『シン・人間コク宝』(コアマガジン)

『シン・人間コク宝』(コアマガジン)

吉田豪が語る『シン・人間コク宝』あ
とがきインタビュー【後編】

絶賛発売中の単行本『シン・人間コク宝』発売を記念して吉田豪への逆インタビュー。川添象郎、高知東生、岡崎二朗横浜銀蝿・翔、嶋大輔、D・Oについて語った前半戦に引き続き、澁谷果歩、ろくでなし子、石川優実、TKO木下、室井佑月、轟二郎……盛りだくさん!【後編記事】
【前編記事「吉田豪が語る『シン・人間コク宝』あとがきインタビュー【前編】」はこちら】フェミニスト界隈で有名な方々—次は女性で、澁谷果歩さん。
 ボクはAV女優さんの本をいっぱい読んでるほうではあるけれど、彼女の本は凄くいいバランスで書かれてたんだよね。AV業界を糾弾するでもなく絶賛するでもなく、淡々とAV業界の問題点を並べつつ、プロレス例えも連発して。それを絶賛した流れで彼女とのイベントが組まれて、インタビューも実現したという。
—最近はAV女優さんに話を訊く機会も多いですね。
 現役は話しづらいことも多いけどね。ヤバい事務所もあることもちゃんと言えるぐらいAV業界を客観的に見ている元AV女優の話は面白い。これくらいの知名度のある人が、腹を括って戦うのは凄いですよ。バックボーンのせいもあるかもしれないけどね。プロレス界で揉まれてきている人だから。ボクも彼女のお父さんと相当一緒にイベントをやったり、食事に誘われたりしてきて。
—お父さんの名前は出しちゃダメなんですか?
 基本ね。そこの線引きはあるんだけど、その名前を勝手に出しちゃったのがターザン山本ですよ(笑)。
—さすがですね。で、ろくでなし子さん。
 ろくでなし子先生と石川優実さんが同じ本に並んでるのが奇跡だよね。「並べていいの?」っていう。さらには室井(佑月)さんまで並んじゃって。でも、それぞれ主張が違っても理解しあえる部分はあるし、深く掘り下げて人間性まで見てほしかった。それこそボクとろくでなし子先生とは主張に違いはあるけれど、意外と大筋合致するところは多くて、その確認に行った感じだよね。ウォーターボーイズを普通に聴いてた側だから、旦那さんのマイク・スコット話とかすごい面白かった。
—いま読むと、出てくる話題がどれも当時の話が多くて、けっこう忘れてました。
 まあね。バチバチしていたしばき隊の人たちとろくでなし子先生が飲み会で会うって時に、なぜかボクも巻き込まれて、お金を払ったのにドリンクも出てこないまま帰った話も載ってるわけだけど、その場にいたのが、ドローン少年の……名前ど忘れした。ネットの世界で瞬間的に話題になった……ドローン少年・ノエル! その子もいたんだよ。謎すぎるよね。
—ろくでなし子回でも名前が挙がった石川優実さん。
 インターネット上で敵視されがちな人は色々といるけれど、そういう人の考え方を訊いてみたいとは思っていて。話を訊くと、同意できるポイントも意外とあるので。ある種誤解を解く活動の一つになればいいかなと。石川さんももともと『スーパー写真塾』に出ていた側の人だからね。『スパ写』にそんな悪い印象もないようで、トラウマになってなくてよかったよ。
そうそう! 石川さんのはサブカルっぽい連載だったんだよね。杉作J太郎さんがゲストで来た時はパチンコの話をしたり、森下くるみと対談とか。パチンコの店員をやるんだって言ってたから、もう田舎のヤンキーだよ。それがアグネス・チャンみたいになってて、びっくりしたんだよ。
 その辺の発言は気をつけたほうがいいよ(笑)。ごっしーがなにか地雷を踏みそうだなと思いながら見てたから。それと、ネット上でも誤解があるのが、園子温のセクハラ問題とかがニュースになるたびに「フェミニストどもはこういうのには騒がず、実在しない絵とかにばかり騒ぎやがって」みたいなのがタイムラインに流れてくるんだけど、映画関係の性加害が日本でも騒がれるようになったのは、石川さんきっかけだし、もっと言うとボクと石川さんのトークイベントきっかけ。お互いがイニシャルで話した映画監督の性加害の話があって、「そう、S監督!」って意気投合したんだけど、向こうが榊英雄の話をしていて、ボクが園子温の話をしていたという(笑)。映画監督の性加害は、海外では#MeToo関連として盛り上がってるのに、なんで日本では盛り上がらないんだろうって話になって、石川さんが「たしかにそうですね。noteに書きます」って言って、noteに書いたのがそもそものきっかけだったという。
—園子温は最近も釈明してますけど。
 すごかったね(苦笑)。実は『人間コク宝』シリーズでも、園子温についての伏線は何度か張っていて。ロフトの平野さん回でも、平野さんが呑気に余計なこと言ってて最高ですよ。単行本未収録のリトルエルヴィスリュウタ回でも触れてたりするね。
—気になる方はバックナンバーを探してください。次はTKOの木下さん。
 ツイッター上でよく見たのが、「吉田豪のインタビューを読むとその人の印象が良くなるものだけど、木下さんは変わらなかった」みたいな感想(笑)。だいぶ腹を割って話してくれたんだけどね。国籍の話にまで踏み込んでいて、これはネットニュースになりそうだと思ったんだけど、まったくの凪だったという。最近もTKOの本が出ていて、すごいよくできてた。それは、放送作家であり小説家である浜口倫太郎が木本さんの視点で書いたのが良かったんだろうね。
—芸人繋がりで、中川パラダイスさん。
 本当にアウトな話を楽しそうに喋っていたね。常識がズレてることの自覚が全然ない(笑)。あの鬼越トマホークが面白がるのがすごくよくわかる。面白い内容だけど、こんなもんじゃないですよということだけは伝えておきたい。「載せられません!」って書かれている部分が、本当にとんでもなかった。芸人がおとなしくなった今の時代に、インスタで風俗ネタを投下し続けるのとか意味が全くわからないですね。怪物です!
—何かと話題の室井佑月さん。
 集めた資料で面白かったお父さんの話とかが、室井さんの立場が変わったことで言えなくなってたのはもったいなかったね。でも、「私の発言じゃなくてインタビュアーの発言として載せるならセーフ」とか、そういう気遣いもあって。室井さんの憎めない感じはインタビューに出てると思う。この取材後も車で駅まで送ってくれた上に、へぎそばをみんなにご馳走してくれたりとか、基本的にはいい人。でもちょうどいま、
ツイッター上で大変な状況になって。フェミニストと呼ばれる人たちとの抗争がこの時点でもあったんだけど、そこは戦わないでもいい相手だと思ってて、このインタビューでも実はこのまま休戦にしましょう、その人たちは敵じゃない的な方向に着地させようとしてたんだよね。ただ、どうしても旦那さん(米山隆一)の過去のスキャンダルが攻撃対象になりやすくて、そこを攻撃されると室井さんにスイッチも入っちゃうしね。ただ、この回では、呑気な話もたくさんあってよかったよ。モテたいみたいな話を未だに言い続ける感じとか(笑)。
—次はしまおまほさん。したい理由はあったんですか?
 そう言えばちゃんと話を聞いてなかったなってぐらい。
—家系が凄いとか?
 そうだね。まあ、他と比べたら圧倒的に平和な回ですよ。衝撃事実はないだろうけど、本人があまり語ってないプライベートな部分を掘り下げてます。

