Wakana オリジナル3rdアルバム『その
さきへ』インタビュー「音楽ってちょ
っと難しいなと思うこともある――」

Wakanaの3年3ヶ月ぶりとなるオリジナル3rdアルバム『そのさきへ』がリリースされた。ソロデビュー以来ライブの音楽監督を努めてきた武部聡志の初プロデュース作品となる今作は、多彩な作家陣を迎えてWakanaが表現する「そのさき」はどんなものなのだろうか?Wakana本人に話を聞いた。

――Wakanaさんです、今回3年3ヶ月ぶりのオリジナル3rdアルバム『そのさきへ』がリリースされますが、結構間が空きましたよね。
そうなんですよ。『Wakana Covers ~Anime Classics~』がリリースされたりはしたんですけどね。
――空いた期間も精力的に活動されていましたが、心境や環境の変化はありましたか?
前作『magic moment』は2020年2月に出したんですけど、コロナ大激突のタイミングで、ライブも飛んでしまったというのもあって。反動でその年の年末からはライブをすごく増やしていったんです。
――毎月のようにやられていた印象はありますね。
はい、制作よりも皆さんに会いに行く方を重点的にさせてもらったんです。やっぱり『magic moment』を皆さんにお届けできなかったのもあって、それを取り返す感じというか。なので昨年からゆっくり制作の期間に入ったという感じですね。
――気づけば3年3ヶ月ぶりになりました。『そのさきへ』を制作するにあたって、プロデューサーの武部聡志さんといろいろお話をされたんでしょうか。
武部さんは今回、アルバムに込めたいイメージとして「光が射す」だとおっしゃっていて、これを聞いたときに私は、人生の全てがドラマティックではなくても、人間はみんな光を求めて頑張って生きている、ということを思ったんです。
――とてもポジティブな言葉ですね。
コロナで人に会えないからこそ、オンラインがすごく発達して、会議も人に会わずともすることができるようになりましたけど、それでも人との繋がりを忘れずに、みんなで一緒にその先へ歩いていこうっていう想いをこのアルバムに込めようと思いました。
Wakana オリジナル3rdアルバム『そのさきへ』初回限定盤A

――コロナ禍では在宅での録音なども出来るようになったと以前おっしゃってましたが、今回のアルバムでもその技術は活かされましたか?
かなり活かされてますね! 今回書いていただいている作家さんの方で、直接お会いできてない方もいらっしゃるんです。そういう方とも音声や仮歌をすぐお送りして、レスポンスいただいてからこっちでちょっと変えていくというのが出来るようになりました。
――その作家陣ですが、すごいメンバーが集まりましたね。
武部さんとはソロ活動させてもらってからもう5年ほど一緒に音楽をやらせていただいているんですけど、アルバムのプロデューサーとしてお願いするのは初めてなんです。すごく嬉しかったですし、その分プレッシャーもちょっとありました(笑)。
――そうですよね。
皆さんに、自分の声をどう伝えるか、私はこれをこう歌いたいという想いを伝えていくことは少し緊張しました。
――Wakanaさんのキャリアがあってもそこの緊張はあるんですね。
あります。ご自分で仮歌を歌ってくださる方も多くて、それはすごいやっぱ嬉しい! みたいなのもありましたし(笑)。 あと半﨑(美子)さんは、私が武部さんに、ぜひ作っていただきたいというお話をしてお願いいただいて、快諾してくださって実現したんです。大好きな方なので、すごく嬉しかったし、震えました。

――アルバムを聞いた印象としては、幅を広げに行こうとしてる印象がありました。
今回は武部さんが「この曲をWakanaの声で聞いてみたい」っていう思いもあったのかもしれません。「Butterfly Dream」 は、最初、もう少しテンポが早かったんですけど、ブラッシュアップで今のテンポになりました。作家さん皆さんが歌を聞いて方向性をジャッジしてくれたので、すごく助かりました。
――その「Butterfly Dream」は比較的Wakanaさんのこれまでの軌跡を感じられる曲だと思ったんです、その次に来た「Rapa Nui」を聴いて、どこか牧歌的なメロディに「こういう風に来るんだ!」っていう驚きもあったんですよね。
「Rapa Nui」はイースター島の言葉なんですけど、アルバム1枚を通していろんなシチュエーションを見せたいと思ったんです。先ほども言いましたが、このアルバムは「光が射す」イメージということで、武部さんは今を歌うべきだっておっしゃったんです、Wakanaの今を伝えた方がいいよって。
――今、ですか。
「希望」は、この今の世界の情勢のことや、私自身が想っていることをちゃんと汲み取って作ってもらえた曲だと思うんです。

