える候補から、本タイトルが選ばれた。森美術館館長の南條史生氏は、本展覧会の企画意図について「未来は今、我々のおこなう判断で作られる。我々がきちんと判断をしないと、人間にとって非常に悲劇的な未来が待っているかもしれない。そんなことを考えながらこの展覧会を見て、議論しながら皆さんに楽しんでもらいたい」と説明。
ヴァンサン・フルニエ 「マン・マシン」シリーズ 2009-2010年
映画にみる未来都市(五十嵐太郎)

64のアーティストやプロジェクトが参加する本展は、5つのセクションからなり、都市から建築、ライフスタイル、身体と、マクロからミクロのスケールへとテーマが移る展示構成になっている。その中には、来場者参加型のインスタレーションや、ロボットと人間の共存を予感させるような作品、バイオ技術を使った作品を集めたスペース「バイオ・アトリエ」の展示なども含まれている。
5台のロボットアームが来場者の方の顔の写生をする作品。各ロボットはそれぞれ異なる画風を持つ。 パトリック・トレセ 《ヒューマン・スタディ#1、5 RNP》 2012-2018年
パトリック・トレセ 《ヒューマン・スタディ#1、5 RNP》(部分) 2012-2018年

SFのような世界が、すでに現実になっていることが体感できる刺激的な会場より、本展の見どころをお届けしよう。
会場エントランス
人類の移住先は、砂漠・海上・空中へ
展示冒頭の「都市の新たな可能性」のセクションでは、最先端の都市計画や、環境問題、コンピューターのデータを使った情報都市を切り口に選定した作品やプロジェクトを展示。砂漠や海上、空中など、従来の環境とは異なる新天地への移住計画が、写真や映像、模型を通して紹介される。
フォスター+パートナーズ 《マスダール・シティ》 2014年-
《マスダール・シティ》は、アラブ首長国連邦のアブダビにある砂漠に現在建設中の未来型都市。これは、石油のような有限なエネルギーが枯渇する未来を見据えて、太陽光や風力など、自然のエネルギーを使って環境にやさしい都市を作ろうとする試み。現在進行している都市開発プロジェクトであり、近藤健一氏(森美術館キュレーター)は、「すでに未来は、我々の現実の中ではじまっている」とコメント。
会田誠 《NEO出島》 2018-2019年
一方、アーティストの会田誠による《NEO出島》は、霞が関地区や国会議事堂の上空に、英語が流ちょうなグローバル・エリートだけが住むことができる、現代版の出島を作る計画を提示する。実現性よりも、ユーモラスな発想が印象的な都市空間になっている。
展示風景
ほかにも、国連がサポートすることが決定している海上都市の提案《オーシャニクス・シティ》や、空中都市《Xクラウド・シティ》では、地球温暖化といった環境問題に配慮し、バイオ技術を活用した、環境に負荷をかけない新しい都市の可能性が示されている。
アリババグループ グリーティングチーム 《中国杭州市のライフストリーム》 2019年
さらに、コンピューターのデータを用いて、都市の分析や解析をおこなう映像やインスタレーション作品にも注目したい。中国のアリババグループが手がける《中国杭州市のライフストリーム》では、データを使ったデジタル・エコシステムを視覚化した映像が展示される。現代社会において収集、蓄積される膨大な量のデータを活用し、スマートシティを形成していく様子が垣間見える。
コンピューターと人間が創造する、新しいデザイン
「ネオ・メタボリズム建築へ」のセクションでは、3Dプリンターやドローン、ロボット工学など先端テクノロジーを駆使した建築の最新の動向を紹介。
ビャルケ・インゲルス&ヤコブ・ランゲ 《球体》 2018年
《MX3Dの橋》は、オランダのアムステルダム中心部の運河に、3Dプリンターを使って作られたステンレス製の橋を架けるプロジェクト。最終的にはロボットによる橋の自動構築を目指している本プロジェクトは、人間とロボットが協働する、未来の建築のあり方を提示している。
MX3D&ヨリス・ラーマン・ラボ 《MX3Dの橋》 2015-2019年
人間とコンピューターの共同作業によって神秘的なインスタレーションを発表したのは、ミハエル・ハンスマイヤーによる《ムカルナスの変異》。
ミハエル・ハンスマイヤー 《ムカルナスの変異》 2019年
本作は、イスラム建築の伝統的な装飾「ムカルナス」を参照し、コンピューターを用いたシミュレーションにより、デザインを生み出したもの。コンピューターから送信された情報に従って1万4千本以上のチューブを、ロボットアームが一本一本異なる長さに切断し、組み合わせているという。ハンスマイヤー氏は「コンピューターをミューズ、ツール、パートナーとして、これまで想像もつかなかった方法で作品を表現した」と語る。さらに近藤氏は「このようなデザインは、絶対に人間だけでは作ることができない。まさにコンピューターを使った新しいデザインスタイルの可能性を見せている」と解説した。
ミハエル・ハンスマイヤー 《ムカルナスの変異》(部分)  2019年
エコ・ロジック・スタジオによるバイオ技術を使った彫刻《H.O.R.T.U.S. XLアスタキサンチンg》は、3Dプリンターで作られたブロックの中に、ミドリムシ(ユーグレナ)が生息し、太陽光によって光合成をしながら、空気の浄化をおこなっている。
エコ・ロジック・スタジオ 《H.O.R.T.U.S XL アスタキサンチン g》 2019年
