Survive Said The Prophet、フェイク
じゃなく本当の想いを一つ一つ音にし
た「10年やってまだ本気でケンカでき
る環境を誇りに思う」

昨年リリースの傑作アルバム『Hateful Failures』で新たな次元へ突入したSurvive Said The Prophet、通称サバプロが放つ期待のニューシングル。TVアニメ『ヴィンランド・サガ』SEASON 2オープニング・テーマに起用された「Paradox」は、絶対の武器であるキャッチーなメロディの良さを軸に、容赦なくラウド&ヘヴィなサウンド、ドラマチックに変転する構成、そして「一歩ずつ進んでいくんだ」と叫ぶ強力なメッセージを持つ曲。メンバー個々のセンスと思考がぶつかって溶け合い、進化し続けるサバプロを象徴する新たなキラーチューン誕生を祝して、メンバー4人に話を訊いた。
――去年のアルバム『Hateful Failures』はアメリカで録ってましたよね。今回の新曲は、そのあとに作ったものですか。
Tatsuya:いえ、その時にこれも録ってます。なので、実は(アルバムの)初回限定DVDの中で、ホワイトボードに「Paradox」というタイトルが書いてあったりして、映像ではうまく隠したんですけど、ちょっとだけヒントを残してあったりするんですよ。なぜかアルバムの曲数よりも1曲多いぞみたいな。だから、その時に録ってました。
――『Hateful Failures』は、今聴いてもすごいアルバムだなと思います。どんなレコーディングだったんですか。1か月行ってたんですよね。
Ivan:3週間ぐらい?
Tatsuya:今まではメンバーだけじゃなくて、マネージャーやチームの人たちと一緒に行く形が多かったんですけど、今回初めてメンバーだけで行って。あっちでは自分たちで何もかもやるということで、レンタカーを借りて、買い出しもやって、4人の時間を深めに行くみたいなレコーディングだったんですよ。だから僕らの本当に生々しい感じというか、すげぇリアルなものが録れてるアルバムかなと思ってます。
Show:4人になって初めてのアルバムだったので、それがどういう変化をもたらすか、自分たちでもわからない状態のままで作っていったんで。一人減ると当然変わってくるわけですけど、それがいい状態に転ぶかどうかわからないままで行ったから。もしかしたら、そのまま解散するかもしれないみたいな。
Tatsuya:あー、思い出してきた。
Show:解散まで行くかはわからないけど、4人だけで過ごす3週間の中で、仲が悪くなるかもしれないし、もっと良くなるかもしれないし、ギャンブル的な感じで行ったから。でも結果的に3週間という時間が、前に進ませてくれたような時間になったから、今もこの「Paradox」という楽曲を世に出せてる。という結果でした。
――それは3週間の間に、腹を割って話し合う時間があったということですか。
Show:それもあったし、こいつらがケンカしたり。ケンカして、僕がキレるみたいな。
Tatsuya:で、僕はキレるタイミングをなくして(笑)。
Yosh:まあシンプルに言うと、合宿みたいな感じをイメージしてほしいんですよね。30歳、男4人が、リビングルームと寝る部屋しかない場所で3週間過ごすのは、バンドじゃなくても普通にカオスだと思うんですよ。おのおのしっかり家もあって、自分たちの生活スタイルがあって、それを築いたあとに原点回帰みたいな感じで。
Tatsuya:出会った頃の僕らに帰るみたいな。
Yosh:そうそう。
Ivan:普通やらないよ。
Yosh:そこを自らバンドでやるという意味でのギャンブルというのは、みんな意識があったんで。けど、その気持ちが結果的にアルバムに入れられたのは、さっきShowが言った通りです。
Tatsuya:僕ら、コロナの時期にすれ違いが多くて、会わない時間が増えちゃったんで。四六時中一緒にいた奴が急に会わなくなると、「何考えてるんだろうあいつ」みたいな、疑心暗鬼みたいな気持ちも生まれて、ボタンの掛け違えみたいなことがあって。それがあらためて状況が戻って来て、逆にグッと寄り添ってみたらどうなるんだろう?というのが、ある種の賭けだったんですよ。
Yosh:だからアルバムのタイトル通りですよね。「憎しみの過ち」。
Yosh
――ああー。『Hateful Failures』はそういう意味だったのか。
Yosh:はい。最終的にそうなりました。
――ちなみに、さっき言ってたケンカって、何をケンカしたんですか。
Ivan:何だったっけな。いつもケンカしてるんですよね。
Tatsuya:あの時は、ジャケットのデザインについて。
Ivan:まあケンカというか、言い合いというか。バーッて言い合ってたら、こっち(Show)がキレて、二人(Yosh&Ivan)で目を見て「あれ? どうする?」みたいな感じだったから(笑)。おもろかったけどね。
Yosh:インタビューでここまで話したことないけど(笑)。けど、正しいアクションがそこの部屋で全部行われていたというか、一人一人の正しいアクションが個人で行われた中で、じゃあ団体としてどうする?という決着が、すごくいい形でついたなと思っていて。「ドラマがないとバンドじゃない」というところもありますし、かといって、ドラマに取り込まれて落ちていくバンドも中にはいるわけで、ケンカというワードが出ましたけど、最終的に支え合いになったのかなって、今振り返るとありますけどね。その時は余裕がないから、自分の気持ちを吐き出すだけになるんですけど、受け取って、解釈して、時間をかけて、それが作品になるというプロセスがあって、フェイクじゃないというか、本当に思っていることを一つ一つ音にしているんだなっていうのは、今回に限らず、どのアルバムにも感じますね。
Ivan:今でもメンバーがケンカできる環境を、誇りに思ってますね。夫婦とかもそうじゃないですか? 言い合いできなくなってしまうって、良くない状況じゃないですか。10年やっててまだとことんケンカできるのは、すごい誇りに思ってますね。もちろんケンカが好きなわけじゃないけど(笑)。いつも平和で最高ですっていう感じでいたいんですけど。ね?
