ゆず 史上初の弾き語りドームツアー
・東京公演を振り返る 「ふたりでや
れることは無限にあるんじゃないかな

ゆず弾き語りドームツアー2019 ゆずのみ~拍手喝祭~ 2019.5.29 東京ドーム
ゆずが日本の音楽史に残る偉業を成し遂げた。史上初となる弾き語りによるドームツアー『ゆず弾き語りドームツアー2019 ゆずのみ~拍手喝祭~』だ。5月のナゴヤドームを皮切りに、東京ドーム、京セラドーム、福岡ヤフオク!ドームの4会場で各2日間ずつ、約30万人を動員した今回のツアーは、1997年のデビューから20年以上にわたり、自らの原点である弾き語りを大切にしてきたゆずだからこそ完遂することができた、弾き語りの限界を超える圧巻のエンターテイメントショーだった。以下のテキストでは、そんな前代未聞のツアーの中から、5月29日の東京ドーム公演の模様をお届けする。
ゆず 撮影=岩﨑真子
会場に足を踏み入れると、まずステージから東京ドームの高い天井へと伸びる、逆さ立ちの大樹「ユズドラシル」に驚かされる。全長30メートル。“生命の象徴”であり、この世界のあらゆる生き物や物質のルーツが内包されているというこの巨大なシンボルが、今回のツアーでは大きな役割を果たすことになる。ゆずのマスコットキャラクター=ゆずマンがユズドラシルの種を植えるオープニングSEが流れ、ユズドラシルが幻想的な光を放つなか、北川悠仁と岩沢厚治のふたりがステージに現れた。
ゆず 撮影=岩﨑真子
ゆず 撮影=岩﨑真子
1曲目は「青」。ふたりが紡ぐ唯一無二のハーモニーとアコースティックギター、岩沢が奏でるハーモニカの音色が、広いドームに響きわたると、早速「歌っちゃえー!」と、北川がシンガロングを誘う。弾き語りとはいえ、すでにアリーナエリアは総立ち。「今日はふたりで最後までやり切ります!」(北川)と力強く宣言すると、北川がピアニカを演奏しながら歌った「DOME☆BOMBAYE」、会場を「ゆ」チームと、「ず」チームにわけて大合唱を起こした「贈る詩」へと、初っ端からふたりはエネルギー全開で会場をひとつにしていった。
ゆず 撮影=立脇卓
MCでは、バンド編成も含めるとこの場所に立つのは今回で8回目を数えることを伝え、「すごいね。伊勢佐木町の片隅で歌っていた僕たちが」(北川)と、平日にも関わらず、5万人以上が詰めかけた東京ドームのお客さんに感謝を伝えた。各会場で演奏する楽曲を変えた“日替わりコーナー”では、まだ弾き語りで演奏したことがない「イコール」、2001年に初めて東京ドームでライブをやったときには新曲だったという「3カウント」を披露。二度と戻ることのできないあの頃へと想いを馳せるように、次第に熱を帯びた「嗚呼、青春の日々」など、ライブの前半は演出を控えめに、純度の高い弾き語りで、ふたりの人間力が強く浮き彫りになるようなブロックが続いた。
ゆず 撮影=立脇卓
中盤からは東京ドームという巨大な空間を生かした、度肝を抜くダイナミックな演出の数々で魅了していく。なかでも圧巻は、ドームの天井を宇宙空間のように変貌させた幻想的な空間で届けた「マボロシ」だった。ピアノと打ち込みのトラックも使い、切ないメロディにのせて孤独と愛憎を叫ぶ楽曲は、前向きで爽やかなエールソングが似合うゆずのイメージとは一線を画し、デビュー20年を過ぎてなお貪欲に進化を求める、ゆずの新境地となる楽曲だった。
ゆず 撮影=田中聖太郎
ゆず 撮影=田中聖太郎
