INTERVIEW / 佐藤千亜妃 「過去や未
来に思いを馳せる心情と、時代を旅す
るような音楽性」――新作『TIME LE
AP』で提示した最新モード

佐藤千亜妃が新作EP『TIME LEAP』を発表した。
コロナ禍で向き合った自身のパーソナルな心情を、力強いバンド・サウンドで鳴らした『KOE』でひとつのタームに区切りをつけ、昨年リリースしたEP『NIGHT TAPE』からはアレンジャーとの共同作業による制作へとシフトチェンジ。ストリーミング時代にリバイバル・ヒットしたきのこ帝国の「クロノスタシス」を現代的な音像で鳴らしたような「夜をループ」をはじめ、ロック・バンドと並んで彼女にとっての重要なルーツであるソウル~R&B路線を明確に印象付けた。
Chaki Zulu、Shin Sakiura、Teppei Kakuda、ニューリーをアレンジャーに迎えた『TIME LEAP』は『NIGHT TAPE』の路線を引き継ぎつつも、“時間旅行”というテーマ通り、様々な年代のサウンドやジャンル感を内包したバラエティ豊かな作品に。中でも注目は、佐藤が以前からリスペクトを公言する宇多田ヒカルの名曲「Automatic」をサンプリングした「タイムマシーン」で、1990年代と2020年代を接続するような雰囲気が『TIME LEAP』のテーマ性を象徴している。この楽曲の話を中心に、佐藤千亜妃の現在のモードに迫った。
Interview & Text by Atsutake Kaneko(https://twitter.com/a2take)
Photo by Tamami Yanase(https://www.yanasetamami.com/)
「ソウルやR&Bをもっと深堀りするターム」
――2021年に発表した『KOE』はバンド・サウンドを主体にしたアルバムでしたが、レーベル移籍を経て、昨年発表したEP『NIGHT TAPE』はソウル~R&B路線の作風で、明確なモード・チェンジがありました。改めて、その経緯について話していただけますか?
佐藤:『KOE』を作ったことによって、バンド時代からのキャリアを含め、生音のサウンドを追求することは自分の中で腑に落ちた部分があって。この先はもうちょっと違う景色を見せたいし、自分自身もそれを見たいと思ったんです。そこからレーベルの移籍があって、周りにいる人や制作の環境も変わった中で、ロックのフォーマットではない音楽、ソウルやR&Bをもっと深堀りするタームを作ってみたいという純粋な欲求がありました。
――“ソウルやR&Bの深掘り”に向かった背景として、佐藤さんのルーツにそういった音楽性があることと、時代感としてDTM世代の新たなSSWが活躍していることと、その両方があったように思いますが、いかがでしょうか?
佐藤:そうですね。J-POPの中でジャパニーズR&B的なものが成立し出したのが90年代だったと思うんですけど、私はその直撃世代というのもあって。現代にそれをアップデートして鳴らしたら、どんな感じに響くのかが気になったというのがひとつあります。
あとは、いちリスナーとしての音楽の聴き方が、コロナ禍を経て変化したと感じていて、“外でみんなでワイワイ”というよりは、部屋の中で聴く時間が増えたのを自分でも実感してるし、これまでリリースした曲からのフィードバックにしても、今はあまり熱過ぎず、音数の少ない音楽の方が、みんなにとって聴き心地がいいんだろうなって。なので、自分の好みを生かしつつ、今の人たちにちゃんと伝わるのはどんな曲かを考えて作るようになりました。
――もちろん、これまでも時期によってソウル~R&B的な作風の曲を作ってきたわけですけど、きのこ帝国時代のイメージが強い人からすると、『KOE』から『NIGHT TAPE』への変化には驚いた人もいるかもしれないですよね。
佐藤:でもある種バンド・フォーマットの方が無理をして作ってた気持ちもあったりして、“バンドでバンド・フォーマットっぽくないことをやりたい”みたいなのが、自分の中のきのこ帝国のテーマだったりもしたんです。
例えば、「クロノスタシス」がリバイバルしたりもしましたけど、あの曲はもともと“バンドでケツメイシっぽいのをやったら”みたいな感じだったし、「クロノスタシス」と同じアルバムに入っていた「You outside my window」は“バンドでPerfumeっぽいのをやったら”みたいな、自分の中でお題を出しながら作ってた部分もあって。
佐藤:私はそういう逆説的なものが好きなので、今度は“バンド・フォーマットじゃないもの”となったときに、そこにどう個性や違和感を入れていくかが重要で、それを試行錯誤しながら打ち込みのサウンドのものを作ってる、みたいな感じですかね。
――“90年代のジャパニーズR&B直撃世代”という話があって、今回宇多田ヒカルさんの曲をサンプリングしているのもまさにその表れだと思うんですけど、以前の取材で小中学生の頃はお兄さんの影響で海外のR&Bをよく聴いていて、Alicia Keysが大好きだったという話をお伺いしていて。その後に日本のR&Bにも興味を持ったのでしょうか?
佐藤:宇多田さんのデビューはとにかくすごい衝撃で、当時平井堅さんとかも聴いてたんですけど、やっぱり基本的に好きなのは洋楽で、Angie StoneUsherJohn LegendBoyz II Menとかをお兄ちゃんの影響でよく聴いてて。でも、そのころ日本のR&Bのテープも友だちから回ってきたりして、JAMOSAとかも聴いてたし、Crystal Kayさんの『almost seventeen』はめっちゃ聴いてましたね。
――その当時と現代の音楽シーンに似たムードを感じていると。
佐藤:とはいえ今はやっぱり90年代のムードとも違って、もうちょっとデジタル味のある新鮮さを感じるというか、それこそ若い子たちがみんな自分で打ち込んで、歌も歌って、納品の状態で提出してリリースされるみたいなことが普通になってきている中、自分がもし今10代だったら、同じようなことをしてただろうなと思うんです。決して懐古主義ではなく、今は今ですごくいい時代だと思うので、それをおもしろがっている感じですね。
――実際『NIGHT TAPE』を出してみて、手応えをどのように感じていますか?
佐藤:数字の話で申し訳ないですけど……ちゃんと回るんだなって(笑)。そういう傾向は前から感じていて、「Lovin’ You」とか「Summer Gate」とか、前に出した自分の曲の中でも『NIGHT TAPE』に近いムードのものがトップ・ソングになっていたり。ただ、全体がそういう雰囲気の作品を出すのは『NIGHT TAPE』が初めてで……『SickSickSickSick』も打ち込みだったけど、あれはまりんさん(砂原良徳)との共同プロデュースだったので、ハウスとかテクノ節も入っていて。ソウルっぽい雰囲気で統一されているのは『NIGHT TAPE』が初めてだったので、それがちゃんとシーンとフィットしたんだなっていう実感はありました。
「台無しにしたくない」――名曲をサンプリングすることに対してのプレッシャー
――『NIGHT TAPE』が“チル”や“メロウ”といったキーワードで貫かれていたのに対して、『TIME LEAP』の楽曲はもうちょっとバラエティ豊かで、それは“時間旅行”という作品のテーマ性ともリンクしているのかと思います。