――今の心情と意欲的なチャレンジが同居していますよね、「KEMONO feat.清塚信也」はミュージックビデオも公開されていますが、その感覚を一番感じましたし。
この曲は作詞を鯨庭さんにお願いをすることになって、鯨庭さんの持つイメージをまず話し合ったんですけど、獣っていうと、ちょっと獰猛な怖い感じがするじゃないですか。
――そうですね。
でも寂しがり屋で、自分のことに自信が持てなくて、人と違うことを恐れる獣が森の中にいて、その子が森を抜け出すまでの心情を歌うっていう流れになったときに、なんかそれって人間と一緒だなって思ったんですよね。
――まさに人間ですね、獣の世界にもそういうやつがいてもおかしくないでしょうし。
鯨庭さんはこの曲の中で、独りでいることを恐れなくていいし、独りでいるって決めることにもっと誇りを持っていいし、自分と人と比べる必要もなくて、他人と違うことに弱さや不安を感じなくていいということを伝えたいとおっしゃっていたんです。私もそれを聞いて、タイトル曲の「そのさきへ」で伝えたいことと同じ気持ちだと思ったんですよね。
――そこはWakanaさんの思いと通じるものがあった。
はい、人って独りだと思っていても、きっと独りじゃないと思うんですよ。独りだと思っていても、実はちゃんとみんながいるんだってことを描きたかったんです。これはずっとこの先も、私が音楽をやる上で大事にすることだと思うんです。「独りだと思わないで、私はいつも音楽でそばに居るよ」っていうことを伝えなきゃいけない。
――アルバムの真ん中にこの曲が入っているのが面白かったですね、LP版だとしたらB面の一曲目のような印象というか。
曲順はみんなで決めたんですけど、何案か出た中で武部さんがOKしてくれたんです。
――3、4、5曲目とJ-POP的な楽曲が続いて、6曲目にインストが入り、7曲目の「KEMONO feat.清塚信也」で雰囲気が変わったと思ったら、「明日を夢見て歌う」という非常に美しい楽曲が来る。後半はちょっと色々なWakanaさんが見れて面白いです。
「明日を夢見て歌う」は今野均ストリングスの皆さんにお願いしていますし、「標」のチェロは西方正輝さん。おなじみの方々ともお会いできて嬉しかったです。
――その中では「Flag」はアプリゲーム『メメントモリ』のキャラクターソングなので、一番外からやってきた楽曲だと思うんですが、ものすごくWakanaさんを感じる一曲です。
収録は一昨年だったんですけど、普段とは全然違うチームで作っていただいて。
――正直、どこかKalafinaを想起させるものがあるというか。
そう言ってもらえるのは嬉しいです。ディレクターさんが「これをWakanaさんに歌ってほしいんです」と言ってくださって。
――ソロで活動されていますが、やはりこれまでの道のりと言うか、Wakanaさんといえば、という印象はみんなあるんだなと再認識しました。歌い上げる、広がりのある声というか。
上ハモを担当して…っていう感じですかね。
――でも、ソロで歌っているならハーモニーだけをやっていたら成立しないじゃないですか。今ソロとして歌い方も変えていると僕は思って聴いています。
そうですね、今みたいに強く歌ったら三声が成り立たないというか。Kalafinaの時の高音部分の歌い方なんかは、やっぱり三声のために出したい声なんですよね。

――「Flag」に関しては、彼らなりの落としどころというか、ソロであってもあの感じが欲しいという内面的なオーダーがあったんだろうなって感じたんです。だからいい意味でアルバムの中では浮いているし、とても良くできている楽曲だと思いました。
よく出来てますよね、ファンの皆さんも喜んでくれて『メメントモリ』公式のYouTubeも結構人気があるみたいで、もっと聴いて欲しいですね(笑)。
――Wakanaさんもソロ活動5年目じゃないすか、そういうKalafinaでやってきたことを求められる声もあると思うんですが、そこに対しての違和感は無いんでしょうか。
それはないですね。嬉しいですしそれが当たり前というか、やっぱりあれは求めてもらってたんだって再確認できていますね。やっている最中って夢中で必死だから、分からなかったんですよね、その声に気づけなかったことも多くて。
――やっている時は分からないものもありますよね。あととても気になったのは「そのさきへ」ですね。アルバムのタイトルにもなっている曲ですが、多分Wakanaさんが言いたいことが全部詰まっている曲だと思ったんです。
本当にそうですね。「そのさきへ」に全部込めました。ここは武部さんがすごいこだわってくださったところで、私は「そのさきへ」をアルバムのラストに持っていこうと思っていたんです。でも武部さんは「あとひとつ」を最後にするのがオススメだよって(笑)。
――オススメされたんですね(笑)。
悩んだんですけど、「あとひとつ」って今までのソロ活動5年間ずっとアンコールの最後で歌わせてもらってきた曲だから、確かに最後がいいなって思えて。実際マスタリングを聴いて、これを最後にして本当によかったなって改めて思いました。曲間の秒数とかもすごくこだわって、この2曲は置いています。
――今回のアルバムって、色々な人との出会いがあった一枚だと思うんです。それを受け入れて、今Wakanaが想っていることを総括するのは「そのさきへ」なんじゃないかと。
この曲は初めて聴いたときになんか涙が止まらなくなっちゃったんですよ。これは私の言葉で歌詞を書かなきゃいけないと思って。歌詞を書くときもなんか終始泣いていたんです(笑)。 ずっと泣きながらバーって一気に全部書けたんですけど、どっと疲れも出ましたね。本当に1週間引きずるぐらい。
――自分の中で気に入っている歌詞はどのへんですか?
2番の「思い出が増えていくことで僕らは安らげるのだろう」って所ですね。自分で書いて、自分で歌いながら「本当にそうだよね…!」って泣けてきちゃって(笑)。
――自分で歌詞を書いて歌いながら泣くのは凄いですね。
本当ですよね(笑)。何か嫌なこともきっとみんなたくさんあって、毎日に光が射すわけじゃないからこそ、何かパッと光が見えたときに人は感動するんじゃないかと思ったんです。日々の積み重ねがあるからこそ、瞬間をドラマティックに感じられるというか。なので1番はちょっと重たい歌詞にして、2番でそれが開けるような感じを意識しました。
――それはコロナ過を踏まえて、Wakanaさんが実感したものなのかもしれませんね。
そうですね。人はそれぞれが生きてきた時間も環境も違うし、分かり合えない部分もあるけど、それでも同じ時間を生きているっていうことに、やっぱり奇跡を感じるんです。そこに縁を感じながら、一緒にその先へ行けたらとは思っていますね。
Wakana オリジナル3rdアルバム『そのさきへ』初回限定盤B