ふたりがユズドラシルのてっぺんに立ち、お客さんが照らすスマホのバックライトで東京ドームに光りの海を作り出した「Hey和」では、令和への改元後、初となるツアーということで、歌詞の“Hey和”を“令和”に変えて大合唱。カラフルなライトがドームを駆け巡った「うたエール」では、北川がカズーを吹き、お客さんの声を巻き込んで、ひとつの曲を完成させた。ゆずのライブはスクリーンにお客さんの表情を映すことがとても多く、みんなで一緒にひとつの空間を作っているという感覚を強く感じることができる。
ゆず 撮影=田中聖太郎
北川が天使、岩沢が悪魔に扮して、謎のスイッチを押すたびに何かが起こるというゆずお得意の手の込んだスクリーン映像も交えながら、フルーツをあしらったトロッコに北川と岩沢が二手にわかれて乗り込んで届けた「マスカット」、お客さんもタンバリンを叩き、一緒に歌って踊った「3番線」や「タッタ」へと、大人から子どもまで“全員参加型”で突き進んだライブの熱狂は、嵐に楽曲提供をした爽快な夏のアンセム「夏疾風」の初のセルフカバーでさらに加速。北川が「もう暑くて、暑くて、夏みたいだから、夏の曲いきましょうか!」と伝えた「サヨナラバス」と「夏色」で、その盛り上がりはピークへと達した。
ゆず 撮影=太田好治
まるでアミューズメントパークのような予測不能の仕掛けと、ふたりが培ってきた抜群のライブ力を駆使して、それが、“弾き語りライブ”であることを忘れるような熱狂を作りあげたあと、最後の1曲を残して、ユズドラシルがまるで心臓を持つようにドクンドクンと脈打つと、会場はお祭り騒ぎから、聴くモードへとガラリと空気が変わった。本編のラストは、今回のリハーサルで北川が完成させたという新曲「SEIMEI」。連綿と続く命の連鎖を感じながら、私たちがどこで生まれ、どこへ向かうのかを掘り下げ、同時に、何のためにゆずは音楽を鳴らすのかという想いも、ストレートに綴ったこの楽曲は、最後に“不可能の壁なんて超えてゆけ”と力強いメッセージで締めくくられた。最後にドームに響きわたった割れんばかりの歓声。その素晴らしい光景は、北川と岩沢という、まったくの別の場所で生まれ育ったふたりが偶然出会い、そのふたりが歌に託すピュアな衝動によって、“ゆず”のすべてがはじまったという奇跡を、改めて実感するような圧巻のフィナーレだった。
ゆず 撮影=岩崎真子
アンコールでは、紙吹雪が舞うなか、東京ドームに集まった5万人で「栄光の架橋」を大合唱。そのなかには、ゆずと同じくらいの世代もいれば、もっと若い世代もいた。その5万通りの人生に、きっとこの曲は寄り添っているのだと思う。リリースされたのは15年前の曲だが、名曲とは、こんなふうに時代を越えて、美しく歌い継がれてゆくのだということを、ゆずの音楽は証明していた。続けて「少年」を届けたあと、最後のMCで、北川は2001年に初めて東京ドームでライブをしたときのことを振り返った。
ゆず 撮影=田中聖太郎
「そのときは、負けるもんかというか、クソったれというか、かかってこいよ!みたいにギラついてました(笑)」「でも、いまはもう……嬉しくて、みんなをすごく近くに感じながら、ライブをやれてます。いつも支えてくれてありがとう!」
ゆず 撮影=立脇卓
感極まったように声を震わせながら感謝を伝えると、最後に「ふたりでやれることには限界があります。でも、ふたりでやれることは無限にあるんじゃないかなって思います」と言って、「終わりの歌」で終演。“それじゃまたお元気で”と、再び会うことを前提に、まるで親しい友人に告げるようなさりげない締めくくりは、“音楽史に残る偉業を成し遂げたユニット”という大仰な肩書きが不似合いなほど、昔と変わらず親しみやすくて素朴な、ゆずらしい別れの歌だった。

取材・文=秦理絵 撮影=太田好治、立脇卓、田中聖太郎、岩﨑真子
ゆず 撮影=立脇卓

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