「CURRY NOTE」作者に聞いた、ZINEカ
ルチャーとカレーの話。

ここ数年で、耳にすることが多くなってきた「ZINE(ジン)」という言葉。個人または少人数のグループによって自主的に制作される少部数の出版物のことで、「TOKYO ART BOOK FAIR」の開催などにより、日本でもその動きが広まりつつある。アーティストによる作品づくりに限らず、個人の何気ない想いや趣味を形にする人も少なくない。そこで、1年間で食べたカレーの記録をまとめたZINE「CURRY NOTE」を毎年刊行しているデザイナーの宮崎希沙さんにインタビュー。宮崎さん(と筆者)が学生時代からアルバイトをしている〈curry草枕〉で、ZINEを作り始めた経緯や10年目に向けた目標について話を聞いてみた。

Photography_Kae Homma
Text&Edit_Momoka Oba

「CURRY NOTE」を作り始めた9年前のこ
と。

――毎年必ず「CURRY NOTE」を発行していますが、今年で作り始めて何年目になるのでしょうか?

今回の2018年版で9冊目なので、9年目です。
――カレーについてのZINEを作ろうと思ったきっかけは?

9年前はまだ学生で、多摩美術大学のデザイン科に通っていたのですが、 “何かしらの情報を整理してグラフィカルにまとめる”という課題が出たんです。当時はちょうどカレーの食べ歩きにハマり始めた頃だったから、カレーをテーマに何か作ってみようとひらめいて。その時は学校のプリンターを好き放題使えたので、今よりも凝ったものを作りました(笑)。ノートだけじゃなくて、シールなどの付録を付けたりして。そしたら、周りからの評判がかなり良かったんです。欲しいって言ってくれる人もたくさんいたし、それならもっと大量生産できるような製本に変えて、販売できたらいいなと思うようになって。翌年から、コピー機でモノクロ印刷してホチキスで製本する、いわゆるZINEのスタイルになりました。
「CURRY NOTE」1冊目は、カラー印刷! 現在と同じく、右ページはメモになっている。

――今の「CURRY NOTE」の形も好きだけど、たしかに1冊目は豪華ですね……! 個人的には、ここ数年でZINEという文化がより広く盛り上がってきていると感じているのですが、9年前はどうでしたか?

当時も、ZINEカルチャーはけっこう盛り上がっていたと思います。ZINEにまつわるイベントが〈VACANT〉で開催されたりとかして。でも、今と比べるとアートブック寄りのZINEが多かったかもしれないですね。周りのイラストレーターやカメラマンの間でも、コピーで簡易的な冊子を作る子がたくさんいました。

――美大だと特に、そういう文化に敏感な人がたくさんいそうですね。

あとは、私が「CURRY NOTE」の1冊目を作った頃、『日本のZINEについて知ってることすべて』という本の著者である野中モモさんとばるぼらさんが、多摩美で講義をしたんです。その時にZINEについていろいろ教えてもらえたのも、大きな影響になりました。当時流行ってたアートっぽいZINEだけじゃなくて、“ファンジン”っていう文化が昔からあったんだ、ということがわかって。アートじゃなくてもいいんだ! かっこよくなくてもいいんだ! って勇気づけられました。

――「CURRY NOTE」は、まさに“カレーのファンジン”ってことですもんね。

そうです。レビューサイト・口コミなどのWebにある情報ほど、カレーを評価したいわけじゃなくて。より個人的な記録だからこそ、こういう形にしています。

コミュニケーションのきっかけになるカ
レーとは。

――そもそも、カレーにハマったきっかけって何だったんですか?

大学生の頃に一緒にバンドをやっていた人がかなりのカレー好きで、はじめはその人からの影響でした。curry草枕でアルバイトを始めてからは、ここにいるとカレーの情報が自然と集まってくるので、それを参考にいろいろ食べに行ったりして。大学時代のもう一つのアルバイト先が神保町にあったので、カレーを食べ歩くのにはいい環境でしたね。カレーって、苦手な人がそんなにいないから、人と話す時に共通の話題になりやすいんですよね。初めて話す人でも、カレーが好きって言うとおすすめのお店を教えてくれたりする。そういう親しみやすいところも好きです。
〈curry草枕〉外観。新宿三丁目駅から徒歩5分、新宿御苑のすぐそばにある。店内は広々としていてゆったりとした雰囲気。混雑時には売り切れてしまうこともあるので、お店のTwitterを要チェック。

――わかります。カレーっていう言葉や存在自体がわかりやすいから、カレーが好きって言うと“カレーの子”として覚えてもらえることも多いですよね(笑)。「CURRY NOTE」に載せるお店はいつもどうやって決めるんですか?

そんなにマメじゃないから、食べた後すぐには何も記録していなくて。そろそろ作らなきゃっていう時期になってから、自分のInstagramを遡って、その中でも特に記憶に残っているお店について書くようにしています。すごく美味しかったとしても記憶に残っていないと書かないし、逆に、味はそんなに覚えてなくても店員さんの印象やその時の思い出が濃かったら書くし。

――味だけじゃないってことなんですね。宮崎さんはどんなカレーが好みなんですか?

やっぱり〈curry草枕〉かなぁ。好きだし、思い入れもたくさんあるし。あとは、渋谷にあるチリチリとか。オシャレすぎるところやストイックすぎるところが苦手なので、自由に放っておいてくれるお店の方が好きです。何か特徴のあるお店の方が、人に話す時にも楽しいですよね。
〈curry草枕〉の下の階にある書店〈模索舎〉でも「CURRY NOTE」を販売中。ちなみに、〈模索舎〉レシートを〈curry草枕〉に持って行くとトッピングが1品無料になるというサービスも!

