作品ポスター

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『シン・仮面ライダー』は不思議な作
品だった:ロマン優光連載235

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第235回 『シン・仮面ライダー』は不思議な作品だった 『シン・仮面ライダー』を観てきたのだけど、一言で言うと何だか不思議な気分になる作品だった。
 観ている間は二時間にわたって全く飽きることはなかったのだけれど、観終わった後に「良かったー!」と思っていたかというとそうでもない。「たくさんの庵野さんと概念上に存在する女性キャラクターが出てきたな」というのが単純な感想になる。あと、サソリオーグがとても楽しそうだったのでよかった。楽しそうなのはいいことだ。 
 悪かったということでもないし、良くもなければ悪くもなかったというのとも違う。自分の経験の中で一番近いものをいうと、地下アイドルの対バンライブで自分の好みの方向性ではないが非常に珍しいことをやってる演者が出てきて、見ている間は飽きもせずに見て「これも一つのアイドルの形である」と肯定的な評価はできるし、造り手の想いに対して気持ちも動くのだが、ステージ上の出来事から感情的な面でのフィードバックがなかった時の感じに近かった。
 作品の感想を二人の人と話したのだけれど、一人は肯定的、一人は非常に否定的だった。ただ、二人ともわりと同じことを言ってることが多くて面白かった。肯定的な人は映画を観に行くというより、庵野を観に行ったという感じの人で、否定的な人は今までの庵野作品は好きだけど、それ以上に映画というものを非常に愛しているタイプの人。肯定的な人も映画として傑作であるという捉え方をしているわけでもなく、庵野らしかったので自分は非常に好きであるという感想、否定的だった人は映画として色々とよくないという感想だったわけで、庵野監督がどれだけ好きかで感想が別れたということなのだと思う。庵野監督にも映画にも特別な思い入れというほどのものを持っておらず、単に仮面ライダーや石ノ森作品や特撮に愛着がある自分は「これは自分の求めるライダーではないが、ライダーではある」みたいなところに落ち着いてしまったのだけれど。