佐藤:『NIGHT TAPE』を作り終わる頃に、次の作品も『NIGHT TAPE』に近い語感のタイトルにしようと思っていろいろ考えた中で、『TIME LEAP』がいいなと思ったんです。過去や未来に思いを馳せる心情と、時代を旅するような音楽性と、その両方が上手くまとまったら聴きごたえのあるおもしろい作品になるんじゃないかっていう構想が生まれて、そこから曲を作っていきました。
“夜をループしてたところから抜け出して、今度はタイムリープをする”みたいな、ちょっと連作っぽい感じもおもしろいなって。
――DTM世代は小さいころからYouTubeが当たり前にある世代で、年代問わずいろんな音楽を吸収して、それをそのまま形にするから、“タイムリープ感”というのは現代性の表れでもあるように感じます。
佐藤:そうかもしれないですね。私はこれまで曲を作るときに時代感の話をすることはあんまりなかったんですけど、今回アレンジャーさんやディレクターとアレンジを詰めたり、リファレンスを投げ合ったりする中で、「シンセを80年代っぽくするなら、ビートは現代っぽいタイトな感じにしよう」みたいな話をすることが多くて。自分でもいろいろな時代やジャンルを調べて、それが刺激になったし、音楽愛がさらに増した感じがします。
「こんな時代に一瞬だけ流行ったこんなジャンルがあったんだ」とか、そういうのもおもしろくて、自分のライブラリーが増えた感覚がありますね。
――そんな『TIME LEAP』を象徴する一曲は、やはり宇多田ヒカルさんの「Automatic」をサンプリングした「タイムマシーン」かと思います。
佐藤:海外の曲をサンプリングするのはよくあるじゃないですか。でも、ちょっと前に米津さんがモーニング娘。をサンプリングされていて(「KICK BACK」)、ああいうマインドはおもしろいなって。伝説のインディーズ音楽みたいな曲を使うとかでもなく、J-POPのど真ん中を使って、それをどう料理するのか。それって聴く人の間口も広がるし、挑戦的だし、ワクワクするなって。
――この曲のアレンジはChaki Zuluさんで、去年CMで話題を呼んだ「今夜はブギー・バック nice vocal × 水星」のプロデュースもChakiさんでしたよね。違う年代の曲をマッシュアップするのも、ある意味タイムリープ的な手法というか。
佐藤:あの曲でChakiさんと初めてご一緒して、「ブギー・バック」を高音で歌ったときに、「宇多田ヒカルのデビューの頃の曲を聴いてるみたいな気持ちになった。俺もこういう曲やりたいな」みたいなことをポロっと言ってくれて、「私、宇多田ヒカルさんめっちゃ好きなので、いつかそういう曲ができたらぜひトラック作ってください」みたいな話をしてたんです。それが形になって、実際に宇多田さんの曲を使わせてもらって……すごくきれいに着地できたなと思います。
――去年は『関ジャム』の宇多田さん回にも出られてましたし、伏線回収みたいな印象も受けたりして(笑)。
佐藤:確かに、そうですよね。しかも、この曲ができ上がったくらいに、『First Love 初恋』のドラマが公開されて、勝手に先を越された気分になったというか(笑)。あのドラマの世界観が「タイムマシーン」の歌詞とも合っていて、あのドラマを見て作ったと思う人もいそうだなとか……すごく不思議な感じがします。
――改めてですけど、宇多田さんのデビューはかなりの衝撃だったわけですよね?
佐藤:めちゃくちゃハマって、「一日何回聴くの?」っていうくらい聴いてました。特にセカンド(『Distance』)をずっと聴いていて、ヒット曲が入ってる序盤も好きなんですけど、後半がすごく好きでしたね。
佐藤:曲自体に加えて、やっぱり歌詞が大きくて、当時友だちが聴いていたJ-POPの曲は、歌詞に共感するポイントがほぼなかったんです。でも周りの子たちはそういう曲を学校で熱唱したりしていて、そこにハマれないことにちょっと寂しさを感じている中、宇多田さんの歌詞はJ-POPなんだけど恋愛のことだけではなく、孤独や人生について歌っていて。自分はそこに共感したし、寄り添ってくれる……宇多田さんは寄り添おうと思って作ってるわけではないと思うんですけど、勝手に共感して、私にとってホッとできる居場所のような存在で、とにかくずっと聴いてました。
なので、“どの部分に影響を受けたか”とかはわからなくて、血とか爪とか髪みたいなものだし、それこそ『関ジャム』でも言いましたけど、光とか水とか、私の体を作ってる栄養素みたいなものなんです。
――逆に言えば、そんな人の曲をサンプリングして使うというのは……。
佐藤:いやあ……プレッシャーでしたね。
――そもそもどういう経緯で今回のアイデアが生まれたわけですか?
佐藤:「サンプリングを使った曲を作ろう」みたいな話の中で、チームの誰かが「宇多田ヒカルさんの曲ってどうなのかな?」みたいなことを言ったのが始まりだったと思います。90年代のR&Bを日本の商業的なシーンに持ち込んで、一般のリスナーに衝撃を与えた歌姫のデビュー曲を、今の時代にまた違った形で表現できたら、それには意味があると思ったし、自分が音楽にハマるきっかけになった人の音楽を、今の自分なりの気持ちで表現することにも意味がある。そこでさっきのChakiさんとの話も思い出して、パズルのピースがハマっていく感じがあったんです。ただ……実際に曲を書くときはキツかったですね。
――どんなことを思いながら書いたのでしょうか?
佐藤:「台無しにしたくない」っていう気持ちが大きかったし、宇多田さんのワークスをサンプリングさせてもらったうえで、ちゃんと自分が納得できる曲を作れるのかっていうのは、かなりのプレッシャーでした。実際結構な数をボツにして……特に「Automatic」はAメロがすごく印象的だから、Aメロはかなり考えて、その中でやっと「これだったらいいな」と思えるものができました。提出したときはすごく緊張して、数日間お腹痛くなるくらいだったんですけど、サンプリングのOKがいただけて、「こんなことってあるんだ」みたいな、みんなでハイタッチしたいくらいの感じでしたね(笑)。
――もちろん、誰にでも許可が下りるわけではなく、この曲が90年代感と現代性を絶妙に掛け合わせることに成功したからこそだと思うんですけど、Chakiさんとはどのように制作を進めたのでしょうか?
佐藤:自分のデモではメインのフレーズをサイン波みたいなので入れて、あとはへたった感じの生ドラムのサンプリングと、きれい目なエレピのロングトーンを入れて……わりとシンプルな作りで送りました。それに対してChakiさんもそんなに音を重ねず、歌をちゃんと聴かせるために、必要なものだけ入れたトラックにしてくれて、最初のやり取りですぐに「めちゃいい!」っていうものになりましたね。
――歌詞に関しても、オマージュ的な側面が反映されていますね。
佐藤:2番のAメロ、《8回目のベルが鳴って/季節は終わりを迎える》が一番わかりやすいと思うんですけど、何気にサビに出てくる《セブンスターの匂いが/鼻をかすめた気がして》も……。
――「First Love」の《最後のキスは タバコのFlavorがした》を連想させますよね。
佐藤:そうなんですよ。《ふと自動的に/time goes back》とか、要所要所でオマージュを意図的に入れてる部分もありつつ、そこに関しては狙って書いたわけじゃなくて、結果的に「Automatic」と「First Love」を繋ぐような曲になっていて……やっぱり血になってるんだなって(笑)。
