ミュージカル『SUNNY』出演、渡邉美
穂インタビュー~日韓大ヒット映画の
初舞台化作品で主人公の青春時代を演
じる

ミュージカル『SUNNY』(脚本・演出:西田征史 振付:akane)が、2023年6月26日(月)~7月5日(水)東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)、そして、7月9日(日)~13日(木)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。2011年公開の韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」と、日本でリメイクされた2018年公開の映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」を基に、新たなミュージカル作品として創作される(舞台化は世界初)。
1980年代、とある女子高生たちの青春を彩った仲良しグループ「SUNNY」。月日が流れ、主婦となった奈美(花總まり)は「SUNNY」のリーダーだった千夏(瀬奈じゅん)と偶然再会するが、千夏は大病を患い余命1か月を宣告されていた。病床の千夏から、バラバラに散らばった昔の仲間たちにもう一度会いたい、と頼まれた奈美はさっそく人探しに奔走するが……。物語は、現在と、回想の80年代を行き来しながら進行する。本作で、主人公・奈美の女子高生時代を演じるのが、渡邉美穂(2000年生まれ、埼玉県出身)だ。アイドルグループの日向坂46を2022年夏に卒業し、現在は俳優業をメインに据えて活躍する彼女に、本作に臨む思いを聞いた。

■「奈美の奔放さが羨ましい」
映画「サニー 永遠の仲間たち」(監督・脚本:カン・ヒョンチョル)は、1980年代の登場人物たちの青春の日々を、当時の韓国ヒット曲の数々に乗せて描いた。映画は国内外で当たり、他国でリメイク化も進められた。そのうちのひとつが日本で作られ2018年に公開された「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(監督・脚本:大根仁)。ストーリーは、大筋ではオリジナル版を踏襲しつつ、青春時代を1990年代中盤に置き換え、当時流行ったJ-POPを数多く劇中に登場させた。
ーー今回の舞台作品の基になった映画はご覧になられましたか。
日本版のほうを観ました。
ーー感想は。
私が生まれる前の1990年代の女子高生たちが描かれていて、自分の高校時代とは全く違うのが新鮮でした。そして、登場する女の子たちの友情や関係性を、とても羨ましいと思いました。
ーー今度、渡邉さんの演じるの役は、韓国オリジナル版では現在日本でも活躍中のシム・ウンギョンさん(韓国版の役名=ナミ)が、また日本リメイク版では広瀬すずさんが、それぞれ演じていますね。同じ役でご自身に白羽の矢が立ったことについて、どのように感じられましたか。
最初は驚きが大きかったですね。自分がまだ経験したことのない“ミュージカル”というジャンルに初めて挑戦するということだけでも緊張してしまうのに、そのうえ、こんな有名な作品の、という大きな役を演じさせていただけるというのは、私にとって本当に重みのある話で、衝撃的でした。
ーー映画におけるをご自身の性格と比べると、共通点や違いはいかがですか。
奈美は、震災の影響で一家揃って淡路島から都会に引っ越してきます。最初は転校先で周囲を警戒したり、様子をうかがうようなところが多く、そういうところは私もありがちなので共感を覚えました。ただ奈美は、様子はうかがいつつも自分の思ったことをストレートにはっきり言う子ですよね。私の場合だと、そういう部分は隠してしまうことも多いかな。奈美は、嬉しい時は思いっきり浮かれるし、悲しい時は思いっきり泣く。自分の感情を素直に表現できる子です。本来、私もどちらかと言えばそういうタイプではあるのですが、奈美の奔放さは本当に羨ましいなって思えるほどのものがありますね。
ーー映画の中で印象に残るシーンはありましたか。