Yosh:熱い気持ちは間違いなく、クリエイティブにみんなすごくあるから。
Ivan:それって、本気でぶつけ合ってるっていう勝負じゃないですか。
Show:でもそれをあんまり出し続けちゃうと、問題がまた起きるんで…(笑)。それは二人に限らず。みんなそうじゃないですか。思ってることを全部おっぴろげて、出していくことはすごく難しいというか、そのバランスがどれだけ近くに寄るか、どれだけ遠ざかるか。そこはこの2,3年の(バンドの)命題になっていたような気がするので。さっきTatsuyaが言ったように、コロナでまったく会わなくなった時期に、考える時間ができるから、「俺が考えてるということは、こいつも何か考えてるだろうな」とか、勝手に想像がふくらんでいっちゃって、それが1,2年ぐらい続いて、お互いがお互いを見えない状態で、戦いもしないし。
Ivan:勝手に妄想して、勘ぐっちゃってる感じだよね。
Show:というところでの、アメリカのレコーディングだったから。というのがさっきの話に繋がるんですけど。
Ivan:あえて選んだもんね。あえて今やるかって。
Tatsuya:だからイチかバチかのギャンブルだったし、駄目だったら駄目でしょっていう感じ。しかも、僕が(バンドに)入ったのは『FIXED』(2016年)からなんですけど、その時のプロデューサー(クリス・クラメット)に戻るということだったから。なんだかんだ、メンバー全員で行くのは久しぶりだったし、『Inside Your Head』(2020年)はShowだけが海外に行って録ったりしてたし、そこからまた少し空いて、久しぶりにまた全員で行くというのがこのアルバムだったので。

Tatsuya

――サバプロのヒストリーの中でも、めちゃくちゃ重要なアルバムですね。道理で、音から感じる気迫が違うなと思います。そして話を今に戻して、新曲の「Paradox」。TVアニメ『ヴィンランド・サガ』のオープニングテーマに起用されるのは、「MUKANJYO」(2019年)に続いて2度目になりますか。
Yosh:『ヴィンランド・サガ』のチームに「もう一回」と言っていただけたのがすごく光栄だったんで、間違いなく気合いは入ってましたね。
――曲調や歌詞のテーマはどこから?
Yosh:音に出てる通りのダークな部分と、あとは、人間の中にいる二つの世界観というか…メインキャラクターのトルフィンは、いろいろな葛藤を心に思いつつも、生きてる限りは前に進む、そしてその方法を探していくという意味では、自分と同じような立場に立っているような気がしたので。前回の「MUKANJYO」と同じように、自分を重ねて曲と歌詞を書かせていただいたんですけど、アニメサイドからも「好きなように作っていいよ」と言っていただけたので、何の苦もなく、自分たちの持っているイメージを音にして、これだったらいいんじゃないかというものを出して、そのままOKが出たので、嬉しいです。
Tatsuya:「海賊と奴隷」というテーマがずっと頭にあるって言ってたよね。アニメの内容に寄り添って。
Yosh:そうだね。ストーリーライン的に、今までは先頭で戦っていた人間が奴隷になってしまって、という二つの世界観がはっきりしていて。自分の中の葛藤があって、というものを曲にしていきました。
――メンバーそれぞれの、「Paradox」に対する思いは?