――ただ、こういった過去を回想する筆致はもともとの佐藤さんらしさでもありますよね。
佐藤:今までも過去を思い返して切なくなったり、憂いたりする歌詞は結構書いてきたと思うので、その延長線上にあるとは思うんですけど、この曲の歌詞は切実過ぎない、温かさもある歌詞になったなって。「Automatic」の未来でもあるというか、大人になって、「Automatic」の時代を思い出してるような感じもあるけど、ただ悲しいだけじゃなくて、「ああいうことがあってよかった」って思える。そういう温度感はあるかなと思います。
未来へ繋がる「EYES WIDE SHUT」――誰もが肯定し合える世界に
――「タイムマシーン」以外の収録曲についても聞かせてください。2曲目の「melt into YOU feat. a子」は『NIGHT TAPE』に収録されていた「真夏の蝶番」に続いて、Teppei Kakudaさんのアレンジですね。
佐藤:この曲はもともと1970年代から1980年代のディスコ調の曲にしたいと思って、4つ打ちみたいなビートにしてたんですけど、「今、この感じの曲を作るのはどうなんだろう?」と思って、ハーフ・ビートにして、16刻みの感じにしたら90年代のR&B派生のようにも聴こえて、自分的にもハマりました。なおかつ、この曲はボーカルだけで16トラック使ってるんですけど、コロ助みたいな声にしたら、「これ2000年代にKanye Westとかがよくやってたな」と思って。そうやって作りながらいろんな年代の解釈が加わっていって、「じゃあ、バスやスネアの音はどうする?」みたいなことをTeppeiくんとミーティングしながら作っていった感じでした。
――まさにタイムリープ的な感じでおもしろいですね。そして、この曲はa子さんのボーカルも非常に印象的です。
佐藤:「誰かをフィーチャリングしたいね」っていう話をしてた中で、Twitterで流れてきたライブ映像の切り出しみたいなので初めてa子ちゃんを知って。音源も聴かせてもらい、めっちゃいい声だなと思ってオファーしました。
自分の中ではフィーチャリングって男女が恋愛ものを歌い分けるイメージがあって、人の曲でそういうのを聴く分には全然いいんですけど、自分がやるには違和感があるんです。それで同性が違う気持ちを歌うのはどうかと思ったときに、a子ちゃんの存在がバチっとハマったんです。この曲は本音と建前を私とa子ちゃんが歌い分けているので、それを頭に入れて歌詞を読むとおもしろいと思います。
――年代で言うとa子さんはやはり2010年代後半以降というか、ウィスパーや加工の感じは“Billie Eilish以降”という言い方もできると思うんですけど、どんな部分に惹かれたのでしょうか?
佐藤:彼女の曲には独特の雰囲気があって。ちょっとアジアン・テイストというか、湿度の高い繁華街の路地裏のような、ウォン・カーウァイの映画の色合いみたいな、あの感じとa子ちゃんの曲がすごくマッチするイメージ。その雰囲気が自分と掛け合ったときに、声質と音楽性がお互いを補完し合うような感じがしたので、ぜひ一緒にやってみたいと思ったんです。
――3曲目の「CAN’T DANCE」はChakiさん、4曲目の「EYES WIDE SHUT」はShin Sakiuraさんのアレンジで、『NIGHT TAPE』にはなかったエレクトロ・ポップ寄りの作風が『TIME LEAP』のバラエティに大きく貢献しているし、こういう曲は年代感もかなり意識したのではないかと。
佐藤:まさにそうですね。「EYES WIDE SHUT」は最初Oasisみたいな曲になりそうだったんです。でも、ただのギター・ロックじゃつまらないから、デジタル・ロックみたいな感じにしてみようと、The Chemical Brothersとかを参考にしました。ギターとかは自分のデモのフレーズをそのまま使ってます。ただ、最初はブレイクビーツっぽい感じだったんですけど、ちょっとゴチャついてしまうなと感じて、途中でビートをシンプルにしました。その結果、シンセの音色とかも含めて、最終的には80年代っぽい雰囲気に落ち着いた感じです。
――「CAN’T DANCE」はタイトルに反してかなりダンサブルな仕上がりで、新境地かなと。
佐藤:「タイムマシーン」よりも先にこの曲を作ってたんですけど、もともとChakiさんにはただのトラックメーカーというよりも、プロデューサー的に関わってほしくて。「CAN’T DANCE」については「Troye Sivanみたいなサウンドに佐藤さんの歌が乗るみたいな感じはどうかな?」って提案してくれたんです。私もアップテンポのダンサブルなナンバーを作ってみたかったので、それでハウスとかテクノの匂いもある曲になりました。
――ラストの「1DK」のアレンジはニューリーさんで、彼らしい生感のあるトラックに加えて、ベートーヴェンの「Ich liebe dich」のメロディーを引用しているのもおもしろいですね。
佐藤:ニューリーくんはもともと3~4年前くらいに「自分の作品に参加してほしい」っていうDMをもらって、マネージャーも含めてやり取りをしてたんですけど、途中でその話が途絶えちゃってたんです。でも、そこからどんどん活躍するようになって、今度はこっちから逆オファーをしたら、お互いにとっていいんじゃないかと思って。実際にすごく喜んでくれました。今作の中ではこの曲が一番最初に作った曲で、“時間旅行”というテーマもすでにあったので、クラシックまで遡ってもおもしろいんじゃないかと思ったんです。曲のチョイスはニューリーくんにお願いして、上手く盛り込んでもらいました。
――「タイムマシーン」と並んで、『TIME LEAP』のテーマを象徴する1曲だなと。
佐藤:今回の制作は本当にいろんな年代やジャンルを旅したなって思います。歌詞で象徴的なのは「EYES WIDE SHUT」だと思っていて、この曲はLGBTをすごく意識して書いたんですけど、いろんなボーダーラインがなくなって、みんなが肯定し合って生きていけたらいいねっていう、『TIME LEAP』の曲の中で一番未来に繋がる曲かなって。
――《でもいつか虹が歌い始め色鮮やかに/重なりあって交ざりあえば》というラインもありますね。途中の「男女のフィーチャリングに違和感があった」という話も、ステレオタイプな男女のあり方から離れたかったのかも。
佐藤:ディズニーの『ストレンジワールド』も男の子のカップルの描写が出てきたり、そういう作品を子供たちが偏見なく受け取って育っていくのはいいことですよね。「これが当たり前」なんていうのはなくて、もっと自由でいいんじゃないかと思います。
――宇多田さんの曲が描く“孤独”に共感したという話がありましたけど、“孤独”を生むのは安易な決めつけやカテゴライズによる「自分だけかもしれない」っていう不安だったりもして。タイムリープを繰り返した先は、そんな不安や孤独が少しでも軽減される未来だったらいいですよね。
佐藤:昔は私も「周りから変に思われないように」みたいな意識があったと思います。それは時代も関係していたと思うけど、今はもうちょっと自分らしくあれるというか、もうちょっと息がしやすい時代になってきたなと感じていて、それはすごくいいことだなと。今、何か問題を抱えている人が音楽によってちょっとでも楽になったらいいなと思うし、そういうマインドで今後も作品を作っていきたいですね。