いっぱいあります。中でも思い浮かぶのは……最初、「SUNNY」新入りの奈美は、同じグループの中でモデルの仕事をしている子に嫌われているじゃないですか。その子が疎んじている継母と方言(関西弁)が一緒というだけの理由で、奈美のこともむかつく、と。でも、二人は屋台で酔っ払いながら初めて本音でぶつかり合い、打ち解けます。そのシーンが好きですね。泣きながら抱き合う二人を見て、「うわぁ、めちゃくちゃ青春だなー。すごくいいなー」って思いました。
ーー「SUNNY」のグループと不良少女軍団「台風我亜瑠(タイフーンガール)」との喧嘩シーンでは、奈美が祖母直伝の罵り言葉を吐いて凄い迫力で相手をビビらせます。これは舞台でも、渡邉さんにぜひやって欲しいなと秘かに期待している場面です。
もしあれを演じることになるのでしたら、自信はあります。元々ドスのきいた声も出せるタイプなので、そういう言葉は何の抵抗もなく、すらすらと出せちゃうと思います(笑)。

■「ミュージカルの表現は、アイドルとして歌い踊るのとは違う」
1980年代の青春模様が綴られるミュージカル『SUNNY』には、当時日本で流行した名曲が多数登場する。いわゆる“ジュークボックス・ミュージカル”というべきスタイル。そして渡邉にとっては本作が、ミュージカル初出演となる。
ーー“ミュージカル”について、どんなイメージをお持ちですか。
感情やお話を歌に乗せて伝えるもの、 というのが私の抱くイメージです。でも、難しいですよね。というのも、この間まで私の出演していた舞台(『逃げろ!』~モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテ~)が、“音楽劇”と言われるものだったのです。あの作品は、お芝居はお芝居で演じながら、歌は歌としてしっかり歌う、という、はっきりと分かれたものでした。“ミュージカル”と“演劇”の中間のようなもの、というか……? だとすれば“ミュージカル”は、それをさらに混ぜたものなのかなと。私の中では、セリフも楽曲に乗せて歌っていくイメージでしょうか……。
ーーまあ、これという決まりはなくて、セリフと歌が完全に分離した“ミュージカル”もあれば、 オペラのように全部が歌だけで進行する“ミュージカル”など、様々あります。今度の作品は、セリフもあり歌もあるようですね。
はい、『SUNNY』はそういうタイプだと伺っています。
ーー“ミュージカル”には、何よりも歌とダンスが付き物ですが、渡邉さんは以前、アイドルグループの一員として歌って踊っていたわけですから、そのあたりのことはもう「どんと来い」という心持ちですよね。
「どんと来い」と言い切れるほどの強い自信はありませんが(笑)、昨夏まではステージに立ち、歌って踊るということをずっと本業としてやってきましたから、もちろん慣れてはいますし、そのことが大好きなので、特に緊張もなく、ある意味楽しみながら臨めると思っています。ただ、“ミュージカル”の表現は、アイドルとして歌い踊るのとはまた違った形になってくるのではないかと思うので、そこが今後の課題になってくるでしょうね。
ーー踊りといえば、今回の振付は akaneさんです。期待値が高まりますが、稽古はかなりハードかもしれませんね。
私もそういうイメージを持っています(笑)。私にとって akane先生は、やはり「バブリーダンス」の印象が強烈です。あそこまでハイレヴェルなダンスを、私のアイドル時代にはやったことがありません。とはいえ、私がこれまでに出会ってきた振付の先生の中にも何人かスパルタの方はいました。物事をガツンと言ってくる先生や “とにかく自分についてこい”タイプの先生など、色んな振付師の方々の指導を受けてきましたから、耐性はあります。だから、 akane先生に振り付けていただくことは、もう純粋に楽しみでしかありません。そもそも私は踊ることが大好きなのに、最近その機会があまりなかったので、その意味でも劇中で踊れることが本当に楽しみです。
ーー今回、劇に使用される楽曲として、「SWEET MEMORIES」(松田聖子)、「ダンシング・ヒーロー」(荻野目洋子)、「センチメンタル・ジャーニー」(松本伊代)、「待つわ」(あみん)が既に発表されています。いずれも1980年代の流行歌ですが、2000年生まれの渡邉さんにとって馴染みのある曲はありますか。
