過去作品を検証し直す【REシリーズ】
をスタートした〈星の女子さん〉、そ
の第一弾『水辺のメリー』を名古屋で

“渡山博崇が劇作・演出するオリジナル作品を上演すること”を主目的として、2008年に結成された〈星の女子さん〉。旗揚げ以来、これまで再演は一度も行ってこなかったが、過去の作品を発掘し、上演しやすいサイズ感と時代に合わせた空気感で創り直す【RE シリーズ】を、今秋からスタートするという。その第一弾となる『水辺のメリー』がまもなく、11月14日(木)~17日(日)まで、名古屋・大須の「七ツ寺共同スタジオ」にて上演される。
星の女子さん『水辺のメリー』チラシ表
初めての再演作品として渡山が選んだのは、2012年に第3回公演として上演した『水辺・ア・シンメトリー』だ。泉鏡花の戯曲「夜叉ケ池」と「天守物語」をモチーフに、死体と清掃員の恋模様を描いたという本作。7年という時を経ての再演にあたり、マリーという登場人物を増やし、時代性も考慮して改稿、タイトルも『水辺のメリー』と変えた本作について、また、なぜ今【RE シリーズ】をスタートさせたのか、渡山博崇に聞いた。
【ストーリー】
アパートの屋上に貯水槽がある。その中には死体が沈んでいて、匂いを嗅ぎつけたカラスたちが寄ってくる。築数十年のアパート・メリーベルの貯水槽にもメリーという名の死体が暮らしている。そこにやってきた清掃員の水熊マコトは、メリーがいるから掃除ができない。どうにか出て行ってもらおうと交渉を始めるが、別の貯水槽に住む腐乱死体、沼野エビ子が押しかけてきて…。

── この作品は、2012年に上演された『水辺・ア・シンメトリー』を改稿されたということですが、どれくらい書き換えたのでしょうか?
ストーリーの流れはそんなに大きくは変えてないんですけども、マリーという登場人物を1人増やしたので、それによっていろいろと変化があります。それと前回、設定はしていたけど明かさなかった情報を明かしたり、逆にその時明かした情報を今回は明かさなかったりしているので、変なバランスにはなりましたけど。
── 見え方としては前回と違う感じに?
見え方はやっぱり、だいぶ違いますね。ホンの段階では、ちょっと構成が入れ替わったりしているけどそのまま使ってるセリフもあるし、そんなに大きく変化はないかなと思ってたんですけど、印象としてはだいぶ違って。それはほんとに細かいところですけど、ジェンダーのことだったり、いま感じている時代性とかが全然違って。
── 初演から7年で、結構変わって見えるんですね。
あぁもうほんとに時代って移り変わっていくんだな、というのがよくわかりました。書き直した時に、このセリフ使えないなぁとか。
── それは渡山さんの受け止め方が変わったというより、純粋に時代の推移を感じたということなんでしょうか。
たぶん時代の方が大きいんじゃないかな。僕の感覚はそんなに特殊な感覚じゃないというか、時代に合わせてなんとか対応していきたいなと常々思っているので、あんまり取り残されたくないな、というか。でも男女の区別というか、「男とは」「女とは」みたいなところが初稿の時にはちょっとあったんですね。清掃員の水熊君は男だし、死体のメリーさんは女で、っていうところがあったんですけど、今回は両方とも女性キャストが演じて女性の役にしています。だんだん男女はどうでもいい、性差なんてどうでもよくない? 人と人でしょっていう感覚が出てきて、それが、よりこの作品の生きている人と死体が並列の、生きてても死んでてもどっちでもいい、という芝居に合ってきたなという感じがして。
── 渡山さんご自身も初演当時は見えていなかったことが見えてきたり?
そうですね。初演は東日本大震災の翌年だったので、当初は水とかタンクの震災のイメージが結構ビジュアル的にも強かったんですけど、今回はそこだけに捉われない感じにはなってるかな。
── 初稿時は、震災のことは意識して書かれたんですか?
ほとんど無意識でしたね。ただ、舞台が立ち上がってビジュアルを見た時に、これはそういうことなんだろうな、っていう。その時は本物の貯水槽を使っていたので、そのタンクの中に(放射能の)汚染水じゃないですけど、死体の溶けた水が入っているんだ、というイメージ自体が、震災に引きずられている部分が結構あったんだろうな、と。
稽古風景より
── 今回の再演では、ビジュアル的にも変えたりされるんですか?
