BECK『Dear Life』【満遍ない安心は
でも、もはやどこにあるのだろう】
―ただ、満遍ない安心はでも、もはやどこにあるのだろう。
***
いいタイミングで、いいムードのベックが戻ってきたなとこの曲を聴きながら、待望のアルバムには話題になった「Dreams」、「Wow」が含まれてながら、タイトルが『Colors』というのも期待が膨らむ。ブルージーでメロウな彼もいいのだが、こういうどこかフリーキーで跳ねた彼こそライヴの舞台での食卓でディナー風の演出をしていたような真骨頂の一端が見える。かの「Loser」で一躍、ジェネレーションXのシンボルとなった頃から既に、彼も50歳に近くなった。皆、年齢は平等に往く、変化を遂げながら。もうなくなった大阪のアメリカ村でのタワレコで96年の出世作『オディレイ!』が山積みされていた景色を瞼の裏でまだ蘇りながら、葉書で当たった『ミューテーションズ』のツアーでの滋味深さを大阪のホールで観たのもなつかしく、プライマル・スクリームとの並びで、01年の潮風で音が流れながらライヴを観たサマソニ以降も、何度となく彼のライヴは観て、新譜はチェックし、都度のアクションが気になっていたものの、どことなく少し距離感も持っていた中で、「Wow」からの「Dear Life」、さらに新作の流れで俄然、気持ちが揚がっている、あくまで私的なものとしても、この2017年というモードに。このリリック・ビデオもアヴァンギャルドで、この世相にイロニカルで、アート精神に溢れていて、要は、サイケで心地良い。最後のラララの脱力的な感じも如何にもで。
もしも。そこがどんな乱数下の場所で、どうやって行けばいいかもわからなくても、一つひとつ解決(策)を出さなくてもよくて、生活の中での愛でられる何かを重ねていけば、いずれほどける。それはリスク・ヘッジや効率性の是非などではなく、それぞれのDear Lifeはもっとその外の他者に認められるべきだと思うからだ。
Dear life, I’m holding on.
艱難な瀬でも、誰もがどこかで親愛なる日々を懸命に航続していると願いつつ、生き延びることは相対的な中で、過圧気味な絶対性に個々が否定されることないと信じながら。
(2017.9.9) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
musipl.com 音楽レビューサイト
無名のアーチストに光を当てる音楽情報サイトMusic Plus、「http://www.musipl.com/」です。facebookページへ「イイね」していただけると嬉しいです。https://www.facebook.com/musiplcom/