2023年度シーズン最初の定期演奏会を
指揮する、日本センチュリー交響楽団
ミュージックアドバイザー秋山和慶に
聞く

日本センチュリ―交響楽団が演奏するガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」のカデンツァを、ピアニスト角野隼斗が鍵盤ハーモニカを使って弾き始めた瞬間、満員札止めの会場は驚きに包まれた。その光景をにこやかに眺める指揮者秋山和慶。「こんなカデンツァ、聴いたことないなぁ。秋山さんはどう思っているのかな?」と思っているうちに演奏は終了し、コロナ後初めてと言って良いほどの拍手喝采の嵐。
それから数日後、日本センチュリー交響楽団ミュージックアドバイザーを務める秋山和慶に、2023年度の抱負と、先日のカデンツァの事を聞いてみた。
日本センチュリー交響楽団ミュージックアドバイザー 秋山和慶   (c)堀田力丸
―― 先日の豊中文化芸術センターの「センチュリー豊中名曲シリーズVol.25」は、満員札止めの大盛況でした。角野隼斗さんの「ラプソディ・イン・ブルー」は如何だったでしょうか。
秋山和慶 「ラプソディ・イン・ブルー」は、これまでに何十回もやっています。ソリストの個性を発揮しやすい曲ですが、今回の角野さんは特にスペシャルな演奏でしたね。カデンツァでは鍵盤ハーモニカを使ったり、よくこんなことが思いつくなと、角野さんの独創的なアイディアに舌を巻きました。大変な盛り上がりで、お客様の熱量も凄かったので、結構じゃないでしょうか(笑)。それにしても、オーケストラがあれだけ嬉々として演奏している姿に驚きました。
豊中名曲シリーズVol.25「100年後の楽しみ」(2023.3.18 豊中文化芸術センター)    (c)Masaharu Eguchi

豊中名曲シリーズVol.25「100年後の楽しみ」(2023.3.18 豊中文化芸術センター)   (c)Masaharu Eguchi
―― 新しいシーズンは、秋山さんの指揮する「第272回定期演奏会」から始まります。モーツァルトのピアノ協奏曲第9番とベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」というオーソドックスなプログラムですが、「英雄」は近衞秀麿の編曲による版を使用されるそうですね。

