黒船来航、“日本の視点”を多彩な楽
曲で描く~ミュージカル『太平洋序曲
』ゲネプロレポート

ミュージカル『太平洋序曲』が2023年3月8日(水)、東京・日生劇場にて開幕した。江戸時代末期の黒船来航から開国へ向かう近代日本の夜明けを題材に、ミュージカルの巨匠とよばれたスティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲を手掛けている。同日、初日公演直前に行われたゲネプロには狂言回し役・松下優也、香山弥左衛門役・廣瀬友祐、ジョン万次郎役・立石俊樹らが出演した。そのゲネプロ模様をお届けする。
1976年にブロードウェイで初演され、江戸時代末期の黒船来航を題材にした作品。梅田芸術劇場と英国メニエール・チョコレート・ファクトリー劇場による共同制作によるアプローチで新たに創り上げられた。
本作で描かれるのは、1853年(嘉永6年)の日本。「The Advantages of Floating in the Middle of the Sea」の壮大な旋律にのせ、狂言回し(松下)が日本について語り始める。どこか楽しげでありながら、何か得体の知れなさが漂う。歌と語りそれぞれで変貌する松下の声色が、一気に客席を支配した。時にはまるで文章をなぞるように、時には物語の登場人物のひとりとして出現。予測のつかない曲展開に、ワクワクさせられっぱなしだ。美しい曲線を描いた木製の舞台美術も印象的で、シーンごとに波や船などさまざまな役割を果たしていく。
将軍(朝海ひかる)の前に連れてこられたのは、鎖国破りの罪で捕らえられた漁師・ジョン万次郎(立石)。アメリカからやってくる黒い軍艦の存在を知らせる。上陸を阻止するため、浦賀奉行所の下級武士である香山弥左衛門(廣瀬)に白羽の矢が立った。重大かつ危険な命令に、黒い軍艦へ立ち向かう覚悟を決める香山と、妻・たまてのデュエット「There Is No Other Way」が切なく響く。
港へ乗り込んできた4隻の軍艦は、当時の人々の目には破滅へ導く龍に見えたのだろう。混乱を描いた「Four Black Dragons」もまた象徴的な一曲だ。アメリカをよく知る万次郎を連れ、香山はペリーとの交渉に臨むことに。香山の妙案と万次郎の機転の相性は抜群らしく、緊張感がありつつもクスッとさせられる軽妙さが絶妙だ。身分の異なる2人が織りなす「Poems」は、俳句を詠み合う形で紡がれていく。あまりにも独特な技巧で組み立てられたメロディと、香山と万次郎の感性が交差していく様が美しかった。
前日に行われた会見で脚本を担当したジョン・ワイドマンは、作詞・作曲を手掛けた盟友であるスティーヴン・ソンドハイムについて「これまで作ったなかでお気に入りとして挙げていたのは『太平洋序曲』の楽曲だった」と語っていた。特に好きだったというのが「Someone in a Tree」。海辺のとある小屋で行われた会談について、当事者の視点ではなく、外にいた人々によって語られるナンバーだ。歴史的な瞬間に立ち会った、名もなき市民たちの姿も大切に描かれている。1976年の初演当時より持ち続けられてきた“日本の視点”へのこだわりに、幾度も唸らされた。
諸外国に開国を迫られる幕府。緊迫した状況が、どこかコミカルに描かれることも心を揺さぶる要因だ。遊び心がありながらも、壮大。あまりにも多彩な楽曲の魅力にすっかりのめり込んでしまった。次第に西洋文化へ傾倒していく香山と、武士道に目覚めていく万次郎。狂言回しが示す物語の結末は、劇場で体感してほしい。
本公演は、3月29日(水)まで東京・日生劇場にて、その後、4月8日(土)〜16日(日)大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。狂言回し役は山本耕史・松下優也(Wキャスト)、香山弥左衛門役は海宝直人・廣瀬友祐(Wキャスト)、ジョン万次郎役はウエンツ瑛士・立石俊樹(Wキャスト)でおくる。
取材・文・撮影=潮田茗

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