ラテン語で「庭」を意味する本作について、エコ・ロジック・スタジオのアーティストは「今こそ再び自然から力をもらい、自然とつながって、己の心身を慈しんでいかなければならない。ロボット工学とバイオ技術を使うことで、21世紀にふさわしい新しい『庭』を再現した」と説明した。
テクノロジーの進化がもたらす、近未来の生活
「ライフスタイルとデザインの革新」では、最先端のテクノロジーから誕生したデザインやプロダクトを展示。技術の革新がもたらす、新たなライフスタイルの可能性を実感できるセクションになっている。
OPEN MEALS 《SUSHI SINGULARITY》 2019年
電通が主体となり、さまざまな分野の研究者と共同で手がけるプロジェクト「OPEN MEALS(オープン・ミールズ)」では、食がテクノロジーの進化によってどう変わるのかを考察する。《SUSHI SINGULARITY(スシ・シンギュラリティ)》は、食べ物の味を酸や甘さなど4つの要素に分解し、それをデータ化したものを3Dプリンターによって具現化する「未来の寿司」を提案した作品だ。このシステムが実用化されると、寿司のデータ編集、共有が可能となり、オリジナルの寿司が、世界のどこでも3Dプリンターを使って食べられるようになる。まさに夢のような、未来の食の可能性をあらわす画期的な作品だ。
さらに、キノコの菌糸を使った照明といった、天然素材で環境に配慮されたユニークな家具も本セクションで紹介されている。
セバスチャン・コックス&ニネラ・イヴァノヴァ 《菌糸体+木材》 2017年
また、会場にはVRとARを使った未来の自動運転を体験できる来場者参加型のインスタレーションや、愛玩ロボットのLOVOT(らぼっと)とaibo(アイボ)に触れられるコーナーも設置されている。
Nissan Intelligent Mobility×Artプロジェクト 《Invisible to Visible〜未来の自動運転〜》 2019年
左:LOVOT(らぼっと)2018年 右:エンタテインメントロボット aibo 2017年
会期中、LOVOTとaiboには共同生活をしてもらい、双方の間に友情が育まれるのか否かといったことが検証される。ロボットにはそれぞれ名前があり、名前に反応するように躾けられているとのことなので、ぜひ話しかけて遊んでみてほしい。
ゴッホの左耳が時を超えてよみがえる!バイオ技術を使ったアートを展示する「バイオ・アトリエ」
「身体の拡張と倫理」のセクションでは、人間の身体に焦点を当てて、ロボット工学とバイオ技術の進歩によって生まれた作品が並ぶ。
エイミー・カール 《進化の核心?》 2019年
特に見どころとなるのが、バイオ技術を使って制作したアート作品が集まる空間「バイオ・アトリエ」だ。本施設について近藤氏は「微生物や細胞が、バイオ・アトリエの中で、生きた状態で作品の一部となって展示されている状態」と説明。
ディムート・シュトレーべ 《シュガーベイブ》 2014年-
ディムート・シュトレーベによる《シュガーベイブ》は、画家のフィンセント・ファン・ゴッホが生前に自ら切り落としたとされる左耳を、ゴッホの父系・母系両方の末裔の方から細胞やDNAを提供してもらい、それを現代に再現したもの。ゴッホの左耳を生きた状態で展示する本作は、バイオ・アトリエを象徴する作品になっている。
アトリエの監修に携わった多摩美術大学の久保田晃弘教授は「通称ラボというと白い部屋でクリーンなイメージがあるが、ここでは壁面を黒くして、細胞の神秘的な側面が浮かび上がってくるような場として見せようと思った」と解説した。
作品を通して、生命や幸福の定義を考える
本展最後のセクション「変容する社会と人間」では、人間や生命、幸福とは何かといった思考をうながす作品が集う。
丸山典宏、升森敦士、池上高志、小川浩平、石黒 浩、ジュスティーヌ・エマール 《オルタ3》 2019年
ロボット工学と人工生命の研究者チームが開発したアンドロイド《オルタ3》の表情や動作からは、人間のような生々しさが感じられる。
日本を代表する漫画家・手塚治虫の作品からは、『火の鳥』の複製パネルや原画を展示。近藤氏は、手塚作品について「文明やテクノロジーの高度な発展により、ディストピア的な未来が生まれるかもしれない。それに対して警鐘を鳴らすような作品がいくつかある」と紹介した。
メモ・アクテンによる《深い瞑想:60分で見る、ほとんど「すべて」の略史》は、写真共有サイトFlickr(フリッカー)上で「everything(すべて)」とタグ付けされた写真をAIに学習させて、人工知能が自動生成した映像作品。
メモ・アクテン 《深い瞑想:60分で見る、ほとんど「すべて」の略史》 2018年
既視感がありつつも実在しない自然の風景を映した本作について、アクテン氏は「ここに映っているものは、私が見せようとしているものではなくて、みなさんが見たいものが映っている」とコメント。
膨大なデータの海の中に生きる私たちは、これからどうなっていくのか。テクノロジーの発展に伴い、既存の価値観がアップデートされる中で、これからの人間のあり方を考えさせるような内容になっていた。本展の会期は2020年3月29日まで。
顔認識のセンサーと監視カメラを使い、室内の鑑賞者が検出される。 ラファエル・ロサノ=へメル&クシュシトフ・ウディチコ 《ズーム・パビリオン》 2015年

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