秋山 近衞秀麿先生が亡くなったのが1973年ですので、ちょうど今年が没後50年です。このタイミングで “日本のオーケストラの父”と言われる近衞先生のことが話題になればと思い、先生が編集された版を用いてメインの交響曲を演奏しようと思いました。先生はご自身で作曲家のオリジナルの楽譜に、独自のアイディアに基づき手を加え、近衞秀麿版として出版もされています。先生の独自のアイディアが詰まった近衞版の中から、シーズンの最初という事もあるので、スケールの大きなベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を取り上げることにしました。他にも交響曲第5番「運命」も近衞版として出版されていますが、近衞流のアイディアが如実に表れているのが「英雄」です。皆さんがいつも聴かれる「英雄」と比較してお聴きください。
「近衞秀麿先生の没後50年を記念してベートーヴェンの「英雄」を近衞版で演奏します」   写真提供:日本センチュリー交響楽団
―― 日本センチュリー交響楽団 広報の前田さん、2023年度シーズンからアライアンスを組むパシフィックフィルハーモニア東京(PPT)も、同様に近衞版を取り上げられるそうですね。
日本センチュリー交響楽団広報 前田聡子 そう聞いています。PPTさんは10月の定期演奏会で取り上げられるようですが、全てのプログラムを近衞版で揃えられる徹底ぶり。管弦楽による「越天楽」から始まって、ショパンのピアノ協奏曲第1番、ムソルグスキーの「展覧会の絵」と、すべてが近衞秀麿版だそうです。特に「展覧会の絵」では、冒頭のプロムナードがラヴェル版のトランペットではなく、弦楽合奏だと伺っています。センチュリーの首席指揮者で、PPTの音楽監督を務める飯森範親さんが指揮をして、松田華音さんのピアノだそうです。東京と大阪で近衞秀麿さんの編曲版を演奏することで、話題になると素敵ですね。
―― 近衞版の「英雄」の特徴を教えてください
秋山 いちばん違うのは、管楽器が倍管の四管編成で書かれていることです。これによって、ハーモニーの厚みが増し、音量が大きくなって圧倒的な迫力となります。あと、オリジナルでは使われていないピッコロやテューバが書き足されていますが、これに関しては、音色感が随分変わるので、私は採用しないことにしました。60年ほど指揮者をしていますが、近衞版を指揮するのは初めてです。まず演奏される機会がないので、この機会にお聴きください。
「ベートーヴェン「英雄」の近衞秀麿版は、管楽器が倍管の四管編成で書かれています」    (c)Masaharu Eguchi
―― この日のプログラムは、前半にモーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」が取り上げられます。「ジュノム」のソリストは髙木竜馬さん。ご一緒されたことはありますか。
秋山:二曲とも変ホ長調と同じ調性の曲で揃えました。ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」は演奏機会の少ない曲ですが、構成もしっかりしていて曲の運びも丁寧に書かれていて、私も大好きなコンチェルトの一つです。ベートーヴェンの「英雄」との組み合わせも良いのではないでしょうか。
髙木さんとは、これまでに共演したことはありません。最近は国際コンクールで優勝するような若手の優秀な音楽家と共演する機会が多いです。皆さん技術的にも申し分なく、溌溂とした若さ溢れる演奏をされて、とても心強く感じています。一方で、前橋汀子さんのような素晴らしいベテラン演奏家ともご一緒して思うのは、テクニックの向こうにある、音楽としての味わいの深さといった芸術性の違いですね。しかし若い人はあまり考え過ぎずに、真っ直ぐに進んで行って頂きたいですね。髙木竜馬さんの評判も色々と伺っていますので、とても楽しみです。
若手で屈指の実力を誇る辻彩奈との共演(第264回定期演奏会 2022.5.14 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto

ピアニスト 髙木竜馬
―― 秋山さんの指揮で日本センチュリー交響楽団の新しいシーズンが始まります。ファンに向けたメッセージをお願いします。
秋山 日本センチュリー交響楽団も創立から33年が経過しました。楽しい事も苦しい事も経験し、着実に良いオーケストラに育っていると思います。最近は多くの若いお客様にもお越し頂いているようで、とても有り難いことです。どんな時も、お客様が有ってのオーケストラであることを忘れてはいけません。切磋琢磨を繰り返し、お客様に喜んで頂こうというサービス精神を持ち続けて、謙虚な姿勢で進んで参ります。まだ若いオーケストラですが、どうぞしっかり見守って頂きますよう、お願いいたします。

日本センチュリー交響楽団をよろしくお願いします    (c)Masaharu Eguchi
ソリストの髙木竜馬からもメッセージが届いた。
髙木竜馬 日本センチュリー交響楽団と初めて共演させて頂きます、髙木竜馬です。これまで沢山の先輩から日本センチュリー響の素晴らしさは聞いて来ました。今回、思いがけず共演の機会を頂きました。しっかり務めさせていただこうと思っていますので、よろしくお願いします。曲目がモーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」という事で、初期の曲ですが後期の曲に通じるしっかりした構成の曲です。いかにもモーツァルトを思わせる可憐で優雅なパッセージも魅力的ですが、30分に及ぶ大曲です。この曲を、秋山和慶先生の指揮による日本センチュリー交響楽団と、ザ・シンフォニーホールのステージで弾かせて頂けて大変光栄です。一生懸命演奏致しますので、お聴き頂けますと嬉しいです。
一生懸命演奏致します。ぜひお越しください。
取材・文=磯島浩彰

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