藤木大地&みなとみらいクインテット
~ 日本が世界に誇るカウンターテナ
ー藤木大地に聞いた 

日本が世界に誇るカウンターテナー藤木大地と、日本を代表する腕利き揃いのピアノ五重奏による圧巻のコンサートが2023年5月21日、関西地区で唯一、奈良県大和高田市さざんかホールで行われる。
コンサートの魅力を、藤木大地に聞いた。
カウンターテナー 藤木大地   (c)平舘 平 
―― 藤木大地&みなとみらいクインテットは、素晴らしいメンバーが集結しましたね。これは藤木さんがお声掛けをされたのでしょうか。
私がプロデューサーを務める横浜みなとみらいホールで、ピアノクインテットと私の歌を、室内楽としてお聴き頂こうと作ったユニットです。横浜市と地域の文化施設が共同で、良質な音楽を市民に提供しようというプロジェクトの一環で、全国6都市で実施します。関西地区で唯一開催する奈良県大和高田市のさざんかホールでは、ヴァイオリンが成田達輝さん、周防亮介さん、ヴィオラが川本嘉子さん、チェロが上村文乃さん、ピアノが加藤昌則さんに私という6名のメンバーによって構成されています。会場によって、少しずつメンバーは変わりますが、全員私が選んだ、人気と実力を併せ持ったメンバーです。事業を創るホールがあって、複数のホールが力を合わせることで、良質の音楽を安い価格でお客様にお届け出来るというビジネスモデルが定着すると良いのですが。
ヴァイオリン 成田達輝   (c)Marco_Borggreve

ヴァイオリン 周防亮介   (c)JUNiCHIRO_MATSUO

ヴィオラ 川本嘉子     (c)島崎陽子

チェロ 上村文乃

ピアノ・編曲 加藤昌則

―― さざんかホールでは、このコンサートが一般3000円、高校生以下500円で聴けるというのですから、ずいぶんお得ですね。学生にアートマネージメントを講義されている藤木さんはその辺りの感覚は鋭いですね。

例えば、そのチケット代で他に何が買えるのか、そんなことを常に考えています。このメンバーが一堂に会する凄さが分かる方には、3000円は破格の金額だと分かっていただけますが、そうでない方にとってはどうでしょうか。例えば映画を見てご飯を食べるには少し厳しい金額ですね。ランチだったら何とかなるかもしれません。ポップス系のコンサートは、まず3000円では聴けません。しかし、3000円でまだ見ぬ世界を知るきっかけになるとしたら、如何でしょうか。出演者は全員一流のアーティストです。日本に居て、クラシック音楽でこれ以上の演奏に当たることはそんなにありません。ホール中に鳴り渡る音楽は、マイクを通さない生の音楽で、倍音が響きまくっていて心地よく感じて頂けるはず。初めて聴く音楽との出会いであると共に、この街にこんな素敵なホールがある事を知って頂きたいのです。これはもしかすると、運命的な出会いとなるかもしれません。
「このコンサートが運命的な出会いとなるかもしれません」   (c)hiromasa
―― なるほど。時にはお客様の背中を押してあげることも大切だという事ですね。3000円の価値が分かっている者として、一歩を踏み出す助けとなる記事が書けると良いのですが(笑)。当日のプログラムについて教えて頂けますでしょうか。
二部制になっていて、1部と2部の間で休憩が入ります。それぞれ最初の曲は、ピアノ五重奏の演奏をお聴き頂きます。私の歌は2曲目から。日本の歌をクライマックスに集めている事と、ざっと時代順に並べている事から、第1部はクラシカルな曲が並び、第2部は日本の歌を含むジャンルレスな曲が並びます。第2部で私が歌うのは、ミュージカル「レ・ミゼラブル」の “I Dreamed a Dream” で始まり、村松崇継さんの「いのちの歌」に向かってプログラムは盛り上がっていきます。ちなみに、さざんかホールで演奏するピアノ五重奏曲は、第一部がブラームスの第3楽章、第二部がショスタコーヴィチの第4楽章ですが、ピアノ五重奏曲は全ての会場で違う曲を演奏します。これは奏者のマンネリを防ぐ意味と、複数公演をご覧いただくお客様が同じ曲を聴くことが無いようにとの意図があります。そして、本編の最後を飾るのはバッハの教会カンタータから、 “満ち足れる安らい、うれしき魂の悦びよ” です。バッハは全ての音楽の源。特別な曲ですので、この曲で締め括ります。
藤木大地&みなとみらいクインテット(2023.2.16 横浜みなとみらいホールにて撮影)   (c)藤本史昭
―― 藤木さんは普段、ピアノやギターと一緒に歌われるケースが多いと思います。ピアノクインテットと共に歌うのは、また違った感覚でしょうね。
この編成は小さいオーケストラですよね。数年前までやったことが無かった編成です。私はステージ中央、ヴァイオリンとチェロの間に立って歌います。客席からは歌を含めた室内楽のように映るのではないでしょうか。これだけの多くの素晴らしい音に包まれて歌うことで、ピアノやギターとする時と比べ、より耳を使わないといけません。自分の演奏技術の向上に繋がると同時に、五方から素晴らしい音がする幸せを嚙みしめて歌っています。仲間として加藤昌則さんが居られることで、歌いたい曲があるとすぐにこの編成用に編曲を依頼するので、レパートリーは増えていく一方です。
藤木大地&みなとみらいクインテット(2023.2.16 横浜みなとみらいホールにて撮影)   (c)藤本史昭
―― 藤木さんの名前が一躍クラシック音楽シーンに轟いたのは、2017年にオペラの殿堂・ウィーン国立歌劇場にライマン『メデア』のヘロルド役でデビューされた事でした。元はテノールだったのですね。
そうです。テノールで歌っていた20代の最後の方は、歌うことが苦痛でした。歌手をやめて制作の現場に回ることも考えて、ウィーンで文化経営学を修めました。カウンターテナーに転向しようと考えたのは2010年のこと。ちょっとした出来事がきっかけでした。2011年からレッスンを始め、2012年には日本音楽コンクールで史上初めてカウンターテナーとして第1位を頂きました。しかし当時、日本のクラシック音楽界はまだカウンターテナーには理解が無く、日本でのカウンターテナーへの仕事はあまり多くありませんでした。2013年にボローニャ歌劇場にてグルック『クレーリアの勝利』マンニオ役でヨーロッパデビュー。大きく夢がったのは2017年のウィーン国立歌劇場のデビューでしたね。その後は凱旋公演として新国立劇場やバッハ・コレギウム・ジャパンで主役のハナシを頂きました。そして東京文化会館の企画で、歌劇「400歳のカストラート」を企画原案、出演したことが、みなとみらいクインテットへと繋がっていきます。
アリベルト・ライマン作曲 オペラ『メデア』ヘロルド役(2017.4 ウィーン国立歌劇場)  写真提供:AMATI

