【tacica】意義と価値をたたえた、生
々しい人間讃歌
図らずもとらざるを得なかった活動休止期間を乗り越えて完成した、3rdアルバム『sheeptown ALASCA』。真摯な思いが美しく強靭な調べに乗って歌われる、11曲の楽曲たち。感涙を呼ぶナンバー、粒揃いです。
文:竹内美保
生かされているというある種の宿命。生きながらえているという疑いようのない幸福。思いのほかいろいろなものが滲みる擦り傷も、ポロポロと何かがこぼれ落ちていくほころびも、そしてなかなか消えてはくれない赤褐色のアザも、全てが今の自分の一部である…と真正面から受け止めて今日を生きる者のための歌。そして、“でも。それでも”という強い思いを胸に抱き続けるために鳴らされる歪で、不器用だからこそ生々しい人間讃歌。ネガをポジに転じるパワーとか、そんな単純なものではない。ネガを捻り、絡め取り、球体にして、その上に立ってかろうじてバランスをとるような、切迫感を内包したポジティブネス。tacicaのニューアルバム『sheeptown ALASCA』から放たれてくるのは、聴く者の魂の、そのまた根源にズシッと響いてくるような、そんな歌と音楽だ。
このアルバムのリリースに向けて、猪狩翔一(Vo&Gu)が添えた言葉“今迄で一番、自分達の為に創って。今迄で一番、皆に聴いて欲しいと思える作品です”。アーティスト/ミュージシャン/クリエイターなら、常に“最高の最新作”を生み出し、完成させることはもはや当然のことではある。しかし、この猪狩の言葉は“完成度、質の高さ”を意味するものではないだろう。なぜならそれはもちろんあった上で、“この作品集が生まれた意義、存在する価値”を彼はこの言葉に託したのではないかということが、ここに収められたひとつひとつの楽曲を聴き込むたびに深く深く感じられるから。そして、その背景にはバンドが乗り越えた“坂井俊彦(Dr)の前縦隔腫瘍での入院から復帰への期間と、それを受けての活動休止”という事実も存在しているから。
静かに、しかし明確に覚醒を促す鐘の音のようなギターの音色とフレーズが始まりを告げる「ドラマチック生命体」という楽曲で幕を開ける『sheeptown ALASCA』。この「ドラマチック生命体」から「不死身のうた」、そして先行シングルとして発表されている「命の更新」へとつながっていく最初の流れが、本作品の意義を早くも決定付けている。理屈では決して括れない、理由を語ってもらう必要もないくらい、圧倒的な歌と音楽の説得力。知らず知らずのうちに…いや、はっきりと意志を持って、前のめりになって貪るように聴いてしまう熱量の高い言葉と音。正直なところを記せば、この3曲だけでヘトヘトになるくらい、思いがカタマリとなって心の深いところに届いてくる。
でも、決して重苦しくはない。その疲労感はむしろ清々しさを誘うほどだ。それはおそらく、猪狩のヴォーカルそのものに瑞々しい躍動感が満ちあふれているから。メロディーがとてもクリアだから。メンバー3人のアンサンブルが“正”のベクトルを持ってグルーブし続けているから。サウンド面でのトーンということで言えば、前作『jacaranda』と比較するとかなり“明”(“陽”ではない)の要素が強く、開放的になっている印象を受ける。詞のテーマや世界観は先に挙げた3曲に限らずどれもヘヴィでシリアスなものだが、沈み込んでいくような重苦しさや、それに伴う息苦しさを感じさせないのは、このトーンの性質によるものだろう。
だから…誤解を恐れずに記すなら、このアルバムの収録曲はどれもが一緒に歌える。フッと口ずさんでしまう、そしてその瞬間、“tacicaの楽曲”というだけでなく、あなた自身や私自身の歌になる。貪るように聴いた歌が、自分の中で消化され、そして昇華して自分自身の歌になる。“リズム”“歌”“ギター”“音符”“演奏”“音色”といった音楽にまつわる言葉が織り込まれたいくつもの歌が…。それは共感や共鳴を超える素晴らしい体感だ。ひとつ個人的な思いを綴らせていただくなら、「掟と礎」の“僕も今更 太陽を選ぼう”というフレーズは、もう高らかに歌い上げていたいほど高揚させられる一節だ。
病、そして活動休止。だからこその経験値が云々などということは軽々しくは言えない。でも、tacicaというバンドは間違いなくタフになった。それは歌が、音楽が証明してくれている。『sheeptown ALASCA』というアルバムからは、彼らが音楽を奏でる喜びを心の底から謳歌している姿がはっきりと浮かび上がっている。3人の深い呼吸が、強い鼓動が、波打つ血脈が、全てその音楽に表われているのだ。4月27日のリリースから、この作品集が多くの人の絶賛を受けるまで、そう時間はかからないだろう。その時に“この作品集が生まれた意義、存在する価値”がさらに輝くはずだ。
また、素晴らしいニュースも飛び込んできた。昨年5月に実施予定だったツアー、『アリゲーターは眠らない!!!!!』(細かいことだが、当初の表記から“!”マークが4つも増えている)が、1年と1カ月の期間を経て全て予定されていた会場で遂行されることが決定! 震災を受けて中止となった3月19日の復帰単独公演の分も含め、必ずや1日1日が大切な日となり、充実したステージが繰り広げられていくことだろう。観逃すわけにはいかない。観逃してはいけない。「命の更新」を、『sheeptown ALASCA』を、改めて体感するために。そして、あなたや私の歌になった彼らの楽曲を、彼らとともに歌うために。会えるのはもうすぐだ。
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