Show:歌詞はYoshが書いてるんで、それに対してどういう思いを乗せるか。僕は英語がしゃべれると言えるほどの知識を持ってないから、どういう歌なの?って聞いてもわかんないところがけっこうあって、翻訳サイトとかに歌詞を入れて、どういうことを言ってるのか調べたりとか。
Tatsuya:自発的にね。
Show:「こういう曲だよ」ということは、Yoshは言ってくれるんですけど、この言葉はどういうことを言ってるんだろう?みたいなところは、いつも自分で考えてドラムのフレーズを組んでいくんですよ。でも今回は、そこにとらわれすぎて難解にしたくないという話があって、というのも、ライブができる状況になってきたから、ライブで映えるものにしたいということに今回はこだわって作りましたね。結果的にちょっと難解にはなっちゃったんですけど、歌詞と歌の譜割りに合わせてやると、どうしても複雑になっちゃうんで。元々自分が培ってきたものがそれで、あんまりライブ映えとかは気にしてこなかったのを、今回はすごく考えて、その間の折衷案をすごい考えた曲ですね。僕のパートの話で言うと。
――複雑というよりはスリリングな展開だと思います。どんどん風景が変わっていくような。
Show:それは歌がそうだったからで、ドラムも当然そこに寄っていかないといけないので。やっぱり一番聴かれるのって歌じゃないですか。歌がある曲は。だから歌を邪魔するフレーズは嫌いで、自分が目立つフレーズを叩きたい気持ちはわかるんですけど、「そこじゃないでしょ」ということは常に思って叩いてます。
――Ivanさんは?
Ivan:普段はだいたいリズムをやらせてもらうんですけど、今回は僕がリードを弾いていて、しかもこの曲で初めて8弦のギターを使ったんですね。8弦を使っているからといって、ずっとズンズンズン!っていう使い方よりも、新しい使い方というか、レンジ感をどういうふうにいい感じに出せるかな?というところを探ってやってみましたね。それがこの曲に対して、個人的に一番新しいチャレンジをしたところです。歌詞はYoshが全部やってるから、自分は曲を支える部分だったり、そこの枠の中のクリエイティヴィティを出していくかというところで、あえてそういう選択をしてみましたね。
Show
――8弦ギターって、低音域が増えていくんですよね。
Ivan:ローが2本増えてます。僕はIbanezさんにスポンサードしてもらってて、担当の方とも仲良くしてもらってて、新しいアルバムとか新しいツアーのたびに相談してるんですけど。6弦はドロップA#のチューニングが基本なんですけど、その上で何か新しいことないかな?と思って相談したら、「8弦、いいんじゃない?」ってお勧めされて、そこから導入して、いろいろ試しみて。言ったら、鉛筆で絵を描くのと、ボールペンで絵を描くのとは違うじゃないですか。筆が変わると全然違うものが出てくるので、いろいろ試して、自分の今まで見つけてないところを見つけていくというのが、僕の個人的なクリエイティブプロセスで、そういうところで「この曲には8弦が合うんじゃないか?」と。
Yosh:僕が声が高いんで、ギターのロー感がライブでは一番大事だと思うんですね。そういう意味でいろいろ考えてくれて、ギターがツアーごとに増えていくんですけど、それの中で最近思いついたのがそれで、感覚的にはピアノにオクターブを足す感覚ですね。同じコードを弾いてるんだけど、さらにドラマチックに両サイドに行けるようにっていう使い方だと思います。
Ivan:あと、5人から4人になったタイミングで、ベースが抜けると、じゃあリズムギターとして何をすれば抜けた部分をカバーできるのか?という発想から出たコンセプトでもあったんですね。まあ単純に、新しい機材にワクワクするだけの馬鹿っていうところもあるんですけど(笑)。
Yosh:でもそれって重要だよね。同じ6弦を触ってても同じものしか出てこないからって、率先していろんな楽器を試すのって、歌詞を書いてデモを作る人間からすると、「これは確かに考えてなかったわ」とか、キャッチボールができるのが一番大事なんで。そういう面では完璧なムーヴだと思いますね。
――「Paradox」は基本英語詞ですけど、後半のクライマックスで突然日本語になって。歌というか、シャウトというか、叫びというか、すごい展開になっていくんですけど、あれはどういう発想で?