[衣装クレジット]

フーディーシャツ ¥48,400(LITTLEBIG)
ニットカーディガン ¥49,500(DISCOVERED)
その他 スタイリスト私物

[問い合わせ先]

LITTLEBIG(http://littlebig-tokyo.com) TEL:03-6427-6875
DISCOVERED(https://discovered.jp) TEL:03-3463-3082
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※3枚の中からランダムでの発送となります。

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※住所の送付が可能な方のみご応募下さい。頂いた個人情報はプレゼントの発送以外には使用いたしません。
※発送先は国内のみとさせて いただきます。
※フリマサイトなどでの転売は固く禁じます
【リリース情報】

2. melt into YOU feat. a子

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:Teppei Kakuda

3. CAN’T DANCE

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:Chaki Zulu

4. EYES WIDE SHUT

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:Shin Sakiura

5. 1DK

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:ニューリー
【イベント情報】

“TIME LEAP” Release Party 『LEAP LEAP LEAP』

日時:2023年2月24日(金) OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京・渋谷WWW
■ 佐藤千亜妃 オフィシャル・サイト(https://chiakisato.com/)
佐藤千亜妃が新作EP『TIME LEAP』を発表した。
コロナ禍で向き合った自身のパーソナルな心情を、力強いバンド・サウンドで鳴らした『KOE』でひとつのタームに区切りをつけ、昨年リリースしたEP『NIGHT TAPE』からはアレンジャーとの共同作業による制作へとシフトチェンジ。ストリーミング時代にリバイバル・ヒットしたきのこ帝国の「クロノスタシス」を現代的な音像で鳴らしたような「夜をループ」をはじめ、ロック・バンドと並んで彼女にとっての重要なルーツであるソウル~R&B路線を明確に印象付けた。
Chaki Zulu、Shin Sakiura、Teppei Kakuda、ニューリーをアレンジャーに迎えた『TIME LEAP』は『NIGHT TAPE』の路線を引き継ぎつつも、“時間旅行”というテーマ通り、様々な年代のサウンドやジャンル感を内包したバラエティ豊かな作品に。中でも注目は、佐藤が以前からリスペクトを公言する宇多田ヒカルの名曲「Automatic」をサンプリングした「タイムマシーン」で、1990年代と2020年代を接続するような雰囲気が『TIME LEAP』のテーマ性を象徴している。この楽曲の話を中心に、佐藤千亜妃の現在のモードに迫った。
Interview & Text by Atsutake Kaneko(https://twitter.com/a2take)
Photo by Tamami Yanase(https://www.yanasetamami.com/)
「ソウルやR&Bをもっと深堀りするターム」
――2021年に発表した『KOE』はバンド・サウンドを主体にしたアルバムでしたが、レーベル移籍を経て、昨年発表したEP『NIGHT TAPE』はソウル~R&B路線の作風で、明確なモード・チェンジがありました。改めて、その経緯について話していただけますか?
佐藤:『KOE』を作ったことによって、バンド時代からのキャリアを含め、生音のサウンドを追求することは自分の中で腑に落ちた部分があって。この先はもうちょっと違う景色を見せたいし、自分自身もそれを見たいと思ったんです。そこからレーベルの移籍があって、周りにいる人や制作の環境も変わった中で、ロックのフォーマットではない音楽、ソウルやR&Bをもっと深堀りするタームを作ってみたいという純粋な欲求がありました。
――“ソウルやR&Bの深掘り”に向かった背景として、佐藤さんのルーツにそういった音楽性があることと、時代感としてDTM世代の新たなSSWが活躍していることと、その両方があったように思いますが、いかがでしょうか?
佐藤:そうですね。J-POPの中でジャパニーズR&B的なものが成立し出したのが90年代だったと思うんですけど、私はその直撃世代というのもあって。現代にそれをアップデートして鳴らしたら、どんな感じに響くのかが気になったというのがひとつあります。
あとは、いちリスナーとしての音楽の聴き方が、コロナ禍を経て変化したと感じていて、“外でみんなでワイワイ”というよりは、部屋の中で聴く時間が増えたのを自分でも実感してるし、これまでリリースした曲からのフィードバックにしても、今はあまり熱過ぎず、音数の少ない音楽の方が、みんなにとって聴き心地がいいんだろうなって。なので、自分の好みを生かしつつ、今の人たちにちゃんと伝わるのはどんな曲かを考えて作るようになりました。
――もちろん、これまでも時期によってソウル~R&B的な作風の曲を作ってきたわけですけど、きのこ帝国時代のイメージが強い人からすると、『KOE』から『NIGHT TAPE』への変化には驚いた人もいるかもしれないですよね。
佐藤:でもある種バンド・フォーマットの方が無理をして作ってた気持ちもあったりして、“バンドでバンド・フォーマットっぽくないことをやりたい”みたいなのが、自分の中のきのこ帝国のテーマだったりもしたんです。
