「若旦那の甘さとアウトローの強さ」
~片岡仁左衛門が4月歌舞伎座『与話
情浮名横櫛』への思いを語る

片岡仁左衛門が、4月2日より歌舞伎座で『与話情浮名横櫛(よはなさけ うきなのよこぐし)』に出演している。『切られ与三』、『お富与三郎』の通称でも知られる本作で、仁左衛門は伊豆屋与三郎を勤める。お富を勤めるのは、坂東玉三郎だ。本公演では、木更津海岸で2人が出会う「見染の場」、その直後を描く「赤間別荘の場」、そこから3年後の再会を描く「源氏店の場」が上演される。省略されてしまうことの多い「赤間別荘」の上演により、「源氏店」の見え方も変わってくるのではないだろうか。仁左衛門が、公演への思いを合同インタビューで語った。
■手紙をもつ手が震えた初役
初役は、1982年3月の歌舞伎座だった。当時を「大変緊張した」とふり返る。
「序幕『見染』で、手紙を読むところは手が震えましてね。(次の場面の)『源氏店』になっても、花道から出ることが怖かったくらいです。与三郎は、役者の先輩方が洗いに洗い上げてこられた、江戸の二枚目の基本のようなお役ですから」
仁左衛門が勤める“江戸の二枚目”といえば、『助六曲輪初花桜』の助六も思い浮かぶ。
「助六も初演はやはり緊張しましたね。ただ、あの作品には勢いがあり、パーっといけてしまうところがあります。与三郎にはそれがありません。与三郎と聞いて、私たち役者の頭にまず思い浮かぶのは、十五代目市村羽左衛門のおじさんの与三郎。(仁左衛門が生まれた翌年に逝去しており)実際の舞台は拝見できませんでしたが、私たちの中に神話的に伝わっています」

『与話情浮名横櫛』について話す片岡仁左衛門

「歌舞伎は、先輩方のお芝居の模写から始まり、それが段々と自分のものになっていくものです。そうは言いましても羽左衛門のおじさんの与三郎は、お手本というにはあまりにも高いところにありました。“あの(羽左衛門の)花道での姿が良かった”などと皆さまがおっしゃるものですから、歩く時も、歩くことで頭がいっぱいでした(苦笑)。今はもう自然体でやらせていただいています」
■品と甘さと強さのバランス
羽左衛門の与三郎だけでなく、父・十三代目片岡仁左衛門をはじめとした多くの先輩俳優の与三郎を参考に勤めてきた。
「十一代目市川團十郎のおじさまの映像が少し残ってるので拝見をしたり。喜の字屋(十四代目守田勘弥)のおじさまも。多くの方々の映像を拝見しながらやってきましたが、与三郎を演じる上で大事なのは、品なのでしょうね。大店の息子が、ある意味でアウトローに。若旦那の甘さとアウトローの強さの兼ね合いです。強さといっても、(腕っぷしのような)いわゆる強さとはちがいますね」
たとえば「源氏店」で着物の裾をまくる時。
「ふつうにあの(アウトローな)座り方をしたら、お客様からふんどしが丸見えでしょう。それを足の組み方で直接はお見せしないようにする。座り直してどちらを向くにしても隠すのだけれど、それが隠す形だと思われてしまったらいけません。役者さんにもよりますが、私の父も、そして玉三郎さんから聞いたところでは(玉三郎の養父)喜の字屋のおじさまも、そこは大事にしていたそうです」
くり返し舞台に立ち、ふり返りながら今に至る。
「再演の時は、前回の自分の映像をいくつか見返します。その当時は、もうひとつ前にやらせていただいた時の映像を見て反省点を生かしてやっていたはずなのだけれど、結局反省はいくつも見つかる。一生懸命にやらせていただき、それなりの芝居ができたつもりの事があっても、ふり返って見て『うん、これは後世に残っていい』と思えるものは今までにひとつもありません。反省点を直しつつも、その反省が正しいかどうかもわからない。自分の考えでしかないのですから、考えすぎて悪くなる場合もあります。見直してみたら、前回より前々回の方が良い、ということもありますからね」
たとえばどんな反省があったのか問われると「具体的に? それは言いません。言うと皆さん、そこばかりをご覧になるでしょう?」と笑った。
■4月、仁左衛門の与三郎と玉三郎のお富で幕が開く
仁左衛門と玉三郎の共演による『与話情浮名横櫛』は、当初2022年6月に上演される予定だった。延期を経て待望の開幕となる。
「あまりご期待はなさらないでください(笑)。一昨年の『桜姫東文章』もそうでしたが、昔のままのイメージで見られると困っちゃうので。彼とはもう、半世紀以上の付き合いになるのですね」
数々の舞台をともにしてきた玉三郎について、次のように話す。
「お互いに気心を知れていますから、『ここはどうしようか』などの相談もなく芝居のキャッチボールができる相手です。自分が役の気持ちで舞台に出ると、向こうも向こうで役の気持ちで舞台にいますから、自然とギクシャクすることもなく芝居になるんですね。今回『赤間別荘』は、基本的には喜の字屋のおじさまと尾上梅幸のおじさまがなさった時(1969年4月国立劇場)のものを元に、少し変えさせていただきやらせていただきます。ただ、次はああしてここはこう……といった決まりらしい決まりがありません。このような芝居は、気があう者同士でなければ作れません」
2013年4月の新開場から10周年を迎える歌舞伎座の節目の公演。1日三部制から昼夜二部制に戻る月でもある。意気込みを問われると、仁左衛門は「三部制も二部制も、私たちには関係ありません。与えられた場所でお互い良い芝居を作り上げることだけしか考えていませんから」とほほ笑んだ。
歌舞伎座新開場十周年記念『鳳凰祭四月大歌舞伎』は、2023年4月2日(日)から27日(木)までの公演。仁左衛門が出演する『与話情浮名横櫛』は、夜の部にて、尾上松緑・左近親子による『連獅子』とあわせて上演される。

ヘアメイク: 林摩規子
スタイリング: DAN
衣装クレジット
スーツ/ DORMEUIL
シャツ、チーフ/ 麻布テーラー
その他、スタイリスト私物
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麻布テーラー 03-3401-5788

取材・文・撮影=塚田史香

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