どの曲も必ず耳にはしています。「ダンシング・ヒーロー」はそれこそyoutubeで見た「バブリーダンス」で知りましたし、「センチメンタル・ジャーニー」は十六茶のCMで新垣結衣さんが替え唄を歌っていたのがすごく記憶に残っています。もちろん音楽番組で、過去に流行った歌を振り返りましょうといった企画の時に聴いたこともありますが、それよりも、CMで替え唄などにリメイクされたことがきっかけで、元の歌が気になる、というケースが多かったかもしれません。

■「演技の世界は広くて深い」
ーー日向坂46を卒業してからの渡邉さんは、以前にもまして多彩な活動を繰り広げていますが、とりわけドラマや舞台での俳優業が印象的です。演技の世界では日々どんなことを感じていますか。
自分が思っていた以上に、すごく広くて深い世界なんだなっていうことを最近、感じています。出演する作品をより良いものにしていくために、役者は与えられたセリフをただ言うだけじゃダメですし、ミュージカルにしても決められた動きや決められた立ち位置を守っていれば充分ということでは決してないんだ、ということが実感としてわかってきました。以前は目の前に自分の相手役の俳優さんがいても、決められたことだけを演じて、相手の方ときちんと向き合うことをしてこなかったかもしれません。でも、そこはやはり自分で、もっと色々なことを考えて演じていかなければいけないなと。目の前にあるものを受け止めるだけではなく、自分でどんどん追求していくことが必要なんだなって、今はすごく思っています。私はまだまだ駆け出しで、スキルや経験も周りの皆さんに比べたら本当に浅いのですが、できる努力というものは自分にも必ずあると思いますし、その積み重ねで作品に貢献できればと思います。また、それによって他の方々との差を縮められたり、もしかすると他の方々にはない何かを自分の中から引き出せるかもしれません。
ーーその考え方は素敵ですね。『SUNNY』にも是非、活かしてください。
そうですね。たとえば今度の舞台でも、80年代ってどういう時代だったのか、その時代背景を積極的に調べて勉強すれば、より一層の深みをお芝居にもたらすことができるのではないかと思っています。
ーー俳優・渡邉美穂としての強みは何だと思いますか。
強み、ですか。……そうですねえ、俳優としての強みかどうかわかりませんが、昔から、根拠のない自信だけは人一倍あるんです。たとえば、現場での顔合わせの時「渡邉さん、泣けますか」と訊かれることがよくあるのですが、正直、そこで泣けるかどうかなんて、すぐにはわからない。まず台本を読んで、現場でやってみないと。でも、不安のある演者には制作サイドも任せたくないでしょうから、私は絶対にYESしか言わないようにしているんです。何がなんでも「できます」「泣けます」と。その根拠のない変な自信だけは、多分自分の強みだと思っています。
ーーそのこともあってなのか、渡邉さんは演技の幅がどんどん拡がって、クセの強い役からアクションまで、本当に色んな役柄をこなしていますね。
はい。ありがたいです。
ーー『SUNNY』の稽古に入るのはまだ先のようですが、多士済々の豪華共演者の方々とは何か話しをしたりしましたか。
ヴィジュアル撮影の時に大人組キャストのかた二人とたまたま現場が重なり、ご挨拶をさせていただいたくらいで、現時点ではまだ、ほとんどの方とお会いできていません。残念ながら。
ーー今回の共演者で、過去に共演したことのある人は。
全く誰もいません。
ーーでは、気になる共演者の方は。
それはもう皆さん全員が気になりますけど……やはり元・宝塚歌劇のお二人、花總まりさんと瀬奈じゅんさんは、“気になる”どころではないですよね。この先、稽古場で生のお姿や演技を拝見させていただいて、さらに本番でもご一緒させていただけるだなんて、本当に贅沢すぎます。
ーー脚本・演出の西田征史さんとは、何かコミュニケーションはありましたか。
現時点では西田さんとも直接にはお目にかかっていないのですが、『SUNNY』のヴィジュアル撮影の直前に電話でお話しをさせていただきました。奈美はこういうイメージだからこういう風な表情をちょっと意識してね、といったアドバイスなどをいただきました。また、二月に私が出演させていただいた舞台『逃げろ!』も観に来てくださいました。

■30年後の自分に向けてどんなメッセージを贈る?
