CS&Nが残した
米国フォーク/ロック史に残る
大傑作『Crosby, Stills & Nash』
鮮烈なコーラスと複雑かつ変則的な
ギターが生み出した斬新なサウンド
かといって、好き放題に音が絡み合っているわけではなく、変化に富む曲にわざとらしさはなく、見事なまでのコンビネーションで展開している。アコースティックなのに、そこからは確実に新しい何かが生まれようとするロック的なニュアンスが伝わってきた。それがまた、ロックシーンを彩る数多くのバンドよりも一歩も二歩、三歩も上を行く知性と才覚を感じさせるものだった。
デビュー時の、特に日本においては彼らは“夢のスーパーグループ登場!”みたいな売り出し文句で紹介されていた。3人はユニットとしてひとつにまとまる以前にそれぞれが、すでに世間で知られるアーティストだった。もっとも、今でこそ3(+1)人が在籍していたこともあってバーズバッファロー・スプリングフィールド、ホリーズの名は知られているけれど、当時はそれらのバンドのことを、日本ではどのくらい知られていたのか疑問だ。どう考えても『Crosby, Stills & Nash』の大ヒットがあり、それに続いて“彼らの在籍した…”と経歴を遡るように、それぞれのバンドの存在も知られるようになったに違いない。
簡単に3人の経歴など紹介しておこう。デビッド・クロスビーは1941年、ロスアンジェルス生まれ。カレッジ時代にフォークに目覚め、ロジャー・マッギン、ジーン・クラークと出会って、ザ・バーズを結成する。バーズはボブ・ディランの曲をエレクトリック化することで一躍世間の注目を浴びることになったが、その代表的な作品は「Mr.Tambourine Man」「Eight Miles High」「Turn! Turn! Turn!」をはじめ数多いが、クロスビーは主にリズムギターとヴォーカルを担当していた。次第にロジャー・マッギンと確執を深めるようになって脱退してしまうのだが、CS&Nを組むまではジョニ・ミッチェルのアルバム制作(プロデュース)などをしていた。ちなみにバーズはクロスビーがいた頃はいわゆるフォークロックと言われたりする路線だったが、次第にカントリー路線にシフトしていく。彼らもアメリカンロックを代表する重要なバンドなので、いつか単独で取り上げてみたいものだ。CS&Nにおいてはギターと言えばスティルスの名が先に上ってしまうところがあるが、クロスビーこそは変速チューニングの名手であり、彼なくしてはCS&Nのちょっと異質のギターサウンドは生まれなかっただろう。
スティーヴン・スティルスは1945年、テキサス州ダラス生まれ。子どもの頃は父親の仕事で全米各地を転々とし、南米のコスタリカに暮らしていたこともある。彼の音楽に時折見え隠れするラテン趣味はそのあたりのルーツのせい。カレッジ時代に音楽に目覚め、60年代のフォークブームの頃にニューヨークのグリニッジ・ヴィレジに向かい、フレッド・ニールの影響を受け、オウ・ゴー・ゴー・シンガーズのメンバーに加わる。このバンドで初レコーディングを経験している。その後、西海岸に向かい、リッチー・ヒューレイ、ニール・ヤングらとバッファロー・スプリンフィールドを結成するのだ。バッファロー・スプリンフィールドもザ・バーズ同様にロック史上最重要バンドのひとつに数えられるバンドなので、いつか取り上げてみたいものだ。話を続けると、バッファロー~解散後はスティルスは主にセッションミュージシャンとして活動していた。中でも彼の名を世間に知らしめたのが、当代きってのスーパーギタリストだったマイク・ブルームフィールド、そしてアル・クーパーらとの有名な『Super Session』('68)に参加したことだ。
グラハム・ナッシュは1942年、マンチェスター生まれ。唯一の英国人である。小学校のクラスメートだったアラン・クラークと聖歌隊などを経て音楽活動を始める。音楽のスタートは1957年頃ということだが、メンバーを加えてザ・ホリーズと名乗るのは1962年頃、というからほぼローリング・ストーンズ、ビートルズらと同窓みたいなもの。エヴァリー・ブラザースに大きな影響を受けたナッシュたちホリーズの売りは3声コーラス。この経験はCS&Nで存分に生かされることになるわけだ。初期のビートポップスなスタイルからフォークロックへと変遷する中で、秀逸なアルバム、ヒット曲を残している。ナッシュはビートルズのコンセプト作に刺激を受けて制作された『Butterfly』('67)を最後にバンドを脱退、クロスビーやスティルスと知り合ったこともあり、カリフォルニアに移住する。ザ・ホリーズはナッシュ脱退後も人気は持続し、日本にも1968年に来日している。ほとんど活動のニュースは聞かないが、何と現在もバンドは継続中らしい。
ニール・ヤングについては今回は触れずにおこう。単独で紹介すべきとてつもない大きな存在でもあり、あくまで今回はCS&Nということで。