浦井健治「女性たちの生きた証や強さ
をぜひ」 ナビゲーターを務める展覧
会『マリー・ローランサンとモード』
開催中

Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区)にて、2023年2月14日(火)から4月9日(日)まで、展覧会『マリー・ローランサンとモード』が開催されている。展覧会ナビゲーターを務めるのは俳優・浦井健治。展覧会場を訪れた浦井に、本展の見どころやアートに対する想いを聞いた。
2人の姿はまるで騎士のよう
ーー浦井さんご自身、初の展覧会ナビゲーターだそうですね。収録で心がけたことなどを教えてください。
ナビゲーターのお話をいただき、とても光栄で嬉しかったですし、贅沢な経験をしたなと思います。展覧会のナビゲーターは初めてですが、これまでもナレーションのお仕事はしてきましたので、今回は一緒に街を歩いている雰囲気になれるような、もしくは、一緒に展示を見ているような感覚になれるナレーションを心がけました。
ーー先ほど実際に浦井さんの音声ガイドを聴きました。とても優しいお声で、当時の熱気あふれるパリの軽やかな空間を浦井さん声が演出されているようにも感じました。
ありがとうございます。観覧の邪魔にならないようにというのは念頭に置いていましたね。やはり美術鑑賞というのは、その作品の作者と対峙したり、時を超えてその時代を感じてみたり……、対象は「その当時」かもしれないし、「自分」かもしれないけれど、静寂の中で向き合う時間だと思うんです。向き合うことで、きっと学びがあると思うんです。なので、皆さんの観覧を邪魔しないよう、抑揚や感情の起伏は抑えめに、優しく包み込むようなイメージで収録しました。
実際に収録をしていても、展覧会でフィーチャーされるマリー・ローランサンやココ・シャネルらの志や芸術、もしくは生き様に魅せられました。やはり社会的にまだ新進な感じが彼女たちにはあったのかなと思うんです。大戦後の自由な時代を生きる女性たちの代表ともいえる存在で、女性的な美をひたすら追求したローランサンと、男性服の素材やスポーツウェアを女性服に取り入れたシャネル。いろいろとトライし、勝ち取っていく姿が僕には騎士に見えるんですよね。
ーー騎士に見えると。2人の生き方に共感される部分はありますか?
すみません、言いすぎましたかね(笑)。でもやはり大変だったと思うんですよね。常識や風潮に抗って、もしくは立ち向かって。そして意思を示して、えていく。女性って本当に強いな、素晴らしいなと感じました。
ーー実際に展覧会をご覧になって、どの作品に興味を持たれましたか?
いろいろありますが、恋人とのツーショットの絵画(マリー・ローランサン《鳩と女たち(マリー・ローランサンとニコル・グルー)》)は興味深かったです。グレーな色彩と、色鮮やかな色彩の対比で描いていたのが印象的でしたね。それから自画像。美の追求心、探求心というのでしょうか、「こう見えたい」というのを作品から感じられて、見入ってしまいました。
そして衣装の展示ですね。自分は役者として衣装を着る場面も多いので、衣装さんからいろいろこだわりをレクチャーしてもらうことがあって。「ここの素材は凝っていて、パリから持ってきたの」と言われたり、それから当時の時代背景を重ねつつも、今でも可愛く見えるように仕立ててしてくださったり、役者が動きやすいように工夫してくださったり。今回の展示は、そういう衣装さんの言葉とそのままリンクしているなあと思いましたね。
手前:マリー・ローランサン《鳩と女たち》1919年 油彩・キャンバス パリ、ポンピドゥー・センター
もしも100年前のパリへとタイムスリップしたら……
ーーもし浦井さんがタイムスリップして、マリー・ローランサンとお話する機会があったら、何を聞いてみたいですか。
うーん、なんだろう……。何に一番重きを置いて創作活動をしたんですか、何を提示するのに一番苦労しましたか、という2つは聞いてみたいかな。昔も今もファッションって、人と寄り添いながらもその時代を切り取っていると思うんです。その点、演劇にも近しいものがあるかなと思って。どんなことを思って創作をしていたんだろう、どんなことに気をつけていたんだろうというのが気になります。
ーー今回の展覧会は今からおよそ100年前のパリが舞台です。パリについてはどんなイメージをお持ちですか? また、もし100年前のパリに行けるなら何をしたいですか?
パリには1、2回行ったことがあるのですが、まず食がものすごくおいしい。それから、街全体がどこを切り取っても“映え”るイメージですね。パリは「芸術の都」と言われますが、本当に映画の中のようですよね。
100年前のパリに行けるのなら、当時の車に乗ってみたいですね。今日本にある車とはまた全然違った車種だろうし、興味があります。それから、食も気になります。パスタとかパンとかどんな感じなんだろう。今と味は変わるんですかね? 食べてみたいです。
