破天荒なイケメンラッパー・t-Aceが
繰り出すヒット曲の数々は“庶民の味
” ジャンルに捉われずに生きる彼の
魅力とは

いまや日本のHIPHOPシーンに欠かせぬ存在となったt-Ace。“エロ神クズお”という別名を持ち、痛みや弱み、時にはチャラさもにじませるリリックを武器に幅広い層のファンを獲得している。過去に発表された楽曲に関してもYouTubeのMV再生回数が「超ヤバい(約2950万回再生)」「PORSCHEでKISS(約1300万回再生)」「ダレもいねえ(約1250万回再生)」と、かなりの数字をマーク。特に「超ヤバい」はTikTokでもバズり、ティーンからZ世代を中心に拡散され、人気が急上昇。
また、2019年には「Sweet19Blues~オレには遠い~(feat.安室奈美恵)」をリリースし、フィーチャリングのセンスも話題に。今回はそんな彼のラッパーとしての成り立ちや、3月26日に日比谷野外第音楽堂で開催される『エロ神クズお Presents 《PARK POP SUKEBE 2023~今夜もダレかと~》』についても語ってもらった。
音楽は、高級食材で創作料理を作るのではなく、スーパーで買った食材でメッチャ美味しいものを作りたい。
――まず、t-AceさんがHIPHOPに興味を持つキッカケは何だったんでしょう?
t-Ace:単純に音楽だけがキッカケじゃなかったんですよ。HIPHOPってダンスとかスケボーとかいろんなカルチャーと関わっていて。それも含めてカッコいいと思ったんです。音楽を始めたのは14歳くらいですかね。影響を受けたのはJay-Zとか……まぁ、音楽を始めて、だいぶあとになってから彼を知ったんですけどね。それをキッカケに、よりアメリカの音楽にのめりこむようになりました。
――音楽と最初に関わったのはどういう形で?
t-Ace:最初、DJをやってたんです。楽器のかわりにターンテーブルとかアナログのレコードを買うことから始まってますね。曲なんて最初からちゃんと作れないから、苦労したこともあります。でも、好きだから続けていくと、勝手に上手になっていくものです。
――リリックには自身のリアルな体験や思いをのせてますよね。聴いた人はそこに共感を覚えると思います。特に女性のファンが多い印象がありますが、これは予想外ですか?
t-Ace:うん、全然予想してなかったですね。聴き手はこっちが選べないし。僕はただ、自分が思うことを発していたら女の人の方が自然と集まってきた……みたいな(笑)。
t-Ace
――RAPの世界って、バトルがあったり、ハードなイメージがある中、恋愛がテーマだったり、ソフトで聴きやすい楽曲も多く、女性もハマるのかなぁと思うんですが。
t-Ace:僕は曲のテーマとして、その時の自分に起きていることとか、思っていること、それを忠実に書いているだけで、狙ったりはしてなくて。だから次にどんな曲ができるのかも、自分ではわからないんです。
――なるほど。わかりやすいテーマと言葉で表現しているのも聴き手に届きやすい要因なのかもですね。
t-Ace:14歳からずっと音楽をやっていれば、ある程度、どんな音楽でも作れるようになるわけですよ。世の中に出ている音楽に関しても、ジャンルは違えど理解して自分の中に取り込むこともできる。でも、自分のやりたいものとして、すごい比喩とか高度なテクニックとか、そんなことは使いたくなくて。めちゃくちゃ普通に話すような超簡単な言葉だけど、なぜか響くっていう方がいい。スーパーで売ってるものでメッチャおいしいものを作るみたいな。
――おお~、すごくわかりやすい例え!
t-Ace:すごい高級素材を集めて他にない創作料理を作るんじゃなくて、スーパーで買ったものでメッチャおいしいものを作った方がイケてるなって。僕がやりたいのは庶民の娯楽だから。すごく難しいことをやって、“これがアートだ!”みたいなことには興味がないんです。
ジャンルに捉われず、“t-Ace”をまだ知らない人に向けて積極的にアプローチしていく。
――t-Aceさんは様々なアーティストとフィーチャリングをされていますが、どう捉えてますか?
t-Ace:僕は、フィーチャリングが多いわけではないんですが、最近いろんな人達と絡むようになって、ようやく“フィーチャリング”っていいなと思うようになったところですね。過去にコラボしてきたのは、ほとんど友達ばかりだったんで。
――意外な人と絡むことで、ある種の化学変化が起きると思いますし、その醍醐味を知っていけば、どんどん面白くなりそうですね。
t-Ace:そうですね。僕が20代前半くらいの頃にHIPHOPのブームみたいなものが来たんです。渋谷でも歩いている人がみんなHIPHOPのファッションで。でも、そのブームもハジけて、その次にレゲエがきたんですよ。僕はそういう歴史をずっと見てきて、当時HIPHOPのシーンにぶら下がってた人達がブームのあと、一斉にいなくなったんです。
t-Ace
――それは、あらゆるシーンにあてはまりそうです。
t-Ace:流行りなんてそのうち廃れますからね。そうなった時、僕だったら“t-Ace”っていうひとりのアーティストとして、どれだけ興味を持ってもらえているかが大切だと思います。ひとつのジャンルに依存しているのって、すごく怖いこと。だから、フィーチャリングは、HIPHOP以外のアーティストともコラボして、t-Aceをまだ知らない人にも向けてアプローチしていきたいと思います。
――t-Aceさんから見た、今の日本のHIPHOPシーンはどういう風に見えてますか?
