ハンブレッダーズ、全力で歌い鳴らし
たツアーファイナル 「俺たちは絶対
にバンドを続けると心に決めました」

ヤバすぎるワンマンツアー2023 2023.5.30 NHKホール
開演前、「マスクを着用した上で、声を出して楽しんでいただけまーす!」と繰り返す嬉しそうな、そして聞き覚えのある声の影アナの時点で喜びが伝わってきた『ヤバすぎるワンマンツアー2023』最終日のNHKホール公演。今回のツアーから声出しが解禁。ライブをするにもいろいろな制限があった2021年のインタビューで「ハンブレッダーズのライブは一緒に歌ってもらうことが肝になっている」と言っていたメンバーも、衝動を堪えるしかなかった3年間にも心の中ではガンガン歌っていたであろうファンも、きっとこの瞬間を待ち望んでいたはずだ。
3rdフルアルバム『ヤバすぎるスピード』のリリースツアーということで、ムツムロアキラ(Vo/Gt)、でらし(Ba/Cho)、木島(Dr)、ukicaster(Gt)が最初に鳴らしたのは、アルバムの1曲目でもある「起きろ!」。ukicasterがお立ち台の上から放つクリアなギターリフを筆頭に、躍動感溢れるバンドサウンドが聴く人の心を目覚めさせる。<いつかは終わってしまうけど 少なくともそれは今じゃないぜ!>という歌詞が、長かった夜の先で希望の兆しを感じている今の状況ともマッチしている。2番サビではイヤモニを外して観客のシンガロングを聴くムツムロ。この日はそんな場面も多かった。
でらしのベーススラップと3人のキメの掛け合いを経て始まった「ワールドイズマイン」でもドカンと盛り上がる。「“ここで歌って”とか“手を叩いて”とか、そういうルールはないんですけど、このツアーに関してはみんなに声出してほしいなって思ってます。よろしく!」とか「人がギター弾いてる時はイェーイって言え!」と言いたくなるムツムロの気持ちもよく分かるが、そう言われるより先に歌ったり歓声を上げたりしているオーディエンスも、そういった反応を受けてさらにノッていくバンドも最高。ギターがぐいぐい鳴りまくる4ピースサウンドに若いお客さんが湧いている光景を見ていると、ロックバンドの未来は明るいなって思う。若者はギターソロを飛ばしがちって聞いたことがあるけど、ネット上の言説なんて信じてる場合じゃないなって思う。
観客の期待を煽る確定演出的な曲紹介も心地よく、「すげーな、NHKホール。今日の景色、マンガだったら見開きページになると思う」(ムツムロ)からの「見開きページ」、「木島、今日の感じ、どう思う?」(ムツムロ)、「東京、いいね!」(木島)といったやりとりから「いいね」にテンションが上がる。<いいね いいね 溢れてるぜ 世界中のあちこちに>とみんなで歌いながら飛び跳ねる光景にはハッピーバイブスが溢れている。MCに入ることを察してか、客席からメンバーを呼ぶ声が飛ぶと、「どの会場も“木島!”から始まります」「ずっと声出しできなかったから野次も嬉しい」とでらし。「日本のド真ん中の渋谷でライブをするのは未だにソワソワする」「俺ら4人が束になっても1人のギャルのパワーには敵わない」といった会話をしてから、「再生」から演奏を再開すると、ムツムロのボーカルとメンバーのコーラス、観客のシンガロングが混ざり合ってホールに響いた。1曲目からそうだったが、この曲のここでシンガロングが起こったとかではなく、もはやずっと歌っている気がする。ものすごい熱量だ。
徐々にミドル~スローナンバーも登場。イントロから渋いロックンロール「プロポーズ」は、ukicasterの持ち味であるブルージーなフレージングが堪能できる曲で、ソロはもちろん、みんなでラララと歌うアウトロの裏のギターも聴き応え抜群。ムツムロのギター&ボーカルに3人が加わって始まる「パーティーを抜け出して」は、倍テンになる終盤のドラムのみずみずしさが最高。ムツムロのボーカルが温かみを伴いながら響く「ファイナルボーイフレンド」は、曲をグオンと前進させるリズム隊のプレイも痛快だった。スローテンポでも締まりのない演奏にならないのは彼らの貢献によるところが大きい。
ここで木島のみステージに残り、ドラムソロを披露する新鮮なシーンが。一つのリズムパターンを基に構成していくソロで、休符の大切さを理解したうえでのリズムの取り方や、ロールの粒立ちの良さ、右手を上げて歓声を浴びるもちょっと照れが滲み出ている感じが木島らしくていい。やがて3人が合流し、ムツムロ&ukicasterのツインギターがハモりながら鳴らすのは「ヒューマンエラー」イントロのリフ。全体的に音を詰め込み過ぎない、アンサンブルに隙間を残した曲だけに、ギターソロも抜き気味で……と思いきや、タガが外れたように後半大爆発。なんじゃそりゃと言いたくなるクレイジー展開だが、みんなまんまとぶち上がる。そしてベースラインが終始カッコいい「才能」へ。2番にはEDMを彷彿とさせるビート展開があるが、その後の最も踊れるパートで待ち受けているのがギターソロなのもこのバンドらしい。ロックバンドならではのダンスミュージックに会場も大盛り上がりだ。