頭のおかしい人が多いロフト界隈—大塚公平さん。
 知らない人からしたら誰だって話だけど、元少年チャンピオン編集長であり、二階堂卓也というマカロニウエスタン映画の専門家でもある人物で。取材したのはここ(ルノアール新宿区役所横店)だったけど、歌舞伎町に甚平着用で現れて、取っ払いのギャラ片手に飲みに行くのとか、実に昭和の編集者だった。「最近は編集者にもオタクみたいなのが増えてよぉ〜」みたいなことばかり言ってるTHE昭和の人。著書『漫曲グラフィティ』もすごかったよね。チャンピオン黄金時代の話を書けばいいのに、梶原一騎がつのだじろう先生を脅したことで連載が終わった大山倍達の実録漫画『ゴッドハンド』の裏話から始まって、鴨川つばめの移籍で「腕を折ってこい」と言われた話とか、「なぜそこ?」って話ばかり書いてたから、そういう話を掘り下げてきました。
—京都まで取材に行った、岩見吉朗(久部緑郎)さん。
 岩見さんも終わった後にメシをおごってくれて。ホルモン焼き屋だからソフト菜食のボクはかなり困って、ラーメン屋でいいのにとは思ったけど(笑)。ちなみに、岩見さんの担当編集で取材にも立ち会ってくれたのが、かつてボクが『小学三年生』で連載をやったら内容がヤバすぎて半年で終わり、編集長と編集が別のところに飛ばされた、その編集だったんだよね。要はボクと乙武君とかボクと野口健とかの無茶なマッチメイクをしていた編集者。それがのちに漫画の部署に移って、今では岩見さんと組んで『ラーメン発見伝』シリーズを手掛けているという。『ロッキン・オン』関係のひどい話とか面白かったけど、個人的には、マニック・ストリート・プリーチャーズの話が訊けて良かった。マニックスのリッチー・エドワーズを失踪まで追い込んだのはずっと岩見さんだと思っていて、その件を直撃したらひどいコメントが返ってきたのも含めて岩見さんですよ(笑)。いろんな方面で無責任な話をしているのがすごく良かった。『ラーメン発見伝』のラーメンハゲと「ほぼ同一人物だ!」ってことがわかります。
—続いて、純烈の酒井一圭さん。
 ロフトプラスワンの店員からの一番の出世頭だよね。吉田豪とターザン山本のイベントの担当プロデューサーから紅白にいった人っていないからね(笑)。酒井さんのあまり知られてない歴史を語ってもらうっていう回。
水木一郎の話も出てましたけど、取材したかったのでは?
 そうだね。とにかく老人はちゃんと話を聞いておかないとと思う。その次に登場する平野悠さんも、インタビューの後、老人ホームに入って……。平野悠さんのデタラメさは本当に好きなんですよ。日本のロック界の重要な証人のはずなのに、ロックのことを知らなすぎる問題(笑)。
 じゃがたらはハードコアだっけ?(笑)
 そうそう。じゃがたらとか非常階段をハードコア・パンク扱いしたりするから、それは違いますよって指摘したら、「吉田豪は、そういうことを書くと、すぐ文句言ってくるんだよ。うるさいんだよ!」って。言うに決まってますよ!「スピッツとか最悪!」とか。スピッツにケンカ売る人いないですよ! っていう。
—スピッツはロフト側のバンドなんですか?
 ライブもよくやってたし、ロフトのレーベルからCDを出してたんだけど、ハッキリ言ってそこまで敵視しなくてもいいグループ(笑)。ただ、そういう平野さんの無差別攻撃が本当にデタラメで面白い。
—バカにされまくりの平野さんですが、功績もある方なのでは?
 バカにしてるわけじゃないし、ライブハウスという文化すらなかった時代にロフトを作り、さらにはトークライブハウスも作り、平野さんが切り開いた道というのは確実にあるんだけど、切り開いた後に平野さんはデタラメなことをやり続けるから、あまり功績が功績として認められない(笑)。あまりにもひどいから詳細はカットしてるけど、平野さんが海外でやったことなんかめちゃくちゃだもん。でも最高!
—同じくロフトの石崎典夫さん。
 どこにニーズがあるんだというインタビューで、石崎さんが一番喜んでたね。「豪さん2ショット撮ってください!」って。でも、面白いよ。ボンヤリした知識でピースボートに乗って、ロフトに流れ着くのとか、ロフトに集まるのはこういう人材だっていうのもわかる。個人的には、放送作家時代の話が衝撃的だったよ。「女をグーで殴りたい」っていう企画が(笑)。

