台湾のバンド“宇宙人” 日本での自
身最高動員記録を塗り替えた来日ツア
ー・東京公演をレポート

宇宙人 (Cosmos People) 『OUR ADVENTURE TOUR in JAPAN ~僕らの奇妙な冒険~』

2018.9.29(fri) 東京 渋谷WWW
地下へと向かう階段の踊り場に、「from 日本的宇宙友」と署名の入った祝花が置かれている。場所が違えば、中国の天文研究会かなんかの集会かと思うかもしれないが、ここは渋谷のライブハウス”WWW”。今日は台湾の人気バンド、”宇宙人 (Cosmos People)”のライブ会場だ。実は、“宇宙友”とは“宇宙人”のファンをそう呼ぶようで、つまりこれは「日本の”宇宙人”ファンより」贈られた祝花なのである。その階段から、続々と降りてくる人、人、人。ワンマンライブだけでも、これが日本で4度目となる“宇宙人”だが、前日28日の大阪『CONPASS』は早々とソールドアウト、今日の東京公演も450枚を売り切り、日本での最高動員記録を塗り替えた。
もっとも彼ら、地元台湾では、既に4月に台北TICC(台北國際會議中心)で、3,000枚のチケットを1分でソールドアウト、来年には台湾最大のホール、台北アリーナでのワンマン開催が決定、という勢いであるから、日本ではまだまだ、その魅力を知る人が少な過ぎる、と言わざるを得ないだろう。だけど、それは”伸びシロ”だと捉えよう。” 日本的宇宙友”の増殖はこれからが本番だ。
宇宙人
会場内は既に、扉間際までギッシリと埋め尽くした人たちの、高揚した気分で満たされている。スタート予定の18:00を15分過ぎたところで、客席の明かりが落ちる。緊迫感とワクワク感が急速にこみ上げて来る。何度体験しても、ライブならではの、特別な瞬間だ。そして、彼らはステージに登場した。
ドラムのキックが、風圧をともなって会場全体を揺るがす。その一蹴毎に、客席の興奮も波打つようだ。やがてなだれ込んだ1曲目は「我們的探險計劃 (Our Bizarre Adventure)」。今回のワールドツアーと同タイトル。テーマ曲だね。まずはスタートダッシュ、客席を煽る。ステージ上手にギターの阿奎(アークェ)、下手にベースの方Q(ファンキュー)、真ん中にボーカルの小玉(シャオユー)、そのやや後方にドラムの小胖(シャオパン)、幾多のライブで鍛え上げた、落ち着いて堂々とした佇まいである。
宇宙人
続けて2曲目に突入。2nd アルバムに入っていた「一起去跑步(一緒に走ろう)」、彼らの初期の代表曲だ。もはや懐かしい感じがする(改めてMVを視ると、まずそのルックスの違いに驚いてしまう)が、アレンジはアップデイトされ、ギターの鮮烈なフレーズが心地よい。早くも短いコール&レスポンスで観客の気分を和らげた後、小玉が「Free Your Mind!」と英語で叫ぶ。
SEに導かれて3曲目はややしっとり系の「不用大惱 (Brainstoning)」。小玉が初めてキーボードに触れ、途中、ギターとキーボードでフレーズをハモるところがカッコいい。ふと方Qを見ると、演奏しながらさりげなく、ベースのチューニングを修正している……プロの小技だ。
”宇宙人”の魅力のひとつは、その演奏力だ。みんな巧いし、アンサンブルがいい。そしてバンドはアンサンブルが肝心。個々が巧くてもアンサンブルがいいとは限らない。それは、何度も何度も共に音を紡ぐことと、相互の深い精神交流が育むものである。”宇宙人”にはそれがあるし、ドラムの小胖はメンバーではないけれど、ここ数年、常に彼らのライブに帯同し、まさに息ピッタリの安定したプレイを見せてくれる。
宇宙人
