ピアニスト宮田森が語る『Salonkonz
ert mit Duo Melange(デュオ・メラ
ンジェ サロンコンサート)』~ウィ
ーン交響楽団首席チェロ奏者のベンツ
ェ・テメスヴァーリとの出会いからト
リオ結成、公演への想いまで

2023年8月、東京・大阪にてピアニスト宮田森企画による『Salonkonzert mit Duo Melange(デュオ・メランジェ サロンコンサート)』が開催される。ウィーン交響楽団首席チェロ奏者のベンツェ・テメスヴァーリ(Bence Temesvàri)とのデュオ公演。ふたりはウィーン国立音楽大学の学友で、室内楽授業の折、トリオを組んだことがきっかけで交流を深めたという。
ふたりは現在、ヴァイオリニスト松岡井菜(まつおか・せいな)を加えたピアノトリオ『Trio Melange』としてウィーンを中心にプロ活動をしている。ベンツェとの出会いからトリオ結成、今回の公演内容について、宮田にたっぷりと語ってもらった。
宮田とチェリストのベンツェが出会ったのは2018年。ウィーン国立音楽大学に在学中のことだった。

「室内楽の授業でエリザベートというヴァイオリンの子とベンツェが二人で組んでいて、そこにピアノが必要だから入ってくれないかと声をかけられたのがきっかけでした。当時、僕は他にもいくつかカルテットやクインテットのグループに誘われ入っていたのですが、ピアノトリオもやりたいと思って快諾しました」
当時はまさか、将来公式にプロとしてピアノトリオを組むことになるとは思ってもいなかった、と話す宮田は、初めてベンツェのチェロを聞いたとき、他と一線を画す音の深みに「一目惚れならぬ一耳惚れした」という。
「人柄もとても穏やかで温厚なので、一緒に音楽を作っていくときもとても心地よくすごく楽しいと感じました。ヴァイオリンのエリザベートは、卒業論文やコンクールの忙しさもあって、残念ながら一学期でグループを抜けざるを得なくなり、僕たちは新しいメンバーを探すことになりました。基本的に授業で組んだグループは学期毎に解散することが多いのですが、ベンツェとは組んだままで解散しようという話にはならなかったのです。この頃、ベンツェはまだウィーン交響楽団には所属していませんでしたが、その頃から僕は、『彼は絶対に成功するだろう』と思っていました」
ベンツェの音と人柄に惚れ込み、その将来を確信した宮田。当初から密かに思い続けていたのが、ベンツェとともに自分のピアノトリオグループを作ることだった。その念願は、翌年うことになる。
2019年、宮田はウィーンにて『Trio Melange』を結成。ヴァイオリンには松岡井菜を迎えた。松岡は、「佐渡裕とスーパーキッズオーケストラ」に第1期生であり、昨年2022年には仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門で第一位を獲得している。
「僕はベンツェにとても信頼を寄せていたので、彼のレベルに合わせられるヴァイオリニストが必要だと思いました。そこで、同級生や学校の教授たちに『いいヴァイオリニストがいないか?』と聞いて回り、たどり着いたのが松岡井菜さんだったんです。初めて彼女の演奏を聴いたのはYouTube。なんて自由で音楽的な演奏なんだと衝撃を受けました」
宮田が直接オファーし、グループへの加入が決まる。2019年より公式に「Trio Melange」と名付けたピアノトリオの活動をスタートさせた。
「『Melange』というのはウィーンの有名なカプチーノで、国民的に愛されているコーヒーなのですが、元々の語源はフランス語で、“混ざり合った”という意味があります。ウィーンで出会った、国やバックグラウンドが様々な三人が音楽で混ざり合いハーモニーを作っていくというコンセプトにピッタリだ!と思いこの名前にしました。ずっとお世話になっている、ウィーン国立音楽大学の室内楽教授であり、ウィーンのコンツェルトハウスを拠点に演奏会をしているWiener Klaviertrio(ヴィーナー クラヴィーアトリオ)のピアニストでもあるStefan Mendl先生もこのトリオを高く評価してくれていて、教授から推薦されたグループしか参加できない学内プロジェクト=ベートーヴェン生誕250周年プロジェクトなどに選抜してくれたりと、とても応援してくれています」
8月の公演はもともと、ウィーンの若く才能ある音楽家たちとともに行う「サマーキャンプ・プログラム」として企画したものだった。毎年夏に日本に滞在し、研鑽しながらコンサートを開くという企画だ。しかし、残念ながら今年は松岡は不在。コンクールなどで多忙を極めているという彼女を除き、ベンツェと宮田でデュオ公演を行うことになった。ベンツェも日本での演奏機会を望んでいたという。トリオの「スピンオフ」として、グループ名に絡めて『Duo Melange』と公演タイトルを決めた。
「実は、(8月の公演と)全く同じプログラムで6月30日にウィーンの旧市庁舎 バロックザールで演奏予定です。ちょうど日本でのコンサートの草案を練った直後にこの(ウィーンでの)コンサートが決まって、『それなら全く同じ内容にしてそれをそのまま日本に輸入する形にしよう!』という話になったんです。少し大袈裟ですが(笑)。ですので、お客さんたちにはウィーンでのコンサートと全く同じものを日本で楽しんでいただけます」
肝心のプログラムは、パガニーニ、ブラームス、ラフマニノフから4曲。前半はベンツェが、後半は宮田がやりたい曲を並べたという。
「前半は二曲。最初は、パガニーニの「モーゼ幻想曲」です。「モーゼ幻想曲」は、元々ヴァイオリンと管弦楽のために作曲されたものをチェロとピアノのために編曲しています。なのでヴァイオリンで弾く場合は4番線の一番音の低い弦一本で弾くのですが、チェロでは一番音の高い弦一本で弾くことになります。あまりチェロの曲では使われないくらい高い音が出てくるところが見どころのひとつですので、そこも注目していただけると嬉しいですね。全体的にはユーモアに富んだ聞きやすいテーマにパガニーニらしいヴィルトゥオーゾな変奏でかなり派手。一曲目にふさわしいと思います」