アリベルト・ライマン作曲 オペラ『メデア』ヘロルド役(2017.4 ウィーン国立歌劇場)  写真提供:AMATI
―― 歌劇「400歳のカストラート」は評判を呼び、そこから派生した形でアルバム「いのちのうた」が誕生しています。そして、横浜みなとみらいホールの「プロデューサーinレジデンス」に就任されました。

この辺りの出来事は、すべて繋がっています。「400歳のカストラート」の音楽を、単なるサントラではなく、ちゃんとしたコンセプトアルバムに作り替えたのがアルバム「いのちのうた」です。楽器の編成は弦楽四重奏とピアノそして私の歌です。それが今回の「みなとみらいクインテット」に繋がっています。プログラムの選曲も、共通点があります。
―― やはり藤木さんと話をしていると、理路整然としていて、プロデュースをされる方だなというのが分かりますね。みなとみらいホールのプロデューサーとしての任期は、残り半年程だそうですが、この先どんな事をされる予定ですか。
4月にはミュージカル俳優の中川晃教さん、オペラ歌手 中村恵理さん、アーティストのサラ・オレインさんに私という4人でジャンルを超えた音楽祭「横浜うたまつり」を行います。これには阪哲朗さんの指揮で、山形交響楽団にご参加頂きます。7月には、次期プロデューサーに決まっているピアニスト反田恭平さんと、務川慧悟さんと一緒にコンサートをやります。
横浜みなとみらいホール初代プロデューサーを務める藤木大地   (c)平舘 平
―― 現在、大学で経営学を教えておられるそうですね。
音楽大学で学ぶ人全員が音楽家になれるわけではなく、それでも音楽の現場で仕事がしたいという学生に向けて自分の経験してきたことを伝えられればと思って教えています。カウンターテナーは、裏声をコントロールし、喉を酷使して歌っています。現在43歳ですが、50歳までの歌手活動くらいのイメージで、その先は他にやりたい事をやろうと思っています。そのひとつが、経営的な視点を音楽を学ぶ学生に教えることです。音楽しか分からない音楽家ではなく、一般的なビジネススキルを持ち、グローバルな視点からものが語れる音楽家や、専門のプロデューサーの育成のお手伝いが出来ればと思っています。
―― 藤木さん、ありがとうございました。最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
一つお願いがあります。5月21日(日)15時から2時間、どうかスケジュールを空けてください。そして、奈良県大和高田のさざんかホールに集合です。大阪からも近鉄難波から大和高田まで、僅か40分。一期一会の体験をしに、お越しください。奈良のこの場所に、こんなに素敵なホールがある事を、まず地元の人には誇りに思って頂きたいです。そして、このホールで素晴らしい音楽と出会えたことに、きっと感謝して頂けるはずです。その為に私たちみなとみらいクインテットのメンバーは一生懸命演奏をします。感激は私が保証します。まだ見ぬ世界に会いに、さざんかホールにお越しください。お待ちしています。

5月21日は奈良県大和高田市のさざんかホールにぜひお越しください   (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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