一瞬の静寂の後、方Qがスラップ奏法でベースをはじき始めた。最新アルバム『RIGHT NOW』の2曲目、「你以為 (Hello Princess)」だ。たちまち会場全体が、ダンスビートに合わせて揺れ動く。間奏で、スラップ・ベースとギター・カッティングが、火花を散らすように激しく切り結ぶと、客席からは大きな拍手と歓声。興奮度が一段上がった中で、次に聴こえてきたのは耳慣れたメロディ。今年3月まで、NHK Eテレ「テレビで中国語」のオープニングテーマとして流れていた「那你呢(And You?)」だ。
台湾アーティストはもちろん、中国語あるいは台湾語で唄うのが基本だ。ところが日本人には解らないから、それがハンディとなって、日本で売れることは難しい、とよく言われる。だけどそうだろうか?「那你呢」のようなよくできた曲を聴いていると、言語はどうでもいいのじゃないかと思えてくる。少なくとも、歌詞の意味と、音楽としてのよさは関係ないだろう。おそらく、世界で最も英語を使えない日本人が、洋楽をこれだけ受け入れてきたのだし。
宇宙人
ここで初めてのMCが入る。小玉が日本語で話し始めるが、3言くらいで終わってしまう。と、その後を方Qが続ける。方Qのほうがやや多くの言葉を知っているようで、しかも発音がより自然だ。小玉は英語に切り替える。でも簡単な英語だから、それで充分だ。
次の曲は「如果我們還在一起 (What If We)」。バラードだ。小玉がキーボードを弾きながら唄い、阿奎がアルペジオを奏でる。この曲のMVは、まるで映画のように美しかったな。そしてエアリーなシンセとパーカッションがテープで流れ、それに合わせて、前アルバムのタイトル曲「一萬小時 (10000 HOURS)」が演奏される。
宇宙人
今度は阿奎がMC。彼は日本語はなし。英語で、一言一言、はっきりと丁寧に語る。きちんとした人柄が偲ばれる。
その阿奎が、アコースティック・ギターに持ち替えて、しかもヴォーカルを担当して、「心向夏天 (Summer Festical)」が始まる。ハーモニーなら的確にこなす阿奎も、リード・ボーカルとなると、少し緊張しているみたい。
また軽くMCをはさんで、今度は小玉がアコースティック・ギターを持って弾き語る「兩人雨天 (Rainy Day)」。小玉の声のいい部分がうまく活かされた佳曲だ。
宇宙人
久々にドラムが強いビートを繰り出す。小玉が「Where is my トモダチ?」と英日チャンポンでシャウト、曲は「真實朋友 (Offline Friends)」だ。サビでは阿奎が細かいギター・フレーズを畳み掛けて盛り上げる。阿奎のギターは、ほんとにフレーズが多彩でおもしろい。でも、ソロっぽいハデなことはほとんどやらず、効果的なフレーズで曲にダイナミクスを生み出す、というクロウト好み系なのだ。
続いて「要去高雄(高雄に行かなきゃ)」。小玉はキーボードとボーカル。後半大いに煽って、終わったかと思うと、キックが4つ打ちを始め、大きな手拍子がそれに応える。始まったのが「這就是我愛你的方法 (That's the Way I Love)」。これもクセになる、キャッチーなダンスナンバーだ。
宇宙人
高まった客席の興奮を、一旦抑えるかのように、方Qが日本語で喋り出す。「ネコを1匹飼っています。……ベースを20本(客席は「へー」と驚きの声)……飼っています(笑い)」何が言いたいんだ?(笑) しかし、シンプルな英語と、カタコトではあるががんばって日本語で話そうとする姿勢がいい。来日ライブなのに、客席に台湾の人が多かったり、中国語を分かる日本人(これがけっこう多いのだ)が多いと、中国語でベラベラしゃべりまくる台湾アーティストもいるが、あれは困る。先ほど、音楽に言語は関係ないと書いたが、これは全く違う話だ。
ゆるMCのなごみタイムが終わると、ギアをドライブに入れて急発進だ。「寂寞之上 (Alone Together)」は、グルーヴィなダンスビートでありながら、ちょっとせつないメロディが心の琴線を弾く。間奏にはベース・ソロ。方Qは弾き方も美しい。