――「あとひとつ」も3年3ヶ月ぶりのサードアルバムの最後にすっと入ってくるところが洒落ていると言うか。
今まで我慢して、どこにも入れてなかったんですけど、今回ついに。実は武部さんと同録の予定だったんですけど、眼の前でピアノを弾いてもらったら、あまりにも緊張して歌えなかったんですよ。あんなにライブで一緒に歌っているのに(笑)。
――これが入ることで、次のライブ楽しみだねって話をするのに近いような感覚で終われるのは素敵ですね。
そうですね、なんか5年の時を経て、そういう曲になってよかったなと思うんです。元々この曲は初めて作詞をする時に、来てくれた皆さんに想いを伝える曲にしようと思って書いたんですけど、武部さんはこの曲は祈りの曲で、ライブの最後に流れるような曲だよって言ってくれて。この日が終わりじゃなくてまたこういう日を楽しみにして生きていこうって曲だから、ここに入ることで、どこか伏線を回収した感じはありますよね(笑)。
――そんなライブも控えております。『Wakana Billboard Live 2023 ~そのさきへ~』7月に横浜、大阪と開催されます。
今回武部さんが音楽監督とピアノ、ギターが遠山哲郎さん、そしてマニピュレーターの前田雄吾さんをお迎えして4人でお届けします。
――パーカッションではなく、あえてマニピュレーターさんなんですね。
そうですね、今回はアルバムの再現を優先したいということで。ビルボードライブのアコースティック感ももちろん出したいので、アコースティックコーナーも作る予定ではあるんですけど、今までのアコースティックだけの雰囲気ではなく、ちょっと打ち込みの音も楽しみにしていただきたいなと思っています。
Wakana オリジナル3rdアルバム『そのさきへ』通常盤

――クラシカルなライブをやられている印象が強かったので、この印象が変わる感じのライブはとても楽しみですね。
本当はバンドスタイルも考えたんですけど、こういう形でできたら面白いんじゃないって武部さんに提案いただいて。凄く面白そうだなと私も思っています。
――最後にお聞きしたのは、アルバムタイトルの「そのさきへ」。Wakanaさんが考える、Wakanaのそのさき、というものはどういうものなのか教えてもらえれば。
とにかくライブを続けていきたいし、歌い続けていきたいですね。音楽でできることっていうものを常に伝えていきたい。音楽ってちょっと難しいなと思うこともあるんです。
――難しい、ですか。
はい、伝えたいことと違う受け取り方をする人もいるし、BGMとして楽しむ人もいる。勿論それで全然いいんですよ、それで誰かが楽しい気持ちになってくれたら、それでいいと思うので。
――はい。
でも、その中に少しでも伝えられることを入れていかなきゃいけない仕事なのかなって。歌い手って“伝える”ためにいなきゃいけないんだなということは、だんだん理解できてきましたね。
――そうかもしれませんね、その人の想いも込みでの「音楽」だと思います。
自分が歌うことが楽しいから、音楽が好きだからっていう気持ちだけでもいいかもしれないけど、せっかくこういう仕事をさせてもらっていて、みんなに伝えられる場所があるんだったら、幸せを一緒に見つけようっていう想いを常に発信していくべきだと思っているんです、そういう想いの“そのさきに”いつもこのアルバムがあったら嬉しいですね。
取材・文:加東岳史

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