――「CURRY NOTE」を作ってる時も、友達に話してるような感覚に近いんでしょうか。

そうですね。私はカレーやスパイスにすごく詳しいってわけじゃないし、気負って書くと恥ずかしくなっちゃうから、味を分析したり評価したりしないようにしています。日記感覚でプライベートなことを書きすぎて、たまに恥ずかしくなるけど(笑)。その年に誰とよく一緒にいてどんな場所に行ったとか、ずっと読んでくれてる人にはわかっちゃうんじゃないかな。

――今までの9冊には宮崎さんの9年が詰まってるっていうことですね! この9年の間に、卸し先の書店も増えてきていると思うのですが、反響は変わりましたか?

書店に置いてもらうと自分の見ていないところで売れているから、なかなか直接的に声を聞ける機会はないんですけど、たまにイベントなどで販売する際は、「持ってます!」とか「カレーの人ですよね?」って話しかけてくれる人もいて。ここ数年は、発行した後に必ずどこかでイベントを開催しているので、そこで会う人とコミュニケーションをとれるのも楽しいです。
これまでの9冊。5年目には、5年分の記録をまとめた「CURRY NOTE DX」を制作。

これまでの9年と、10年目に向けての想
い。

――5年目には、5年分の記録をまとめた「CURRY NOTE DX」のフェアを〈curry草枕〉でもやっていましたよね。たしかその頃は、それを持ってお店に来ているお客さんもけっこういた気がします。

そうですね。がっつりフェアをやってもらいました。「CURRY NOTE DX」は製本もしっかりしたから、その分お金もかかって。ちょうど会社を辞めた時期だったのですが、最後のボーナスをほとんどこれを作るのに使いました。

――すごい……! けっこう売れましたか?

おかげさまで、草枕では1週間で200〜300冊売れました。儲けようっていう気持ちはないけど、元を取れる程度には売りたかったから、すごく助かりましたね。

――私も、この時のことはよく覚えています。お店の真ん中のテーブルに「CURRY NOTE DX」が積んであって。

もう4年前だなんて、早すぎる……。数年前にイベントをした時、「CURRY NOTE DX」を買ってくれたお客さんが中身を見せてくれたんですけど、右側のメモになっているページに実際に自分でいろいろ書いてくれていたんです。それを見てすごく嬉しかったですね。しかもそのメモが、お店の感想とかじゃなくて、まったく関係ない内容なんですよ。今日の買い物リストみたいな。
――えー!(笑)

それだけ日常的に持ち歩いてくれてるのが嬉しかったです。

――宮崎さんはデザイナーとして装丁などのお仕事もされているので、本作りの知識やスキルがたくさんあると思うのですが、カレー以外のことについて、何か他のZINEを作ってみたいという気持ちもありますか?」

うーん、そこまで好きなものが他に思い当たらないかも……。でも、毎年「CURRY NOTE」を作り続けているおかげでイメージが定着したのか、ZINEのデザインを頼んでもらえるようにはなりました。最近だと、Homecomingsとサヌキナオヤくんがやっている「New Neighbors」というイベントのZINEをデザインしています。9年間自分のZINEを作って売ってきた経験があるので、完成したら終わりじゃなくて、卸し先とかまで一緒に考えてあげられたり。すごく楽しいですね。デザインの仕事以外でも、雑誌「RICE」のwebでインド旅行記のコラムを連載させてもらったりしています。下北沢の本屋で「CURRY NOTE」を買って読んだっていう編集者さんが声をかけてくれて。
――めっちゃいいなぁ。何でもSNSから始まりがちな時代だからこそ、そういうアナログな広がり方ってすごく惹かれます。

もちろんSNSも便利だけど、実際に手に取って読んでもらった方がより深く理解してもらえるような気がしますね。

――来年の「CURRY NOTE」10冊目に向けて、何か目標はありますか?

5年目に作った「CURRY NOTE DX」の2倍の厚みを目指して作りたいです。あとは、2年くらい前から、書店だけではなく移動販売の本屋でも売ってもらうようになって。そういう人たちが海外まで「CURRY NOTE」を連れて行ってくれる中で、台湾かどこかでたくさん売れたらしいんです。それを聞いて、日本のカレーって独自の文化があるから他の国でも需要があるんだと知りました。ついこの間も、2018年版をInstagramに載せたら、オーストラリアからメッセージが来たりして。もしかしてバイリンガル版もアリ!? なんて思っています。

――10冊目のタイトルはどうしますか、「CURRY NOTE SUPER DX」とか?(笑)

そのくらいわかりやすくて面白いタイトルがいいな。

――おおー! 来年も楽しみにしています!

<「CURRY NOTE 2018」取扱店舗>
・気流舎
B&B
・模索舎
・Irregular Rhythm Asylum
・タコシェ
・SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS
・Lilmag
ポポタム
ほか、宮崎さんの自主出版レーベル「MESS」のオンラインショップでも販売中。

<今回訪れたカレー屋>

curry 草枕
東京都新宿区新宿2-4-9 中江ビル2F
☎︎ 03-5379-0790
11:30〜15:00(14:40L.O.)、18:00〜21:00(20:40L.O.)
無休(正月等除く)
https://currykusa.com
「なすトマトチキン」980円。辛さは1〜10段階の中から選ぶことができる(辛いのが好きな方はそれ以上もOK!)。玉ねぎをたっぷり使用したサラサラのルーが特徴で、食べた後も胃がもたれることなくスッキリ。チーズやバターのトッピングもおすすめです。

「CURRY NOTE」作者に聞いた、ZINEカルチャーとカレーの話。はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

アーティスト

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着