例えば、「クロノスタシス」がリバイバルしたりもしましたけど、あの曲はもともと“バンドでケツメイシっぽいのをやったら”みたいな感じだったし、「クロノスタシス」と同じアルバムに入っていた「You outside my window」は“バンドでPerfumeっぽいのをやったら”みたいな、自分の中でお題を出しながら作ってた部分もあって。
佐藤:私はそういう逆説的なものが好きなので、今度は“バンド・フォーマットじゃないもの”となったときに、そこにどう個性や違和感を入れていくかが重要で、それを試行錯誤しながら打ち込みのサウンドのものを作ってる、みたいな感じですかね。
――“90年代のジャパニーズR&B直撃世代”という話があって、今回宇多田ヒカルさんの曲をサンプリングしているのもまさにその表れだと思うんですけど、以前の取材で小中学生の頃はお兄さんの影響で海外のR&Bをよく聴いていて、Alicia Keysが大好きだったという話をお伺いしていて。その後に日本のR&Bにも興味を持ったのでしょうか?
佐藤:宇多田さんのデビューはとにかくすごい衝撃で、当時平井堅さんとかも聴いてたんですけど、やっぱり基本的に好きなのは洋楽で、Angie Stone、Usher、John Legend、Boyz II Menとかをお兄ちゃんの影響でよく聴いてて。でも、そのころ日本のR&Bのテープも友だちから回ってきたりして、JAMOSAとかも聴いてたし、Crystal Kayさんの『almost seventeen』はめっちゃ聴いてましたね。
――その当時と現代の音楽シーンに似たムードを感じていると。
佐藤:とはいえ今はやっぱり90年代のムードとも違って、もうちょっとデジタル味のある新鮮さを感じるというか、それこそ若い子たちがみんな自分で打ち込んで、歌も歌って、納品の状態で提出してリリースされるみたいなことが普通になってきている中、自分がもし今10代だったら、同じようなことをしてただろうなと思うんです。決して懐古主義ではなく、今は今ですごくいい時代だと思うので、それをおもしろがっている感じですね。
――実際『NIGHT TAPE』を出してみて、手応えをどのように感じていますか?
佐藤:数字の話で申し訳ないですけど……ちゃんと回るんだなって(笑)。そういう傾向は前から感じていて、「Lovin’ You」とか「Summer Gate」とか、前に出した自分の曲の中でも『NIGHT TAPE』に近いムードのものがトップ・ソングになっていたり。ただ、全体がそういう雰囲気の作品を出すのは『NIGHT TAPE』が初めてで……『SickSickSickSick』も打ち込みだったけど、あれはまりんさん(砂原良徳)との共同プロデュースだったので、ハウスとかテクノ節も入っていて。ソウルっぽい雰囲気で統一されているのは『NIGHT TAPE』が初めてだったので、それがちゃんとシーンとフィットしたんだなっていう実感はありました。
「台無しにしたくない」――名曲をサンプリングすることに対してのプレッシャー
――『NIGHT TAPE』が“チル”や“メロウ”といったキーワードで貫かれていたのに対して、『TIME LEAP』の楽曲はもうちょっとバラエティ豊かで、それは“時間旅行”という作品のテーマ性ともリンクしているのかと思います。
佐藤:『NIGHT TAPE』を作り終わる頃に、次の作品も『NIGHT TAPE』に近い語感のタイトルにしようと思っていろいろ考えた中で、『TIME LEAP』がいいなと思ったんです。過去や未来に思いを馳せる心情と、時代を旅するような音楽性と、その両方が上手くまとまったら聴きごたえのあるおもしろい作品になるんじゃないかっていう構想が生まれて、そこから曲を作っていきました。
“夜をループしてたところから抜け出して、今度はタイムリープをする”みたいな、ちょっと連作っぽい感じもおもしろいなって。
――DTM世代は小さいころからYouTubeが当たり前にある世代で、年代問わずいろんな音楽を吸収して、それをそのまま形にするから、“タイムリープ感”というのは現代性の表れでもあるように感じます。
佐藤:そうかもしれないですね。私はこれまで曲を作るときに時代感の話をすることはあんまりなかったんですけど、今回アレンジャーさんやディレクターとアレンジを詰めたり、リファレンスを投げ合ったりする中で、「シンセを80年代っぽくするなら、ビートは現代っぽいタイトな感じにしよう」みたいな話をすることが多くて。自分でもいろいろな時代やジャンルを調べて、それが刺激になったし、音楽愛がさらに増した感じがします。
「こんな時代に一瞬だけ流行ったこんなジャンルがあったんだ」とか、そういうのもおもしろくて、自分のライブラリーが増えた感覚がありますね。
――そんな『TIME LEAP』を象徴する一曲は、やはり宇多田ヒカルさんの「Automatic」をサンプリングした「タイムマシーン」かと思います。
佐藤:海外の曲をサンプリングするのはよくあるじゃないですか。でも、ちょっと前に米津さんがモーニング娘。をサンプリングされていて(「KICK BACK」)、ああいうマインドはおもしろいなって。伝説のインディーズ音楽みたいな曲を使うとかでもなく、J-POPのど真ん中を使って、それをどう料理するのか。それって聴く人の間口も広がるし、挑戦的だし、ワクワクするなって。
――この曲のアレンジはChaki Zuluさんで、去年CMで話題を呼んだ「今夜はブギー・バック nice vocal × 水星」のプロデュースもChakiさんでしたよね。違う年代の曲をマッシュアップするのも、ある意味タイムリープ的な手法というか。
佐藤:あの曲でChakiさんと初めてご一緒して、「ブギー・バック」を高音で歌ったときに、「宇多田ヒカルのデビューの頃の曲を聴いてるみたいな気持ちになった。俺もこういう曲やりたいな」みたいなことをポロっと言ってくれて、「私、宇多田ヒカルさんめっちゃ好きなので、いつかそういう曲ができたらぜひトラック作ってください」みたいな話をしてたんです。それが形になって、実際に宇多田さんの曲を使わせてもらって……すごくきれいに着地できたなと思います。
