「箏奏者」から「アーティスト」へ 
ボーダレスに活動するLEO、2023リサ
イタルツアーを語る

ボーダーレスな活動を通して、箏という楽器の可能性を拡大してきたLEO。今年(2023年)3月にリリースされた6th アルバム『GRID//OFF』は、彼が「箏奏者」から「アーティスト」へと脱皮を遂げた作品と言えるかもしれない。
自作曲のほか、スティーヴ・ライヒ、坂本龍一、吉松隆、デリック・メイ、ティグラン・ハマシアンらリスペクトする作曲家やアーティストの作品、網守将平や坂東祐大ら同時代の作曲家への委嘱作品など多彩なプログラムを収録。エレクトロニクスを大胆に用い、それらをただ箏で演奏したという以上の、LEOにしか成し得ない独創的な世界を描き出してみせた。このアルバムにもとづくコンサートが6月に大阪、8月に東京で開催されるにあたり、意気込みを聞いた。
――4月10日にはBLUE NOTE TOKYOで、新作アルバムのリリース後初のライヴが開催されましたが、いかがでしたか?
『GRID//OFF』は今、自分のやりたい音楽をめいっぱい詰め込んだアルバムなので、ライヴでもいつも以上の達成感があって、本当に楽しかったです!
――アルバムではエレクトロニクスも多く用いられていましたが、BLUE NOTE TOKYOではLEOさんの箏、ピアノ(山中惇史)、チェロ(伊藤ハルトシ)によるアコースティック楽器のトリオ編成だったので、よりライヴ感がありました。
PAも入っていましたし、僕とハルトシさんはエフェクターも使っていましたので、完全にアコースティックというわけではありませんでしたが、トリオ編成のアンサンブルから生まれる緊張感やグルーヴ感はありましたよね。今回のアルバムでは「グルーヴ」というひとつのテーマに対し、多重録音をしたり、エレクトロニクスを入れたり、トリオ編成で演奏したり、エフェクターを使ってソロで演奏したりと、さまざまなアプローチをしました。それと同様に、公演によってさまざまな方法でアプローチの仕方を変えていけたらと考えています。
2023年4月ブルーノート東京公演より Photo by Yuka Yamaji
――6月9日の大阪・ザ・フェニックスホールでのコンサートも、ピアノ(ロー磨秀)、チェロ(伊藤ハルトシ)とのトリオ編成ですね。
はい、BLUE NOTE TOKYOと同じ編成ですので、プログラム自体は似たものになりますが、ザ・フェニックスホールはクラシックのコンサートホールですので、会場の特性に合わせてよりアコースティックな要素を出していこうかなと思っています。PAやエフェクターもBLUE NOTE TOKYOのときほどは使わず、完全に生音だけでお届けする曲や僕のソロ曲も加えて、より落ち着いて聴けるようなコンサートにできたらと。
――BLUE NOTE TOKYOのライヴでは、坂本龍一の「Andata」からマックス・リヒターの「Path Solo」への流れがとても自然で素敵でした。
もともと「Andata」はトリオで演奏しようと思っていたのですが、本番の1週間ほど前に坂本さんの訃報が入ってきました。もっとも尊敬する音楽家が亡くなってしまった喪失感のなかで、この曲はひとりで演奏したいと思うようになって。でも、コンサートの途中でしんみりしてしまうのもどうかなと思い、「Path Solo」に繋げることを思いつきました。そこから2曲のキーを揃えてアレンジ作業をはじめて、なんとかギリギリで仕上がった感じです。大阪公演でもこの2曲はプログラムに入っていますが、また違う形で演奏することになると思います。
2023年4月ブルーノート東京公演より Photo by Yuka Yamaji
――そんな経緯があったのですね。ひとつの曲に対していろいろなスタイルを考えられるのは、これまでLEOさんが積み重ねてきた経験のなかで、たくさんの引き出しを増やしてきたからこそではないでしょうか。
僕はクラシック奏者でもなければ、古典のみを演奏する箏奏者でもありません。だから、あらゆるジャンルの「良いとこ取り」ができるんですよね。僕はジャズが好きで、ライヴのたび即興で変化する演奏を聴くのがすごく楽しくて、何度でも足を運びたくなります。いっぽうで、クラシック奏者が同じ譜面を弾いていても、演奏のたびに違いが出るのも面白いですよね。どちらにも良さがあるので、譜面通りに弾くこともあれば、そのときの自分のテンションに合わせて弾くこともある。そうやってやり方を変えられる自由さを大切にしています。
