ハンブルク・バレエ団が5年ぶりに来
日、巨匠ジョン・ノイマイヤーが芸術
監督として率いる最後の日本公演~開
幕記者会見レポート

ドイツのハンブルク・バレエ団 2023年日本公演が2023年3月2日(木)~12日(日)東京文化会館にて催され、〈ジョン・ノイマイヤーの世界)Edition 2023と『シルヴィア』を上演する。5年ぶり9度目となる日本公演の開幕を控えて、2月28日(火)開幕記者会見が行われ、芸術監督/首席振付家のジョン・ノイマイヤー、プリンシパル・ダンサー(最高位)のアンナ・ラウデール、イダ・プレトリウス、エドウィン・レヴァツォフ、菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ、主催者のNBS 公益財団法人日本舞台芸術振興会の専務理事・髙橋典夫が登壇した。

■ノイマイヤー芸術監督在任50年を迎え、待望の来日公演が実現!
ハンブルク・バレエ団は、御年84歳のノイマイヤーが1973年から芸術監督・首席振付家を務め、世界的名声を博する。ノイマイヤーの創造は古典バレエの新解釈、物語バレエ、マーラーの交響曲などに振付したシンフォニック・バレエを核として多岐にわたるが、そのいずれにおいても深遠にして慈愛に満ちた、豊かな境地に達している。ノイマイヤーは今シーズン(2022年/2023年)で在任50周年を迎え、2024年に現職を退くことを表明している。したがって、ノイマイヤーが芸術監督としてカンパニーを率いての来日は最後となる。
ハンブルク・バレエ団記者会見(ジョン・ノイマイヤー) photo Ayano Tomozawa
会見冒頭の髙橋のスピーチによれば、今回は総勢102名での来日となり、「コロナ禍が始まって以来、おそらく最大規模の海外からのバレエ団の公演」である。2021年に予定されていた来日は残念ながら中止となったが、日本では1986年の初来日以来37年にわたりノイマイヤーとともに親しまれてきただけに、巨匠のラスト・イヤーを前に日本公演が実現したのは喜ばしい。
ノイマイヤーは「日本とは長く深いアーティスティックな関係を築いてきました。その関係はこれからも無くなることはありませんが、ハンブルク・バレエ団を率いる立場としては最後になります」と自らの口からあらためて去就を語る。そして日本公演で悩むのは演目選定だと明かす。「ハンブルク・バレエ団はクリエイティブなカンパニーなので、同じものばかりを上演したくないという気持ちもあります。皆さんにハンブルク・バレエをさまざまな側面から体験していただけるレパートリーを持ってきたい」と述べた。その結果、今回は〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉Edition 2023と『シルヴィア』が選ばれた。
ハンブルク・バレエ団記者会見 photo Ayano Tomozawa

■新たに編み直された巨匠名作集〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉
3月2日(木)~5日(日)に上演される〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉Edition 2023は、ノイマイヤーの珠玉のバレエ12作品を連ねた名作集で、ノイマイヤー自身が出演し、自らのバレエ人生を語りながら進む。各作品は全幕ではなく抜粋となるが「私のバレエを理解していただけるのではないか」と巨匠は語る。日本では2016年、2018年に上演され反響を呼んだが、構成は今までと異なる。「今回も私自身が日本の観客のためにレパートリーを選択しました」と説明した。
近年の代表作と自任する『アンナ・カレーニナ』(2017年)が入る。「私にとって重要な作品で、いろいろ予期せぬ発見ができるという意味で大事なレパートリーとなりました。これをアンナ・ラウデールが踊りますが、観たことのないようなアンナ・カレーニナを演じています。全幕を見なければ!という好奇心にかられるでしょう」と紹介した。
ハンブルク・バレエ団記者会見(アンナ・ラウデール) photo Ayano Tomozawa
またコロナ禍に制作された『ゴースト・ライト』(2020年)も組みこまれる。ハンブルク・バレエ団では、パンデミック初期において、広々として換気のいいスタジオを持つ強みを生かし早くから稽古を再開した。クラスレッスンを毎日10回、1回6人までという制限を設けて行い、ノイマイヤーも必ず顔を出したという。「私たちはアンサンブル、グループ、カンパニーなんだということを忘れてほしくなかったからです」と語り、そのうち創作活動も再開した。そして生まれたのがシューベルトのピアノ曲を用いた『ゴースト・ライト』である。「ゴースト・ライト」とは、舞台での演技が終わった後に照らされる灯りのこと。ノイマイヤーは「ご覧になると能を思い出されるでしょう。でも、これは意図的に入れた訳ではなくて、まるで幽霊が現れるかのように能というものが表れてきています。実際に能の動きを示したのではなくて、能のコンセプトを感じていただけるのではないかと思います」と語った。
ハンブルク・バレエ団記者会見(エドウィン・レヴァツォフ) photo Ayano Tomozawa