ーー浦井さんは海外の美術館にも足を運んで、音声ガイドを使用したご経験もあるそうですが、何か印象的だった展示やガイドはありますか。
大きな美術館だと、海外でも日本語のパンフレットが置いてあったり、音声ガイドがあったりしますよね。そういった文字情報も音声ガイドも、プラスアルファの情報としてすごくありがたいです。ただ自分の感性で作品を見ることも大切だと思うんですけれども、そこに情報がプラスされることで、より作品の奥深さを知ることができる。例えば「こんな背景があって、こんなことが当時起こったからこの絵は描かれている」と知るだけで、全然見方が変わってくるじゃないですか。調べていけば確かにそれは分かることかもしれないけれど、現地で学びを深められるのはありがたいですよね。
印象的だった作品はいろいろあります。一部屋全部モネの作品で埋め尽くされている空間も思い出すし、有名な絵画でも「実物はこんなに小さいの!?」と思ったこともあります(笑)。でもやっぱり、本物はすごいですよね。インスピレーションがわっと湧いてきます。
実在の人物を演じるとき、アート作品が手助けになることも多い
ーー改めて浦井さんにとってアートとはどんなものですか。
学びの連続ですね。例えば、アメリカのニューヨークでは、知り合いに現地を案内してもらったことがあって。詳しい人の話を聞きながら、本物を見る体験は本当に贅沢だし、学ぶことがたくさんありました。
アートから「こういうふうに時代が移り変わっていったんだ」という歴史の流れを感じたり、当時の社会で問題になっていたことや悲しい戦争の現実、人々の生活を体感したりして。時にはショッキングなものもグロテスクなものもありますけど、それでもアートとして残っている。アートを見る行為は、とても演劇的だと思うんですよね。
ーー何かの作品を浦井さんが見て、感じる。そして時が経って、いつか見たアート作品の時代を描いた演劇作品に出演するとする。そうするとやはりそのアート作品をぼんやりとでも思い出すものですか。アートに触れることは俳優業にも役立ちますか。
そうですね。例えば実在の人物を演じるとき、その人物を紐解いていくと、アート作品に行き当たることも多いんです。書物だけではなく、美術館にその人物の絵があるときは、その絵を生で見てみたいと思いますね。また、例えばパリの革命の時代を描いた作品をやるとなったら、当時のパリの美術品や装飾品を見てみたいと思いますし、人との距離感なども絵から学んでみたいと思います。
ーーまさに知的好奇心に溢れていますね!
いや、もちろん知識も必要だと思いますけど、どちらかというと、アートは感覚で捉えたいですね。演じることって、その場で生きて、反応していくことだと思うのですが、アートはその助けになるんですよ。例えば教会の中の空気感、ステンドグラスの美しさなど。僕はなぜか王を演じることが多いので(笑)、その当時の様子を知るためにはアートというものが一番入りやすいんです。
ーー最後に、展覧会を楽しみにされている皆さまに一言お願いします。
渋谷の街の真ん中にあるBunkamura ザ・ミュージアム。今回の展示を終えたら、一度休館してしまうということなので、この贅沢な空間をぜひとも体感していただけたらなと思います。ミュージカルなどで僕を知っている方が、僕きっかけでこの展示を見に来てくださって、また世界が広がったと感じてくださったらとても嬉しいですし、一方で、僕という存在を全く知らず展覧会を観に来ても、僕の声が観覧の邪魔にならないような音声ガイドを目指しました。
どんな方が見に来ても楽しめるような刺激あふれる芸術空間になっていますし、一度と言わず、何度も足を運んでいただけたら。女性たちの生きた証や強さをぜひ見に来ていただけたらなと思います。
※注:東急百貨店本店土地の開発に伴い、Bunkamuraは2023年4月からオーチャードホールを除き長期休館します。Bunkamura ザ・ミュージアムは、休館中はヒカリエを中心にさまざまな会場で展覧会を開催します。
浦井健治が展覧会ナビゲーターを務めた展覧会『マリー・ローランサンとモード』は、2023年4月9日(日)まで、Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中。その後、2023年4月16日(日)から6月11日(日)まで、京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階へと巡回予定。

文=五月女菜穂 写真=松本理加(浦井健治)、五月女菜穂(展示風景)

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