t-Ace:アメリカとは全然違う、オリジナルの文化になってると思いますね。日本独自というか。あとは、フリースタイルバトルから入る若い子もめちゃくちゃ多くなったかな。でも、カルチャーとかファッションのカッコよさは意外と引き継がれてなかったりして。僕なんかはそこがカッコいいなと思ったんですけどね。
――フリースタイルバトルは、若い世代に人気ですよね。
t-Ace:結局、音楽って“音を楽しむ”って書くわけで、それはHIPHOPだろうがロックだろうが、聴いていて救われたり、ライブだったらめちゃくちゃ楽しめる……何か気分が落ちてたけど、聴いたら前向きになれたとか、基本楽しむものだと思うんです。そこって、ジャンルが変わっても一緒だから、フリースタイルバトルがすげぇ好きでHIPHOPを知ったなんて、針で穴をプスっとついたぐらい小さい話なんですよ。まわりには同じコンセプトを元に作られた違うジャンルの魅力的な曲が山ほどある。そこに早く気づいて欲しい!そうすれば、“俺はここから入ったけど、こっちの方が好きだわ”っていうものがいっぱい見つかって、人生豊かになっていくんじゃないかな。
――t-Aceさん自身は、あらゆる音楽を聴いていると。
t-Ace:うん、聴いてますね。そもそも僕はDJをやっていた時から、90年代以降のHIPHOPからずっと追ってるんで。それ以前のオールドスクールに関しては、ソウルとかファンクの影響があるじゃないですか。なので、次にその辺のレコードを掘ってみたり、70年代のダンスクラシック、ディスコソングを聴いたりしてきました。そうすると、ロックやレゲエにもつながっていって、どんどん世界中の音楽を聴くようになったんですよね。
お金と幸せは直結しない。いつもピンチを救ってくれたのは“仲間”だ。
――なるほど。話は変わりますが、3月26日に『エロ神クズお Presents《PARK POP SUKEBE 2023~今夜もダレかと~》』が日比谷野外大音楽堂にて開催されます。こちらにはt-Aceさんの幅広い交友関係が反映されてますね。面白かったのは、グッズ販売にYouTuberのラファエルさんがいらっしゃるという(笑)。
t-Ace:出演者はみんな仲間で近い身内みたいな。彼は1日店長なんですよ(笑)。プライベートでも飲みに行ったり、遊びに行ったりして、めっちゃ仲がいいんです。少し前に動画を撮りに行ったら、こっちからお願いしたわけじゃないのに、向こうから勝手に1日店長をやりたいって言い出して(笑)。 “あ、そんなことやってくれるの?”って(笑)。
t-Ace
――面白いです(笑)。
t-Ace:同じ音楽の畑じゃないのに知名度があるような知り合いもいて…。あと異ジャンルだけど芸人さんは、めっちゃリスペクトしてます。たぶん、26日にもみんなが“あ!”って思うような芸人さんが来てくれると思うんですけどね。目の前に客がたくさんいて、今その人達が欲しいメッセージを感じ取って投げて次につなげる……それってアーティストにとってのライブの技術と同じなんです。だから僕らと芸人さんがやってることって、近い部分があると思います。
――では、最後にそんなt-Aceさんから閉塞感のある世の中でもがく皆さんにラクになれるようなひと言を!
t-Ace:みんな“金”について考えすぎてるんですよ。もちろん以前は俺も考えてましたよ。元々家がすごい貧乏だったんで、絶対金持ちになるって思ってたくさん稼いだしね。結果、欲しいものも買いまくったけど、お金と幸せは直結しないし、お金があっても葛藤とか孤独や不安はなくならない。結局、僕がお金をいっぱい稼いだあとでも、ピンチを救ってくれたのって仲間なんです。「今の俺は倒れそうだけど、こいつらがいれば大丈夫」っていう人間関係ね。そういうものがある方が心は豊かになる。でも、そんな話をしたところで「お前は金を持ってるからそんなこと言うんだよ」って言われるだろうけど……まぁ、「確かに!」だよね(笑)。
――とはいえ、やっぱり人間関係につきるでしょうね。では、これからも仲間と共に、今後も末永く音楽を……。
t-Ace:別に末永く続けるとも限らないです(笑)。自分の中でベストパフォーマンスが無理だなって思ったら辞めると思うし。みんな若い頃は特にそうだけど“俺にはこれしかねぇ!”って思いがちじゃないですか。でも、音楽ってなるべく俯瞰で見ていた方が楽しめると思うんですよ。やっぱりまわりをちゃんと見ていないと新しいものは見えてこないから。
――そこでまた何か生まれそうですね!
t-Ace:いや、でもホントに何も考えてないんで(笑)。もうマジでやべぇなって(爆笑)。
取材・文=海江敦士
撮影=上溝恭香

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