■菅井円加らがタイトル・ロールを踊る、モダンな雰囲気の『シルヴィア』
3月10日(金)~12日(日)に上演される『シルヴィア』(全幕)は「ジョン・ノイマイヤーによるバレエ。神話をテーマにした3つの舞踊詩」という副題が付く。レオ・ドリーブが作曲した『シルヴィア』は、ギリシャ神話に登場するニンフのシルヴィアと羊飼いのアミンタの恋物語で、1876年にパリ・オペラ座にてルイ・メラントの振付により初演された。ノイマイヤーはそれから120年ほどの時を経て、1997年にパリ・オペラ座バレエ団の委嘱を受けて振付し、その後ハンブルク・バレエ団をはじめいくつかのバレエ団が上演している。
ノイマイヤーは「『シルヴィア』は歴史的にもバレエ音楽としても重要な作品で、チャイコフスキーが「これを聴いてしまうと『白鳥の湖』の作曲ができない…」と脱帽するといったくらい素晴らしい楽曲です」と音楽を賞賛。そして「シルヴィア役は菅井円加のために創ったキャラクターではないかと思うくらい、彼女にぴったりな、とても質の高いシルヴィアを演じてくれました」とほほ笑む。また菅井とシルヴィア役を競演するイダ・プレトリウスに対しても「彼女はデンマーク出身で、とてもチャーミングな笑顔の女性ダンサーですが、これを踊った瞬間に全く違った印象になりました。まるでアマゾネスのような、力強い、今まで見た音のないような姿を観ることができたんですね。彼女はおちゃめな感じで「私のヴァイキングの血が騒ぎだしたんじゃないか」と言っていました」と賛辞を贈る。
23-0228ハンブルク・バレエ団記者会見(菅井円加) photo Ayano Tomozawa
ノイマイヤーが『シルヴィア』をパリ・オペラ座バレエ団から委嘱されたのは、以前にオペラ座で自作を上演した際の記者会見の席上、「『コッペリア』をやるつもりはないのか?」と質問され、「やらない」と答えたが、「(同じドリーブ作曲の)『シルヴィア』ならやるかもしれない」と口にしたことに端を発するという。「従来の『シルヴィア』に比べて、モダンな雰囲気になったと思います。力強い女性が、バレエダンサーの集中力をもって自分の野心・目的のために一筋に頑張っている、そういう女性を描いています」。ヤニス・ココスによる装置・衣裳も見どころだ。「ミニマリスティックで素晴らしいセットなので、日本人の観客の皆様には素晴らしさをよく理解していただけるのではないでしょうか」と期待する。
ハンブルク・バレエ団記者会見 photo Ayano Tomozawa