続く二曲目はブラームス「チェロソナタ2番」。ブラームスの没後190周年ということもあり、メインプログラムに据えた。
「この作品は、作品番号も99というだけあって、かなり創作後期の一曲です。チェロソナタ1番がこの作品の21年前に作られているので、長い沈黙を破って再びチェロソナタが作られたことになります。1番と2番を比べると音域の差が感じられます。1番はチェロと伴奏のピアノ(の音域)が被って互いに少し邪魔しあったり、チェロが目立たなかったりするのですが、一方の2番は、チェロが最もよく響く音域で作られています。(ピアノの)左手の音域より下に潜り込まず、右手の音域の上にでてくることもない。チェロがちょうど両手の(音域の)間にサンドイッチされているような状態で、チェロとピアノの右手・左手と、三重奏を聴いているかのようなバランスが感じ取れます。ピアノは伴奏というより主役の一員といえるくらいの密度がありますね。技巧的にもかなり難しくなっているので、そこも楽しんでいただきたいです。ちなみに僕は二楽章が一番好きです(笑)」
後半のプログラムは宮田セレクトで、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」と「チェロソナタ」。今年2023年の4月1日に生誕150周年&没後80周年を迎えたこともあり、ラフマニノフに関係のあるプログラムにしたいと考えたら。と同時に、「完全に個人的な好みでラフマニノフを愛して病まないという理由もあります(笑)」と笑う。
「「ヴォカリーズ」は聞き馴染みがあり、ゆっくり導入できてコンサートの後半を始めるのに最適だなと思いました。この曲は、元は歌曲で、“ヴォカリーズ”(編注:歌詞を伴わず、母音のみによって歌う歌唱法)という歌唱法で歌われる、歌詞のない歌曲です。この曲に先だってラフマニノフは「13の歌曲op.34」を作っており、後から、14曲目としてこの曲を付け足しています。歌詞がないこともあってロシア語ができなくても歌えるので、ラフマニノフの歌曲の中で最も親しまれていると言ってもいいと思います。バロック音楽を彷彿とさせる様式で、古典でみられる明確な調性感と短いモティーフを次々に畳み掛けて長いメロディを作る「紡ぎ出し動機」の手法が使われており、グレゴリオ聖歌の旋律も借用されています。そこに哀愁の満ちたロシアらしい調べを掛け合わせていていかにもラフマニノフらしい音楽になっています。チェロは息の長いフレーズを作るのが得意な楽器なのでこういった楽曲に強みを活かせます。ピアノとの掛け合いも楽しんでいただきたいです」
トリを飾るのは同じくラフマニノフのチェロソナタ。宮田が昔から「チェロと弾く機会があったら絶対にこの曲だけはやりたいと思っていた」楽曲だという。
「チェロソナタとは名前だけで、オーケストラがないだけの”チェロ付きピアノ協奏曲”と言えるくらいピアノに比重が置かれています。あまりにもピアノの比重が重いため、はじめはチェロソナタではなく「チェロとピアノのためのソナタ」と名付けられていたほどです」
作曲されたのは、ラフマニノフの曲の中で最も有名であろう「ピアノ協奏曲2番」が作曲されたすぐあと。彼らしいロマンティシズムが存分に発揮された一楽章は、展開部にその「ピアノ協奏曲2番」の展開部のような複雑かつ壮大なピアノが現れ、「最初から最後までチェロもピアノもお互い主役を喰われないように必死に掛け合いをしていくさまが見どころ」だという。続く二楽章は8分の6拍子でスケルツォ楽章。チェロメインではあるものの、時折現れるピアノの旋律が美しい中間部、さらにその先に待つ、ピアノソロでの4小節ぶんの小さなカデンツァが「超絶技巧でピアノの見せ所」だと宮田は話す。そして第三楽章。
「僕が一番注目してほしいのは三楽章です。これぞラフマニノフの真骨頂といった美しすぎる和声がふんだんに散りばめられています。最初にピアノのソロでテーマを歌い、チェロがそのテーマを引き継ぎます。その後にピアノソロで書かれた三連符の新しいテーマが出てきて、またそれをチェロが引き継ぐ。そして、最初に出てきたテーマとこの新しいテーマをピアノとチェロで織り交ぜながら紡いでいきます。変奏曲のように段々と規模が大きくなっていき、クライマックスの後は静かに曲を終えます。本当に美しい楽章で、弾く度に涙が出そうになります。お客さんの皆さんにもこの美しさを共有できたら嬉しいです」
これまでと打って変わって華やかで、どこか祭典の開幕のような雰囲気で始まる四楽章。チェロが伸びやかかつ感動的な旋律を歌う第2主題、その旋律をピアノが引き継ぎ和音で壮大に歌う。中間部では重厚な和音の連打やMeno Mossoで静かに歌う部分が出てきたりと「キャラクターが豊富で見どころ満載」と宮田。フェルマータで曲調が終わったと思わせた後に速いコーダでチェロとピアノが絡み合って畳み掛けるかのように終演する。
「『百聞は一見にしかず』ならぬ『百見は一聞にしかず』ということで、コンサートを聞いて、各々自分自身で各曲に秘められたものを感じ取って単純に楽しんでいただけると嬉しいです。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています!!」
『Salonkonzert mit Duo Melange(デュオ・メランジェ サロンコンサート)』は、8月20日(日)フェリーチェホール(大阪)、同月24日(木)ベヒシュタインセントラム・東京ザール(東京)にて開催。

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