Yosh:(アニメのストーリーと)自分を照らし合わせた中で、歌詞的に出てくる部分があって、この中で言うとそれが間違いなく日本語の部分で、アニメとすごくいい感じでマッチングしたという結果がすべてだとは思うんですけど。僕的には、本当にナチュラルに出て来たつもりではあるんですよね。言いたいことを言いたいように言ったという部分があって、それが身内も外受けも含めて、すごいメッセージがあると思っていて。メインキャラクターが進む道を探しているストーリーの中で、見つけるポイントというものがあると思うんですけど、この曲を通して自分たちも進んでいくという、それの探し方でもあったんじゃないかなって、今話しながら思ったりしています。
――あそこは何回聴いてもドキッとします。「一歩ずつ進んでいくんだ」という、気迫がすごすぎて。
Yosh:ありがとうございます。伝わったということが一番嬉しいですね。自分の気持ちを言ってても、伝わらなかったら独り言になるんで。それがさらに、自分が不得意な日本語というパートに入れて、それが一番伝わりやすいポイントになり、人がパッと聴いた時に一番キャッチーでいる部分になったというのは、ナチュラルに出来て良かったなと思います。
Ivan
――アニメで曲を知った人は、音源で最後までしっかり聴いてほしいです。そしてもう1曲、カップリングの「Find You」は、アレですよね。「Paper Sky」がオープニングテーマに使われた、去年のアニメの…。
Yosh:そうです。TVアニメ『東京24区』の挿入歌です。
Tatsuya:放送は去年で、すぐに出さなかったという(笑)。アルバムにも入らなかったし。
――これはアニメに向けて書き下ろした曲だったんですよね。
Yosh:「Find You」に関しては完全にそうだったんですけど、そのタイミングで『Hateful Failures』のアルバムが出てて、そこに入ってる最後の曲(「Prayer」)にフォーカスしてほしかったんですよ。バラード的には。だからすぐには出さず、ちょっとお預けにして、「あの曲どこ行った?」って思わせるのもいいんじゃないかという感じで。
Tatsuya:その時はもうアルバムが出来上がってたんで、ここに1曲プラスするのは難しいだろうと。
Yosh:二つのバラードはくどいかな?というところで、どっちも大切にしてほしいから、出すタイミングを考えたということですね。
――ピアノと弦のロックバラードで、これも、とても前向きなメッセージだと思います。未来へ向けての。
Yosh:TVアニメ『東京24区』のテーマ自体があった中で、書かせていただいてはいるんですけど。「Find You」というのは、(Find=見つけるのが)人間になる可能性もあるけど、「いつか希望を見つけるんだ」でもいいし、そういう見方は自分の中にはあって。何かを見つけるという行為、アクションが大事だよねという、「前向きで行こうよ」という部分はありますね。
――みなさんぜひカップリングもチェックしてください。さらに、アコースティックバージョンも入るんですよね。通常盤CDには「Paradox」のアコースティック、そして期間限定盤には「Mkanjyo」のアコースティック。
Yosh:せっかく『ヴィンランド・サガ』で2クールやらせていただいたので、そこをエンジョイしてもらうという中で、入れることになりました。去年のアルバムが出る前に『something RAW -Acoustic Tour-』をやらせてもらって、アコースティックが自分たちの強みであることがわかったので、それをそのまま提供できたと思ってます。
――アコースティックって、メロディが良くないと成り立たないですから。サバプロはラウドロックのカテゴリーだとは思いますけど、こうして聴くとメロディの良さがすごくよくわかる。
Yosh:そこは意識してやっているところはあるので。メタル好きもそうですけど、いろんなジャンル好きが足を運んでいただけることが、音楽の正解だと思うので。ベタかもしれないですけど、ジャンルにとらわれすぎず、余裕があったら「こういうやり方もあるから聴いてみて」ってみんなに言いたいですね。あとアコースティックに関しては、Showがシシド・カフカさんとel tempoっていうパーカッションユニットをやっているということも、すごくいい影響があって、アコースティックのボリュームコントロールと、伝え方がさらにレベルアップしたなと感じてます。
――el tempoは、パラリンピックの閉会式に出ましたよね。2021年の。
Yosh:そうそう。その年、一番ビッグムーヴしてたのがShowでしたね(笑)。俺、カメラ持って構えてましたもん。ヤベー!って。だってオリンピック、パラリンピックですよ。ヤバくないですか。
――結成12年で、個々としても、バンドとしても、新しいことにどんどんチャレンジしてるサバプロ。頼もしいです。そしてリリース後は、7月1日からライブハウスを回る長いツアーが始まります。どんな気持ちで臨みますか。
Yosh:今までの自分たちのキャリアを経て、アットホームな距離感で、僕たちの壮大なライブを味わえることは間違いないので。特に「はじめまして」の方々は、怖がらずに来てほしいですね。(コロナ規制が)緩和されたとはいえ、僕たちのやり方とみんなのやり方とは違う面があるので、それを楽しみに来てもらえたら、いい思い出になるし、僕たちも新しい人たちと出会えることによって音楽が進化していく、オーディエンスとのケミストリーを感じられるツアーに仕上げるので、みなさん足を運んでほしいです。お願いします。

取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
Survive Said The Prophet

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