最近亡くなったコク宝有名人—2011年収録の轟二郎さん。
 轟さんもジャイアント吉田さんも、亡くなってるからこそ、こういうロングインタビューを本として残すことに意味があると思っていて。かなり貴重な証言ですよ。世代じゃない人には伝わらないだろうけど、轟さんはボクぐらいの世代にとってスターだったんだよ。かなりメディア露出も多かった轟さんがなぜテレビで見なくなったのか。それは、とんねるずと絡んでしくじったからではないかという噂の真相を聞く裏テーマもあって。実際、いろいろ掘り下げたら面白い人生でした。昭和のテレビのデタラメさもよくわかります。
—同年収録のジャイアント吉田さん。
 これまたとんでもなく貴重な資料だよね。流れで言うと、ボクが『週刊ポスト』で代々木忠監督の映画が公開されるタイミングでインタビューを頼まれて、ヤクザ時代の話からたっぷり掘り下げたら、ドリフの話になったんだよね。いかりや長介がよくアフリカに行く特番をやってたのは現地に愛人がいるからって噂はあったんだけど、その話を振ったらあっさり肯定してくれた上に、いかりやさんがヨヨチューのAV現場にしょっちゅう遊びに来てはカラミを見てたり、海外に行く前には必ずヨヨチューの事務所に来てバイブを何本も持っていったりとか、すごい話を訊いて。だけど、これは原稿チェックで削られる可能性が高いなという危機感があったから、同時期にジャイアント吉田さんにインタビューをして、その話を振ることで原稿にするという戦いをしたのがこの回。そしたら案の定『ポスト』では削られて、こっちの会話は残ったという。それだけじゃなく、澤井健一さんの話から何まで、格闘技的にも貴重な話をしているよ。
—格闘技方面では有名だったんですか?
 多少。でも、普通繋がらないよね、武道、ドリフ、催眠術って(笑)。それぞれのポイントでしか聞いてないインタビューが多い中、これを網羅しているのは唯一だと思う。
—会っておきたいけどなかなか会えない有名人はいますか?
 井上順だの野末陳平なんだのいるけど、コアマガジンでは難しいだろうという気がしていて。だから、メジャー感のある人は『CONTINUE』とかのほうでやるのが正解なのかなって思ってる。北島三郎鳥羽一郎とか、昭和の演歌歌手とか絶対面白いはずだしね。
—そういや鳥嶋和彦さんがNGだったのは残念でしたね。
 本当は入れたかったけど、本人の意向に関しては何も言えないので。ボクが言えるのは、雑誌のバックナンバーを探しだして買うべき内容にはなってますってことだけ。全方位に対して、口の悪さ全開!
【前編記事「吉田豪が語る『シン・人間コク宝』あとがきインタビュー【前編】」はこちら】
構成/編集部写真/『シン・人間コク宝』(コアマガジン)初出/『実話BUNKAタブー』2023年7月号

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