――ひとことで「アレンジ」と言っても、その場で即興的に行なわれるジャズのアレンジと、すべてが譜面に書いてあるクラシックのアレンジとでは、だいぶ違いますよね。
別ものですが僕の場合はかなりミクスチャーで、自作曲の場合、7割ぐらいがちゃんと譜面に書いてあって、残りの3割ぐらいは「おおまかに書いてあるので、あとはお好きに弾いてください」といった具合に共演者に委ねられているんです。だから共演者を探すのが大変! クラシック的に譜面を読み込んでアンサンブルできる能力と、自由に即興できるアドリブ力の両方を持っているプレイヤーでないと一緒にできないので。
――ティグラン・ハマシアンによる超絶的な変拍子の「Vardavar」などは、まさにどちらの能力も必要なのでは。
僕はティグランの大ファンなので、「Vardavar」は譜面を見なくてもフィーリングで変拍子が身体に入っているのですが、あらためて譜面で見ると、ものすごく数学的に組み立てられていることがわかります。変拍子って主に2パターンあるのかなと思っていて、たとえば吉松隆さんの作品に出てくる変拍子は、規則性のない変拍子。先にメロディを考えて、そこに合わせるように拍子をつけているイメージです。それに対してティグランは、変拍子を重ねていくと最終的に普通の拍子に収束したみたいな、幾何学的な構造をしています。いずれにしても、今回のプログラムはすべて変拍子なので、共演者に嫌われてしまうかもしれません(笑)。
LEO「Vardavar」 Musiv Video
――かたや8月27日の東京・浜離宮朝日ホールでのコンサートは、箏(木村麻耶)、チェロ(山澤慧)、シンセサイザー(網守将平)、エレクトロニクス(有馬純寿)によるステージです。
東京公演では、今回のアルバムの重要な要素となっているエレクトロニクスの部分を抽出してお届けできればと考えています。シンセサイザーを使ったり、箏とエレクトロニクスをかけ合わせてオーケストラのような壮大な音色を作り出したり……細部はこれから詰めていきますが、かなり実験的な内容になると思います。
(C)Takafumi Ueno
――網守将平さんの「Perpetuum Mobile Phunk」などは、エレクトロニクスなしでは再現できないですよね。
アルバムに収録した「Perpetuum Mobile Phunk」は、数小節単位で録音した音を、あとから貼り合わせて再構成しているので、生で演奏することを想定して作られていませんでしたが、生で演奏可能なように網守さんにリアレンジしていただくことにしました。
――坂東祐大さんの「もっと上手にステップが踏めますように」も変拍子が壮絶です。
アルバムで聴くと、噛み合わない箏とチェロの奏者がただ下手に弾いている感じがするかもしれませんが、じつはすべて細かく譜面に書かれていて、それをライヴで演奏するとなると、集中力が9分ももたないんですよ。あまりに人間に優しくない曲なので(笑)、どうやって演奏可能にするか、坂東さんと相談中です。
――それはどうなるのか、楽しみです。
ほかにも、スティーヴ・ライヒの「Nagoya Marimbas」をアルバムと同じく木村麻耶さんの箏とのデュオで演奏したり、「Andata」を箏のカルテットで演奏したりする予定です。
――大阪・東京のほかにも、全国各地でコンサートが予定されています。
チェロとピアノとのトリオ編成のほか、フルートやヴァイオリンとの共演も計画しています。音域が違う楽器なので、同じ曲を演奏してもまったく違うアプローチになりますよね。公演に合わせて、その都度アレンジを考えて、いろいろなヴァージョンを各地でお見せできればと思います。
――さらには日本だけでなく、海外に飛び出していってもよいのでは?
それは僕の音楽を聴いた方々にもよく言っていただけるのですが、自分のなかではまだ課題が山積みなので、今すぐというタイミングではないと思います。今回のアルバムではじめて、箏という楽器に関わらず自分のオリジナリティを形成することができたので、今後は共演者が誰であっても「自分の音楽」の世界を実現できるよう、技術や表現を向上させていきたいです。ひとりで海外に行って、現地の人たちとその場でアンサンブルを組んでライヴができるようになるまで、あと1〜2年は準備が必要かなと。まず来年はソロで楽器と向き合ってみたいと考えています。
――一歩一歩着実に、そして大胆に。興味深いお話をありがとうございました。
取材・文=原典子(音楽ライター)

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