――去年は『関ジャム』の宇多田さん回にも出られてましたし、伏線回収みたいな印象も受けたりして(笑)。
佐藤:確かに、そうですよね。しかも、この曲ができ上がったくらいに、『First Love 初恋』のドラマが公開されて、勝手に先を越された気分になったというか(笑)。あのドラマの世界観が「タイムマシーン」の歌詞とも合っていて、あのドラマを見て作ったと思う人もいそうだなとか……すごく不思議な感じがします。
――改めてですけど、宇多田さんのデビューはかなりの衝撃だったわけですよね?
佐藤:めちゃくちゃハマって、「一日何回聴くの?」っていうくらい聴いてました。特にセカンド(『Distance』)をずっと聴いていて、ヒット曲が入ってる序盤も好きなんですけど、後半がすごく好きでしたね。
佐藤:曲自体に加えて、やっぱり歌詞が大きくて、当時友だちが聴いていたJ-POPの曲は、歌詞に共感するポイントがほぼなかったんです。でも周りの子たちはそういう曲を学校で熱唱したりしていて、そこにハマれないことにちょっと寂しさを感じている中、宇多田さんの歌詞はJ-POPなんだけど恋愛のことだけではなく、孤独や人生について歌っていて。自分はそこに共感したし、寄り添ってくれる……宇多田さんは寄り添おうと思って作ってるわけではないと思うんですけど、勝手に共感して、私にとってホッとできる居場所のような存在で、とにかくずっと聴いてました。
なので、“どの部分に影響を受けたか”とかはわからなくて、血とか爪とか髪みたいなものだし、それこそ『関ジャム』でも言いましたけど、光とか水とか、私の体を作ってる栄養素みたいなものなんです。
――逆に言えば、そんな人の曲をサンプリングして使うというのは……。
佐藤:いやあ……プレッシャーでしたね。
――そもそもどういう経緯で今回のアイデアが生まれたわけですか?
佐藤:「サンプリングを使った曲を作ろう」みたいな話の中で、チームの誰かが「宇多田ヒカルさんの曲ってどうなのかな?」みたいなことを言ったのが始まりだったと思います。90年代のR&Bを日本の商業的なシーンに持ち込んで、一般のリスナーに衝撃を与えた歌姫のデビュー曲を、今の時代にまた違った形で表現できたら、それには意味があると思ったし、自分が音楽にハマるきっかけになった人の音楽を、今の自分なりの気持ちで表現することにも意味がある。そこでさっきのChakiさんとの話も思い出して、パズルのピースがハマっていく感じがあったんです。ただ……実際に曲を書くときはキツかったですね。
――どんなことを思いながら書いたのでしょうか?
佐藤:「台無しにしたくない」っていう気持ちが大きかったし、宇多田さんのワークスをサンプリングさせてもらったうえで、ちゃんと自分が納得できる曲を作れるのかっていうのは、かなりのプレッシャーでした。実際結構な数をボツにして……特に「Automatic」はAメロがすごく印象的だから、Aメロはかなり考えて、その中でやっと「これだったらいいな」と思えるものができました。提出したときはすごく緊張して、数日間お腹痛くなるくらいだったんですけど、サンプリングのOKがいただけて、「こんなことってあるんだ」みたいな、みんなでハイタッチしたいくらいの感じでしたね(笑)。
――もちろん、誰にでも許可が下りるわけではなく、この曲が90年代感と現代性を絶妙に掛け合わせることに成功したからこそだと思うんですけど、Chakiさんとはどのように制作を進めたのでしょうか?
佐藤:自分のデモではメインのフレーズをサイン波みたいなので入れて、あとはへたった感じの生ドラムのサンプリングと、きれい目なエレピのロングトーンを入れて……わりとシンプルな作りで送りました。それに対してChakiさんもそんなに音を重ねず、歌をちゃんと聴かせるために、必要なものだけ入れたトラックにしてくれて、最初のやり取りですぐに「めちゃいい!」っていうものになりましたね。
――歌詞に関しても、オマージュ的な側面が反映されていますね。
佐藤:2番のAメロ、《8回目のベルが鳴って/季節は終わりを迎える》が一番わかりやすいと思うんですけど、何気にサビに出てくる《セブンスターの匂いが/鼻をかすめた気がして》も……。
――「First Love」の《最後のキスは タバコのFlavorがした》を連想させますよね。
佐藤:そうなんですよ。《ふと自動的に/time goes back》とか、要所要所でオマージュを意図的に入れてる部分もありつつ、そこに関しては狙って書いたわけじゃなくて、結果的に「Automatic」と「First Love」を繋ぐような曲になっていて……やっぱり血になってるんだなって(笑)。
――ただ、こういった過去を回想する筆致はもともとの佐藤さんらしさでもありますよね。
佐藤:今までも過去を思い返して切なくなったり、憂いたりする歌詞は結構書いてきたと思うので、その延長線上にあるとは思うんですけど、この曲の歌詞は切実過ぎない、温かさもある歌詞になったなって。「Automatic」の未来でもあるというか、大人になって、「Automatic」の時代を思い出してるような感じもあるけど、ただ悲しいだけじゃなくて、「ああいうことがあってよかった」って思える。そういう温度感はあるかなと思います。
未来へ繋がる「EYES WIDE SHUT」――誰もが肯定し合える世界に
――「タイムマシーン」以外の収録曲についても聞かせてください。2曲目の「melt into YOU feat. a子」は『NIGHT TAPE』に収録されていた「真夏の蝶番」に続いて、Teppei Kakudaさんのアレンジですね。
