鮎川 誠も参加したYMOの
『SOLID STATE SURVIVOR』は、
デジタルの革新性を
ポップに伝えた音楽のイノベーション

鮎川 誠の参加でよりロックなB面

B面はYMOがポップな“ロック”バンドとロックにアクセントを置きたくなるナンバーが揃っている。M5「BEHIND THE MASK」はのちにMichael JacksonやEric Claptonがカバーしたことでも知られているナンバー。筆者は音楽理論のことはよく知らないので、なぜM5が世界的アーティストにも支持されているのかはWikipedia先生に教えを乞おう。[2011年12月17日、『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』(NHK Eテレ)で放送された「ロックへの道編」(第4回)にて本曲を解析した]とした上で、以下を理由に挙げている。[(1)テンポがゆったりしている(一般的なテクノポップよりもテンポが遅い。ピーター・バラカンも同様な発言をしている)。(2)「リフ」に特徴がある。ギターで演奏した場合は指の動きが少ない。また、スライドするだけで演奏できる(坂本はそのように意識して作った)。リフの3拍目の後半に休符が入ることにより緩急が付く。(3)F→D♭のコード進行がブルースに似ているため、歌いやすい。(4)Bメロにおけるベースラインがリズム・アンド・ブルースに似ている]とのことである。個人的には、メロディー展開もテンポも“滑らか”であるように思う。ロックだ、テクノだということ以前に、生理的に耳馴染みのいいナンバーという印象で、[細野晴臣と高橋は、この曲を初めて聴いたとき非常に当たり前の曲と思った]というのもよく分かるところである(ここまでの[]はWikipediaからの引用。(1)(2)(3)(4)は筆者が付加)。

M6「DAY TRIPPER」は、もちろん原曲はThe Beatlesであるが、YMOがカバーしたのは、Otis Reddingが同曲を1966年にアルバム『ソウル辞典』でカバーしたもののカバーである(孫請け(?)みたいな感じか)。比較して聴いてみると、確かにリズムの取り方はOtis Redding版を思い起こさせる。ここでの高橋幸宏のドラミングも結構喰い気味で、シンセベースとの絡みで楽曲をグイグイと引っ張っていく感じが何ともいい。フワフワ、ピコピコとしたシンセがファニーなのはYMOならでの味付けといったところだろう。原曲がロックナンバーであるからだろうか、エレキギターがはっきりそれと分かるように入っている。ギターの演奏は鮎川 誠だ。1979年にSHEENA & THE ROKKETSがアルファレコードへ移籍してYMOとレーベルメイトとなったばかりの頃。『SOLID STATE SURVIVOR』の1月前にリリースされたシナロケの『真空パック』は細野晴臣のプロデュースで、坂本龍一、高橋幸宏も参加しており、気心の知れた間柄だったのだろう。レコーディングは一発録りだったという。ここでもヴォーカルを含めてあらゆる音でデジタルを駆使した印象ではあるものの、ギターだけはほとんど弄った感じがしないのは、ロックギタリストへの敬意だろうか。間奏で左右に音を振ったりしている程度である。

前述の通り、M7「INSOMNIA」からは和風~アジアンテイストが感じられる。琴っぽい鳴りのシンセもそうだし、主旋律はいわゆるヨナヌキ音階のようだ。楽曲自体が淡々と流れていき、ボコーダー処理された声が乗っていく様子は、いかにもテクノポップであり、ブラックでもホワイトでもない、“イエローマジック”を強調しているようでもある。

M8「SOLID STATE SURVIVOR」はメンバーが“デジタルパンク”と呼んでいたそうで、確かによく聴けばギターもベースもドラムもその演奏はシンプルなものであることに気づく。ここでのギターも鮎川が弾いているが、M6ほどのテクニックを見せている感じもない。ゆえに、もし彼らが凡百の音楽家なら、単調な楽曲になっていたか、メロディーをもう少し足して曲を延ばしていたのではないかと想像出来るが、そこは稀代のアーティスト3人が集ったYMOのこと。加工された音声を加え、デカダンスというか、サイバーパンクな雰囲気を醸し出すことでアクセントとして、独自の世界観を構築している(ちなみに『SOLID STATE SURVIVOR』リリース時にはサイバーパンクという言葉は少なくとも世間に広がってはいなかったのだが、他に適当な言葉が思い浮かばなかったので用いた)。

ザっと全曲解説したが、図らずも、曲数とタイムの潔さだけでなく、個々の楽曲においても聴き手を飽きさせない作りが施されていることを筆者自身も改めて理解した。YMOの特徴というと、1970年代後半の音楽シーンにおいてコンピュータを駆使した革新的な音楽を打ち出したことが挙げられる。それは間違いないけれど、そうした革新性を市井に広めるための術にも腐心したこともまた、バンドの特徴なのではなかろうか。いくらでもマニアックになりそうなコンピュータをマニアックではなく、ロックを中心としたポピュラーミュージックに乗せたことが、世界の誰もがやらなかった、彼らの大発明だったのだ。

TEXT:帆苅智之
アルバム『SOLID STATE SURVIVOR』1979年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.TECHNOPOLIS
    • 2.ABSOLUTE EGO DANCE
    • 3.RYDEEN
    • 4.CASTALIA
    • 5.BEHIND THE MASK
    • 6.DAY TRIPPER
    • 7.INSOMNIA
    • 8.SOLID STATE SURVIVOR
『SOLID STATE SURVIVOR』('79)/Yellow Magic Orchestra

OKMusic編集部

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