切なくもお日様の陽気に満たされた青春物語、それが『SUNNY』だ。映画の中で最も筆者の琴線に触れる名場面が、の面々が未来の自分たちに向けてヴィデオレターを撮影しているシーン。カメラを回しているのは奈美。このシーンが今回の舞台に登場するかどうか現時点では定かでないのだが……。
ーー映画の中のヴィデオレターのシーンは、渡邉さんが日向坂46を卒業する直前に出演された「飛行機雲ができる理由」のミュージックビデオ(※)を、なんとなく連想しました。今回の出演作品のタイトルは『SUNNY』ですが、“SUNNY SPOT”を和訳すると“陽だまり”で、「陽だまり」と言えば……。
私のファースト写真集のタイトルですね。
ーーそうです、そして「飛行機雲ができる理由」のMVも……。
「陽だまり寮」という老朽化した学生寮が取り壊されるというお話でした。
ーーあちらは時代設定を1970年代においていましたね。ところで、渡邉さんご自身にとって、『SUNNY』の仲良しグループのような、青春時代からの大事な仲間は、実際にいらっしゃいますか。
はい。リアルに高校生活を一緒に過ごしてきた、それこそ本当に6人組の、大切な仲間がいます。それから、高校卒業後の5年間を共に過ごした日向坂46のメンバーたちも、やはりこの感覚に近いですね。今では私が抜けて、それぞれ別の環境で頑張っていますが、日向坂の子たちは私にとって、また別の青春時代を共に過ごした掛け替えのない仲間でした。だから、私には『SUNNY』のような仲間がふたつ存在しているといっていいでしょうね。
ーーでは、もしも映画のように30年後にキャプテンと偶然再会し「昔の仲間を集めてよ」なんて頼まれたら。
もちろん私、動きますよ。そして、みんな集まると思います。30年後も、あの同期たちとは多分ママ友とかになって(笑)、普通に会って、遊んでいる気がします。
ーーならば、現在の渡邉さんが、30年後の自分に向けてビデオレターを撮るとすれば、どんなメッセージを贈りますか。
うわぁ、今から30年後は私53歳ですね。映画の中では、美容師になって自分のお店を持つとか、バリバリ働いて会社を設立するとか、みんな、将来の夢を語っていました。私の場合、こうして芸能界に入り、お芝居の仕事をするという夢がひとつっているので、あとは何だろうな。まず、この仕事を続けているのかなっていうのは訊きたいですね。できれば、続けていてほしいですし。それから、結婚をしたのかどうかも、やはり気になります(笑)。自分の家庭は持ったのかなって。 でも一番問いたいのは、この仕事で何かすごく歴史に残る優れた作品に出演できたかな、ということですかね。そう、信じたいですし、そう願っているのですが。
ーー最後に、今度は2023年現在の「SPICE」の読者の皆さんに向けて、メッセージをいただけますか。
このミュージカル『SUNNY』は、青春をたっぷり味わえて、たくさん笑顔になり、しかも胸にジーンと来るような懐かしさも感じることのできる作品です。多分、世代や年齢によって捉え方や感じ方は、それぞれ変わってくると思いますが、ぜひ親子や家族で観て、「私たちにもあんな時代があったね」とか、過去を振り返ったりしていただけると、楽しさがさらに増すのではないかと思います。私の場合は、まさに80年代に学生だった自分の母親から感想を聞いてみたいなと思っています。そして、何といってもミュージカルですから、とにかく音楽も楽しんでいただけたら嬉しいです。ぜひ、観にいらしてください。
※日向坂46「飛行機雲ができる理由」MV https://youtu.be/E6EItQRTmAI 2022/04/19公開の音楽映像。
取材・文=安藤光夫(SPICE編集部)
写真撮影=池上夢貢

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