佐藤:この曲はもともと1970年代から1980年代のディスコ調の曲にしたいと思って、4つ打ちみたいなビートにしてたんですけど、「今、この感じの曲を作るのはどうなんだろう?」と思って、ハーフ・ビートにして、16刻みの感じにしたら90年代のR&B派生のようにも聴こえて、自分的にもハマりました。なおかつ、この曲はボーカルだけで16トラック使ってるんですけど、コロ助みたいな声にしたら、「これ2000年代にKanye Westとかがよくやってたな」と思って。そうやって作りながらいろんな年代の解釈が加わっていって、「じゃあ、バスやスネアの音はどうする?」みたいなことをTeppeiくんとミーティングしながら作っていった感じでした。
――まさにタイムリープ的な感じでおもしろいですね。そして、この曲はa子さんのボーカルも非常に印象的です。
佐藤:「誰かをフィーチャリングしたいね」っていう話をしてた中で、Twitterで流れてきたライブ映像の切り出しみたいなので初めてa子ちゃんを知って。音源も聴かせてもらい、めっちゃいい声だなと思ってオファーしました。
自分の中ではフィーチャリングって男女が恋愛ものを歌い分けるイメージがあって、人の曲でそういうのを聴く分には全然いいんですけど、自分がやるには違和感があるんです。それで同性が違う気持ちを歌うのはどうかと思ったときに、a子ちゃんの存在がバチっとハマったんです。この曲は本音と建前を私とa子ちゃんが歌い分けているので、それを頭に入れて歌詞を読むとおもしろいと思います。
――年代で言うとa子さんはやはり2010年代後半以降というか、ウィスパーや加工の感じは“Billie Eilish以降”という言い方もできると思うんですけど、どんな部分に惹かれたのでしょうか?
佐藤:彼女の曲には独特の雰囲気があって。ちょっとアジアン・テイストというか、湿度の高い繁華街の路地裏のような、ウォン・カーウァイの映画の色合いみたいな、あの感じとa子ちゃんの曲がすごくマッチするイメージ。その雰囲気が自分と掛け合ったときに、声質と音楽性がお互いを補完し合うような感じがしたので、ぜひ一緒にやってみたいと思ったんです。
――3曲目の「CAN’T DANCE」はChakiさん、4曲目の「EYES WIDE SHUT」はShin Sakiuraさんのアレンジで、『NIGHT TAPE』にはなかったエレクトロ・ポップ寄りの作風が『TIME LEAP』のバラエティに大きく貢献しているし、こういう曲は年代感もかなり意識したのではないかと。
佐藤:まさにそうですね。「EYES WIDE SHUT」は最初Oasisみたいな曲になりそうだったんです。でも、ただのギター・ロックじゃつまらないから、デジタル・ロックみたいな感じにしてみようと、The Chemical Brothersとかを参考にしました。ギターとかは自分のデモのフレーズをそのまま使ってます。ただ、最初はブレイクビーツっぽい感じだったんですけど、ちょっとゴチャついてしまうなと感じて、途中でビートをシンプルにしました。その結果、シンセの音色とかも含めて、最終的には80年代っぽい雰囲気に落ち着いた感じです。
――「CAN’T DANCE」はタイトルに反してかなりダンサブルな仕上がりで、新境地かなと。
佐藤:「タイムマシーン」よりも先にこの曲を作ってたんですけど、もともとChakiさんにはただのトラックメーカーというよりも、プロデューサー的に関わってほしくて。「CAN’T DANCE」については「Troye Sivanみたいなサウンドに佐藤さんの歌が乗るみたいな感じはどうかな?」って提案してくれたんです。私もアップテンポのダンサブルなナンバーを作ってみたかったので、それでハウスとかテクノの匂いもある曲になりました。
――ラストの「1DK」のアレンジはニューリーさんで、彼らしい生感のあるトラックに加えて、ベートーヴェンの「Ich liebe dich」のメロディーを引用しているのもおもしろいですね。
佐藤:ニューリーくんはもともと3~4年前くらいに「自分の作品に参加してほしい」っていうDMをもらって、マネージャーも含めてやり取りをしてたんですけど、途中でその話が途絶えちゃってたんです。でも、そこからどんどん活躍するようになって、今度はこっちから逆オファーをしたら、お互いにとっていいんじゃないかと思って。実際にすごく喜んでくれました。今作の中ではこの曲が一番最初に作った曲で、“時間旅行”というテーマもすでにあったので、クラシックまで遡ってもおもしろいんじゃないかと思ったんです。曲のチョイスはニューリーくんにお願いして、上手く盛り込んでもらいました。
――「タイムマシーン」と並んで、『TIME LEAP』のテーマを象徴する1曲だなと。
佐藤:今回の制作は本当にいろんな年代やジャンルを旅したなって思います。歌詞で象徴的なのは「EYES WIDE SHUT」だと思っていて、この曲はLGBTをすごく意識して書いたんですけど、いろんなボーダーラインがなくなって、みんなが肯定し合って生きていけたらいいねっていう、『TIME LEAP』の曲の中で一番未来に繋がる曲かなって。
――《でもいつか虹が歌い始め色鮮やかに/重なりあって交ざりあえば》というラインもありますね。途中の「男女のフィーチャリングに違和感があった」という話も、ステレオタイプな男女のあり方から離れたかったのかも。
佐藤:ディズニーの『ストレンジワールド』も男の子のカップルの描写が出てきたり、そういう作品を子供たちが偏見なく受け取って育っていくのはいいことですよね。「これが当たり前」なんていうのはなくて、もっと自由でいいんじゃないかと思います。
――宇多田さんの曲が描く“孤独”に共感したという話がありましたけど、“孤独”を生むのは安易な決めつけやカテゴライズによる「自分だけかもしれない」っていう不安だったりもして。タイムリープを繰り返した先は、そんな不安や孤独が少しでも軽減される未来だったらいいですよね。
佐藤:昔は私も「周りから変に思われないように」みたいな意識があったと思います。それは時代も関係していたと思うけど、今はもうちょっと自分らしくあれるというか、もうちょっと息がしやすい時代になってきたなと感じていて、それはすごくいいことだなと。今、何か問題を抱えている人が音楽によってちょっとでも楽になったらいいなと思うし、そういうマインドで今後も作品を作っていきたいですね。