「俺たちはこれから後半戦やっていくので、やっていくなり、いかないなり、好きにしてください」というムツムロ特有の言い回しによるMCを挟みつつ、「アイラブユー」、「常識の範疇」、「ギター」を立て続けに披露。光に包まれ、バンドロゴを背負いながら演奏する姿も含めて頼もしく映った「光」でまた一つハイライトを生んだのも束の間、最後の一音はあえて弾かず、ムツムロが「お前らの人生のフルコーラス、俺がギター弾いてやる」と告げて「ヤバすぎるスピード」へ繋げる。ズルいくらい見事なライブアレンジだ。観客一人ひとりのエネルギーをたっぷり受け取ったバンドは、高揚感に身を任せながら、曲名通り、法定速度なんて知らないぜって感じの演奏。ドンガラガッシャーンとなだれ込んで終わるラストがあまりにも最高で笑いが止まらない。
そして笑いながら、ああ、きっとこのバンドも私たちと同じなんだと改めて思った。毎日を過ごす中で「何だよ」って思うこともたくさんあるけど、足がこんがらがりながらでも、一生懸命走っている。外から押しつけられる理不尽とか、気に食わないやつのなんか癪に障る言葉とか、本当は変わりたいのに変えられなくて嫌になる自分の性格とか、そういうものと戦っている。バンドのそんな姿に「歌いたい」とか「叫びたい」という感情を駆り立てられ、客席にいる私たちも、ただ静観するのでは済まなくなる。
「東京に引っ越してきて2年経って、こうやってたくさんの人の前で演奏させてもらって。ドキュメンタリーで言うと輝かしい瞬間だと思うんですけど、この瞬間以外はそんなことなくて、次のライブのために毎日ちょっとずつ頑張ってるというのが僕らの現実です。真っ当に生きてる人というか、毎日頑張ってる人が報われたらいいなと思いながら、毎日暮らしてます。俺はサボってよく朝ごはんを抜いちゃうんですけど、明日はみんな朝ご飯食べられたらいいんじゃないかって、そういう気持ちでやります」
ムツムロがそう紹介したのは「東京」。ムツムロのまっすぐなボーカルも、3人の気合いが入ったコーラスも心にグッと響いた。本編ラストのMCタイムに入り、3月から始まった計19本の全国ツアーも最終盤に差し掛かった。そんな中、ムツムロが「でも、自分の中では19本じゃなくて……」と切り出す。そのあと彼が語ったのは、声出しありのツアーは3年ぶりだということ、2020年3~4月に企画していたワンマンツアー『“この先の人生に必要がない”ワンマンツアー』を、新型コロナウイルスが蔓延したため断念せざるを得なかったこと。その3年の間にライブハウスで働く人やPA、テックなど、自分たちの周囲にいる人がダメージを負っていくのを間近で見てきたこと。苦しい時期を何とか乗り越えて、声出しもできるようになった今、「3年ぶりに、やっとツアーファイナルができてる」という気持ちになっているんだということ。涙で言葉を詰まらせながら、ずっと抱えていた気持ちを溢れさせた。
さらに、「だから“戻った”って言い方をしたくないんですよ。みんなが続けてきてくれたから、今日という日を迎えられているわけで。この先どんなにつらいこと、しんどいことがあっても、俺たちは絶対にバンドを続けると心に決めました」とムツムロ。実際に「つらい」「しんどい」と思っている時はその先にあるかもしれない希望に目を向ける余裕なんてないケースがほとんどで、そういった経験も自分にとって必要だったと認めるには、続けていった先で、そう思える未来を作るのが一番だろう。そして、コロナ禍におけるロックバンドとそのファンの歩みは、まさにそのようなものだったのかもしれない。
バンドを続けることで、リスナーとともに人生を歩み続ける。これを聴いてどうか生きていてくれと、自分たちのバンド人生から出た音楽を届け、リスナー一人ひとりを主人公に変える。そうして一人ひとりの存在、人生を肯定する。そんなバンドになっていこうと、ハンブレッダーズはこの3年で決意した。「みんなのつらいことやしんどいこと、俺は知らないけど、できれば生きててほしいなと思います」と「BGMになるなよ」と演奏すると、最新シングルからの「THE SONG」で本編は終了。全身全霊の演奏とともに届けられる<大丈夫 君は生きていたっていいんだ>、<絶好調にしてやる ヘッドフォンをしろ!>といった言葉が泣けてしょうがなかった。
その後ライブはアンコール、ダブルアンコールまで続いたが、ライブが終わっても歓声や拍手を送り続けてたくなる観客の気持ちも、アンコールを求める客席からの声に応えたくなるメンバーの気持ちもよく分かる、気持ちのいいアンコールだった。最後に何の曲を演奏しようか、4人がステージ上で相談していたのもいいシーンだったし、そこで選ばれたのが「ライブハウスで会おうぜ」だったのもなんだか嬉しい。フルスロットルのテンションで、フルボリュームのライブを駆け抜けたハンブレッダーズと観客たち。それでも収まらない興奮と、ライブは終わったけどハンブレッダーズを聴いている間は無敵になれるんだ、という安心感を心に抱きながら、私たちは帰路についたのだった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=タマイシンゴ

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