セットを作り込む感じでやってますね。今回は貯水槽も一から作っていただいて。
── 具体的に渡山さんから要望を伝えたことなどは?
貯水槽と屋上に関しては、リアル作り込みたい、と。で、背景とか周りのことに関しては抽象的にやってもいいんじゃないか、というのを舞台美術の早馬君とは結構付き合いが長くなってきたので、何回か話し合いを重ねながら方向性を決めていった感じですね。あと、照明さんとかにも意見をもらったりして。
── 【RE シリーズ】というのは今回がスタートになりますが、この企画を始めようと思われたのは?
自分でも何故かという明確さはまだわからないんですけども、今まで再演を1回もしたことがなくて、興味がなかったんですね。自分の長編作品を上演したら一度きりで全然良くて、繰り返し何度も上演するということに対して考えを巡らせたことがなかったけど、なぜか最近、昔書いた、今よりも未熟だった頃の戯曲をちょっと見直してみたい、という気持ちが出てきたんです。それを今の役者さんたち、集まってくれる人たちでやったらどうなっていくのかな? より良いものになっていけるかな? と、企画を思いついて。
── 今までは過去の作品を読み返したりはしなかったんですか?
全然。何も振り返ってない。映像を撮ってある場合は、映像チェックで何度か観たりはしてましたけど、戯曲を読み返すということは恥ずかしかったので、あんまりやってなかったんです。改めて読んでみて、『水辺・ア・シンメトリー』もそうなんですけど、それこそ10年近く前の作品は構成というものを作っていなくて、頭からお尻まで何のプロットも書かずに思いついたまま書いていったので、構成がひどい(笑)。たとえば対立があって、とか、欲求と障害があって葛藤が生まれて…みたいな、その繰り返しになっていくような物語構造みたいなのがなくて、本当にただ人がやってきて話して、その話の流れでなんかこうなっちゃった、っていうのばっかりで、よくこんな構成思いつくなって(笑)。
── 先日、『ジェニィ』でお話を伺った時に、ご自身にしては「珍しくプロットをきちんと考えた」と仰っていましたが、その辺りから書き方に対する考え方に変化が?
そうですね。『ジェニィ』はわりとしっかり作って、その前の『うつくしい生活』(2018年7月公演)とかもちゃんとプロットは組んでたんですけども、そこから経て昔の作品を見直してみると、何を考えたらこうなるんだ? っていうことばっかりで。ただその分、言葉遊びとかでシーンを繋いでいたりするので、言葉遊び自体はちょっと面白くて。今見ると新鮮でした。
── 今の書き方と違います?
やっぱり違いますね。ものすごくテンションが高い(笑)。だから真似は出来ないなと思うところはいっぱいあるんですけど、言葉遊びでシーンが紡がれていくので意味とか内容とか登場人物同士の内面とかじゃない、もう言葉というのがほんと強くて、これをどうやって改稿したらいいんだ? っていうのはちょっと悩ましいところなんですよね。
そういう意味では、『水辺…』はアップデートしきれなかった部分も結構あったんです。本当に書き換えると全部変わりすぎちゃって元の良さや面白さが消えてしまう、ただの新作になってしまうと思ったので、なるべくテイストは残すようにしたら、ちょっとしたアップデートみたいになっちゃって。それこそ根本的に変わるようなことはなかったので、どういう風に改稿ってしたらいいのかなっていうことをようやく考えましたね、実際書き直し始めてから。いやぁ難しいです。
稽古風景より
── 戯曲の書き方が具体的に変わってきたな、と感じることはありますか?