[衣装クレジット]

フーディーシャツ ¥48,400(LITTLEBIG)
ニットカーディガン ¥49,500(DISCOVERED)
その他 スタイリスト私物

[問い合わせ先]

LITTLEBIG(http://littlebig-tokyo.com) TEL:03-6427-6875
DISCOVERED(https://discovered.jp) TEL:03-3463-3082
【プレゼント企画】
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※3枚の中からランダムでの発送となります。

※当選のお知らせに対して48時間以内に返信がない場合、誠に勝手ながら辞退とさせていただきます。
※住所の送付が可能な方のみご応募下さい。頂いた個人情報はプレゼントの発送以外には使用いたしません。
※発送先は国内のみとさせて いただきます。
※フリマサイトなどでの転売は固く禁じます
【リリース情報】

2. melt into YOU feat. a子

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:Teppei Kakuda

3. CAN’T DANCE

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:Chaki Zulu

4. EYES WIDE SHUT

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:Shin Sakiura

5. 1DK

作詞・作曲:佐藤千亜妃
編曲:ニューリー
【イベント情報】

“TIME LEAP” Release Party 『LEAP LEAP LEAP』

日時:2023年2月24日(金) OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京・渋谷WWW
■ 佐藤千亜妃 オフィシャル・サイト(https://chiakisato.com/)

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