■プリンシパル・ダンサー5名が、日本公演の喜びを語る!
ダンサーたちは、日本で踊ることができる喜びを口にした。
ラトビア出身のラウデールは「東京に帰ってこられて素晴らしいです。美しい劇場で再び踊ることができるのを心待ちにしています。私は〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉で、『くるみ割り人形』のパ・ド・ドゥ、『アンナ・カレーニナ』を踊ります。それから『シルヴィア』(全幕)ではディアナを踊ります」と話した。
ウクライナ生まれのレヴァツォフは「日本に戻ってくることができて本当にうれしく思います。昔の仲の良い友達と再会するようです。私は〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉の『アンナ・カレーニナ』、ジョンがモーリス・ベジャールのために創った『作品100―モーリスのために』を踊ります。よろしくお願いします」と語る。
プレトリウスは「初めて日本に来ました。興奮して夜眠れず、今朝も日が昇ったとき、窓を開けて日本に来たんだととてもドキドキしています。〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉では『アイ・ガット・リズム』(『シャル・ウィ・ダンス?』より)を踊ります。衣裳もかわいくて楽しい作品です。ジョンからも紹介があったように『シルヴィア』(全幕)ではシルヴィアを踊らせていただきます」とうれしそうに話した。
ハンブルク・バレエ団記者会見(イダ・プレトリウス) photo Ayano Tomozawa
神奈川県出身の菅井は2012年のローザンヌ国際バレエコンクール第1位となり、メディアで大きく報道されたのは記憶に新しい。ナショナル・ユース・バレエを経てハンブルク・バレエ団に入団し、今やトップダンサーとして活躍する。「皆さん、お久しぶりです!菅井円加です。今回はジョンを先頭に、ハンブルク・バレエ団プリンシパルとして、カンパニー全員で来日できたことを本当にうれしく思います!」と切り出す。
菅井は『シルヴィア』(全幕)主演に加えて、〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉では『キャンディード序曲』(バーンスタイン・ダンス』より)と『シルヴィア』、『ゴースト・ライト』、『マーラー交響曲第3番』を踊る。『マーラー交響曲第3番』の最後のパ・ド・ドゥは「私のひとつのドリーム・ロール」だと目を輝かせる。「今シーズン初めて踊りましたが、音楽も素晴らしいし、音楽を聴いているだけで体が勝手に動き出します。音楽が伝えてくれる何かを私の体で表すといいますか、このパ・ド・ドゥは本当に大好きなので、〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉の最後に相応しいと思います」と話した。
そして「カンパニー全員がワクワク、ドキドキしていて、皆日本が本当に大好きで、日本でパフォーマンスをできることを楽しみにしています。皆さんにもぜひ楽しんでいただけたら、素敵な時間をシェアできたらと思っています。よろしくお願いします!」と笑顔を振りまいた。
ウクライナ出身のトルーシュは「"サーシャ"ことアレクサンドル・トルーシュです。〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉では、アリーナ・コジョカル(ゲスト・アーティスト)と『椿姫』からのパ・ド・ドゥを踊ります。それから円加さんと『シルヴィア』を踊ります。そして『シルヴィア』(全幕)ではアミンタ役を踊らせていただきます」と述べた。
ハンブルク・バレエ団記者会見(アレクサンドル・トルーシュ) photo Ayano Tomozawa

■ノイマイヤー、果てしなき創造の旅路へ
質疑応答では、ノイマイヤーの口から興味深い発言・エピソードがいくつも飛び出した。
〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉で披露される『作品100―モーリスのために』は、大御所振付家モーリス・ベジャール(1927-2007)の生誕70年を祝して創られた。亡き友との思い出を聞かれると、ハンブルクの前任地フランクフルト時代に出会い、その後意気投合したと回顧する。ベジャールから「一年間カンパニーを取り替えてみないか?と突飛な提案を受けた」ことを懐かしそうに振り返る。「振付に関しては、お互いを刺激しあってきました」と話し、『作品100―モーリスのために』について「二人の男性によるパ・ド・ドゥは、モーリスと私の作品を合体させたような作品に仕上がっています。私にとって重要な、彼との思い出に残る作品です」と明かす。
ハンブルク・バレエ団記者会見 photo Ayano Tomozawa
教育面でのこれまでの成果について問われると「私は意識的に何かを教えようとしたことはありませんが、私自身の行動、それから正直に話し合うことによって、自然に学んでもらいたい」と述べる。「私の描くバレエは、劇場で踊るためのもの。劇場というものはステージにいる側と、お客さんがコミュニケーションを取り、何らかを感じ合うためにあると思っています。そのことを理解していないと、何かを感じ取ることができないし、作品を創ることができません。気持ち、感情、理解といったことがクリエイション、作品につながっていくと思います」。
そして「芸術監督退任後も創作を続けていくのか?」という誰もが気になる質問に対しては「Yes!」と即答。「これからも作品を創り続けたいですし、ハンブルク・バレエ団の新しい監督にもぜひ呼んでいただきたい。私のこれまでのレパートリーがハンブルク・バレエ団に残っていくでしょうし、今後も作品を創り続けていきたいです」と力強く意思表示した。
ノイマイヤー&ハンブルク・バレエ団の日本における集大成となる公演から目が離せない。
【プロモーション映像】ハンブルク・バレエ団 2023年日本公演
取材・文=高橋森彦

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