文句が出てきそうな箇所 しかし、不思議な作品だった。人に有らざるものになったことに対する本郷猛の葛藤も、感情が抑制されたような平淡な台詞まわし(全般的にそういう演出がなされている)で説明されるだけで描写としてそれを強く感じさせるようなものはない。だから、見ている側としては「そうなのか」と思うけれど、実感としてそれを感じることもない。一文字隼人のジャーナリストとしての想いも言ってるだけでよくわからない。それに限らず、たいていの登場人物が説明台詞を喋ってくれるので、どういう状況だとか、どういう気持ちであるかは非常にわかりやすいのだけれど、それを裏付けるような描写が特にないので、不思議な気分になる。一般的に、本来は子供向け番組である特撮は説明台詞を多くしてわかりやすくする傾向があるが、同時にわかりやすい表情や身体表現、行動が描かれている。そういう部分がないので、わかりやすいけど伝わりにくい奇妙な感じになっている。
 そういえば、本郷が食事をとる必要がなくなったことに特に葛藤がないことに関しては、庵野監督自身が食事に興味がない人だと知っていれば、単なる通常運転なのだけれど、普通に考えたら変なシーンなんだと気付いた。
 今まで監督に言われているような社会性のなさとか、いつもの風呂に入らなくて臭いエピソードとかは、最初から「庵野だから」と思って観にいっているわけだから気にはならないのだけれど、情報機関の男がルリ子に着替えを渡す時に、下着は女性職員が選んだという内容のことを聞かれもしないのに言うところは、「言わなくていいことをわざわざ言っていて、なるほど庵野らしい」と思わざるを得なかった。
 一文字隼人がやたらと喋るわりに会話になってなくて自己完結気味で、あげくに独り言を大量に言っては勝手に自分で納得している様子を見て、「本郷みたいな人とあまり喋らないタイプではなく、やたらと喋るタイプのコミュニケーション下手なんだな」と思い、コミュニケーションが下手くそな人ばかりがやたら出てくるところに庵野らしさを強く感じもした。
 感情のこもらない台詞まわしによる説明台詞に関してだけれど、個人的には石ノ森作品の台詞まわしが実写で再現されているような感覚におそわれた。特に引用的だと思われないパートでもだ。60~70年代の石ノ森少年漫画に見られる、説明的で、何かポエムっぽい、今読むと少し気恥ずかしいような、あの非常に漫画的な空気がそのままあるというか。
 バトルシーンに関しては、CGにもっと予算をかけれていれば違ったのではと思ったり、実写版『キューティー・ハニー』を思い出したり、個人的な好みとしては大量発生形相変異バッタオーグとのバトルは肉弾戦でやって欲しかった(各人に「サイボーグ009」の00ナンバーの特殊能力を与えるくらいにして)とも思いもするが、自分の好みは別にすれば、充分見応えのあるものだと思う。音楽の使い方に関しても、自分はあまり好きではなかったのだけれど、それも好みの範疇の問題だ。
 大量のオマージュに関しても、別に知らなくても楽しめるし、ストーリー的にはわかりやすいとは思う。随所に説明があるので。
 逆に知ってると文句が出てくるということもあると思う。「ロボット刑事Kをああいう風に引用するのは許せない。意味がない」というのを人から言われて、自分はそういう風に思ってなかったので驚いたのだけれど、そういうことを言い出すと色々自分からも出てくる気がする。そういえば「2号の変身ポーズはパワー・ファイターらしさを表したポーズだと思うのだが、それを再現しているのに全然パワー・ファイターでないのはどうしたものか」と自分も気になっていた。K.Kオーグが自分は死神派の最新型みたいなことを言い出す。これはシン・仮面ライダーの前日譚にあたると思われる 『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダーSHOCKER SIDE-』(漫画脚本/山田胡瓜、作画 / 藤村緋二、原作 / 石ノ森章太郎、映画脚本 / 庵野秀明、監修 / 八手三郎)にイワンという名で呼ばれる死神博士の引用であるSHOCKERの科学者兼幹部(イワンは死神博士の本名であり、デザインも寄せられている)が出てくるので、イワンの派閥で作られたということを指すのだと思うが、K.Kオーグの元ネタの一つは死神カメレオンであり、そこも踏まえての台詞でもあると思う。さらに考えると、「死神カメレオンの死神って死神博士がつくったからじゃないのかな」みたいな子供がやりがちな勝手な設定補完がそこにあるようにも思えてくるし、「ちょっとうるさいよ」という気分にもなる。関係ないけど 『真の安らぎはこの世になく』のクモはわりと好き。あと、いじめっ子の描写がありがちだけど不快。
 オマージュの多い作風の人ではあるが、この作品でも大量にぶちこんできているし、ダブルタイフーンとか、Jの左右非対称とか、わりとわかりやすい形で提示されているものも多い(まあ、さらに「チョウオーグ、キカイダーOOも入ってんのかな」「イチローって名前、01入ってんのかな」とか、断言できないので気になってしまう箇所もあるし、何度も観た上に調べあげないとわからない部分もあるだろう)。それが、人が集まって作品について話している時に、やたらと早口で作品のテーマや本筋と関係ない自分の知識やそれにちなんだ小ネタを大量に披露してくる(自分もやりがちなやつだ)オタクを想起させる。引用のやり方が好きなものをやたらと羅列しているだけで、本作のテーマとも引用元の作品の本筋とも関係があるように思えないように感じてしまうところがあるからだ。本当に今作品はオタクの早口っぽさの強度が凄い。
 庵野監督は神話は描けるがヒーローに関しては描くのが不得意な人だと思う。エヴァンゲリオンもゴジラもウルトラマンも神話であって、ヒーローの話ではない。特に等身大特撮ヒーロー作品というのは怒りとか悲しみとかいった外に対する感情の爆発(それが誘う共感)が重要だと思うのだけれど、それが得意な作家ではないと思う。仮面ライダーという物語とは食い合わせが悪いのではないかと思ってたし、実際にヒーローの話としては不思議な雰囲気に仕上がっていると思う。
 ただ、本当に仮面ライダーが好きなのはやたらと伝わってくる。それが私が仮面ライダーに求めているものとは違っていたとしても。友人が「庵野さんは自分が考える仮面ライダーをつくったんじゃなくて、自分が仮面ライダーになったんですよ」という風に言っていたのだが、ほんとうにそんな感じだ。それは冒頭に述べた「たくさんの庵野さんが出てきた」という自分の感想とも重なるものだ。クリエイターとして新たなライダー像に挑んだというより、子供の時のライダーごっこや自分がライダーだったらという空想の延長戦上にあるような作品なのではないだろうか。庵野という人自体が万人に共感されるヒーローとしては不向きなタイプであり、ヒーローを描くことに成功しているようには感じないのだけど、仮面ライダーに対する愛情は凄く伝わってくる。そこだけは本当にわかる。だから、単に趣味があわないで切り捨てることもできない。仮面ライダー観に関する断絶を感じながら、仮面ライダーへの思い入れの強さには心が動かされる、そんな作品だ。 
 それはともかく、『仮面ライダー BLACK SUN』が出たときに凄く変な作品(個人的には大量のマイナス300点とたまに出るプラス一万点で構成された、ひどいけれど愛着がわく作品で、ビルゲニアは本当に好きだ)が50周年記念に生まれたなと思っていたが、『シン・仮面ライダー』も本当に変な映画だったし、変な仮面ライダーだった。どちらも仮面ライダーに対する真剣な想いだけは伝わってくるのだけど、50周年記念に生まれる作品としてはどちらも変だと思う。東映の懐が深いのか、なんなのか、よくわからないけど。なんであれ、あのような作品が仮面ライダー作品として生まれたのはそれはそれとしていいことなのだと思う。
(隔週金曜連載)
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ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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