『シェイプ・オブ・ウォーター』クリ
ーチャー×中年女性の、愛に包まれた
おとぎ話 #野水映画“俺たちスーパー
ウォッチメン”第四十七回

TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
本作の公開をずっとずっと待っていた!第90回アカデミー賞最多4部門受賞とか、そんなの関係ねぇ(古い)!ギレルモ・デル・トロ監督の最新作であり、彼の作品の中で私が最も愛する『パンズ・ラビリンス』(06)のようにクリーチャーが登場するというだけでも期待せざるを得ないのだ!もう観たという方もいるかもしれないが、未見の方や観るのを迷っている方の後押しをするために、本作『シェイプ・オブ・ウォーター』を紹介しよう。
1962年の冷戦時代。政府の研究所に清掃員として勤めるイライザは、喋ることが出来ない孤独な女性。ある日、極秘の実験を目撃してしまった彼女は、被験体である謎の水棲生物と親密になってゆく。やがてイライザとその生物は、種族を超えた愛を育み始める。
デル・トロ監督が創る現代のおとぎ話
(c)2017 Twentieth Century Fox
本作を創り上げたギレルモ・デル・トロ監督は、『美女と野獣』の物語が好きではないそうだ。「人は外見ではない」というテーマなのに、主人公は美しい処女であり、恋する相手は醜い野獣から美しい王子の姿に戻るからだという。その発想は目から鱗だった。確かに多くのおとぎ話では、醜い姿に変えられる魔法をかけられた者たちは最後には美しい元の姿に戻り、同じく美しい相手と結ばれる。そんな既存のストーリーにはせず「そのままの存在を受け入れる」おとぎ話をつくるため、デル・トロ監督は本作の主人公を、平凡な中年女性と王子様に変身しないクリーチャーにしたという。
冒頭、お風呂に浸かったイライザがバスタブで大きく足を開き、自慰をするシーンには度肝を抜かれた。決してセクシーではなく、むしろ日常的なこのシーンからは、おそらくは長い期間恋人のいない彼女が、お風呂に入るたびに自分を慰めていること、そして性欲を持ち合わせている“人間”なのだということが一目でわかるからだ。本作のヒロインが、処女性を重視されたお姫様ではないということが伝わるだろう。

(c)2017 Twentieth Century Fox
孤独で喋ることができないヒロイン・イライザを演じたサリー・ホーキンスは、失礼ながらめちゃくちゃ美人というわけではない。しかし、容姿やセリフではなく、ちょっとした視線や仕草で可愛らしさやセクシーさを見せてくれる。アパートの廊下をタップダンスのリズムで歩く、ご機嫌なシーンで、私は彼女の可愛さにキュンときてしまった。物語が進むほど、彼女がチャーミングに見えてくるのは、彼女が恋をしているからなのだ。「女は恋をすると綺麗になる」を、サリーは見事に体現している。
イライザと恋に落ちる不思議な“彼”を演じるのは、デル・トロ作品ではクリーチャー役で常連のダグ・ジョーンズだ。待ってました!
私は以前コラムで取り上げた『バイバイマン』(16)で、彼が演じたバイバイマンを“イケメン怪人”と称したが、『シェイプ・オブ・ウォーター』の“彼”はセクシーなのだ!しなやかな体でサリーを抱くシーンは、とても官能的。私のようにクリーチャーにときめく女性ではなくとも、ドキッとさせられるのではないだろうか。
現実とファンタジーの融合
(c)2017 Twentieth Century Fox
本作のタイトル『シェイプ・オブ・ウォーター』は、直訳すると水の形というような意味だが、デル・トロ監督はこのタイトルにある思いを込めているという。それは、色々な形に変化する水も、様々な形を持つ愛も、どちらも同じものという考えだ。作中でも、サリーと“彼”の育む愛、サリーを支える友人たちの愛など、いくつもの愛の形が描かれている。それと同時に描かれているのは、差別や偏見により社会からはみ出た者たちの悲哀だ。障害のあるイライザだけでなく、人ならざる“彼”、肌の色や性的指向においてマイノリティである友人など、皆がある種のアウトサイダーなのである。そして、彼らに対し傲慢に振る舞う軍人・ストリックランドは、現代にも根強く残るパワハラ・セクハラ問題が寄り集まったような、ラスボス的な存在だと感じる。
そんなシビアな現実世界も、クラシカルに抑えられた“ティール”(鴨の羽色)と呼ばれる青緑色で統一され、幻想的に作り込まれているためか、そこまで悲痛さを感じずに観られ、説教くさくなくて良い!こうして現実とファンタジーを個々に立てつつうまく融合させる演出は、デル・トロ監督ならではといえよう。

(c)2017 Twentieth Century Fox
デル・トロ監督の作風を知っている方ならば、本作の結末も素直なハッピーエンドなわけがない……と勘繰ってしまうのではないか。
しかし、おとぎ話の結末はいつもハッピーエンドと相場が決まっている。どちらと取るかはあなた次第かもしれないが、愛に満ちた美しいエンディングを用意してくれているので、その目に焼き付けてほしい。
『シェイプ・オブ・ウォーター』は、公開中。

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