アルバム『ZERO』

アルバム『ZERO』

【DEAD END特集 vol.4】
メタルからの脱却
多大な影響を与え続ける『ZERO』

DEAD END~The first four works~Vinyl Collection』と題して、DEAD END の初期 4 作品が6月30日(水)に アナログ盤で再発されることからスタートしたOKMusic企画『DEAD END特集』の最後を飾るのは、1989年9月にリリースされたアルバム『ZERO』。前作『shámbara』、前々作『GHOST OF ROMANCE』に関して“ハードロック/ヘヴィメタルの枠組みに収まらない”という旨の紹介をしてきたが、そういう作風をさらに深めたのが本作だ。リリースから30年以上経った現在、若いリスナー層がこのアルバムを再生したら、何処か馴染み深いものを感じるのではないだろうか? なぜなら、このアルバムで示されているバンドサウンドは、DEAD ENDに憧れながら育った下の世代に多大な影響を与えているからだ。具体的な名称を挙げるならば、メンバーが彼らへのリスペクトを公言しているLUNA SEA、L'Arc-en-Ciel、黒夢などは、DEAD ENDが偉大な先人として存在したからこそ誕生したバンドだと明言しても、おそらく誰からの異論もないだろう。そして、その影響は上記の3バンドよりもさらに下の世代に対しても絶大であり続けている。

90年代以降のハードロック/ヘヴィメタルの進化、さまざまな派生形を知っている現代のリスナーの耳で向き合えば、『ZERO』は何の戸惑いもなく聴けると思う。しかし、これがリリースされた1989年の時点では、“これは果たしてヘヴィメタルなのだろうか?”というような受け止め方をする人が少なからずいたことを、本作のリアルタイム世代は記憶しているはずだ。『GHOST OF ROMANCE』や『shámbara』でもそういう作風の萌芽は示されていたものの、『ZERO』に収録されている曲の多くは当時のハードロック/ヘヴィメタルの類型を遥かに超越していた。
「前作までまだまとっていたメタル的なものを意識的に払拭しようとしたアルバムで、制作中から“これが最後になるかもしれない”という予感めいたものがあったことはあったので、旧来のファンの多くが離れ、ファン層が一新するような、良くも悪くも破れかぶれ的な内容になったと思います。良いというのは、一発録りに近いレコーディングでダビングも極力少なく、バンドの生々しさがパッケージされたカテゴライズできない音を作れたところ。悪いというのは、達成したことの先への可能性についてバンド自体がイメージできず解散に至ったことでしょうか」(MORRIE
「まぁ、賛否両論あると思うけど、別にポップにしようとか、そういうのは考えてなかったと思うけど…。新境地を開いたアルバムだったなとは思います」(CRAZY“COOL”JOE)

劇的な変化に関しては、次のような背景も少なからず後押ししていたようだ。
「前述したことに加えて、当時は変化が美徳というような風潮がありまして、変わるなら極端に変わろうとしたということもあります。レコード会社がBMGビクターに移籍した一作目ということも関係していたと思います。個人的には常にジャンルを横断、超越したいというような欲望もありました」(MORRIE)

『ZERO』は前作『shámbara』に続き、岡野ハジメ氏がプロデューサーとして参加。レコーディング作業は、ロンドンで進められた。いくつかの曲の作曲クレジットにYOU、MORRIEと並んで岡野氏が名前を連ねているのが目を引く。
「それまでのリフ主体で押す曲でなく、コード進行でメロディックに展開していく曲などでは岡野さんの持つノウハウをより必要としたということです。ロンドン行きが迫ってきてもなかなか曲がまとまらず、自分はちょうどMTRを買って自宅録音を始めた頃で、久しぶりに曲作りに参加しました。ちなみに初めてMTRで録音した曲は「Sleep in The Sky」でした」(MORRIE)

清々しい開放感に満ちあふれている「I Want Your Love」。雄大に響き渡る「So Sweet So Lonely」。ハードなサウンドと繊細な響きの融合が絶妙な「Baby Blue」。DEAD ENDファンの間で絶大な人気の「Serafine」。…などなど、特筆すべき曲を挙げ始めると“全部!”ということになりかねない本作。前作、前々作の時点で育まれていたギターのアルペジオ、繊細なコード感、空間系エフェクターを効果的に活かしたサウンドメイキングが、いよいよ本格的に開花している。MORRIEの艶やかな歌声が存分に発揮された「I'm in A Coma」、エキゾチックな音階を取り入れた「Promised Land」なども、随所で煌めく豊かなアイディア、各メンバーの表現力に驚かされる。

先述のとおり、このアルバムのレコーディングはロンドンで行なわれた。新鮮な環境での作業も、得るものがたくさんあったようだ。
「今はなきマスターロックスタジオは明るく開放的な雰囲気で、レコーディング自体はのびのびできました。一発録りでダビングも極力少なくその時の勢いみたいなものが封じ込められていると思います。LAより馴染やすく、オフもいろんなところに行って楽しかったです。霧に浮かぶ夜のオレンジの街灯の光景はよく思い出します」(MORRIE)
「ハマースミス・オデオンやTin Machineのライヴ、滞在日数が長かったので、いろんなところに行った。昔から憧れていた国に行けて、街並みを含め、全てに刺激を受けました」(CRAZY“COOL”JOE)

充実した制作期間を経て完成した『ZERO』のリリース後、ライヴハウスツアー、ホールツアーが行なわれた。そして、翌年の1990年1月に東京・中野サンプラザで開催されたワンマンライヴの後、MINATO(Dr)がバンドを脱退。レコーディングが既に終了していた「Good Morning Satellite」と「原始のかけら」を収録したシングルが同年4月にリリースされたものの、DEAD ENDの活動は、ここでいったん長期にわたって途切れることとなる。復活は2009年8月15日に開催された『JACK IN THE BOX 2009 SUMMER』まで待たなければならなかったが、空白の期間も彼らの音楽が多大な影響力を持っていたことは本稿の序盤で綴ったとおり。このように彼らの軌跡を辿ると、数々の名曲と名演を生んだYOUが2020年6月16日に永眠したことが改めてとても悲しく、寂しく感じられて遣り切れない。しかし、世に送り出された作品の輝きは永遠だ。DEAD ENDは、これからも刺激的なバンドであり続けてくれるだろう。

text by 田中 大
LPアナログ盤『ZERO』2023年6月30日(金)発売
    • LHMV-2006〜7/¥7,800(税込)
    • ※完全生産限定アナログ盤
    • ※180グラム重量盤
    • ※1989年作品
    • <収録曲>
    • ■SIDE A
    • 01. I Want Your Love
    • 02. Sleep in The Sky
    • ■SIDE B
    • 01. Baby Blue
    • 02. So Sweet So Lonely
    • 03. Crash 49
    • ■SIDE C
    • 01. Trickster
    • 02. Hyper Desire
    • 03. Promised Land
    • ■SIDE D
    • 01. I Spy
    • 02. I'm in A Coma
    • 03. Serafine
アルバム『ZERO』

OKMusic編集部

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