宇宙人
続いて始まったのは、最近最も人気を集めているというヒップホップ・ナンバー「Bon Bon Bon Bon」。歓声が沸き上がる。CD音源では、”熊仔”のラップをフィーチュアしているが、今日は方Qがラップを披露。なかなかサマになっている。そして方Q、今度はベースを置いて、下手のテーブルへ。そこにはMacが1台と、色とりどりのインジケータが光る器械が置いてあったのだが、何に使うかと思っていたら、これだ。「DJターイム!」と叫びながら、器械を操作すると、様々な音が飛び出す。やがて、「右手ー!」と、観客に右手を挙げさせる。そして「両手ー!」で客席全体に腕の花が咲く。
再びメンバーが楽器に戻り、次曲のイントロが始まる。コンパクトなドラム・ソロを挟んで、曲は「Hey」。”Earth, Wind & Fire”のような、シンコペーションの効いたビートに、踊り出さずにはいられない。「盛り上がっていきましょー!」と小玉が日本語で叫びながら、思い切りジャンプする。サビは「Hey! Don’ t be sh---y!」だ。さらに阿奎が「ワウワウ」を使ったギター・ソロで盛り立てる。「ワウワウ」と言っても衛星放送じゃないよ。70年代には定番だったギターのエフェクターだ。……なんて説明しているヒマはない。これでライブ本編は終わってしまった。メンバーが捌ける。
宇宙人
当然ながら巻き起こるアンコールの手拍子、足拍子。やがてメンバー再登場。始まったのは、いしわたり淳治作詞による、日本語詞オリジナル曲「PARALLEL BLUE」だ。ミラーボールが回りだす。続けてもう1曲、「現在就讓我走 (Let Me Go)」。アルバム『RIGHT NOW』の冒頭を飾る曲。ゆったりと大きなビートに、翳りのあるメロディを乗せて、会場全体を音で包んでいく。
最後のMC。阿奎が英語で、初めて東京でSOLD OUTしたことに感謝の意を述べ、またすぐに来たいと告げる。そして今日初めてにして唯一の日本語で「みなさん見に来てね!」とシャウトした。続いて小玉、スタッフやWWWに”Thank you!”。そして虎の巻ということなのだろう、”Special weapon”と言いながら、メモを取り出し、日本語で「みなさん、全部、宇宙人の友だちです!」と。
大ラスの曲が、小玉のピアノから始まった。「往前(もっと遠くへ)」。これも彼らの代表曲のひとつだろう。スケールの大きい、感動的な、ラストシーンに相応しい曲だ。
宇宙人
あっと言う間の2時間だった。熱いパフォーマンスを終えて、すっかりリラックスした小玉は、みんなで写真を撮ろう、とステージ上にカメラマンを呼ぶ。「台湾での”チーズ”は、」……”じーくぁーいぇん"と聞こえたのだが、よくわからない。(筆者注:調べたら「西瓜甜不甜(シーグワティエンブーティエン=西瓜は甘いか?甘くないか?)」みたいですね)
非の打ち所のないコンサートだった。くどいようだが、巧いし、アンサンブルがいいし、曲がいいし、パフォーマンスがかっこいいし、おまけに3人ともイケメンと来ている。いいとこ持って行き過ぎだろ!
“宇宙人”をまだ観てない人は不幸である。まだ知らない人は罪である。しかしどうも、不幸で罪な人々が、日本にはまだまだ多いようだ。台湾で1万人を動員できるなら、日本では、人口比からしても、6万人を動員できるはずだろう。それがまだ450人だ。だけどきっと、だいじょうぶ。この熱血450人が、今日のライブでさらにヒートアップして、各々100人ずつ引っ張ってきてくれますから。ねっ!?

文=福岡智彦 [いい音研究所] 撮影=JIN QIUYU

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