ちょうど初演の時が、別役さんに影響を受け始めた頃なんですね。作風が変わる転換の時期だったんです。速いテンポのセリフの応酬で、おかしみのある変な言葉遣いで勢いだけで持っていく、というスタイルから、だんだんゆっくり言葉を聞かせて言葉の意味でいく、というところへ変わってきて、でもそれはまだ別役さんの表層をなぞっていただけだったんですね。雰囲気というか印象でいってたんですけど、それがだんだん別役さんの理論というか、理屈というか、ロジックの組み立て方で持っていく書き方をちょっとずつ取り入れているのかな? という気がします。
2012年の【劇王IX】(日本劇作家協会東海支部がイベントで長年行っている短編戯曲のコンテスト)に参戦した時に、別役さんを完全に模倣してやろうと思って、『忘れな』という書いたんですね。そしたら(北村)想さんに「別役さんが書いたかと思ったよ」と言われて、最高の褒め言葉だと思って嬉しかったんですけど、じゃあもう模倣はいいや、と。これからはオリジナルを作っていかなきゃいけないんだ、と思って。そこから、じゃあ別役さんには書けないのは何だ? 僕だけのものって何だ? というのをだんだん探していって、『ジェニィ』の頃になってようやく、なんか僕らしさなんてどうでもいいや、と思い始めて(笑)。あの戯曲を書いたあたりから、書いたら勝手に僕らしさが出るからそれで充分だな、と思って落ち着いたんです。
── 『ジェニィ』で演出を担当された刈馬さんも、そういうことを仰ってましたものね。冒頭から渡山さんのオリジナリティーが出ていると。
色気というか、せっかくやるんだから『ジェニィ』で僕らしさを出したいな、という思いから始まってはいたんですけど、書き終わって今振り返ると、あんまりそこはこだわってなかったなと。冒頭だけちょっと自分らしさを出したりしてるけど、どちらかというと内容を伝えたいとか、『ジェニィ』の面白いところを凝縮したいとか、刈馬さんや役者に遊んでほしいとか、そういうところの方が力が入ってるなって。
── 冒頭の1Pを書き始めるまでは、ものすごく苦しんだと仰ってましたけど(笑)。
そうですね、長かったです。本当に書く時はいつも書き方を忘れる(笑)。
── そういうものなんですね。取り組み方は毎回違うんですか?
不思議ですけど毎回、真っ白なページを見て、「あれ? これどうやって書いてたっけ? 」っていうところから始まる。
── 思いついたところから飛ばし書きみたいなことはせずに、最初から順番に書かれていくんですよね。
飛ばして書くことはないです。ちゃんと順番に書きます。ひとつ言葉で詰まったら、言い方とか、それが解決しないとずっとダメなんですよ、その後。だからプロットを組んでいようがいまいが、頭から終わりまで順番に書かないと気持ち悪いタイプですね。
── 今回、演出的には初演と変えたところなどはあるんでしょうか。
演出手法とかビジュアルをいじる、ということで持っていく芝居に今はあんまり興味が持てなくて。役者の芝居で見せていきたいという思いがあって、今回せっかく作り直すなら、ということでキャストを一新したんです。本当に初めましてで一緒に芝居をやったことのない俳優さんばかりでやってみる、という挑戦を一緒にしてるんですけど、これがなかなか新鮮で。
稽古風景より
── キャストはどのように決められたんですか?
平手(劇団員)以外は、皆さんオーディションです。
── どういう基準で選択を?
組み合わせですね。すごく面白い、この役にハマりそうな人もいたんですけど、でもやっぱり組み合わせの結果こっちの方が上がるだろうな、と思った方を優先しました。最終的に3パターンの組み合わせを考えて、その中から一番僕が観たいな、と思ったのがこのキャストですね。
── 渡山さんの思い描いていた通りのキャスティングになっている感じですか?
稽古をやって発見していくことが多いので、最初の自分の勝手なイメージっていうのはどんどんズレてはいくんですけど、でも、また大きな弧を描いて戻って来るところがあったりもして。なんか新鮮で、みんな生き生きとしてるのもいいです。
── この作品は、泉鏡花の「夜叉ケ池」と「天守物語」がモチーフになっているとか。
本当にただのモチーフで、読み返してこの構造を使おう、とかじゃなくて、昔読んで覚えていることをなんとなく当てはめた、という感じですね。それこそ水のイメージだったり、それを巡る男女…あやかしの女性と人間の男性の恋愛のイメージだとか。『ジェニィ』の時のような忠実さとは全く違って、本当にデタラメな勝手なイメージの使い方をつまみ食いしてますね。『天守物語』だと、近江之丞桃六というお爺さんが最後に出てきて話を全てまとめて去っていくという構造なんですけど、この芝居だと最後に配達員というキャラクターが出てきて、ひと言まとめのような、言っちゃいかんようなことを事を言って帰っていくっていう(笑)。
── 戯曲を読ませていただいた印象では、最近の作品よりもシュールさが強いような気もしました。
どうなんですかねぇ。結構、僕の中ではポップな作品なので(笑)。あんまり不条理な感じじゃなくて、むしろ本当におとぎ話として、楽しい寓話みたいな感じで観てもらえるかな、と思ってますね。

尚、この【RE シリーズ】は早くも来年、2020年4月に第二弾を予定しているとのこと。まずは2019年現在の渡山の視点で再構築された、〈星の女子さん〉初期作品に触れられるこの機会をお見逃しなく。
取材・文=望月勝美

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